第二十話
明けましておめでとうございます。
本年もノロノロ更新と思いますが宜しくお願い致します。<(_ _
)>
バシン!バシン!
召喚の間に鳴り響く尻を叩く音。
ユーイング老は呆気に取られて呆然と見ている事しか出来ない。
キャラテも自分がやられた事を思い出すのか嫌そうな顔で見てユーイング老に話しかけていた。
「あれ、かなり痛いんだよ。命の危険や体調に影響はないんだけど、歩けなくなるぐらいに腫れるんだ…」
暫く叩いていると王と王妃、青年が一人入って来た。
鑑定ではロセッティの兄みたいだな。
泣き叫んで謝っているロセッティを見て硬直する親族達。
一瞬早く我に返った王子が怒鳴りつけて来た。
「貴様!何をしている!やめろ!」
「黙れ。お前達親族の代わりに躾しているだけだ。」
俺はそう告げると最後に一叩きして尻叩きを止める。
そして尻叩きしていた理由を説明した。
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「で、これからロセッティを助ける為の儀式魔術を行う。それが理由で親族のお前達を呼んだんだ。」
俺が一通りの説明をしてユーイング老が補足すると王子パトリックは謝罪してきた。
「知らぬ事とは言え暴言を吐いた事を謝罪します。我が愚妹をお助け下さい。」
と、頭を下げて来た。
愚妹と言われたロセッティは「お兄様…」と呟き、恨めしそうにパトリックの方を見ている。
「気にするな。俺も半分は八つ当たりで憂さ晴らしをしていたんだしな。」
俺の言葉を聞いてパトリックはどう反応していいのか複雑な苦笑を浮かべていたが、ロセッティの方は愕然とした顔を浮かべて、
「八つ当たりの憂さ晴らし…酷いですシンヤ様…」
と、泣き顔を見せた。
「さて、儀式の手順だが王はロセッティの右手を右手で持ち、王妃はロセッティの左手を左手で持ってくれ。王子はロセッティの両足首を右足は左手で、左足は右手で掴んでいてくれ。ロセッティはひっくり返り仰向けになれ。」
俺の言葉を聞きロセッティは悲鳴を上げる。
「ひん…この状態でですか!?」
「当たり前だ。だから尻を腫れるまで叩いたんだ。これで充分反省するだろ。」
「今迄の仕打ちで充分反省してますよぅ…」
泣き言を漏らしているロセッティを相手にせずそのままひっくり返す。
「ひんひん!痛いよぅ…」
涙を流して痛みに耐えているロセッティの両手両足を両親と兄に掴ませる。
俺は体内で魔力を練り召喚の間に残っていた魔力と生命力の残滓とを融合させていく。
ロセッティの胸の前に不可視の生命力の球を作る。
その球とロセッティから漏れ出している生命力を繋げ俺の魔力と集めた魔力生命力をゆっくり馴染ませながら融合していく。
生命力球からゆっくりとロセッティから漏れ出ている分量の生命力をロセッティに戻す様に細工して循環を作り出す。
ロセッティの両親と兄からロセッティに合う生命力を抜き出し、ロセッティの体に合わない生命力を両親や兄に戻す。
ここまでして一息を吐く。
神眼を使いながらの作業は今の俺であっても苦労する。
暫し休息して作業を再開する。
ロセッティの身体に充分馴染んだのを確認して最後の工程に取り掛かる。
生命力球をロセッティの身体に同化融合させるだけだがそれが一番難しい。
普通に魔力から作り出した生命力球は人の身体に馴染まない。
一般にはゴーレムコアと説明すれば判りやすいか。
そんな物が普通、人に馴染む訳がない。
ゴーレムコアと比べれば個体と触れもしない魔力塊の違いがあってもだ。
だが俺は人体と生命力を融合させることで馴染ませる事に成功した。
しかしここで大きな壁にぶち当たる。
魔力で作り出した生命力球は強すぎて同化融合させる前に本来の生命力を破壊してしまうと云う矛盾を生み出した。
そのまま融合させても死ぬことはないが、だんだんと感情が消えていき自我が希薄なゴーレムみたいな生き物になっていく。
記憶は残っているし受け応えもするが自分から行動を起こすのが少なくなっていく。
そんな状態でも親族は生きていて欲しいと願っていたが俺はこれは違うだろと悩んだ。
色々な葛藤や思考実験を繰り返し最終的な解決策を見つける。
壊れる生命力を回復させると云う単純な回答を。
無論、通常の回復術で治せる訳はなく新たに回復術を作った。
生命回復術
この術だけでもロセッティは生きてはいける。
が、俺に何かあれば道連れになる。
それに俺が態々、いつまでも回復し続ける気もない。
と、色々思考をしているとロセッティの身体に生命力球がある程度馴染んできた。
そろそろ同化融合させるか。
そろそろと心臓の中に生命力球を潜り込ませる。
神眼でステータスを確認すると今まで以上の速さで生命力が減っていく。
ロセッティ本来の生命力と生命力球をゆるゆると融合させている。
生命力が半分を切ったあたりで術を使う。
「生命回復術」
ロセッティが元々持っていた生命力上限まで回復する。
急がず慌てず根気よく、同化融合を続けライフヒールを五回目に使ってやっと生命力の減少が止まった。
俺は全身がずぶ濡れになるほど汗をかき、大きく息を吐いた。
「ふ~~~…、終わった。皆、手を放して良いぞ。」
「ロセッティは助かるのでしょうか?」
王妃が聞いて来る。
「残念ながら本来の寿命年数は生きられないが、あと50年は事故や病気以外では生きていける様にはした。」
「ああっ、ありがとうございます!」
涙を流し感謝してくる王妃。
王と王子も薄く微笑みを浮かべてロセッティを見ている。
ロセッティも泣きながら家族に謝っている。
「キャラテありがとう。もう良いぞ。」
「ん。」
キャラテが維持していた空間結界を俺が引き継ぎ固定する。
「さて、ロセッティ。お前は今から三日間、この部屋から出る事を禁止する。理由は術の経過を見る為で、魔力や回復術の使用も禁ずる。」
「そんなぁ…」
情けない顔をして呟くロセッティ。
「武士の情けだ。トイレだけはこれですませろ。」
俺の世界の工事現場にある簡易トイレを部屋の端に出してやる。
「武士?大陸の東にある島国家の騎士のことかの?」
ユーイング老が聞いて来る。
へぇ~そんな国があったのか。俺が知っているのはこの大陸の四分の一ぐらいだからな…
「俺の国の言葉で敵対していた相手にも慈悲を見せる時に使うんだ。本来は止めをさしてやるって意味だが(笑)」
「ひん…充分止めを刺されました…」
だくだくと違う意味で涙を流すロセッティ。
「ユーイング老、結界の状態を常に把握しといてくれ。ロセッティは体調に変化があればすぐに知らせろ。念話石では魔力は使わないから大丈夫だ。さて俺は一度宿に帰って汗を流す。その後ザトペック殿をリーガントレットに連れて行き騎士団に置いてから行動する。魔族関連の情報も入り次第連絡してくれ。キャラテ帰るぞ。」
俺は部屋から出ようとして足を止め部屋全体を浄化し、ベッド横にテーブルを出し紅茶セットと大皿クッキーを出してやる。
「一応毎朝、顔を見にくる。大人しくこの部屋で過ごしていろ。」
俺達は返事も聞かず部屋から出てロセッティに影響が出ない所で転移して宿の部屋に帰った。
ライフヒール関連ですが、
この話の中では、生命力=魂=感情を一体化として扱うつもりです。
他の作品に転用する予定もあるのだけどね|д゜)
では本年も宜しくお願い致します。<(_ _)>




