第二十八話
いつもの倍ぐらいあります。
人目に付かないリーガントレット王都の森林公園に転移してくる。
視線を感じキャラテを見ると俺を睨んで脹れている。
「なんだ?」
「子守りって言った。」
モグモグを止め俺に答えるとプイッとソッポを向きモグモグに戻るキャラテ。
俺は内心溜息を吐き「悪かった」と謝っておく。
「レウース、一緒に連れて来たが良かったのか?帰りたいなら直ぐに戻るが?」
「うむ!わらわはキュオー様や其方と一緒の方が楽しいのでこのままでいいぞよ。」
「そうか。なら服を買いに行くぞ。」
俺は二人を連れて大手の服装屋に行き、キャラテとレウースの服を十着づつ買う。
次にその足で職人ギルドの場所を聞き、探して歩く。
移動して聞くを、数度繰り返しそこにやって来た。
朽ちかけた、あばら家のような平屋建ての建物。
そこそこ広い範囲、普通の家なら豪邸と云えるだろう。
玄関先に小さな看板らしき板に職人ギルドと書いてある。
「のう。これが探しているギルドなのか?」
レウースがさも不思議そうに聞いて来る。
「多分な…」
俺は呟くように返事をして、扉に向かい慎重に扉を開ける。
見た目と違い音もせずにあっさり開く横スライド扉。
中に入るとやはりボロボロの内装で、受け付けらしき所には草臥れた服装の疲れた顔をしたおじさんが一人、ぼーとして座っている。
俺が要件を伝えると、意外としっかりした声で受け付けの後ろの扉から奥に入れと言われる。
受け付けの裏に回り扉を開けてもらうと数メートル先の扉が見える。
その扉を開ければ話を聞いてくれる者がいると言われ入った扉を閉められた。
かちゃん…
微かな音が先の扉から聞えた。
ほう…
今閉められた扉と連動して鍵が開け閉めされている。
かなりの技術だな。これなら期待できるか。だが俺が求める者は特注の魔道具だ。
あまり期待しすぎない方が良いか。
俺達は奥の扉を開け中に入る。
そこは外からの見た目と違い、内装はしっかりとした造りで綺麗に整った室内で三人の人が居た。
一人は小綺麗な服装をした中年の男で、もう一人は受付嬢だろう若い女性。
残り一人はキャラテより背が低く、しかし横幅は三倍はあるんじゃないかと思えるほどのがっしりした身体の男だった。
ドワーフ
亜人種の一種族で見た目と違い手先が器用で力強く、鍛冶師や物造りの職人が多い。
まぁ、炭鉱夫や前衛職で戦いに明け暮れている者もいるが。
今、目の前にいるドワーフは薄汚れた丈夫そうな服を着ている。
その汚れ具合からみて職人だろう。
「回りくどいのは無しだ。求める物は収納鞄だ。持つ者はこの二人で。収納量はここで出来る最大で作ってくれ。少女の方は肩掛けタイプを二つ、幼女の方はリュックタイプと肩掛けの一つづつで。」
「ふむ。分かった。すぐに作ろう。と、言いたいが、材料がな…」
「金を先に出しても無理なのか?良ければ材料を教えてくれれば集めるぞ。」
俺が軽く聞くとドワーフは意地の悪い笑みを浮かべ言ってきた。
「小僧が言ってくれる。収納量を増やすのはそれほど難しい事ではない。が、その加工に耐える素材が中々手に入らん。成竜ドラゴンの革がな…。」
なんだ。そんなものか。
「赤竜でいいか?」
俺は畳一畳ほどの大きさの鞣し終っている革を出してみる。
「こ、こここここれは…!?」
絶句して革を持ち震えているドワーフ。他の二人も革を見たまま硬直している。
「それで足りないならまだ出すぞ?他に要る物があるか?」
俺の問いかけに「はっ!」と俺を見るドワーフ。
恐る恐る問いかけてくる。
「こ、これで鞄を作っても良いのか?鎧や楯とかの装備品じゃなくて?」
あ~確かに普通は装備品を作るわな。しかし俺は赤竜の皮や鱗ぐらいでガードできる攻撃など効かんしキャラテやレウースも自前があるし(笑)
俺は少し考え一畳ぐらいの革をもう三枚出し言う。
「序だしこれで俺達にフード付き全身マントを作ってくれ。余った革は其方で引き取って代金から引いてくれ。
で、他に要るものは?」
「う、うむ…だったら魔力石が欲しい。純度が高い程、容量が大きい物が作れる。こちらが用意出来る物では精々30倍ほどにしかならん。」
「魔力結晶でいいか?」
俺は手の平サイズの高純度の魔力結晶を四つ取り出しドワーフに渡す。
「ここここここここ…これは駄目じゃ!こんな高純度の結晶では革が持たん!もう少し純度の低い物はないか?」
「ふむ…ならこれぐらいでは?」
先程より低純度の結晶を出してみる。
「う、うむ…これなら何とか…だがこれでも500倍近い物が出来る。本当にそんな小さな鞄でいいのか?」
「構わん。俺のアイテムボックスがあるからな。いちいち俺のボックスから出す手間を少なくするのが作る理由だ。で、代金はどれぐらいになる?」
「貰えんよ。余った分で充分に元が取れる。ギルマス、わしはすぐに仕事に掛かる。エリーネ。鞄の肩紐の長さと装飾は任すぞ。」
ドワーフは言うだけ言うと革と魔力結晶を持って奥に消えた。
「本当に良いのか?」
俺がドワーフが消えた方を見ながらギルドマスターらしき男に声を掛けると苦笑しながら返事をしてきた。
「良いと云うか逆らえません、彼には。彼が居なければこのギルドは保たれませんので。」
「ふむ。そちらに損がでないなら俺は何も言うまい。そちらの女性エリーネさんとか言ったか。それぞれ髪の色に合わした配色や装飾で頼む。派手さはいらん。今の服には合わさなくていい。」
「はい、承りました。ちょっとお嬢さん達、身体を図らしてね。」
そう言って身長、肩幅、胴回り、肩から腰までを三人分を図られた。
何で俺まで。と思ったのが顔に出てたのを見られたのか、
「マントの分です。」
と、あっさり言われ仕方なしに我慢した。
全て図り終わってからギルマスに金貨一枚渡しで言う。
「完成したら冒険者ギルドに使いを寄こしてくれ。俺宛にただ一言、完成したと。俺の名はシンヤ・ブリッジ。朝と夕方に顔を出しているから言付けがあった次の日には取りに来る。」
「宿まで届けますよ?」
「俺達の宿はリーメイルだ。ではまたな。」
俺達は返事も聞かず王城の中庭に転移した。
@@@@@@@
中庭でメディアの墓を参り、ザトペックが居る騎士団に向かう。
ほんの少し騎士達の相手をして次はギルド長の部屋に転移する。
「邪魔するぞ。」
驚くマジュランを無視して言う。
「クールメーナに襲われた。お前の指図か?それなら今ここでお前を始末する。」
俺の言葉を聞き硬直するギルマス。
「ふむ。無言は肯定と受け止める。死ね。」
右手に手の平サイズの火球を作り、押し付けようとゆっくり近付くと飛び退き反応する。
「まままま待って下さい!私はそんな事命じていません!ほんとです!信じて下さい!」
ふん…鑑定でも白だしな。だがきっちり釘を刺しておく。
「お前は秘密主義者か?クールメーナに俺の正体を教えていないだろ?俺との会話を聞かせてて教えていないのは明らかにお前の失態だ。言いたい事があるなら聞こう。だがつまらん言い訳ならそれがお前の最後の遺言になる。それを理解して話せ。」
泣きそうな顔をして俺を見ているマジュラン。
俺達はソファに座りサッサと言えと促す。
「わ、私の言葉不足です。なにとぞご容赦を!私は彼女に貴方の監視を頼みました。…あ、あと勇者が討たれそうになれば邪魔をして逃がす様にと頼みました。そ、それだけです!誓って貴方様を討てなどとは頼んでいません!」
「ほう?お前は俺の言い分を信用しないで、勇者の称号持ちと云うだけで調べもせずにそちらの肩を持つと?つまりお前は魔族に与し、リーガントレットだけでなく大陸の人族の敵になると?」
俺の言葉を横で聞いていたキャラテが一瞬部屋内に殺気を飛ばし、レウースが俺にしがみついて来る。
マジュランは土下座状態のまま両手を前に突き出し必死に言い募る。
「ち、ちちち違います!勿論勇者が無罪だった場合と条件を付けていました!魔族の証拠が得られたなら、シンヤ様に手を貸す様にとも言い添えて!」
「くくくっ…俺も舐められたものだな…勇者がまともなら俺が仕掛ける訳ないだろ。多分お前は、人質とかで勇者の動きが封じられていると想定しているのだろうがそれはない。何のためにクラウディアを顧問に据えていると思っているんだ。そもそもクランの本拠地を移動さしているのもな…アイツが本拠地の移動を許す訳がないんだ。」
そう、クラウディアにとって、リーヘルムにクラン本部を置くのが顧問になる条件の一つだった。
「もう報告を受けていると思うが、スタンピードとその原因。生息していないはずの魔物達。リーヴァンブレイズが攻めてくる可能性。対策はしているか?」
「は、はぁ…」
俺がいきなり話題を変え話始めると面食らっておざなりな反応が返って来た。
「どうなんだ?」
「は、はい!勿論対策しています。王城にも届けて情報の共有もしています。」
「それにワールドピースが関わったらどうなるか。無論魔族側でな。」
俺の言葉に真っ青にした顔を震わせて告げてくる。
「そ、そんな事になっているんですか!?」
「一般には伏せていることだがな。王都ギルド長のお前だから教えよう。魔族の計略は奥が深い。下っ端が人族を舐めているから大事になっていないだけだ。ギルツゲーネフの時も有能な上級魔族がもう三体いればこの大陸は魔族の物だっただろうな。」
「そ、そんな…」
蒼白を通り越し白くなってきた顔で絶句しているマジュランに言う。
「だから俺はクランを作ったんだ。そのクランが汚染されているなら潰すしかあるまい?大陸全土に根を伸ばしている情報網が利用されたなら人族で大戦が起こるぞ。」
俺の言葉に顔を引き締め微かに震えているがしっかりした声で言ってくる。
「ギルド総本部にも伝えて対策を取ります。貴方様の名を使ってもよろしいでしょうか?」
「いや、シンヤ・ブリッジで伝わる。中央ギルドにも影響を残しているからな。王家の名は使うなよ。王家からも警告はさせるから。」
「はい、分かりました。」
「これは俺の考えだから合っているか分からんが、魔王召喚は各地での小競り合い中にやって、人族が纏まる前に征服するつもりだったんじゃないかな。まぁ、俺が居る限り魔王が来ても蹴散らすが、今回はリーメイルが優先保護対象だ。俺の目が届く範囲ならリーガントレットも保護するが俺を充てにするなよ?」
「わ、分かりました。私が前線に出る事も考えに入れて動きます。」
「当たり前だ。ギルド長だからと云ってのんびり書類整理だけで済まそうと思うなよ。特にこの国では、王家とギルドは相互監視を徹底させていたのに何故ここまで緩んでいる?お前がギルド長になってからなら全てにケリがついたならお前も始末するぞ。」
「うっ…少し心当たりがあります…」
「少しか…なら挽回してみろ。お前の働き次第で始末するかは考えてやる。」
「はい…頑張ります!」
死に往く覚悟のような表情でハッキリ返事を返すマジュラン。
俺は口元が歪みそうになるのを何とか耐え答える。
「うむ。では朝と夕方に毎日顔を出す。だが下に顔を出してここには来ない日もあるから、用があるなら受け付けに伝えろ。じゃあな。」
俺達は城に転移した。
謁見の間でマジュランに伝えた、魔族のさらなる暗躍の可能性と多国間の戦争の可能性などを語りリーメイル亭の部屋に転移する。
部屋に居たレガを加えて一階で食事をしてキャラテとレウースを風呂に掘り込み、レガに今日のあらましを伝え魔族への警戒が上がる事を言う。
「だから今からディーブレイカーに跳ばす。ヴェルテルのいる城でいいか?唯、直ぐに呼び戻すかもしれないので長期の任務に就くな。俺がお前に言った事させた事を事細かくヴェルテルに伝えろ。では城の地下にに跳ばす。またな。」
「はい、お願いします。」
俺に頭を下げたレガをそのまま転移させる。
さて、この動きに喰い付くか。それとも…
俺は笑みを浮かべ明日のクランにどう対応するのか考え出した。
さて、リアルで色々ありまして、(とくに大雨関係で)投稿速度を稼げません。
読みも滞りがち(泣)
次は月内に水中花表と裏を出す予定ですが、裏は月内に出ない可能性を言っておきます。
チートは裏が今月中にだせれば来月中に。
無理だった場合は未定でお願いします。




