第十二話
転移して来ると全て準備が整っていた。
「もう良いのか?」
「はい。準備は整っています。」
「護衛や文官が少ない様に思うが?」
「魔族の討伐との事なので、貴重な文官を連れて行くのは国に損失を与える事にならないかと、志願者だけにしました。」
「そうか。俺が一緒だと云っても危険はあるからな。キャラテ。」
「なに?」
「この者を守れ。この者に危害を加える者を攻撃するのを許す。
ただし、単体攻撃でな。間違ってもブレスや魔術を使うなよ?」
「わかったよ…」
キャラテは不満そうな顔で頷いた。
「嫌だろうが我慢してくれ。こいつは償いをすると言ってるしな。」
俺は頭を撫でながらキャラテに言い聞かせる。
「わかったよ。」
今度はハッキリと返事した。
「では行くぞ?返事すると国境砦の前だからな。」
「お願いします。」
俺は、キャラテ、ギアド軍務大臣、文官二人、騎士二人と共に転移した。
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リーガントレットの国境砦の遥か手前に転移してきた。
「で、軍務大臣。リーメイルを攻めるのに、
何故これだけの規模の遠征軍を出したんだ?」
「そ、それが私にも良く分らないのです。
最近私が無理やり騎士に採用した者の言葉通りに動いていたので…」
ギアド軍務大臣は申し訳なさそうに答えた。
「で、その者の、この遠征軍での立場は?」
「はい。一応参謀長で参加しています。」
「で、その者とはどういう知り合いだ?」
「私が他国の視察から帰って来る時にモンスターに襲われまして、
護衛騎士では歯が立たずそこを助けられました。」
「で、俺の教えを守らず騎士に採用したか…」
俺の言葉でキャラテが頬を膨らませてギアドを睨んでる。
ギアドは情けない顔をしてキャラテにへこへこしてる。
俺はポンポンとキャラテの頭に手をやり撫でた。
「キャラテ、高位魔族の思考誘導か洗脳だ。軍務大臣にはそれ程の責任はない。
それを防ぐ手を打たなかった責任はあるがな。」
「どういう事?」
「俺が死ぬ前に、騎士採用の条件に魔族や密偵が入り込めない様、色々な文章や石板を残していたんだが、その方法は手間暇と金が掛かる。その手間を惜しみこの状態になったと云う事だ。」
「やっぱりこいつが悪いんじゃない!」
「ああ。だからこの件が終わり次第責任を取らせる。
だから死なせるなよ?この五人全員をな。」
「うんわかったよ。責任取らせるまで僕が守る!」
「頼むな。さて遠征軍の見張りがこちらに気付いたな。」
遠征軍に動きがあり、何時でも戦闘に入れる様に行動している。
「ふむ…いい動きだ。全軍は洗脳されてないな。」
俺は殿の部隊の素早い行動と対応に顔が綻ぶ。
顔が判別するぐらいの距離で遠征軍から声がかかる。
「そこで停まれ。何用でここに来た。ここは何時戦場になっても可笑しくない場所だ。」
「国王陛下からの命令書を届けに来た。こちらは軍務大臣閣下だ。」
俺が答えると兵士や騎士は一斉に姿勢を正した。
「この部隊を指揮してるのは誰だ?」
「はっ!自分であります。」
俺達に問いかけて来た騎士が、名乗りを上げる。
「正直に答えろ。お前から見て、怪しい人物が指揮している部隊を孤立させて、まともな部隊を王都方面に撤退させる事は可能か?」
部隊長は硬直した後、動揺を隠し答えた。。
「…言っている意味が分かりません。」
「あ~…お前から見たら軍務大臣が怪しい人物だからとぼけているのか?
大丈夫だ。俺が洗脳を解いたからな。大臣閣下が採用した中に魔族が入り込んでいる。
それを討伐に来たんだが、上位魔族が混じっててな。このままでは軍に多大な被害が出る。
俺は別に魔族以外も蹴散らしても良いんだが、お前達にとっては同僚だろう?
出来ないのならお前達の部隊だけでも撤収準備を始めろ。」
俺は言い捨てて、周りに聞こえるぐらいで呟いた。
「ちまちま魔族だけの討伐も手間が掛かるし、
キャラテにブレス吐かして一掃するか。」
軍務大臣閣下が慌てて掴み掛かってきて懇願してきた。
「お止め下さい!騎士や兵にも家族がおりまする!
わしの立場と命だけでどうか収めて下さい…」
他の兵士や騎士達はボーゼンと俺とギアドを見ていたが、
大臣閣下の必死さを見て漸く事の重大さが理解できたのか慌てだした。
「静まれ。敵に気付かれるだろ…部隊長。俺は二度は聞かん。
出来るか出来ないかで答えろ。」
「全軍は無理です。しかし半数以上は何とか出来ます。」
「うむ。直ぐに行動してくれ。ただし実行に移すのは昼食後だな。
大臣閣下。犠牲は二千ほどで済みそうだぞ。
遠征軍一万五千名、砦内に千名。計一万六千名中の二千名。
思ったより被害が少なくなったな。」
俺はわざとらしくギアドに語り掛けた。
ギアド大臣は悲痛な縋りつく様な顔をして俺を見ているが知ったことか。
俺はテーブルを出し、茶を淹れて飲む。
キャラテも俺の左隣りに座り自分で茶を淹れている。
「ついでだ。昼飯も食うか。キャラテは何が食いたい?」
「僕、ケーキが食べたい!」
「それはオヤツだろ。仕方ないな。」
俺はやれやれ感を出しながらホールケーキを出してやった。
元の世界の有名店のケーキだ。
キャラテは喜んで食べ出した。
自分には屋台の串焼きを出して食べる。
遠征軍が昼食準備を始めるまでまったりと過ごす。
キャラテがケーキを平らげたぐらいで陣の所々で昼食の準備が始まった。
「さてキャラテ。」
キャラテの口や頬に付いたクリームを拭いながら声を掛ける。
「?」
口を拭っているので返事が出来ず首を傾げて俺を見る。
「この部隊にいる人間を全員守れ。俺はちょっと中級以下の魔族を間引いてくる。」
「面倒だからブレスで片付けしても良いよ?」
大臣閣下達が青い顔をして俺に縋りつく様な目を向ける。
「そこまでしなくても良い。」
「この部隊だけで良いの?全部守っても良いよ?」
「あんまりキャラテの力を使わしたくないんだよ。しかし俺が頼んだ時は頼むな。」
「うん!早く戻って来てね。」
「ああ、行ってくる。」
俺は転移して陣から離れていた魔族の所に跳んだ。
次の予定は十日前後です。
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