幕間~平穏でもない日常 謎の師弟
番外編の番外編という……。
新キャラ登場ですが名前はまだ出てきませんし、本編に登場するかも謎です。
というか、暫くは出てきません。ずっと出てこないかも(笑)
番外キャラと言うことで。
左の手に持った短剣に重い衝撃を受けビリビリと痺れる感覚に顔を顰めながら、彼女は腰を入れて左手を払った。距離を取る為に背後へ半歩さがる。
「甘いっ!」
その動きを読まれていたのだろう、更にずいっと相手の短剣が彼女の顔を水平に薙ぎ払うように振るわれる。
「くっ!」
こっちはハイヒールで動き難いって言うのに、と心の中で毒づく。
容赦なく迫り来る短剣を今度は右の短剣で上へ払い、そのまま体を少し沈め相手の懐に潜り込むように左の短剣で咽喉もとを狙う。
取ったと思った瞬間すっと、相手に半歩退かれ左手が空を切る。
ちっと舌打ちをするとそのまま、体当たりするような気持ちで前へ踏み込んでいく。
十センチ以上あるヒールのせいで、左の足首の辺りが痛んだが気にしている暇はなかった。
ふわりと相手の体から甘い香りが香った。それほどに近い距離。視線と視線がぶつかる。
日本人にはあり得ない緑がかった茶色の瞳が冷たい光を放って見下ろしている。硬質の宝石のような瞳の中には殺気すらなく感情の感じられない無機質な光を放っている。
その無機質さは機械のような正確な動きと相俟って、彼女にぞくりとした悪寒を感じさせる。
背筋を走る寒気のような快感のような感触を彼女は嫌いではなかった。
無表情の男に向かって、真っ赤な紅を引いた唇を上げて、右手で渾身の一撃を放つ。反動でふわりと彼女の栗色の髪が舞う。
キンッと硬質の物質がぶつかり合う音が響く。
彼女の渾身一撃は男の持つ刃で完全に防がれていた。
予想していたのか右手を振りぬいた反動を利用して、後ろへ一メートルほど跳んだ。
乱れる呼吸を整えながら油断泣く相手を見据え、次の手を模索する。が、眼前の相手が急に戦闘体制と解き、彼女と同じ短剣を持った両手を下ろした。
「五十点だな」
「えー。ちょっと点数辛くないー?」
まだ少し上がる息を気にしながら彼女が抗議の声を上げる。
「お前に足りないのは技術より殺気だけどな。殺すつもりでやれと言っているだろう?」
「殺したら殺人罪でつかまるでしょー。そんなの、やだー」
軽い返事に男のため息が深くなる。本当に宝の持ち腐れだと思う。
敵に肉薄した状態で更に前に踏み込むことの出来る胆力がある癖に、必殺の一撃を出す時には躊躇するその矛盾。
足痛いしーとか、疲れたーとか緊張感のないことをぼやきながら両手に持っていた二振りの短剣をロングスカートをたくし上げて、片方を太ももに巻いたホルスターに、もう一方をわきの下に収めている。流れるような手付きで凶悪な刃が綺麗に隠される。
「ししょー、お腹空きません?ラーメン食べて帰りましょーよー」
本当に緊張感のない奴だと再びため息を付いて、それでも既に帰りかけている弟子の後を追い歩き出した。