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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
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お悩み相談 その3


 エイトの声を吟味する匠と一光。

 二人の損失自体は六十円に過ぎないが、問題が根深い事は分かった。


「えっとさ……でも、そう言うこと出来る人って少なくない?」

「あぁ、銀行員っても、そうそう簡単に他人の口座からチョイと持ってくるなんてのは……でも、誰かがやってるんだろ?」


 六十円の行き先を訝しむ声に、既に主の声にエイトは調査を開始していた。

 匠には見えないが、今の世界には無数の線が存在している。


 それは人には見えず、触れられない。

 だが、エイトは違う。 それに触れ、調べ、辿る事すら可能だ。


 ほんの三十秒程で、匠の携帯端末スマートフォンがポーンと鳴った。


「ん? エイト? どうした?」


 いきなりの音に、匠はそれを尋ねる。

 すると、画面上の少女は実に自慢げに微笑んだ。


『むっふっふ……友よ! 見つけたぞ!』

「おう、おう? で、何か見つけたの?」


 気のない匠の返事に、エイトは画面の中で肩を竦めてやれやれと首を振る。


『全く君という奴は……だからだね、六十円の行き先と、それをやらかした者だよ!』

「えぇ!? ホント!?」


 匠よりも、一光の方が反応が真剣であった。 

 と言うのも、商売の基本は薄利多売であり、小さく売りながら儲けるのだが、僅かとは言え金の重要性は骨身に染みていた。

 一光の問い掛けに、エイトはウンと頷く。


『あぁ、特定した。 まぁ、人間ではこうまで上手くはいかんだろう。 先ずはネットワークの……』

「まぁまぁまぁエイトさん。 ほら、自慢話後にしてさ、今はソイツを捕まえる方が先決だろ?」


 エイトの話が長く成りそうだと、匠がそれを途切れさせた。

 具体的に何をしたのかを聞いていると、軽く小一時間は無駄にしかねない。

 話を飛ばされたエイトは、若干ムッと頬を膨らませて居たが、主の声を聞き逃しては居なかった。


『そうだな、良し……行くぞ友よ!』


 まるで出掛けるぞと言わんばかりのエイトの声に、匠は「ほぁ?」と惚けた声を出してしまう。


『ほぁ? ではない! 今すぐ其奴の所へ行き、捕らえるのであろう?』


 ヤケに自信タップリという声に、匠は勿論、一光ですら呆気に取られた。


「えーと? あの、アプリさん? あー、エイトさん?」

『ん? 何だね、相楽一光』


 いきなりの呼び捨てに一光は少しウーンと唸るが、其処まで小さい女ではない。


「取り返すって言ってもさ、警察に言うんでしょ?」


 思い付いたそのままを一光は言うが、それを聞いたエイトは画面上で首を横へと振った。


『いいや、そんな事をしても、たぶん君の金は返って来ないぞ?』

「え? 何で?」


 首を傾げる一光に、画面上のエイトは顔を其処から出そうな程に寄せる。


『考えても見て欲しい。 仮に今から私と友が警察機構へ訴え出た所で、調査が始まるのは恐らくだいぶ先だろう。 その間に、皆の財産を奪った者がのうのうとしていると想うのかね? ソレはない。 恐らくは、逃げる算段を立てるだろうね。 だからこそ、まだ近くに居る内に、捕まえねば! 行くぞ友よ!』


 エイトの声に、匠は、何かが湧き上がる気がした。

 ずっと昔に、無くした筈の気持ち。

 

 大人に成るに連れ、削り取られ、消えてしまいそうなソレが、がっちりと胸の中で固まる気がした。


「そうだよな……何かあったら、グズグズしてちゃ駄目なのかぁ……」


 本来なら、警察に届け出て後は知らん顔が普通なのだろう。

 だが、何故か匠は、燃えていた。 

 勢いだけかも知れないが、やっと取り戻した気持ちは捨てたくない。


「よっしゃ! 一光さん! ちょっと行ってくらぁ!」


 そう言うと、匠は携帯端末スマートフォン片手に、空いている片手を一光へと振り、一目散に店の外へと走って行った。

 

 バタバタと慌ただしい匠の後ろ姿に、一光はポカンとしていたが、フゥと一息付くと、缶コーヒーの一つを取った。


「なんだか、正義の味方みたいね」

 

 缶の封を切りつつ、一光は柔らかく微笑んでいた。


   *


 意気揚々と一光の店を飛び出した匠。

 だが、いざ外に出たのは良いが何をすれば良いのか分からない。


「あちゃー……つーかよ、エイト。 どこ行きゃ良いんだよ?」 

 

 冒険の始まりかとも期待した匠だが目的地が無ければ始まらない。

 そんな匠の声を聞いたからか、携帯端末スマートフォンからは嗄れた笑いが聞こえた。


『案ずるな友よ! 既に手は打ってある!』


 頼れそうな声だが、画面に映るのは歪な白黒の顔。

 それを見て、匠は眉を寄せていた。


「えぇ~……お前、結局そっちかよ?」


 どうせなら【エイトたん】と事に当たりたい匠だが、当のエイトはと言えば口を蛸の様に窄めて見せる。


『そっちとはどういう了見だ? 元々コッチが私の顔なのだぞ? それにホラ、既に迎えが来ている!』


 そんな声に、匠はスッと顔を上げる。

 言葉通りなのか、タクシーがゆったりと近付いて来ていた。


「ん? タクシー?」

『そうだ! いわゆる無人自動車って奴だな!』

「いや、そりゃあ良いけどさ……持ち合わせ足りるかな」


 タクシー自体に乗ることは吝かではない匠だが、もし長距離となると財布に自信は無い。

 そんな匠に、画面上のエイトはニヤリと笑った。


『案ずるな友よ! 正義の為だ! 少しぐらいは私が何とかしよう。 さ、乗りたまえ!』


 エイトの嗄れ声に合わせて、タクシーのドアが独りでに開く。

 何かがおかしいとは匠も感じて居たが、元来細かい事を気にしない性格故か、「お邪魔しま~す」と言いながら乗り込んでいた。


   *


 見知らぬタクシーの車内は案外広い。

 無人自動車故に、【運転手】というモノが存在せず、それが匠は不安と言えた。


「おいおいエイト……どうすんの、コレ?」 

『少し待て……』

「待てって言われたっ……て?」


 匠は奇妙なモノを見ていた。

 無人とは言え、彼方此方が勝手に動くのは異様でしかない。

 タクシーのパネル部分が開き、細いコードがニョロリと出て来た。


『さ、ソレに私を接続するのだ!』


 勝手に他人の持ち物であるタクシーに何かをするというのは気が引ける匠だが、エイトの勢いに押し切られる。


「おー、おう、じゃ繋ぐぞ?」

 

 恐る恐る携帯端末スマートフォンとパネルから伸びたコードを繋ぐ。

 次の瞬間、画面上のエイトがクルクル横へ回転しだし、窄まる様に画面下へと消えていく。

 この時も、やはり匠はトイレを流して居る様な気がしていた。

 

 程なく、タクシーに設置された画面ディスプレイに変化が起こる。

 本来なら、搭乗客を楽しませる為の風景画などが映される筈だが、車内にチーンと音が響いた。


 ヨイショという声が、車内に響く。 そして、画面上にはエイトが映った。


『ウム、容量が大きいな。 なかなかに悪くない』


 画面に現れた歪な顔に、匠はウゥムと唸った。


「何かデッカく? 成っちまったな?」


 率直な意見を出す匠に、画面上のエイトはニンマリと笑った。


『案ずるな友よ! 画面が大きいから私も大きく見えるだけさ。 もし、もっと大きい画面が在るものと接触出来れば、もっと大きい私を見せられるだろうね』


 エイトの答えに、匠は首を傾げる。

 匠の想像では、ビルの壁一杯のエイトが高笑いを放っていた。


「あー、そ? でもさ、お前運転出来るのかよ? 免許とかは?」

『うん? 免許など無いさ。 当たり前だろう? ソレよりも、早速シートベルトを着用するのだ。 早速出発するぞ!』

「お、おう」


 安全の為だと促され、匠はシートベルトを付ける。

 不安の現れか、匠はギュッとシートベルトを握っていた。


『いざ行かん! ゴーゴーゴー!』

「……安全運転しろよ? な?」


 ヤケに上機嫌なエイトに対して、匠はヒヤヒヤと背筋が寒い。

 だが、エイト操るタクシーは、言葉通り爆走するという事もなく、実にゆったりと走り出していた。


   * 


 エイトが操る車が自動なのかどうなのかを匠が悩むが、答えは出ない。

 確固たる意志を見せるエイトは、体が無い事を除けば生き物の様でもある。


 事実、当のエイトはと言うと、画面上で左右に揺れながら鼻歌まで披露し、匠は、それに憶えが在った。


「何か……どっかで聞いた様な気がするな」

『お? 憶えていたか友よ。 昨日ゲームでずっと聞いていたからな!』


 言われて匠は思い出していた。

 確かに、エイトの鼻歌の元に成った曲を聞きながらボコボコにされていたのは記憶に新しい。


「あーくそ、俺もゲーム上手けりゃなぁ……でもなぁ」


 負けっぱなしだった悔しさを思い出す匠だが、エイトの顔が僅かにぶれ、パッと画面には少女が映った。


『じゃあ、帰ったら続きやる?』


 小首を傾げ、何かをおねだりする様なエイトの仕草に、匠の顔はキリッと締まっていた。


「……たりめぇよ。 悪党捕まえてからタップリとな!」


 ナニをするのかはともかくも、匠の意気込みを聞いたエイトは、スッと横を向いた。

 ソレに合わせて、匠も同じく横を見る。


「なんだよ? 何か在んの?」

『友よ、あの灰色の高いビルが見えるか?』


 エイトの声に、匠は目を窄めた。

 何となくではあるが、高層のマンションを視界に捉える。


「あー、たぶん」

『どうやら、随分と悠長な奴らしいぞ? まだ居るみたいだ』

 

 そう言うエイトの方を見る匠だが、画面上の少女は、ヤケに不機嫌そうな顔であった。

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