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メリーゴーランド  作者: 湊 亮
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アメリカに行くことが決まり、渡航した。


私は、押しつぶされそうな「不安」や「劣等感」を抱えたまま、陰鬱な気分で飛行機に乗っていた。


その時には、妻と出会っていたので、妻、つまり、当時の恋人と離れることもつらかった。


アメリカでの滞在、研究生活は、その「劣等感」を少し解消することにつながったと思う。


英語で、受け入れ先の担当教官や、その当時のアメリカの大学院生とディスカッションしながら仕事を進めることに「充実感」を感じたのである。


「なんだ!俺もできるじゃないか。」という「自信」でもあった。


しかしながら、周囲の人を「敵」とみなす私の特性は変わっていない。


現地での大学院生に対する「対抗心」のようなものは、健在だったのである。


つまり、「競争」というものを意識しているのである。


さらに、受け入れ先の担当教官へも認められなければ、という強迫観念・恐怖感に基づく、「承認欲求」も変わらず、その青年を締め付けるのである。


そのストレスにさらされることは、逃亡先のアメリカでも変わらないのである。


両親の専売特許である「他者称賛」は、ここでも息子に暗い影を落とし、どんより息子の心を侵食していくのである。


そんな中、妻とは、毎日ネット通話をしていた。


日本との時差がちょうど十三時間であり、私が朝起きるタイミングが、妻が寝るタイミングだった。


妻は当時、朝早く起きなければいけない仕事に従事していたため、夜は早く寝る必要があったし、早く寝たかっただろうと思う。


しかし、その当時の私は、先に述べたように、充実感は味わっていたものの、それなりのストレスもあったため、ついつい妻と話し込んでしまうのである。


毎日のことなので、そこまで話すこともなくなっていく。


ただ、私は「得体の知れないものからの不安」からついつい、話し込んでしまうのである。


彼女は眠たかっただろうし、疲れている日もあっただろうと思う。しかし、私はお構いなしに「子供のわがまま」を吐露するのである。


その「子供のわがまま」に対して、彼女の反応はどうだったか。


いつも私に「やさしく」応対してくれるのである。


「やさしく」というのがポイントなのだが、そこには、「恩着せがしさ」や「感謝要求」がないのである。


ただ、静かに、そして、私を見守るように、包み込むように話を聞くのである。


そこには、「罪悪感」、「劣等感」の植え付けや、どんよりとした「有償の愛」がないのである。


「無償の愛」なのである。


長らく戦場で育ってきた少年は、「違和感」を感じる。


その「違和感」の正体はわからないのだが、ただその光景に「感動」するのである。


それは「暗闇」をひたすら走ってきた少年が初めて見た「光」だったのである。


当時の私は、その「光」の正体も、「暗闇」の正体もわからないのであるが、ただ茫然と「温かいぬくもり」に包まれているのである。


その「温かいぬくもり」は、私の「自信」を助長し、ある種の「充実感」を感じながらアメリカでの生活を続けることができたのである。


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