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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
トゥー
83/142

水と油 その4


 目的地は街から離れた所に在るらしく、建物よりも森や山が見えてくる。

 そんな景色を匠はジッと眺めていた。

 

「結構遠い所に在るもんですね」


 そんな匠の声に、田上も同意した。


「そうさなぁ……こんだけ遠いと、交通費も料金に上乗せしてやりたくなるぜ」


 そんな会話が車内で交わされるが、唐突に車は遅くなる。

 何事かと匠と田上は前を向いた。


「なんだ……ありゃあ?」


 目に映る光景が信じられないと言わんばかりの匠に合わせて、画面に映るエイトも困った様に眉を寄せる。


『デモ隊らしいな……道路を塞いで居るぞ』


 エイトはそう言うと、車を止めた。

 下手にそのまま目的地へ行こうとすれば、人垣が邪魔である。

 跳ね飛ばす訳にも行かずバンは止まった。


「何だよあいつ等は……馬鹿じゃねぇのか?」


 苛ついた声を出しながら、田上は車を降りる。

 匠も慌ててシートベルトを外すが、取っ手に手を掛けた時点で画面に映るエイトに目を向けた。


「ちょっと行ってくる、良い子にしてろよ?」

『分かってる』


 ドアを開け、いざ匠もバンを降りようと片足を出す。

 そんな時、『匠!』とエイトが呼んだ。

 エイトから名前で呼ばれ慣れない匠は、目を剥いてしまう。


「あ、おお? ど、どした?」


 慌てる匠の目に、エイトの困った顔が見えた。


『お願いだから、気を付けてくれよ?』


 心底心配そうな声に、匠は頷きながらも車を降りる。

 そんな相棒を、エイトは案じていた。

 匠自身はそう喧嘩っ早いというタチでもない。

 それでも、エイトの中には【人間】という生き物は野蛮なモノだという認識が在った。


  *


 少し離れた所では、既に田上が誰かと言い合いを始めていた。


「少しで良いから退いてくれよ! コッチは仕事で来てるんだ! あんたらみたいに暇じゃないんだよ!」


 田上からすれば、頼まれて仕事に来ている以上、道路が封鎖されているなど邪魔でしかない。

 とは言え、それは田上の言い分であり、彼の前に立つ者に取っては関係が無かった。


「なんて事を! 自分達だけが助かればソレで良いんですか!」


 田上に食って掛かる人物の仲間も、なんだなんだと段々と集まり出してしまう。


 ソレを見ていた匠は、慌てて田上の前に立つ。


「まぁまぁまぁ、そう怒らずにお願いしますよ。 ほら、ウチらも食ってく為にやってるだけですんで」

 

 匠はとりあえず下手に出る。

 勢いに任せて出た場合をどうなるのか、身を持って知っているからだ。

 はっきり言えば、匠にデモ隊などはどうでも良い。

 仕事だから来ているので在って、それを邪魔されたくはないだけであった。


 居丈高な田上とは違い、腰が低い匠。


 だが、問題なのは匠の腰が低くとも、退いてくれなければ意味が無い。

 

「貴方もそんな事を云うんですか!? 自分達だけ栄養たっぷりで生きてれば、他は死んでも良いんですか!?」

 

 言葉こそ丁寧とも言えるが、声色はそうではない。

 慇懃無礼を通り越し、はっきりと恫喝に等しかった。

 だが、匠からすれば彼等の言い分は理解に苦しむ。


 ドロイド嫌いのデモ隊などはどうでも良いが、邪魔されなければ成らない謂われはない。


「それを俺らに言ってどうなるよ? あ? こんな所でピーチクパーチク喚けば食べ物が湧いてくんのか? 馬鹿言ってないでどっかで仕事探せよ」

 

 匠に比べると気の長くない田上は頭に血が登り始めていた。

 文句を言いたい気持ちは理解出来なくは無い、だが、だからといって自分の生活まで脅かされるつもりは田上には無い。 

  

 カッカし出す田上の声に、匠は周りを窺いながらも不味いと感じた。


 この場に集まっている者達は、別に強化人間や特殊部隊の人間ではない。

 ただの生身に過ぎないだろう。

 しかしながら、彼等は人数という圧倒的な武器を持っていた。


 如何に相手が素手でも、匠と田上を殴り倒し、殺す程度なら苦も無い。 


 頭に血が登っている田上は周りが見えて居ないが、匠は焦った。


 喧嘩を買い戦うのは無理がある。 

 仮に、匠が誰かに手を出された場合、後ろで待っているエイトが大人しくそれを見ている保証は無い。

 事実として、以前、匠は自分の目の前で強盗が轢き殺されるのを見ていた。


 かといって、逃げると言うのも難しい。

 匠独りでならば、慌てて駆け出し、バンに飛び乗り走り去れば良い。

 デモ隊から腰抜けと嗤われようと、怪我もなく死にもしない。

 せっかくの大口の仕事を逃す事になるが、どちらかを選ぶなら匠は逃げ出した方が良いと思う。


 ただ、それは匠の想いであり、田上がそれを【はい、分かりました】と受け入れてくれなければ意味が無い。

 かといって、今のエイトは車に居る。

 乗っているという表現が正しいとは思わないが、だからといってソレを気にして居られない。


 前にデモ隊、後ろに田上とエイト。


 挟まれる形の匠は、思考が追い付かない。

 逃げる事も出来ず戦うのも無理がある。


 そんな時、デモ隊の後方から何かが近付いて来た。

 近付いてくるモノを見て、匠は目を細める。


『直ちにデモを解散しなさい! 此処は公共の道路です! あなた方が行っている行為は犯罪に当たります!』


 そんな大声を上げるのは、匠と田上が乗って来たバンにも似ているが、より大型なモノであった。

 そんな巨体が、派手なクラクションを鳴らし吠える。 


 流石のデモ隊とは言え、命までは懸けるつもりは無いらしく、怪しい大型車両に道を譲っていた。


 ソレを見て、匠は少しだけ鼻で笑った。


 小さい者には強がる割には、圧倒的な大きさには道を空ける。

 自己を正義と語る徒党の割には余りに呆気ない幕引きとも言えた。

 

 大型車両は、田上電気店のバンの近くに止まる。

 排気ブレーキがブシュウと独特の音を響かせた。


『田上電気店のお二人様ですね?』

 

 車両の窓が開き、中から顔を覗かせたのは人ではなかった。 

 バケツをそのままひっくり返し、目となるカメラを取り付けた様な不気味さは在る。

 

『お通りください、今なら安全です』

 

 声の調子は人のソレとは違く、硬い。

 それでも、安否を確認してくれるドロイドの声は人のモノより余程安心感をくれた。


 田上と匠は、なるべくデモ隊を刺激しないように車へ戻る。

 

 そんな二人をデモ隊は見ていたが、悔しそうに睨むだけで手は出して来なかった。


  *


「あーびびった……やっべーよなぁ」


 車に戻るなり、田上はそんな弱音を吐く。

 

「ちょ、田上さん……あんだけ啖呵切ってたのに」


 少し前の先輩を思い出し、匠は肩の力が抜けるのを感じた。

 だが、当の田上からすれば、実は空威張りだったのだ。

 追い詰められた小動物が、相手を無理に威嚇する。

 ソレと大差は無い。


「だってよぉ、コッチだって仕事で来てるだけなんだぜ? それをお前、あんなん云われたらカチンと来るだろ?」

「勘弁してくださいよ。 下手すりゃ、今度は田上さんが病院送りだったかも知れないのに……」


 匠の心配そうな声を聞きながらも、エイトは車を前に出す。

 道さえ空いていれば、通行の問題は無い。

 匠には見えていないが、エイトは周りの人間を憎んでいた。

 匠と田上に落ち度は無い。

 にもかかわらず、助けが入らねばエイトがそれをするつもりですらあった。


『友よ、無理をしないでくれ。 それに田上殿。  貴方も身の危険と判断したら逃げて欲しい。 君達に怪我をさせたくない、して欲しくないんだ』


 エイトの切実な声に、さしもの田上も頭を軽く掻いた。

 以前、後輩を病院へ運んだ時が在り、その時の事は彼も憶えている。


「すまん……気を付けるよ」「悪い、エイト」

 

 親しい二人の無事は確認出来る。

 画面上のエイトは、ホッとした様に顔から険しさを消す。


『もう大丈夫だろう。 安心して通れる筈だよ』


 そんなエイトの声に嘘は無かった。


 以前、橋本は無骨な警備ドロイド用意した。 

 そしてソレは、コレから行く場所の製品でもある。

  

 現れた大型車両の横を通り過ぎる訳だがそれに乗せられているモノを見て、匠も田上もギョッとしていた。

 何故なら、人を素手でも容易く取り抑える事も可能なソレが、何体と用意され、デモ隊を睨んで居たからだ。 


 匠はやり方を知らないが、ドロイドに因る人の制圧は単純その物でしかない。

 下手に怪我をさせても面倒な為、基本的には横一列に並んで歩くだけ。


 その代わり、ドロイドには重厚な鎧が着せてあり、簡単には倒されない。


 多大な爆発力を持つ爆発物、ナパーム当の高温の可燃物、または、ドロイドの関節を破壊できる銃器を用いれば或いはドロイドに対抗出来る。

 しかしながら、そんな物騒なモノを持っている人間は稀有だろう。

 

 それを現す様に、デモ隊は田上電気店のバンに手を出さない。

 

 なにせ何かしようとすれば、即座に警備ドロイドに鎮圧されると分かっていたからだ。


 ともかくも、こうして田上電気店のバンは目的地へ向かう事が出来た。


  *


 デモ隊が封鎖していた場所を少し過ぎると、目的地が見えた。

 其処は工場としては荘厳であり、一つの会社としては大きい。


 在る意味では、一つの要塞に見えなくもなかった。


「ひゃあ……新進気鋭な企業ってもよ、こりゃあスケールがデカいぜ」


 田上の声を聞いた匠は、首を傾げる。 

 ハッキリ言えば自分達は場違いだとしか思えない。

 コレだけ大きな会社が、わざわざ街の電気屋を呼ぶ理由が無い。

 

 小さなバンは、それに比べると大きな門の前へと留まる。

 守衛らしき人物が、読んで居る雑誌を置き、チラリとバンを窺う。

 運転席に座る田上は、窓を開けてぺこりと頭を下げた。


「すんません、田上電気店です。 開けて貰えますか?」

「あーはいはい、承っております」


 守衛の声にはやる気が感じられないが、門さえ開けて貰えれば問題は無い。

 

『……行こう』

 

 エイトの静かな声を合図に、バンはドロイド会社の敷地へと入って行った。

 

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