第二十六話
遅くなりました。
その分いつもの倍ぐらいの文字数です<(_ _)>
見た目は人の二匹を連れ大通りを歩きながらレウースに聞く。
「ちと聞きたいが、なんで幼女に化けたんだ?大人にも化けれるだろ?」
「わらわが巫女達に聞いたのじゃが、人は小さい子供に甘いのじゃろ?じゃから将来、人に変化するときは子供の姿になれば色々助けになると言っていたのじゃ。今までも役立ってたのに其方らには通じんかったが…」
その言葉を呟きながら目から光を消し遠い目をして空を見る幼女。
「それに何故か幼女しかなれんのじゃ。まぁこのままで不便してないから気にしてはいないがな。」
そう言い無い胸を張る幼女。
その姿から見栄とかを窺わせる様子は見えない。
本気でそう思っているのが判る。
「そうか。で、竜珠に近付いているか?」
「うむ!動いていないのでジワジワと近づいておる。」
「…やっぱり闇ギルドか。キャラテ、暴れるなよ。当時いた奴は居ないから冷静にな。」
モグモグしながらコックリ頷くキャラテ。
雰囲気からでも些事に構うより食い物を優先している気を纏っている。
「あの…何故キュオー様が暴れるんじゃ?暴れるとしたら妾じゃろ?」
「ああ、昔、闇ギルドにキャラテが攫われた事があってな…その時に壊滅まで追い込みたかったんだが皇太子に止められて出来なかった。まぁ当時の力では壊滅まで出来なかっただろうし、あそこで手打ちにしとかないと一般民に影響が出ていた。それにレウースなら100体いても楽に止められるが流石にキレたキャラテを止めるのは疲れる。今日はこの地域に来る前にかなり気疲れする作業をしたんでこれ以上の厄介ごとは遠慮したい。」
「妾のせいで済まんかった…」
俯き呟いて謝るレウース。
俺はレウースの頭を撫でて言う。
「あのスタンピードじゃないぞ。それで一つ思い出したがお前の森は、どんな状態なんだ?あれだけの種族が棲み分けできるとは思えんのだが。」
「うむ。あの森にヘルハウンド、バジリスク、ヒポグリフ、ミノタウロスはいない。竜珠が盗られる数日前から召喚士と魔物調教師が解き放ったんじゃ。妾には影響なかったので放置していたが、妾は利用されたんじゃな!」
「多分な…。人同士の争いには関与しないと決めていたが、流石に恩のある竜の子供を利用したのは許せんな。」
ふと隣から視線を感じそちらに目を向けるとキャラテが睨んでいた。モグモグ食べながら。
視線を追うと俺の左手、レウースの頭を撫でているのが気に要らないのか…
俺はこっそりため息を吐き右手でキャラテの頭も撫でる。
途端に笑顔を浮かべるキャラテ。
両手に花の状態だが少女と幼女。どう見ても三人兄妹の絵面だ。
もう一つため息を吐くと、大通りから外れ治安が悪そうな薄汚い通りに向かう。
その通りを歩きレウースの後を着いて行く。
暫く歩くとレウースが右側の通りに入る。裏通りか…
一段と狭くなった通りに入ってすぐ、目付きの悪い男達の視線が集まる。
特にキャラテを嘗め回す様に見ている。
ほんの一部にレウースを見て舌なめずりした奴等がいる。
……あいつらの顔は覚えておく。後で始末しとく方が世の為だ。
俺の殺気が漏れたのか、レウースに向けていた視線を外し周りをきょろきょろ見渡し肩をすくめてコソコソ逃げ出す奴が居た。
危機感知を持っているか…普通の役人に捕まえるのは難しそうだな。
通り一つ向こうに逃げた男に親指ほどの小石を頭頂に召喚して打ち込む。
…あっ!………威力調整をミスった…いきなり頭が吹き飛んだな。
隣りの通りから叫び声や悲鳴が聞こえてくる。
キャラテは俺をチラッと見たが気にせず食事を続けている。
流石にキャラテにはバレているか。
俺はキャラテの頭を撫でながらレウースの後を歩く。
レウースの足が止まり、この通りで一番頑丈そうな建物を見る。
二階建ての立派な造りで奥行きもあり地下室並び地下から別の場所に行く通路が数本ある。
正面扉の上にこれまた立派な看板が取りつけてある。
【クリーン商会】
くくくっ…えらい皮肉な名を使っているな。
「ここの中から反応があるのじゃ!」
「そうか。では入るか。」
ここに入ろうとすると俺達の跡をつけていた連中は蜘蛛の子散らす様に逃げ出した。
何人かは忌々しそうに顔を顰めて消えた。
多分、別組織の人間だったのだろう。
立派な両開きの扉を開け中に入る。
玄関ホール左手にカウンターがあり二人の男が座っている。
玄関正面の壁にも三人の男が立っていた。
俺達はカウンターに行き話をする。
「出来るだけ上の人間と話をしたい。取引に来た。こっちが買う側でな。」
そう言ってリーガントレット大金貨100枚入っている革袋を見せる。
少女と幼女を売りに来たと勘違いしていたのか、驚きの表情を浮かべ慌てて一人が奥に走っていく。
もう一人は素早く取り付く様に笑顔を浮かべ奥の部屋に案内してくれる。
「どうぞこちらへ。」
男の案内で二階の一室に来る。
「すぐに支部長が来ますので少しお待ち下さい。」
そう言ってかなり高級なお茶まで出してくれる。
お茶を堪能しているとかなり身なりの良い若い男が三人入って来て、対面に座るなり謝罪をしてくる。
「お待たせして申し訳ありません。少し火急の要件が重なりまして。」
「気にするな。多分、その件にも関わりがある。西門方面での騒ぎだろう?こちらの用は竜珠だ。相場の倍値で引き取ろう。」
息を呑み驚く男達。
俺は続けざまに情報を開示する。
「竜珠の出処を知っているか?西の森の大地竜だ。持ち込んだのは西の国リーヴァンブレイズ連邦の斥候か密偵だろう。今のこの街の戦力では大地竜を足止めも出来んぞ。お前達の組織は街を捨てる準備が整っているのか?」
「ま、待ってくれ!もしかしたらあんたらは先程スタンピードを殲滅した人間じゃないのか?こちらに上がって来た情報と一致する!」
「ほう…まだ衛兵たちにもバレていないと思うが?…流石皇帝の一族に保護されていた組織だけあるな。
そうだ。俺達がある程度を間引いた。大地竜とは会話が出来たので今は攻めてくるのを待って貰っている。お前達もこの国一の裏組織の人間だ。生きている竜から竜珠を盗むリスクは知っているだろう?因みに拒否するなら俺達も大地竜に加勢して竜珠を取り戻す。少なくとも今この建物の中の人間は一人も生き残らないな。どうする?」
少し威圧を込め淡々と問いかけると汗をダラダラ垂らしながら三人が顔を見合わせ相談しだした。
「そちらで聞いている者と相談しなくて良いのか?護衛も入れて良いぞ。」
俺は三人に話しかけ、茶器を掴み美味い茶を飲む。
三人は息を呑みまた顔を見合わせると一人が立ち隠し扉を開け二人の男を招き入れる。
一人は動き易い服で腰に短剣を差し左手で長剣を持っている。護衛だろう。鑑定するとこの街で上位五人に入るレベルだ。
もう一人は、先に居た三人より地味な恰好をしていたが魔術防御を施した指輪や腕輪、ネックレスなどをそれと解らない様にファッションに見立ててさり気なく付けている。
が、顔を見て俺はコッソリため息を吐いた。
その瞬間…部屋内の時が止まる。
俺でも首筋の産毛が逆立つ殺気が部屋に満ちる。
俺の横に座ってお茶を堪能していたレウースは跳び離れ壁際に張り付きガタガタ震えている。
俺達の正面に居た二人は泡をブクブク吐きながらビックンビックン身体を痙攣させて白目で悶えている。
隠し扉を開けた奴はあっさり倒れてこれまた身体を痙攣させている。
護衛の男は意識を失いはしなかったが両膝を付き剣で身体を何とか支えている。
最後の男は片膝を付き恐怖に歪んだ顔でこっちを見ている。
「キャラテ。」
俺が声を掛け頭を撫でると一瞬で殺気が消える。
だが、魔術装備の男を睨みモグモグしている。
「レウース、戻ってこい。」
「う、うむ…」
恐る恐る戻ってきて俺の横に座りなおす。
一秒にも満たない瞬時の殺気だったが、裏の人間でもキツかっただろう。
「さっさと話しを進めてくれんか?俺は暇じゃないんでな。」
魔術道具の男は掠れた声で文句を言ってくる。
「い、いきな…り…、な、なんの真似…だ…?…組織に喧嘩を売りにきたのか…」
「今のを事を恨むなら先祖を恨め。クリング・バウトの子孫よ。」
「!?」
「この娘はクリングに攫われた事があってな。お前の顔がクリングにそっくりなんで思わず反応したんだ。本気で喧嘩を売るつもりなら、組織に関係している建物と人間を潰して回る。取引きが終わればお前達に用はない。だからさっさと竜珠を出せ。」
「組織を作り直した先祖を知っているなんて、お前とその小娘、何者だよ…」
掠れ声でブツブツ文句を言い、未だビクビク白目向いて痙攣している男達をソファーから蹴り飛ばし、そこに座る男。
「あんた等にゃ、礼儀はいらんよな…コードルド・バウトだ。現組織のトップでこの商会のトップでもある。」
「挨拶などいらん。竜珠を寄こせ。」
「ああ、ほらよ。」
コードルドは懐に手を入れ革袋を出すと、両手で隠しきれない大きさの虹色に輝いている真円の宝珠を取り出し、アッサリ投げてくる。
それを受け取り隣りのレウースに渡し聞く。
「どうだ?」
「うむ!わらわの竜珠だ!」
そう言うなり竜珠を一口で飲み込んだ。
…自分の顔に近い大きさの物を飲み込むなよ…実際の身体からしたら小さい物なんだろうが…
コードルドは煙草の用意をしていたが、火を点ける直前の恰好で硬直している。
「えっ!?…ちょっ…えっ!?…そ、その小娘って…ま、まさか…その…」
「大地竜だ。街中で見つけても手を出すなよ?で、値段は?」
俺とレウースを交互に見て狼狽えているコードルドに促す。
頑なにキャラテの方を見ようとしない。未だに睨まれているからな。
「いや、良いぞ。組織に喧嘩売って詐欺をしたんだからな。リーヴァンブレイズ連邦に責任を取らす。」
「ふむ。リーヘルム大金貨でもか?」
「ぶっ、ゲホゲホ……マジかよ?ちょっと見せてくれるか?」
俺の言葉に煙草を喫い過ぎ咽ながら聞いてくる。
「そら。俺も残りは少ないから十枚だけだ。」
十枚入っている革袋とリーガントレット大金貨が五十枚入っている革袋を投げ渡す。
小さい方の革袋を開け手の平に大金貨を出してしげしげと眺めるコードルド。
「参った…本物だ。」
「ほう?良く見分けがつくな。今じゃあ殆ど残っていないだろうに。」
「ああ、代々一族に伝わっているんだ。罪の無い一般民から、騙すな・奪うな・脅すな・暴行するな・盗むな・犯すな・殺すな・との言葉と一緒にな。だからアンタは俺達を無差別に殺しにかからなかった。だろ?」
「ふむ…当時の俺は若造の無知で経験が足らなかったからな。帝王学を収めていた皇太子に随分助けられた。それでもこの組織を残すのには反対したが、我が一族が責任を持つと言って、帝国をリーガントレットに差し出したんだ。だから俺はこの旧帝都を代々皇帝一族に収めさせる様に手を回した。」
「その話は本当だったのか…今でも一般民に胸を張れる仕事とは言えんが、この帝都を守る為には組織の全てを掛ける。それとそちらの少女、聖銀龍様…だよな?俺の先祖が済まなかった。先祖の残した言葉に聖銀龍様にあったなら何を犠牲にしても詫びをしろとの言い伝えがある。だから竜珠の代金は受け取れない。それどころかこちらがあるだけの金を差し出す用意もする。」
ソファーから立ち上がりキャラテの側で跪き首を垂れて謝罪するコードルド。
キャラテは「ふん!」と鼻息一つしてモグモグに戻った。
「コードルド。謝罪は受け取った。お前達の組織が今の状態から逸脱しなければ滅ぼされる事もない。」
「ふ~…まさか俺の代で来るとはなぁ…親父にまだまだ現役でやらせとけばよかった。」
「さて、帰るか。」
俺達は立ち上がり扉に向かう。
「お、おい。この金は?」
慌てて聞いて来るコードルドに肩越しに答える。
「安くない値で竜珠を買っているだろ?受け取っておけ。それに仕返しする相手を調べるにも金はかかるだろ?キャラテに謝罪したからそれで終わりだ。だが俺達の事は伏せておけよ?」
返事を聞かず扉から出て行く。
背後から疲れた声での呟きが微かに聞こえて来た。
「言える訳ねえよ…大地竜に聖銀龍様。それに勇者王が来たなんてな…」
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さっさと裏通りから大通りまで戻りつつ、レウースに邪な感情を持っていた数人を始末し冒険者ギルドを覗きに行く。
扉を開けるなり飛び出して来た者とぶつかりそうになる。
「おっと失礼。」
「いや、こちらこそご迷惑を………お、…お前は~!!!」
また厄介事か…
俺は天を仰いだ。
さて竜珠関連が一応終わったので、次はロセッティの回想です。
早めに出すつもりですが次の予定は裏表水中花の後です。
ですので未定でお願いします。




