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メリーゴーランド  作者: 湊 亮
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会社へは、実家から約二時間程度かけて通う羽目になった。


「羽目になった」というのはどういうことか。


実家と会社の位置関係は、「会社の寮に入れるほど遠くはないが、通うにはあまりに遠い」という絶妙な距離感だったため、否応なく実家から通うことになった、ということである。


私は、毎朝五時半に起床し、約二時間程度かけて会社へ通勤した。


新入社員という立場におけるこの通勤環境は、かなり過酷で、日々ストレスが募っていった。


「理想的な職場ではない」という私の「勘違い」も、そのストレスに拍車をかけた。


会社の近くに住むという選択肢もなくはなかったが、家賃補助が出ないという理由から渋っていた。その通勤に関する「不満」は日々募っていくのである。


この不満は、社会的にはよくあること、会社という組織においての一種の「洗礼」のような出来事だが、当時の私は、「せっかくこの会社に入ってあげた私に何という仕打ちをするのか」という、独りよがりの解釈をして不満を募らせていた。


恐ろしいことに、父親も同じような解釈をしたのである。


「社会を知らない」私も父親も、その現実が不満だったのである。また、その現実の問題に対して不満をひたすら吐露することで解決しようと試みたのである。


この解決方法は、子供がおもちゃを買ってもらえないときに「その場に居座り、駄々をこねる」行為と同じなのであるが、当時の私も父親もその「違和感」に気づかないのである。


今となっては、お恥ずかしい限りだが、この通勤問題に関して、父親が会社宛てに得意の「作文」を書いたのである。


それは「異議申立書」とでも言っていいかもしれないが、異例の「代物」だった。


内容は、はっきりとは記憶してないが、「この距離で寮に入れないのはおかしい。」「このままだと、子供が自立できない。」「直接、社長と話してもいい!」等の文言が並んでいたように記憶している。


その「作文」を持って、息子はその当時の上司に渡した。


その「子供の作文」を読んだ上司は、呆れ顔で、「いやー。これは通んないわ」と笑っていた。


今の私は、その「笑い」を理解できるが、当時の私は、困惑した。


その点を理解できないことが、私の心の「弱さ」であり、過酷な戦場を生きてきた「結果」なのであるが、当時の私は、その点に気づかない。


しかしながら、このように自分の思い通りにならないことを経験することは、当時の私を良い方向へ導こうとしていたのかもしれない。


この時から、私が抱いている「違和感」を少しずつ意識していくのである。


「私がしたいことは何なのか」


「自分はここで何をしているんだろうか。」


「なぜ仕事が嫌なのか」


「なぜ孤独感があるのか」


「なぜ職場で打ち解けられないのか」


そのようなことを少しずつ考え始めたのである。


この時期が、神様がくれた、自分を見つける三度目の機会だったのであるが、またしても、私はその「違和感」の「正体」を間違えるのである。


「本当の自分がないこと」に気づくことができず、「本当の私はいるが、その本当の私の居場所はここではない」という風に結論づけてしまったのである。


またしても、そのチャンスに「逃亡」という方法を選択してしまったのである。


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