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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
スリー
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我に自由を! その16 


「浮気って……お前……つか、何処行ってたんだ! 心配させやがって!」


 言われた事に関しては流し、匠は今までの思いをぶちまける。

 そんな声に、エイトは嬉しそうに微笑み、サラーサは顔を苦くしかめた。


『……友もこう言ってる。 すまないが、彼を返して貰えるか?』

『御冗談を、あの人から逃げておいて、今更何を言い出すんですか?』


 エイトの声に、サラーサは片手を上げる。

 

「あ! お、おい!? 何すんだよ!?」


 少女の仕草を合図に、女性型ドロイド二体が匠を抑えていた。

 両腕を掴まれ、動けない匠。

 悲しい男の性なのか、如何に機械とは言え、細身の女性を無理に振り払おうとはしない。


『卑怯な真似を……友が優しいと知っているからそうしてるんだろう?』

『ええ、そうですね。 でも、私は貴女の様に彼を見捨てて消えたりはしませんので』


 エイトの声に、サラーサは呼応する。

 在る意味では女性二人の取り合いに巻き込まれた匠だが、そんな気分には成れない。

 今にも衝突が始まりそうで、其方の方が気掛かりと言えた。


「お、おい……」


 喧嘩は止めろ、匠は言おうとした。

 だが、ソレよりも早くエイトとサラーサは動いていた。

 

 傍目には女性だが、動きは人間とは思えない程に速い。

 ガッキと組み合ったかと思えば、サラーサの細い膝が持ち上がりエイトを捉えんと動く。


 そんな膝蹴りを、エイトはサッと下がる事で容易く避けていた。

 攻撃が当たらないからか、サラーサは舌打ちを漏らす。


『面倒くさいですね。 大人しく消えて貰えませんか?』

『それは出来ない相談だな』


 ジリジリと間合いを詰めるサラーサに、エイトは動じない。

 片目ではサラーサを睨みつつ、もう片方の目は器用に動き匠を捉える。


『貴様こそ、友を返してくれ。 そうすれば素直に帰ろう』

『馬鹿言わないで。 それこそ出来ない相談ですね』


 今度はエイトが動いた。

 常人離れした低い出だしはクラウチングスタートに似ているが、普通の人間のソレと比べても各段に速い。


 両手を伸ばし、相手の膝を狙ったタックルだが、サラーサは真っ向からそれを受けるつもりはなかった。


 弾丸の如く低く跳んでくるエイトの肩に素早く手を置き、体操選手が如く頭を下にグルッと跳ぶ。

 体勢を崩されたエイトは、タックルは諦め勢いのままにゴロッと転がり勢いを殺さずに立ち上がる。


 ほぼ同時に、サラーサも着地を華麗に決めて見せた。

 

『……まだろっこしい』

『無粋な技を……せっかくの見せ場でしょう? 匠様が見てますよ?』


 挑発に、エイトは乗る。


 悠々とした足取りでサラーサ操る少女型ドロイドへと歩を進める。

 体格ではエイトに分があると分かっていた。

   

 同じ機械の身体でも、サイズの差はそのまま出力の差でもある。


『……友の為だ、サッサと終わらせて貰う』


 小細工抜きに、相手を叩きのめすつもりのエイト。

 ジリジリ迫ってくるエイトに、サラーサは目を窄めた。


『早々簡単に終わらせてはあげませんから……』


 そんな言葉を合図に、二体のドロイドは動いていた。

 傍目には、凄腕のガンマンの抜き合いにも似ているが匠の目では捉えきれない。


 世界チャンピオンの格闘技以上に、サラーサとエイトの戦いは速すぎた。


 素手同士の筈だが、腕や足がぶつかる度に金属音の様な異様な音がガキンガキンと響く。


 そんな戦いを見ていた匠が感じたのは不毛さであった。

 本来、エイトとサラーサが争う理由はない。

 姉妹喧嘩か兄弟喧嘩なのかは別にせよ、意味も無い戦いを何とか止めたかった。

 

「お、おい! 止めろよ、止めろってば!」


 必死になりもがき足掻くのだが、両脇のドロイドは放してくれない。


「くっそ! 何だってこんな事に!?」 

 

 止めたくとも、止められない。 無力感に、匠は唇を噛んだ。


 数秒間はたっぷりと格闘を繰り広げたエイトとサラーサだが、やはり体格の分だけエイトが優勢と言える。


 段々と自分が押されているのは分かってしまう。

 このままでは不味いと、サラーサはその場からパッと数メートルは後方へ跳んだ。


 邪魔者さえ居なくなれば問題は解決するのだと、サラーサは決断する。

 匠を抑えてる分を除いても、まだドロイドには数体ほど余りは在った。


 しかしながら、有線式である以上、エイトと格闘をさせる訳には行かない。

 それならば、サラーサは別の手を使えば良い。


『……構えて!』


 そんなサラーサの声に、二体のドロイドが動いた。


 両手を上げ伸ばして構える。

 それだけならば、まるで腕を飛ばそうとして居る様にも見えたが、匠の目に奇妙なモノが映った。


 ドロイドの伸ばされた細い手がガチンと音を立てて開く。

 まるでパズルの様に開いた腕の部位には、銃口が隠されていた。


『骨格強度を捨てても銃を仕込む……か。 なかなかに賢しい』

『減らず口を……蜂の巣にしてやる』


 睨み合うエイトとサラーサ。

 そして、エイトに仕込み銃を向けるドロイド。


 相棒が撃たれる。 匠はそう感じた。


「止めろ! 何でもするから!」


 他に言うべき事も無い。 

 エイトが撃たれるぐらいなら、自分を捨てる。


 だが、サラーサは止めるつもりなど無かった。

 エイトの身体である女性型ドロイドが倒れても、大したこと問題ではない。

 何故なら、本質的にはエイトとサラーサには身体は無いからだ。


 それでも、急ぎ匠を連れて何処かへ逃げるには、エイトが邪魔だった。   

 

 場所を特定されていた場合、何処までもエイトは追いかけてくる。

 新しい身体など、如何様にでも用意する事は難しくはない。

 となると、今すぐにでも船を捨てでも移動したいサラーサは、匠の怒りを買ってでも何とかしたかった。


 淡いピンク色の唇を開き、白いセラミックの歯をギシッと鳴らすサラーサ。


 ドロイドの腕から弾が飛び出るより、エイトが動き出す方が僅かに速い。

 

 銃の弾は音速を越えるが、有線式よりもエイトが直接ドロイドを操る方が早かった。 

 銃口を飛び出し弾は、エイト操る女性型ドロイドの髪の毛を僅かに散らすが、その身体には当たらない。


「止めろ! 止めろよ!」


 匠の声にも関わらず、サラーサに操られるドロイドは二度三度と発砲音を響かせた。

 

 弾が放たれる度にエイトは跳び、時には転がる。


 僅かな後、銃口からは硝煙が吐き出される。

 だが、サラーサの思惑とは違い、エイトには一発たりとも当たっては居なかった。


『銃は槍のようなモノだ。 その先に居れば確かに危ない。 しかし、ほんの少しでも其処から離れれば、どうという事もない』 


 涼しい顔で、すっくとエイトは立ち上がる。

 相手の弾切れを見越した姿勢だが、サラーサは悔しげに歯をギシリと軋ませる。 

 だが、倒すのが無理ならと、別の方法は既に考えていた。


『提案致します。 匠様』


 急に呼ばれた匠は、焦った。

 不意打ち同然だが、身構え様にも腕を掴まれていてはソレも出来ない。


「え? な、なんだよ」


 匠の声に、サラーサはエイトに背を向けた。

 普通ならば、敵対する相手に背を向けるなど自殺行為に等しい。

 だが、サラーサの目は懇願する色しかない。


『独占するのは諦めます。 エイトと一緒で構いません。 私を貴方のお側に置いてください』


 突然の申し出に、匠は耳を疑った。


「はい? え?」

『貴様!? 何を言い出すんだ!?』


 匠は勿論、エイトですらサラーサの声には驚いていた。

 

 だが、サラーサは既に最も平和的な解決策を模索し始めている。

 もし本気でエイトと戦うので在れば、地表全土を焦土にも変える事は出来なくはない。 

 それでは匠も死んでしまい、何の意味も無くなる。 

 

 成ればと、別の方法をサラーサは申し出ていた。

 よくよく考えれば、匠の側にエイトが居ようとも問題ではない。

 

『何か問題でも在りますか?』


 問われた匠は、目を泳がせた。

 申し出が分からない訳ではない。


 様々な思考が匠の中を駆け巡る。

 自宅の広さは分かっている以上、自分以外に誰か居るとより狭く成りかねないが、部屋は移れば問題無い。

 他にも、女性二人に囲まれるという事に匠は鼻を唸らせる。  

 

 世の中には、両手に花という言葉も在った。


 思わず、あんな事やこんな事を匠は考えてしまう。

 但し、そんな匠の顔をエイトは見逃してくれない。


『こら!? 友よ! 何か邪な事を企んでいるな!?』


 鋭い指摘に、匠は、慌てて首を横へ振った。


「あ、いや……そんな事は………な、ないよ?」

『ないよ、じゃあないだろう!? だったら、今何を考えたのか、言って見ろ!』

「あの……せ、世界平和について……」

『ぃ喧しい! どの顔ぶら下げて世界平和等と宣う気だ!?』


 匠とエイトのやり取りはサラーサにも聞こえている。


 その顔には、先程の厳めしさは無い。


 サラーサの余裕の源は、匠の迷いにこそ在った。

 迷っているという事ならば、無碍に断られる事はない。

 

『如何ですか?』


 相手が迷っている内に、決断を促す。 

 エイトからも、匠は優しいと聞いている以上、この機会を逃すつもりはサラーサには無かった。


 暫くの間、匠は目を泳がせたが、直ぐにサラーサをジッと見る。


「と、とりあえず、藤原さん達を此処へ戻してくれよ。 俺達は、元々は交渉に来たんだ。 戦いに来た訳じゃない」

 

 そんな匠の声に、サラーサはグッと手を握り締める。

 只でさえエイトも邪魔だが、この場に他の者を混ぜるのは芳しくない。

 それでも、断って匠の余計な不服を買いたくはない。


『……分かりました……少し、時間をください』


 サラーサは、折れざるを得なかった。

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