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幕間~平穏なる日常①  カフェテラスにて①

幕間:【意味】芝居の演技が一段落して幕をおろしているあいだ。芝居の休憩時間。



何事もない日常。 

事件のない間の主人公達の一幕を書いております。(更新は適当。次ぎがあるかどうかも不明っす)

 清藍(せいらん)はいつも通りに一人静かに珈琲(コーヒー)を飲んでいた。


 いつも通りの席、いつも通りの静けさ、遠巻きにされるのもいつも通りだ。


 元々、大勢で集まり、派手なおしゃべりをするというような友人関係を好む性格でもなく、またそういった性格の人を友人にする機会もなかった。


 けれど、今の彼女はとても心が軽かった。


 現状は何も変わっていない。彼女の中では昨日と今日では大きな変化が起こっていたけれど、それは外側から見て判別が出来るものではない。


 (とおる)(りく)だっていつも彼女の傍らにいてくれるわけでもない。


 当たり前のことだと思うし、それでいいと思う。


 自分は彼らを束縛したいわけではない。


 目に見える所にいなくても信じていられる余裕が、今の自分にはあった。


 それは彼女にとっては驚くべき変化だった。


 以前はどれ程静かに過ごしているように見えても、心の中は嵐が吹き荒れていたように思う。こんなに穏やかな気持ちでゆったりと時を過ごすなんてとてもできなかった。


 開け放たれた窓から風が吹き込む。清藍の日本人にしては色素の薄い髪をふわりと揺らす。


 その風は雨の臭いを(まと)っている。そろそろ梅雨が始まろうとしているようだ。


 湿気を帯びた風すら今の彼女には清々しく感じられているようだ。


            ☆


 緩やかな時の流れが珈琲(コーヒー)から熱を奪う程の時が過ぎた頃、清藍は背後から声を掛けられた。


「今日は大分早いね」


 落ち着いた声と空気を無駄に掻き乱さない、足音さえあまり響かせない彼の動作は、同じ年頃の青年にはあまり見受けられない稀有(けう)なもの。


 その声の独特の響きも彼を特定するには十分な特徴だ。


 振り返ると想像通りの人物がいつも通りの穏やかな微笑みを湛えて立っている。


「陸こそ、ランチの時間にはまだ間があるようだけど?」


 彼の手にはサンドイッチと温かく湯気をたてるカップが乗ったプラスチックトレイがあった。


「朝めし抜いちゃってね、腹へったから」


 清藍に前の席に陣取る許可を得て、腰掛けながら彼は少し恥ずかしそうに答える。


 無理もない、と思わないでもない。


 清藍も同じ条件ではあったけれど、夜通し戦闘をしていた陸の疲労は彼女にも計れない。


 一度帰って休んだとしても睡眠をとる余裕は時間的になかったろう。


 それでも清藍と陸が大学に来たのは、取りこぼすことのできない講義があったからだ。


「君も無理はしないでね、講義ももちろん大事だけど」


 清藍は民俗学の講義を選択している。それは陸も一緒で、講堂で時折顔を合わせているから、お互いになぜ今日大学に来ているのかもすぐに理解できた。


「私は、民俗学の講義だけだから。終わったらすぐに帰って休むわ。さすがに限界だもの」


「うん、それがいいね。徹の奴は考古学の講義もでないといけないらしくて愚痴ってたよ」


 くすりと笑い声が漏れる。


 前回提出したレポートがあまり良い評定を貰えなかったとは、清藍も聞いた気がする。


 おそらく講義の受講を条件にぎりぎり及第点を貰ったのだろう。


「徹らしいね」


「ホントにね」


 陸はわざとらしく困った顔をつくってため息をついて見せる。


「ヤツの場合は怠けて期限直前まで放っておくのが理由だから、これで少しは反省してくれるといいんだけどね」


「反省……うーん」


 手慰(てなぐさみ)みに冷めててしまった珈琲のカップをくるくると傾けながら、笑う清藍の笑顔も陸と似たような苦笑いになっている。


「難しい、かも?」


「やっぱりそう思う?」


「とりあえず、講義中寝ないようにしないとね」


 必須と言われてるだけあって、今週の講義はどれも重要と思われるものが多い。睡魔を押して大学まで出てきて、寝てしまっては本末転倒でもある。


「僕もそれは自信ないけど、徹の奴はもう寝るつもり満々だろうな……」


「珈琲でも飲ませた方が……だめね、徹じゃ。二人で両側に陣取って寝たら左右から靴を踏んづけてあげるとかどうかな?」


「それ、名案かも」


二人はまるで悪戯を思い付いた子供のように笑いあった。

先日より主人公の名前表記を変更しております。ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。


青藍 → 清藍

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