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母親が、次女に勉強を教えるため、祖父の家に泊まりこみに行っていた時のことである。
その日は、私の「誕生日」であった。
当時、小学生だった私は、ずいぶん「物悲しい」気分になったことを覚えている。
その日、実家には、父親も仕事でおらず、長女と二人で夕食を食べたのであるが、その時の長女もひどかった。
私としては、自分の誕生日に、「普通」に、夕食時にご飯を食べたかったのだが、タイミング悪く、長女に友達から電話がかかってきたのである。
その頃、長女は「長電話」にハマっていた。
父親との闘争のストレスを「長電話」で解消していたのである。
その「長電話」も当時の父親の反感を買っていたのではないかと思う。
とにかく、しゃべりだしたら止まらないのである。
午後七時から食べるはずだった夕食は、結局、午後十時頃から食べる羽目になった。
私は、お腹ペコペコ状態である。
長女は、表面上は、「ごめんねー」と言っていたものの、私の憂鬱に気づくはずもない。
彼女もまた、両親と同じ「無関心」だからである。
「ああ。電話楽しかった!」
なのである。
私は、おとなしく、長女の長電話が終わるのを健気に待ち、何事もなかったように、長女と夕食を食べ始めるのである。
ちょうど夕食を食べ終わった頃であろうか、一枚の「ペラペラ」のファックスが届いた。
そこには「誕生日あめでとう!」という、母親と次女の私宛のメッセージが並んでいた。
その「ペラペラ」のファックスを眺めながら、私は「ありがとう」という「ペラペラ」の苦笑を浮かべたのである。
「ペラペラ」の人間たちに囲まれた「ペラペラ」の「自分」に茫然としたのである。




