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マスター・オブ・ドリームズ+C~ぷりんせす・りりー~

作者: 猫流師範

これは以前に別サイトにて、『M・O・D+C ~プリンセス・リリー~』の題名で投稿された作品を加筆修正したモノです。


・・・『愛、在りますか?』

「はい。『彼女』に対するあふれんばかりの愛情が」


・・・『夢、抱いていますか?』

「はい。『彼女』をお嫁さんにする事です。勿論、その逆でも可です」


・・・『冒険、好きですか?』

「はい。『彼女』や大切な『仲間たち』と共に過ごす冒険の日々は、私にとっての最良です」



 誰に断わるまでも無い事だけれど、『私』の性別は、正真正銘の『♀(オンナ)』である。

 そして、『彼女』と『仲間たち』の性別も、それと同じである。

 この世界、『神蒼界』において、絶対である『ことわり』、それは『全てを許す自由』。

 故に、世界は、『私』たちの存在とそこに在る関係の全てを受け入れている。

『世界』が『私』たちに許す『自由』、それが絶対である事を『私』は信じている。

 『私』の名前は、ホリィー。

 この世界に在って、『倫理の束縛というかせに縛られず、真の愛を貫く事』を自らの唯一の『夢』とし、冒険の日々に活きる者である。

 では、『私』の愛しくも大切な『仲間』たちと過ごす冒険の日々を、ほんの一欠片ヒトカケラだけここにつづるとしましょう。



『では、本日の冒険は、《深淵の闇満つる森》に行って、《死眼の凶獣》を狩る事に決定でーす!』

 そう宣言するのは、私の愛しい女性ひとであるユーマちゃんである。

 彼女は、小柄な身体つきと幼さを残す顔立ちから、未熟な冒険者という印象を抱かれ易い。

しかし、その実は、かなりの実力を培った《神聖術士》であり、癒し手として私のパーティーに於ける冒険の要となっている。

そして、彼女は唯、私達の身体の傷を癒してくれるだけでは無く、その愛らしさで私たちの冒険に疲れた心も大いに癒してくれる存在であった。(主に『私の心を』、であるが)

「はーい、了解です!」

「了解した」

 声をそろえて返事を返すのは、チェリナ様とメリィア様の二人。

 二人は、昔からの冒険仲間で私たちより一日いちじつちょうがある冒険者である。

縁あって私たちパーティーに加わってくれているが、その実力から考えると、本当に在り難くも頼りになるお姉サマたちと呼べる存在であった。

 ちなみに、チェリナ様は、ユーマちゃんと同じ神官系の職位から進んだ先に位置する《神聖魔導師》であり、メリィア様は、攻撃魔法を得意とする魔術士系から進む形で同じ《神聖魔導師》をしている。

「ふむぅふむぅ。今回の相手は中々の難敵だねぇー、どんな衣装で行こうかしらねぇ、アンナ」

「それを言うなら、『衣装』じゃなくて『装備』でしょう。ほんと、貴女は相も変わらずね、シルク」

 近接武器と攻撃魔法の力を合わせ用いる《精霊戦士》であるシルクさんは、奇抜とも言える装いを好む冒険者であり、それに対し、アンナさんは、真面目でしっかりした感のあるその人柄に似つかわしい《重装剣士》をしている。

 今のり取りからも分かるように、二人は付き合いの長い冒険者同士である。

 因みに、シルクさんはチェリナ様たちと同じ冒険者ギルドに属しており、そのシルクさんとの縁で、チェリナ様たち二人は、私たちパーティーの支援役を引き受けてくれている。

「…シルクがこうなのは、ずっと昔から…なの? 成長率、悪過ぎ…?」

 やや抑揚よくように乏しい突っ込みをささやくように口にしたのは、フィーノさん。

 彼女は、そのはかなさすら在る可憐な容姿とは真逆な毒草・毒薬の研究という趣味から、《ポイズン・プリンセス》という異名をかんする《魔術士》である。

 因みに、ファーノさんは、実力的には上位の職位に進む資格を持ちながら、趣味の研究に忙しくて今の職位にとどまっている身の上である。

 そして、シルクさんたちと同じ冒険者ギルドに所属している事もあり、彼女たちとは旧知の関係である。(シルクさんは、ほんの少し前まで、ファーノさんの存在を同じギルドの人間だと気がついていなかったみたいだけれど)

 くいう私は、最愛のユーマちゃんを身をていして護る為、《神官》を経て《神官戦士》の職位へと進んでいる。

 今はまだ冒険者として未熟だけど、沢山頑張って、何時かは、《神聖騎士》になって、ユーマちゃんをどんな敵からも護れるような立派な冒険者になりたいな。

 そう、最愛の存在を護る為に活き、ついには《至高の英明皇》と呼ばれるまでの冒険者となった『彼』のように。



「では、皆さんの準備も整ったようですし、出発しましょう!」

『おオォー!』

 不肖ふしょうながらパーティーのリーダーである私の掛け声に、其々が歓声混じりに応えてくれる。

 『ネコ耳』が標準装備であるシルクさんの存在を中心に、『異彩』とも言える程に個性の豊かな私たちパーティーは、他の人々から奇異の眼差しを向けられる事も多い。

 それは、全員が女性である事もまた大きいのであろう。

 でも、そうである事が私たちなのである。

 だから、私は、それで良いと思っている。

 大切な存在たちと共に過ごす歓びに較べれば、周囲の反応なんてミジンコよりも取るに足らない瑣末さまつである。

 そうそれで良いのだ。

「出発進行!」

「ホリィー…、《深淵の闇満つる森》は、そっちじゃなくて…、こっち…」

 ナビ・ペットである《ラッキ・セヴィン》さんを肩に乗せたフィーノさんに袖を引っ張られて、私は、道を間違えていた事に気が付く。

「ふっふぅーん。さては、ユーマちゃんにイケナイ悪戯いたずらをする事でも妄想して、ポけぇーっとしていたんでしょう?」

 意地悪な笑みと共にそう口にするのは、チェリナ様。

「ちっ、違います! ちょっと、うっかりしていただけです」

 私のユーマちゃんに対する想いは、既に皆が御存知の事である。

しかしながら、私は、その誤解を解こうと慌ててしまう。

「冗談だから、そんなに慌てなくて大丈夫。それにユーマちゃんに悪戯しようと考えていたのは、私だから。という訳で…、エイッ!」

 チェリナ様は、笑ってユーマちゃんへの悪戯を実行する。

「きゃっ!、なっ、何をするんですかぁー!」

 まくられそうになる服の裾を手で押さえつけながら、ユーマちゃんは、犯人であるチェリナ様を上目遣いに睨み返す。

 羞恥に頬を染めるユーマちゃんの姿に、皆が微笑ましいもの見る温かな眼差しを向ける。

「はい、はい! 遊んでないで行くわよ!」

 クールな口調で言いながらも、目だけは笑っているメリィア様にうながされて、私たち七人と一匹は再び歩き出した。



「さてと、目的の場所に着いたのは良いけれど、それらしきモノは何処ドコにもいないわねぇ」

 シルクさんは、頭のネコ耳とお尻のシッポを揺らしながら、周囲を見回す。

「話によれば、この辺りにふらりと出没するらしいけれど…、いないわね」

 シルクさんと同じ様にぐるりと周囲を見渡し、少し落胆したように呟くアンナさん。

「いない、ですね」

 私も周囲に視線を向けたけれど、視線に映るのは赤銅色の毛皮を不気味に揺らして、こちらの様子を探っている鬼獣の群ぐらいである。

「ラッキさん…、あそこにいるお友達に《死眼の凶獣》が何処にいるか訊いて来て…」

『ミュウー、ミュウー(おナカがすいたよぉー)』

 フィーノさんの言葉に、一瞬、期待したけれど、それは如何どうやら無理みたいだった。

「ここまで来て、手ぶらで帰るのもアレだしね。取り敢えず、私たちをエサにしようとしてる、あそこの鬼獣達でも片付けておきましょうか」

 メリィア様は、にじり寄ってくる鬼獣達の様子に気がついてそう言うと、鋭く冴えた瞳に好戦的な色を宿す。

「じゃ、まあ、そういう事で。皆、気を抜いちゃ、ダメよ」

 チェリナ様は、私たちにそう告げて、早速、《力導く言葉》を紡いで、全員に戦闘補助魔法を施す。

 戦闘に慣れ過ぎるほどに慣れている二人と違い、私は勿論、他の四人にもそれなりの緊張が生まれる。

「大丈夫、何が在ってもユーマちゃんだけは、私が護るから」

 私は、ユーマちゃんへとその言葉を掛け、背後に庇う形で彼女の前に立つ。

「あのぉ、盛り上がっている所をゴメン。『アレ』って、やっぱり『ソレ』かな?」

『?』

 アンナさんは、おずおずとした口調で言って、集った皆の視線を無言で動かした指の先へと誘う。

『!?』

 『アレ』『ソレ』の正体に気がついて、全員が一瞬、言葉を失う。

「…ええ、多分。『ソレ』ね」

「最悪…」

 私達の視線の先には、巨大としか形容できない黒銀の皮衣を身にまとった魔狼皇《死眼の凶獣》の陰が、二つ存在していた。

「…これって凄くマズイ、よね?」

 ユーマちゃんは、信じられない展開に、誰とは無しに疑問の言葉を投げ掛ける。

『…』

 私たちが示した無言の肯定に、ユーマちゃんが涙目になる。

「どっ、如何しよう! 逃げるしかないの?」

 アンナさんは、同様の余りにパニック寸前のていで皆に視線をやる。

「…もう、遅い。逃げられない…」

 ファーノさんの言葉どおり、時は既に遅かった。

 それは、周囲を取り囲む鬼獣達の異変が最初から、物語っていた。

 それまでとは違い異常なまでに興奮した鬼獣達の様子に、私は、事態が唯ならない事になっていると理解する。

「もう、何でも仕方が無いです。兎に角、やりましょう!」

 私は、破れかぶれの想いで自分の得物である魔導混杖に力を宿す。

「そうね。そういうのは好きよ。余計な事を考えるより、思いっきり暴れる方が、私の性にあってるわ」

「じゃ、皆、護りは私とユーマちゃんに任せて、思いっきり暴れてやりなさい!」

 メリィア様の言葉に応えて、チェリナ様の瞳にも好戦の炎が燃え上がる。

「…先ずは、鬼獣達から…。ラッキさん、隠れてて…」

 相変わらず抑揚に乏しいが、フィーノさんも覚悟を決めたようであった。

「しょうがないですなぁ。本気、出しちゃいますか。アンナ、転ぶんじゃないわよ!」

「貴女もね」

 告げて不敵に笑い合うシルクさんたち。

 その遣り取りを頼もしく感じる。

「ユーマちゃん。気を付けてね」

「ホリィーちゃんもね。頑張って」

 彼女の励ましの笑顔が私にとっては、最高の勇気となるもとである。

「うん、頑張るよ!」

 私は、ユーマちゃんに負けない笑顔で答えて、鬼獣達の攻撃へと身構えた。


 私たちは、それぞれ々の連携を活かしながら、鬼獣達の大半を倒していた。

「ハァー、やっぱり少しキツイわね」

「何、もうへたばっちゃったのかなぁ? 本番は、まだまだこれからよ」

 アンナさんが洩らした言葉に、意地悪く突っ込み返すシルクさんだったが、その表情には隠しきれない疲労の色が在った。

 そして、その疲労は、二人だけに限らず、私たち全員に存在していた。

「そうね、まだメインディッシュの『アレ』が二匹も残っているんだし、へたばってはいられないわよ」

 叱咤しったの言葉を口にするメリィア様の疲労は、それまでの活躍が華々しかった分だけ誰よりも濃かった。

「じゃ、チャッチャとメインへと取り掛かるわよ!」

 威勢は良いが、チェリナ様も私たちを護る為に施し続けた魔法でかなりの魔力を消費したらしく、憔悴の色を表情へと宿していた。

 正直、誰もが限界に近い状況でるのは確かだった。

「…皆、がんばる…。勿論、私も…」

 フィーノさんも、残った気力を振り絞って激励(?)の言葉を口にする。

「そうだよ、皆、もう少しだから頑張ろう!」

 ユーマちゃんの励ましの笑顔に、皆の表情が一瞬ほころぶ。

「うん。皆、頑張ろう!」

 私は、その言葉に自分自身を奮い立たせ、残った鬼獣達へと挑みかかる。

 その時だった。

『!?』

 戦いの場に響き渡る耳障りな咆哮ほうこう

 それは、二匹の魔狼皇が私たちに向けた宣戦布告の雄叫びだった。

「マズイわね・・・。皆、一旦、退しりぞいて体勢を整え直すわよ!」

 チェリナ様の言葉に促され、私たちは、残った鬼獣達を薙ぎ払い、魔狼皇達との距離を取る為に走った。

「きゃっ!」

 背後で聞こえた悲鳴に、駆けていた私の足は、一瞬でその動きを止める。

「ユーマちゃん!」

 足がもつれて転んでしまった彼女を案じて、誰かが発した叫び声よりも早く、私はきびを返していた。

「大丈夫!?」

 自分でも驚くような速さでユーマちゃんの許へと駆け寄る私。

「ホリィーちゃん、逃げて!」

 私の背後に迫る存在に気が付き、悲鳴の様に叫ぶユーマちゃん。

 しかし、私は、その求めとは真逆の行動に出る。

 手にしていた得物を握り直して、魔狼皇達へと身構える。

 自分でも、それがどれ程に無謀な事であるかは良く分かっていた。

 それでも私には、彼女を見捨てて逃げる事なんて出来なかった。

 いや、正確に言うならば、そんな考えを起こす事すら出来ないである。

「ゴメンね、ユーマちゃん。本当なら、ちゃんと貴女の事を護るべきなのに、今の私じゃこんな形でしかそれが出来ないや。だから、せめてもの償い。先刻の言葉どおり何が在っても貴女だけは護る。だから、私が食い止めている間に逃げて!」

 決して倒れる事を恐れない訳ではない。

 でも、それでも私は、自分自身の決断を笑顔で受け入れる事が出来た。

「駄目、そんな事できないよ!」

 私の背中を見詰めて涙目になっているのであろうユーマちゃん。

 だからこそ、私はその言葉を言い放つ。

「貴女にとって、私が仲間である以上に特別な存在であるのならば、私に構わず逃げなさい、ユーマ!」

 私は、厳しい口調で再び彼女へと逃げるよう促す。

それで彼女がどう決断し行動しようとも、私は、後悔する事無く戦えるはずだ。

「でも…」

「大丈夫、私は貴方を残して死なない。だから…、そうね、無事にこの窮地を逃れられたら、祝福の口付けをして貰えると嬉しいな。勿論、唇にね」

 私が口にしたその提案に、ユーマちゃんは一瞬だけ驚くと、直ぐに頬を紅く染めながら頷く。

「絶対、約束だからね」

「うん、分かった。約束、必ず生きて守ってね!」

 ユーマちゃんは、きっと懸命に気持ちを抑えているのであろう気丈な声で応えると、私の願いどおりにその場を退く。

「では、女神の口付けの為、いざ尋常に勝負!」

 私は、少しでも確実に時間を稼ぐべく、自分から魔狼皇達へと攻撃を仕掛ける。


 始めから勝負になどなら無い事は分かっていた。

 それでも、自分にとって唯一絶対である『夢』の為に、戦う事を選んだ。

 それは、自分自身で抱いた『夢』に恥じず、それを誇る為。

 嗚呼、唯一つ惜しいのは、約束を果たせない事だけである。

「ユーマちゃんとキス、したかったな…」

 我ながら俗物な未練だと思いながら、私は、自分に最後を与える凶獣の鋭い爪を見詰めていた。

 

 しかし、覚悟したその最後の時は、突如とつじょ現れた存在によってくつがえされる。

 左右から完全な対称のタイミングで繰り出された魔狼皇達の攻撃。

 『彼』は、私と魔狼皇達の間に割って入ると同時に、それを事無げもなく、手にした長剣の一薙ぎで弾き返す。

「大丈夫か?」

 怒りの咆哮と共に再び鋭爪を繰り出そうとする魔狼皇達を無視して、彼は私に無事を尋ねる。

「っ!」

 一瞥の視線すら向けずに、自身に襲い掛かる攻撃を再び薙ぎ払う彼の姿に、私は息を吸うのも忘れる程に驚愕きょうがくする。

「喋れないほどに弱っているか…。困ったな、これはウチの『ネコ』を呼ぶしかないか…」

 彼は意味不明の言葉を口にして困惑する。


「うぬぅ…っ、キミはしかして女の子?」

彼は、何かをいぶかる様な表情で、私の顔をまじまじと見詰める。

「これは、失敬! うんうん、そうか。…ならば、問題はないな」

 そう一人で納得すると、彼はいきなり私の身体を抱き上げた。

 それは、所謂いわゆる、『お姫様抱っこ』というヤツである。

「えっ! ちょ、ちょっと何を!」

「こらこら、暴れないように。振り落とされたくないならば、尚更にだ」

 その気の抜けた口調とは裏腹に、有無を言わせぬ迫力を持つその態度に圧された私が沈黙すると、彼は,一気に背後へと駆け出した。

「えぇっ、やだ! 嘘!」

 決して大柄ではないにせよ人間一人を抱きかかえて走っているとは思えない疾駆しっくに驚き、私は、頓狂とんきょうな言葉を洩らす。

「はい、到着!」

 彼の軽い口調に正気を取り戻した私の目の前には、ユーマちゃんを始めとする仲間たちの姿が在った。

「状況が状況だけに長話をする訳にはいかないが、キミ達はこの状況を如何したい?」

「如何したいって言われても…」

 半ば呆けている私に代わって、チェリナ様が彼の問い掛けの意味を尋ね返す。

「済まない。訊き方が悪かった。あそこにいる二匹の扱いについて、倒したいのか、倒したくないのか。或いは、俺が倒した方が良いのかだ。流石に二匹両方を放っておくと他の冒険者が犠牲になる可能性があるからな」

 彼は、その言葉と共に、魔狼皇達を軽く一瞥して苦笑を浮かべる。

「情けないけど、流石にアレを二匹相手にするのは厳しいわね」

 やや精彩を欠いたメリィア様の言葉は、素直な悔しさから来るモノだと分かった。

「そうか…。ならば、一匹ならいけるという事で良いかな?」

 彼は、受けた言葉の意味をわざとそう解釈して、再び尋ねる。

「ええ、それなら、いけます」

「了解。では、そういう事で、俺が一匹貰うとしよう。これは、その代価の前払いだ」

 彼は、チェリナ様の言葉に穏やかな笑みで応えると、懐から取り出した小瓶の中身を私たちに振りかけた。

「ちょっと、何を…っ!」

 シルクさんの抗議の言葉は、直ぐに飲み込まれる。

 それが自分たちの体力と魔力を回復させる為の行為だと分かったからだった。

「…ありがとう。凄く、助かる…」

「否、何。使っても俺には効果が無い持ち腐れの道具だから、気にする必要は無い。まあ、感謝の言葉だけは、受け取っておくがね」

 その魔法薬の価値を考えれば、彼が口にした言葉が半分は嘘である事は確かである。

「ありがとうございます」

 私は、助けて貰った分も含め、改めて感謝の言葉を告げた。

「いやはや、良いねぇ。無垢というか、純真というか。ホント、キミ達は可愛いね。只で物くれる人間なんて、下心ありのナンパ師だとか疑っても良いモノを」

「えっ、まさか…。変態のナンパ屋さんなのですかぁ?」

 汚物を見るが如く顔をしかめるユーマちゃんに、彼は、愉快そうに微笑み返す。

「アハハっ。変態は兎も角、ナンパ屋というのはよしてくれ。これでもれっきとした運命の相手が在る身でね。下手な誤解が生じると生命すら危うい目にうからな」

「あの、否定する箇所トコロを間違っていませんかぁ?」

 突っ込んでよいのかを探るように恐る恐る指摘するアンナちゃんに、彼は、それで間違っていないといわんばかりに再び笑った。

「じゃ、まあ、そんな所で、早速に遣るとするかな」

 彼は、再び懐に手を遣り、そこから腕輪と思わしき装備品を取り出し身に着けた。

「連携さえ保てれば、そう危険な相手では無いが、油断だけはしない様に。後、俺が苦戦しているように見えても構わずにいてくれて結構だから」

 彼は、それだけを告げると、私たちの返事を待つ事なく、戦場へと舞い戻っていく。

「私たちも行きましょう」

 チェリナ様に促され、私たちは、彼が相手にするのとは別のもう一匹へと戦いを仕掛ける。



「シルク、避けてっ!」

 叫ぶと同時に、タイミングを見計らって《魔導》の力を発動させるメリィア様。

 狙いに違わず、生み出された魔力の刃が魔狼皇を薙ぎ払い、その体勢を切り崩す。

 そして、私とアンナさん、それに回避からの着地と同時に踏み込んだシルクさんの攻撃が一斉に、敵の巨体へと叩き込まれる。

「貰った! 《深闇を切り裂く光の閃刃》!」

 チェリナ様の意志によって最大威力まで高められた光の魔力は、交差する刃の形を以って、魔狼皇の身体を穿うがつ。

 それで戦いの大局は一気に決した。

「皆、止めの一撃を!」

 私は、叫び、自らも武器を手に勝負を決する行動に出る。

 断末魔の咆哮を上げ崩れ落ちる凶獣の体に、地面が大きく震えた。

「勝った、…の?」

 半ば呆然としながら、私は、勝利を確信する為にその巨体へと近付く。

 歩み寄り間近へと至るにつれ、巨獣の体躯カラダの巨大さを改めて思い知らされる。

 そして、ゆっくりと灰塵かいじんの如く消えていく魔狼皇の亡骸に、私たちは、勝利を現実にする。

 後に残されたのは、深紅の色を持つ鉱石の塊のみであった。

「やったわね!」

 歓び勇む仲間たちの声を背に受けながら、私は、視線をもう一つの戦いに向けた。


 残されたもう一匹の凶獣と戦う彼の姿は、何故か先刻に較べて、大きく精彩を欠いていた。

 苦戦ではないにしても、一進一退の攻防を繰り広げる彼の戦い振りに、私は、違和感を強くする。

 私を助けてくれた時の姿を思えば、明らかな違いがそこには存在していた。

 そう感じているのは、他の皆も同じであるらしく、如何するべきかと考えているようであった。


『俺が苦戦しているように見えても構わずにいてくれて結構だから』

 彼は、戦いの前にそう私たちへと釘を刺した。

 ならば、ここは今しばらく様子を見るべきだと判断し、私は、彼の戦いを見守る事にした。


「うーん、観客に心配されているみたいだし、遊びはこれぐらいにして、そろそろ本気を出すとするか」

 彼がうそぶくその言葉を聞いたのは、恐らく一番近くにいた私だけだろう。

 そして、彼が口にした言葉と共に一瞬だけ見せたモノは、私の心を烈しくざわめかせた。


「《魂穿つ無限の神刃》!」

 その《力奮う真名》に応えて、彼の手に握られた長剣の刃に淡い光が宿る。

「行くぞ!」

 言い放ち、一歩後ろに跳んだ彼は、着地と同時に、言葉どおり目にも止まらぬ身のこなしで突進し、次の瞬間には魔狼皇の背後に立っていた。

 頭を一刀両断にされ、断末魔すら上げずに地面へと倒れ伏した凶獣の巨体が、再び大地を揺らす。

 その鮮烈な勝利は、余りにも鮮やか過ぎて、逆に呆気あっけないモノのように私の心へと映った。


「おめでとう」

 彼の口から告げられたその言葉が、呆けていた私の心を正気に戻す。

「・・・あ、ありがとうございます」

 私は、まだ気が動転しているのか、気の抜けた返事を返すのがやっとだった。

「おぉー、運が良いな。両方とも『アタリ』だ」

 彼は、自ら倒した敵の分と私達が倒した敵の分の戦利品を拾い上げ、そそくさとその両方を私に手渡した。

「良いんですか、これ、貰ってしまって?」

 私が洩らしたその言葉に、彼は、訝るように眉を曲げる。

「それが必要だから、こんな所まで来たんじゃないのか?」

 そう尋ね返されて、私は勿論、他の皆も困惑する。

 正確に言うならば、私たちは、唯、噂に聞く《死眼の凶獣》を見物に来ただけである。

 だから、まさか本当に倒せるとは思っていなかった。

「その、実を言うと、私たち、《死眼の凶獣》を見に来ただけなんですけど…」

「えーと、それって唯の物見遊山に来てたという事?」

 彼は、私が口にした言葉を聞いて、微妙な表情を浮かべる。

「はい。『狩り』は狩りでも、『散策』するという意味の『狩り』でここまでやってきました」

「…」

 一瞬の沈黙、そして、彼は、大きな笑いを洩らした。

「済まない。俺がとんでもない勘違いをしてしまったみたいだな」

「いえ、私たちにしてみれば、助けて貰った上に、こんな貴重な体験が出来て感謝しなければです」

 私がそう言うと、他の仲間たちも皆一様に頷く。

「否、本当に済まない勘違いをした。キミ達を無駄に危険な目に遭わせたのだから、これは詫びようもないな」

 それまでとは全く違う真剣な眼差しに、彼が本気で反省している事が窺がわれた。

「では、その『オマケ』は、今回のせめてものお詫びとして受け取っておいてくれ」

「でも、これってかなり高価なモノなんじゃ…?」

 嬉しい申し出ではあるが、生命を助けられる恩を受けて更にそれ以上の物を受け取る訳には行かなかった。

「多分、そうだと思う。でも、俺には必要の無い物だし、それに、その石には二重三重のトラウマがあるから、正直、見るのも触るのも遠慮したい。らなければ、その辺に捨てておけば良い」

 それが冗談ではなく、本気で在る事は、彼の目が正直に語っていた。

「では、ありがたく貰っておきます」

「ああ、そうしてくれ。まあ、キミ達なら、《獣神皇の護冠》も充分に似合うだろうしな」

 彼は、何かを思い出すようにして、苦笑混じりに笑う。

「しかし、凶獣がらみでこのオチは、セティの時のそれと同じじゃないか。こりゃ、キミは第二の《英雄皇》になる宿命に在るのかもしれないな。…否、寧ろ、エンの奴を彷彿ほうふつさせられるか…」

 更なる苦笑を浮かべながら独り言の様に呟く彼の視線が、私の視線と重なると同時に穏やかな笑みへと変わる。

「…『セティ』っ! 『エン』って、あの《至高の英皇》と呼ばれるエン様ですか!?」

 憧れ以上の想いを抱くその存在の名を聞き、私は、興奮の余り叫んでいた。

「ほぉー、『様』付けとは、奴の本性を知らないとみえる。どんな良い噂ばかり聞いているかは知らないが、余り期待し過ぎると本当のアイツを知った時の衝撃が大きくなるぞ」

 そう語る彼の言葉に悪意は無く、それどころか好意にも似た親しみが存在する事は分かっていた。

 それでも、私は、彼が口にした『本性』という言葉に感情を逆撫でされてしまった。

「貴方に、彼の何が分かるというのですか!」

 そう、私が『彼』に、《至高の英明皇》に憧れるのは、彼の『本性ソレ』に対する部分が大きかった。

 嘗て他者ヒトは、自らの嗜好しこうを貫き続けた彼を天性のダメ人間と嘲笑あざわらった。

 しかし、彼は、そのあざけりに屈しない想いをつちかい、終には、世界に名高き冒険者の一人となった。

 彼が貫いた嗜好自体に重みがある訳ではない。

 その嗜好を貫いた理由と、それを貫く意味にこそ重きがある。

『ネコ耳メイド服は、漢のロマンだ!』

 その彼の言葉は、他者が聞けば嘲りを受けるいわれとなる。

 しかし、彼を信じ支えた唯一の存在は、それを彼にとっての『正義』だと認め、自分にとっての『誇り』だと受け入れた。

 だからこそ、彼は、その『正義』と『誇り』を護る為に、自らの想いを貫き、それを意志に変えて《皇》と呼ばれるまでに至った。

 嘗ての邂逅かいこう、その時、彼は私にこう言った。

「好きなモノが在るならば、唯、素直にそれを好きだと主張し、愛し続ければ良い。確かに、この世界は、酷く残酷な場所だ。だが決して非情な意志が支配する場所ではない。君が大切なモノに対するその想いを護りたいと望むならば、必ずそれを助けてくれる存在はいる筈だ。俺にアユラがいて、アユラにアユラを想って味方となり、その想いを護ろうとした存在がいた様にね」

 彼は、《導き手》であるその存在を愛し、その存在に愛され《皇》へと至った。

 その彼が私に授けてくれたモノ、それが、この世界にける私の『夢』となる福音だった。

 だから、『彼』の本性に対する否定は、私の『想い』を否定しているのと同じであった。

「俺が、アイツに対し知る事は、アレがどうしようもない大莫迦であるという事だけだよ」

 その言葉に再び、感情がたかぶる私。

 しかし、更につむがれた彼の言葉によって、それは氷解する。

「だが、だからこそ、俺は、アイツを真の英雄に至る者だと信じた。まあ、未だにアレの本性は理解しきれないが、それでも理解したいとは思っている」

 その言葉に込められているのは、唯、真摯しんしなる想いのみ。

 私は、目の前にいる相手が誰であるか、その正体を予感する。

 そして、何故、彼が自分を助けてくれたのか、その理由を理解した。

「だがしかし、不要な発言をして、キミを不愉快にした事は謝ろう。済まなかった」

 彼の正体が、私の予感どおりならば、謝るのは私のほうである。

「私こそ、感情的になってしまい、済みませんでした」

「否、それは別に構わないさ。むしろ、他者の為に本気となれるその感情を、好ましく感じるくらいだ。特にこんな世界に於いてはね」

 そう応えて笑う彼の瞳には、単純な言葉では言い表せない、深い想いの色が宿っていた。

「では、互いに幾許いくばくかの相互理解を果たした事だし、俺はこれで失礼しよう。良い夢を!」

 彼は、満足げに再び笑うと、別れの礼儀を告げて去って行こうとする。

「待ってください!」

「うぬぅ?」

 私に呼び止められ、彼は、如何したのかと瞳で問う。

「色々とお世話になった御礼をしたいのですが…」

 私は、そう告げて、彼に対する礼の手段を自分が持ち合わせていない事に気がつく。

「別に礼を受ける程の事はしていないから、気にしなくって構わない」

 私は、彼の性格ならそう言って当たり前だと納得する。

 しかし、意外にもその言葉は直ぐに改められた。

「と、言いたい所だが、折角だからそのお礼というモノを頂戴ちょうだいするとしようか。それもキミの身体でね」

 彼の言葉の真意を図り兼ねて困惑する私の背後で、仲間達が彼へと軽蔑の眼差しを向けるのが分かった。

「だ、だめですぅ! それなら、ホリィーちゃんに代わって私が払います!」

 私の身を案じ、彼の前に立ちふさがるようにおどり出るユーマちゃん。

 そのユーマちゃんを、彼は、つま先から頭の天辺まで探るように見回し、何故か軽く溜息をついた。

「済まない。キミでは俺の要望に応えられない」

 彼はユーマちゃんに対し、そう告げると、もう一度、彼女を一瞥して溜息をついた。

「な、なぜですか! 私がツルペタだからですかぁー!」

「ユ、ユーマちゃん…」

 私は、彼女の反撃に一瞬だけ脱力を覚える。

 それに対し、彼は、困惑の苦笑を浮かべていた。

「否、そういう事ではなくて…。俺の言い方が悪かった。もっと考慮した言い方にするべきだったな」

 彼は、苦笑を快笑にして、言葉を続けた。

「キミの名は、ホリィーというのか。ならば、ホリィー、キミに一つ頼みがある。簡単なことであり、そして、難しい事でもある。今のまま変わらぬキミで在り続けてくれ」

 そう告げて、彼は、自分の前に立つユーマちゃんの脇をすり抜け、私の耳元で呟いた。

「今、その胸に在る想いを大切にし、彼女を護り続けてやるんだ。誰よりも何よりも『彼女』の事が大切なんだろう、キミは?」

 それは、私の『夢』を確かに肯定する言葉。

 だからこそ、彼の真意に驚く。

「何故、それを…っ!?」

「分かるさ、俺にも在るからな。自分の持てる全てを尽くして護りたい大切なモノが」

 彼は、笑んだ視線の先でユーマちゃんを一瞥いちべつし、更に深い笑みを浮かべる。

「私の事、普通じゃないと思わないのですか?」

「どこが? 人間ひと他者ヒトを想う気持ちに普通も何も無いだろう。それに『普通』なんていう常識は、その他大勢が勝手に決める意見の総意だろう。そんな自分が加わっていない事項に特別な意見を持つ気は無いさ」

 彼は、ひょうひょう々とした口調でそう答えて苦笑する。

「そして、俺は自分の目で見た『真実ホンモノ』しか受け入れる積りは無い。キミは、本気で彼女を護ろうとした。だから、それだけで充分だ」

 彼は、その言葉と共に、一瞬だけ自らの心に秘めた想いを示す眼差しを私に向ける。

 それは、同じ想いを抱く者に対し向ける親愛の眼差し。

 その眼差しの意味を理解した私に満足し、彼は、軽く私の頭を撫でた。

「では、そういう事だ。達者でな、ホリィー」

「はい、貴方も良い夢を!」

 きびすを返して去って行く彼の背中に別れの挨拶を告げる私。

 そこで、終われば美しい想い出として、全てが納まるはずであった。


「あっ、待って! 私からの御礼です!」

 ユーマちゃんは、トテトテと彼のもとに近付くと、その頬に口付けをする。

『っ!』

 彼女の行為にその場にいた一同が驚く中で、一番に驚いていたのは、その御礼を受けた彼自身であった。

「素敵な御礼をありがとう、お嬢さん。でも、できる事なら、コッチの方が好ましかったかな」

 そう言って、意地の悪い笑みを浮かべながら、彼が指で指し示したのは、自らの唇であった。

 その悪ふざけを私がとがめる前に、その存在は現れた。

「なら、私がそのコに代わって、貴方に濃厚な口付けをしてあげましょうか」

「うっ、現れたな! 招かれざる『ネコ』!」

 彼の表情に動揺が浮かぶ。

「ふっふっふっ! ここであったが百年目! 覚悟は良いかしら、ねぇーっ?」

「百年の歳月の間に又、その妖力を高めたか、このネコマタめ!」

 彼と彼女の間に生まれ高まる緊張の激しさに、私たちは、全員が息を吸う事しか出来ないほどに緊張していた。

 眩しいほどの純白の毛皮に身を包み、強烈なまでの魔力をもって陽炎かげろうを立ち上げるその姿は、正に妖怪…否、魔獣・ネコマタであった。

「周囲を巻き込んでの戦いなど迷惑千万。という事で、ここは大人しく退却だ。皆、さらば!」

 妙に爽やかな笑顔で言い放つ彼だったが、次の瞬間、はっとした表情を浮かべて氷つく。

「やば、腕環着けっぱなしだった…」

 その言葉の意味は分からなかったが、それが彼にとって致命的な失敗である事だけは明らかであった。

「斯くなる上は、奥の手だ! 《神そ…、っ!? マジですか…?」

「ふっふっふっ…、甘いわね。私が何度も同じ手を許すと思わない事ね。《月光の縛牢》は既に発動済みよ」

「ちっ、万事窮すか…」

 何かを達観して天を仰ぐ彼に、彼女は止めを容赦なく刺す。

『《魂縛る魔呪の蔦》!』

 それは精神に作用して、相手の動きを奪う攻撃補助魔法。

 驚くべきは、それを彼女が同時に三重発動させて放った事である。

 最初に用いた分を合わせれば、彼女は、全部で四つの魔法を連続発動させた事になる。

「まさか、《魔司》ッ!」

「ええ、それも信じられないくらいに凄い熟練振り…」

 《魔導》と呼ばれる特異の力への造詣ぞうけいが深いだけに、メリィア様とチェリナ様の二人は、彼女の実力に驚きを隠せずにいた。

「攻撃魔法で戦意喪失という『詰め』を打たれなかっただけ感謝しなさいよ!」

「分かった。分かった。ありがとうさん」

 何が可笑おかしいのか、魔力の戒めに座り込みながら、彼は僅かに笑った。

「では、皆さん。このド阿呆剣士の処分は私がするので御機嫌よぉ。良い夢をね」

 満面の笑顔で告げる彼女のご機嫌ぶりが凄く怖かったが、それを口に出せる人間は存在しなかった。

「そういう事で、キミ達も元気でなぁ。さらば!」

 ズルズルと引き摺られていく彼が告げた苦笑の言葉には、何処か哀愁が感じられた。

 だから、私は思わず言ってしまった。

「お幸せに…」

「ああ、キミ達もなぁ!」

 その苦笑の奥に隠された『真実』に気が付いたのは、私だけであった。


「結局、あのヒトは一体、何だったのだろうね?」

 ユーマちゃんが、台風の過ぎた後の爽やかな空気を思わせる笑顔で私に尋ねる。

「ホント、何だったのだろうね」

 私は、既に予感から確信に変わっていたその応えを、敢えて誤魔化す事にする。

 それは、彼の名誉の為であり、私自身の幸せの為でもある。

 私は、この世界で幸せになる為には、あの二人にだけは深く関わってはいけない事を本能的に感じていた。

 でも『禍福はあざなえる縄の如し』とも言うし、本当に如何しようも無く困った時には、彼ら二人を頼ることにしよう。

 彼らなら、きっと私に必要な助けを与えてくれるはずだから。

「まあ、何はさて置き、それはそれで楽しかったわね」

 チェリナ様の一言に皆が頷く。

「じゃ、そろそろ帰るとしましょうか」

 メリィア様は満足そうに笑って促す。

「一応、自慢に思って良いんですよね。今日の事?」

「一応も二応も無く、自慢というか自信に思って良いんじゃない。実際」

「…うん。私たち、凄い…」

 シルクさん、アンナさん、そして、フィーノさんも嬉しそうに語り合う。

「では、帰路に出発!」

「うん。でも、その前に…。ホリィーちゃん!」

「何?」

 私は、ユーマちゃんに名前を呼ばれて振り返る。


『ちゅっ!』

 私の唇に、ユーマちゃんの柔らかな唇が重なる。

「約束。助けてくれて、ありがとう」

 上目遣いに私を見詰めながら、照れたようにはにかむユーマちゃん。

・・・うぅーっ、可愛すぎる! もう駄目! 嬉しすぎて、ふにゃふにゃぁー!

『バタっ!』

 私は嬉しさに気絶寸前の意識を必死に堪えて、心の中で彼に対する感謝の言葉を呟く。

・・・『雷聖さん、ありがとう。お陰で良い夢を見られそうです』

 私は、意識が薄れる中、自分の身体の痛みすらも幸せに感じていた。

 だって、それは先刻の出来事が決して『夢』ではない事を教えてくれているのだから。


この物語の主要な登場人物きゃら達は、天逢元帥さん原作の『ちょいあ!(①~③巻発売中)』という作品の登場人物がモデルとなっておりますが、あくまでモデルとしたパロディ作品(『三国志』と『三国志演義』の比率が七実三虚なら。、こちらは三実七虚くらいです)なので、これを読んで興味が湧かれた方(或いは、作者の倒錯…じゃない盗作疑惑を抱かれた方)は、是非(120%くらい)、原典の方をお読みください(ぺこり)


PS・天逢元帥先生は基本『R‐18作家』でございますので、実年齢が18歳以下の良い子のみんなは、大きくなってから先生の活動範囲に足を踏む込むようにしてください。


運営から、おこられるんでしょうか? ドキ、どき、土器(←運営『怒気?』)

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