第十九話
キャラテがケーキを食べ出したぐらいに扉がノックされた。
気配察知では魔族の反応。
レガだな。
「入って良いぞ。」
俺が声を掛けると「はっ!失礼します。」と、入って来た。
「朝飯は食ったのか?」
「はっ!すでに済ませました。」
「なら茶でも飲め。」
「はっ!では頂きます。キュオー様失礼します。」
キャラテが頬を膨らませてレガに文句を言った。
「お前、そのいちいち「はっ!」って力強く返事するのをやめろ。鬱陶しくて潰したくなる。」
ビクッと全身で反応してキャラテに跪き謝罪するレガ…
「お、お許しください。キュオー様!」
「レガ。そう畏まるな。キャラテが言った意味は理解できたか?」
「はっ!…って…あ…す、済みません…」
「くくくっ…お前がヴェルテルに就いていた事が判る良い例だな。キャラテ、少し時間をやってくれ。中々習慣と云うものは変えられんからな。レガ、難しいと思うが俺やキャラテに臣下の礼はするな。敬語ぐらいなら気にしないが、主君に対する様な対応はこの大陸では災いを呼ぶこともある。ディーブレイカーでの常識は通用しないと思って考えて行動しろ。」
「…はっ…肝に銘じて行動します。」
「うむ。今日も街中で買い物や人間観察を続けてくれ。レガを連れて国の王城には入れんからな。
そういえばリーガントレットの城に魔族達は入ったのか?」
「いえ。私が知る限り、キュオー様に潰された奴が数回入ったと聞きましたが。」
「ふむ。一応結界は作用しているみたいだな。今日行った時についでに強化しとくか。」
レガとの会話が終わると同時ぐらいにキャラテが食事を終わらした。
ゆっくり食べさしたので汚れは無いな。
キャラテも会話に加わらない様にのんびり味わって食ってたみたいだし。
「さて、キャラテ行くか?」
「うん♪」
「レガ、判ってるな?」
「はい。夕飯を食べた後にここへ戻ってきます。」
「うむ。用が出来ればこちらから迎えに行く。じゃあな。」
俺とキャラテはリーメイル城に転移した。
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いつものユーイング老の部屋に転移で来る。
ユーイング老は言うに及ばす今日はロセッティとザトペックも一緒に居た。
「おはよう。」
「おおっ、おはよう。」「おはようございます」「うむ、おはよう。」
ユーイング老、ロセッティ、ザトペックの順で挨拶を返してくる。
俺とキャラテは空いている席に座り無限収納からお茶セットを取り出し今日はコーヒーを淹れる。
珈琲を見てキャラテは頬を膨らませているが続いて紅茶のティーバッグを取り出すとすぐに笑顔になった。
現金なものだな。
俺が淹れたコーヒーの色を見てユーイング老やロセッティ、ザトペックが変な顔をしている。
ロセッティがおずおず問いかけて来た。
「あのシンヤ様…その墨汁をお飲みになるのですか?」
「これは珈琲と云う飲み物で墨汁じゃないぞ。多少苦みがあるのでキャラテは嫌っているがな。」
言ってチラッとキャラテを見る。
「うん。僕それ嫌い。ミルクいっぱい入れたのでないと飲まない。」
「ロセッティも飲まない方がいいな。ユーイング老とザトペック殿、飲んでみるか?」
「おおっ、飲ませてくれるのならわしにも淹れてくれんかの。」
「うむ。我も飲ませてくれるのなら是非。」
俺は二人に珈琲を淹れてやりロセッティに紅茶を淹れる。
「一気に飲むんじゃないぞ。少し口に含んで味わって飲んでみろ。」
そう声を掛け茶請けにビスケットを大皿で出す。
と、キャラテが大皿の中を荒らしチョコで覆われたビスケットを全部確保してホクホクしている。
俺は額に手を当て頭を振るとキャラテの頬をつまむ。
「いひゃい!ごべんなひゃい~!」
さっきの事を思い出したのかすぐ謝って大皿に戻した。
戻したのを確認してから放してやる。
「皆、その黒く塗っているやつを食ってみろ。珈琲じゃないのでロセッティも食っていいぞ。男達には甘いかもしれんがそこで珈琲を飲めばいけるだろう。」
俺が言い終わらない内にキャラテが素早く一つ掴み口に入れもきゅもきゅする。
…まぁ、一つしか取らなかったし怒るのは辞めとくか…
「ほぅ…」「これは…」「美味しいです!」
それなりに満足してくれているみたいだな。
俺はそこで、今日の行動方針を伝える。
「今日俺とキャラテはこの後、リーガントレットのギルドに行き私用の情報を集め俺が作った冒険者軍団の本部を見に行く。急ぎの情報とか入れば念話石で呼んでくれ。」
俺が言い終わるとザトペックが席を立ち俺の前に来て跪いて頭を下げた。
「シンヤ殿!今までのご無礼を謝罪いたします!その上で厚かましいお願いで恐縮ですが、我もリーガントレットのギルトとクランへの同道させて貰えないか?」
「ん?別に構わんが理由は?」
ザトペックが跪いたまま照れた顔を見せ頭を掻きながら答えてくる。
「実は我輩、リーメイル以外は殆ど知らないのだ。リーメイルの手練れはほぼ顔見知りでお互いの手口は知り尽くしているので緊張する勝負が出来ない。そこでリーガントレットの勇者王と一緒に旅が出来ればと…」
「ザトペック殿、素直に憧れの勇者王シンヤ殿と旅がしたいと言えばよかろうに。」
「な!?ユーイング殿!」
ザトペックはあたふたとユーイング老に詰め寄り文句を言っている。
ロセッティがこっそり俺に告げ口してくる。
「ザトペック卿は子供の頃から勇者王様の物語に憧れていたらしいです。」
「それは悪い事をしたかな?物語は、ちと美化されているし性格や行動行為はそのままであっているが、今の俺とは違い過ぎるからな…当時と今では別人だぞ。性格も実力も。」
「シンヤ殿。確かに物語の人物と同一人物とは思えないが、実力で言えば遥かに勝っているでしょうが。我は国境砦の魔族の討伐時の動き、何とか目で追えましたが、自分が討たれる側なら何が起こったか分からずに討たれるレベルでしたぞ。」
「…ふむ…ザトペック殿、リーガントレットの騎士達と手合わせしたくないか?」
「リ、リーガントレットの騎士ですと!?無論、手合わせできるなら有難いが…その大丈夫なのか?戦いはなかったと言っても一応戦争になった相手国なのに。」
「その点なら問題は無い。俺は元リーガントレットの勇者王だぞ。ではザトペック殿はリーガントレットの騎士団で実戦式訓練を積むで良いな?」
「あ、あの…私も着いて行って良いでしょうか?」
俺が返事する前にキャラテが素気無く断る。
「駄目」
ロセッティはあっさり断られたのを愕然とした顔をして凍り付いた。
「ふむ?何故駄目なんだキャラテ?」
「パパ、気付いてないの?そいつママと同じ状態異常になっているよ。転移で連れて行けばすぐに死んじゃうよ?」
俺は驚いた。鑑定でも異常は見当たらなかったので。
すぐに最上位鑑定の神眼を使う。
……異常があった…
生命力がジワジワと減っている。
俺はユーイング老に聞く。かなり固い声で…
「ユーイング老、俺の召喚に集めた術師の数は何人だ?」
「う、うむ。約300人程だが。」
「ちぃっ!俺のミスだ!俺がリーガントレットに召喚された時に集めた術師の数は一万近くと聞いた。それでも足らず召喚者の生命力を糧に俺を何とか呼び出せたんだ!ロセッティ!黙っていたな!」
俺はロセッティを怒鳴りつけた。
「そ、それは…」
「いい訳はするな!ザトペック殿、王以下ロセッティの親族を召喚の間に集めろ!ユーイング老、直ぐに召喚の間を使うぞ!周辺にユーイング老と王族以外は近寄らせるな!キャラテ、俺が失敗した時のフォローを頼む。」
「ん。」
「転移は使えん。ロセッティ、召喚の間に行くぞ!」
「は、はい…」
俺の剣幕に泣きそうな顔をして付いて来るロセッティ。
しかし俺の怒りは自分の不甲斐なさに。だ。
召喚された初日に気付くべきだった。
あの日、宿の風呂で感じた違和感。脈絡もなくメディアの名を呟いていた事。
長き経験は俺を強くしたが、余りにも膨大な記憶を全て覚えているには人の身には辛すぎる。
俺は取捨選択してある程度の記憶は封印している。
特にメディア関係の辛い出来事は封印していた。
その結果、メディアと同じ道を進み命を散らそうとしている者を見逃すところだった。
召喚の間に入り中央にベッドを出しロセッティに寝ろと言う。
ロセッティがベッドに上がる前に術を使って、ベッドの周囲に俺の召喚時の残存魔力やロセッティから抜け出した生命力を集める。
ロセッティがベッドに上がったので背中を向けろと言う。
大人しくうつ伏せに寝るロセッティ。
顔の下にフカフカ枕を出してやり、俺はいきなり尻を叩く。
バシン!バシン!バシン!
「ふぇ!?い、痛いです!シンヤ様!」
「当たり前だ!お仕置きしているんだからな!数日は歩けないと思えよ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
泣き叫ぶロセッティを無視して俺はロセッティの親族が来るまで尻を叩き続けた。
シンヤはブラックで飲む派です。
続きは元日中に出す予定ですが未定です|д゜)
皆様、良いお年を<(_ _)>




