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メリーゴーランド  作者: 湊 亮
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また、父親は、昔から、いわゆる「権威」に弱かった。彼が社会の権威になれなかったコンプレックスもあるのだろう。


私の指導教官やその他の権威には「へこへこ」と頭を下げて、恐縮する傾向があった。


その「へこへこ」にも、幼少期から違和感があった。


家庭の中では、長女をたたいたり、夫婦喧嘩をしたり、怒鳴り散らしていた割に、学校の先生との面談になると「へこへこ」するのである。


内と外の「威圧」と「へこへこ」の矛盾が不思議だった。


この不思議な矛盾は、今思うと、実は矛盾でもないのである。


「威圧」は、家族という「弱者」に自分の正しさを認めさせたい、という「承認欲求」を満たす行為である。


そして外では、「へこへこ」することで、権威や他者に認められたいのである。


「承認欲求」を満たしたいのである。


「ああ、立派なお父さんね。」と言われたいのである。


実際、他者に何回か、そのようなことを言われた記憶がある。


たしかに、外回りにおける「へこへこ」は、他者の評価にはプラスの影響を与えていたようである。


しかし、「立派なお父さんね。」と言われた少年は、「そうなのかなー。」と悶々と思うのである。


「承認欲求の解消」という観点で考えると、どちらの行為にも矛盾はないのである。


ただ、その表層の行為が違うだけなのである。


案の定、私の博士課程の修了式に来た父親は、私の指導教官に「へこへこ」していた。


「息子を採用していただいてありがとうございます。」


と「へこへこ」していた。


「へこへこ」された指導教官も、まんざらでもなさそうな表情を浮かべていた。


ここでもまた、需要と供給は、釣り合っていたのである。


この頃が、神様のくれた四回目の「自分と向き合う機会」であった。


この頃、妻と入籍した。


つまり、「彼女」から正式な「妻」になった。


先に、妻との出会いは神様の最高の贈り物だと書いたが、その通りだった。


就職の問題で心が動揺していたことはあったが、いつもそこに妻の「温かいぬくもり」と「やさしい光」が私を包んでいたのだ。


ただ、得体の知れないものの正体には、まだ気づかないのである。


この時、「自分に向きあいなさい」と神様が「機会」を与えても、私は、まだ「逃亡」を続けるのである。


それを「逃亡」とも気づいていないのである。


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