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第一話 


眩暈にも似た感覚から覚めると、黴臭い石作りの部屋にいた。

目の前には白いローブを纏った二人の人物が俺を見てる。

一人は老人、もう一人はまだ少女と呼べる年齢だろう。

少し離れた周りにも、甲冑を着込んで武器(剣や槍や斧矛)を持った五名の兵士達がいる。

相手が言葉を話す前に、ため息交じりに話かけた。


「俺の名前は八橋信哉。状況説明をたのむ。」


「私はリーメイル王国の…」


「自己紹介とかの説明はいらない。どういう状況での呼び出しかを説明しろ。」


そう命令口調で言うと、離れて俺を監視してた兵士から怒声が飛んできた。


「貴様、姫様に向かって、ぐぁっ…」


俺は最後まで言わせず兵士の右膝に無詠唱で風の弾丸魔術を叩き付けた。

他の兵士は目をがん開きして硬直し、白ローブの老人は口をがん開きしたまま、俺と魔術を受けた兵士を何度も見直して首を振っている。

もう一人の白ローブ少女も硬直して微かに身体をふるわせている。


「馬鹿かお前は?お前達兵士が役に立たないから召喚したのだろうが。

口の利き方には気をつけろ。次は火系の魔術を叩きこむぞ。」


そういうと俺は上級回復術を使って折れた足を治してやった。


「明るい小部屋に案内しろ。こんな黴臭い部屋に何時までもいたくはない。」




@@@@@




召喚部屋から移動して、中庭の一角に腰を落ち着けた。

城付きのメイドがいい香りのお茶を淹れて、話が聞こえない位置まで下がった。


「説明を聞く前に、そっちの老人。

なんで俺が術を使った時、驚いていたんだ?

あの程度の術の無詠唱など珍しくもないだろ?」


「馬鹿を言うな。あの召喚の間は、対魔術封印の積層型結界を起動してたんじゃぞ。

無詠唱どころか儀式魔術でも普通は発動せんわ。」


老人は憮然と言い放った。


「それほど抵抗は感じなかったがな。あんたも出来るだろう?宮廷魔術師長殿。」


「わしじゃあ無詠唱では出来んわい。

それに名のりもしてないのに魔術師長とまでわかるか…おんし何者じゃ?」


「そっちが召喚しといてふざけた事言うな。一応勇者や英雄とかの力を持ってる唯の異世界人だ。」


俺はため息交じりに吐き捨てた。


「ただな…、あちこちの別世界に呼び出され長い年月、経験を積んでるだけだ。」


「ふむ…あまり詳しく聞かん方がよさそうじゃな。

先程は断られたが姫様の紹介だけはさせてくれ。」


「いらん。俺の前に出た時点で名前や立場は把握しているからな。

リーメイル王国宮廷魔術師長ユーイング殿。

で、そちらの王女はロセッティ・リーメイル殿下で間違いはないな?

ついでにさっき俺の術で足を折った、

王女の背後で護衛をしているのは、王家近衛隊長ザトペック殿だな。」


三人は息を飲んでまた硬直した。

しかしすぐ老人、ユーイングは咳払いしつつ説明を始めた。


「ごほごほ…うむ、分かった。ではおんしを呼び出した説明をしよう。」




@@@@@



ありきたりな説明だった。

曰く、いきなり隣の大国が宣戦布告してきて、滅亡に瀕してる。

対話も無し、降伏条件も提示無しで第三国経由での対話も出来ない。

仕方ないので国境を封鎖して戦力を集めて防衛準備をしながら、

周辺諸国になんとか対話の交渉を頼みこんでる。

と、いう状況らしい。


「で、俺を召喚したと?

どういう伝手で召喚方法を手に入れた。」


「ちょうど宣戦布告を受けた時、城下町に旅の魔術師がいての。

それが世界各地の召喚伝承を集めて研究してる第一人者だったんじゃ。」


「で、その魔術師の身元は確実に把握してるのか?」


「一通りは調べたがの。怪しい点はなかったの。」


「で、周辺国からの相手国の情報とかは?」


「それがのぅ…召喚儀式中に我が国一の密偵が戻ってきたんじゃが、相手国に向かった交渉団は一人も相手国に着いてない。相手国の交渉団も我が国に来ていない。とのことじゃ」


「ふぅ…つまり何者かに陥れられていると…」


俺が頭を振りつつため息を吐くと王女が恐る恐る問いかけてきた。


「あのユーイング様。なぜ召喚魔術師様身元を調べる必要があるのですか?」


俺は額を片手で抑えてユーイングに疲れた声で言った。


「老人、王女の教育はどうなってる?

その年齢で諜報行動の基礎を知らないのは王族としてどうなんだ?

まあ、聞くだけまだマシだが。」


王女は小さくなって「すみません。」と恐縮した。


「信哉殿。この国は長い間平和での。

男子の王族なら兎も角、女性王族にはあまり諜報教育はしないんじゃ」


俺は「なるほど」と呟き王女に言った。


「王女。たまたま城下町に召喚術の詳しい魔術師がいただけなら問題はない。

だがな、大国が小国に宣戦布告して、ほぼ負けると思える小国にたまたま滞在している。そこが問題なんだ。

ただの偶然が重なっただけならいい。

だがこの魔術師が相手国や第三国の手の者だったりしたらどうする?」


王女は困った顔でつぶやいた。


「どうなるんでしょうか?」


「まず相手国だった場合、召喚術式を弄って上位魔族や上位竜を召喚させたりが考えられる。

今回の状況では相手国の密偵の可能性は薄い。俺が召喚されてるのが理由でな。

次に第三国の密偵だった場合、俺が召喚されている事から相手国とリーメイルの戦力の弱体化並び、

他の何かから目を逸らせる目的があると考えられる。

リーメイル王国の密偵の情報が正しいならば第三国か第三者の関与が疑わしい。」


そこまで説明していたら、俺達がいる所に一人の兵士が走り寄ってきた。


「ユーイング様、国王陛下がお呼びしています。

姫様と勇者様もご一緒に会議所までお越し下さいとのことです。」










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