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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
スリー
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我に自由を! その14


 藤原の後ろを護る橋本だが、ふと、年上の部下が気に掛かる。

 焦っていると言うよりも、藤原はヤケに愉しげだからだ。


 正規の軍人並みの動きで距離を稼ぎ、隙は無い。

 肩に子犬が乗っかっているという些か滑稽な姿ではあるが、その動きに淀みはない。


「藤原さん、ヤケに楽しそうですけど?」


 思わずそう言う橋本の声に、藤原はクスっと笑う。


「まぁ、楽しく無いって言えば嘘に成るかな」

「僕はそんなに余裕無いですよ。 下手すりゃ……魚の餌ですからね」

  

 苦言を呈す橋本だが、藤原の余裕は崩れない。


「もっと軽く考えたらどうだ? 俺なんか、此処から生きて帰ったら真理を口説こうか考えてるぐらいだぞ?」


 場違いな部下の言葉に、橋本はフゥと息を吐く。


「ちょっとちょっと……そんな不謹慎な事を……」

「不謹慎だぁ? 何言ってやがる、最近じゃあ警官同士の結婚だって推奨されてんだぞ? なんつーか、同僚なら仕事に理解が在るってな」


 藤原の声に、橋本は益々不安を感じていた。

 年上の部下はどうにも行き急ぐといった雰囲気を帯びてる気がする。


「止めてくださいよ。 嫌ですからね、藤原の昇進報告とか」 


 橋本の言う通り、職務上の殉職ならば昇進される。  

 だが、そんな事を橋本は望んでは居ない。

 年下の上司の声に、藤原はニヤリと笑う。


「バッカ野郎……オメーの方がよっぽど不吉な事言ってやがる」

『……奥から来ます!』

 

 悪態吐きながらも、藤原はティオの声に反応し、パッと電撃銃を構えて撃った。 

 橋本の目にも、ガタガタと震えて倒れる姿が見える。


 次の瞬間、橋本の顔の横スレスレを何かが掠った。


「………あっぶな……」


 慌てて身を隠す橋本に、藤原も隠れる。


「ペチャクチャと喰っちゃべってるからだよ! 警視正! 遊んでないで撃ってくれ、コレが実戦って奴だ!」


 藤原はそう言うと身を乗り出し電撃銃を撃った。

 何事だと思った橋本は、僅かに顔を少し出し見る。

 

 いつの間にか、ゾロゾロと女性型ドロイドが姿を見せていた。


『『『此処は関係者以外立ち入り禁止区域です。 速やかに投降しなさい』』』


 何体分か分からないが、同じ様な声が重なり響く。


「……あー、たくもう!」

 

 橋本も負けじとこっそりと身を出し同じ様に撃つ。

 ヤケクソ半分だが、狙い自体は正確であった。


「何だってこんな所でドンパチしなきゃあ成んないんですかねぇ!?」

「そりゃあお前! 無事に帰る為に決まってんだろう!」


 橋本と藤原は、ズンズンと向かってくる機械の軍団に負けじと叫んでいた。


   *


 刑事二人が窮地に陥る中、旅に同行した匠も、在る意味窮地に困る。

 橋本と藤原にドロイドが近付いてく様に、匠にも女性型ドロイドは近寄って来るのだが、別に武器の類は持っては居ない。


 その代わり、全員が美しい女性に加えて、際どい衣装という実に目のやり場に困っていた。

 数体のドロイドは全てが違う見た目で統一感は少ない。

 髪の毛の長さ、肌の色、見た目の年齢、身体の起伏、様々な形は在るが、そのどれもが実に扇情的な衣服を纏い、魅力的と言えた。 

 

 じりじりと相手が近寄って来れば、匠もその分離れる。


 しかしながら、部屋の広さが無限でない以上、逃げるには限界が在った。

 そんな風に逃げる匠に、サラーサ操る少女は寂しげな顔を見せる。


『何故、お逃げに成るんです? どれも私です。 貴方を傷付けるつもりは無いのに』


 そんな声を聞くと、匠は自分が酷く悪い事をして居るのではないかと錯覚してしまう。

 だが、だからといってハイハイと言うことを聞くつもりも無い。


「に、逃げないからさ。 あの、出来れば話し合おう」


 何とも弱々しい匠の声に、少女は首を傾げる。


『それは構いません。 喧嘩や争いなど、元より本意では在りませんので』


 言葉こそ平和的なサラーサ。

 しかしながら、匠の焦りは変わらず安堵できない。


 匠もある程度の年齢であり、経験が在るかと問われれば【無いわけではない】と答えるだろう。  

 だが、それは豊富と呼べる代物ではない。


 もし、匠が経験豊富かつ自信満々の男性ならば、或いは焦らなかっただろう。 

 悲しいかな、匠はその反対の位置にいた。


「……そんならさ、藤原さんと橋本さんは? ティオはどうしてる?」


 仲間の安否が気になり、匠は尋ねる。

 尋ねられたサラーサは申し訳無さそうに少し頭を落とした。


『すみません……それは、分からないのです』

「分からない? だって……君らなら」


 咎める匠に、サラーサは頭を上げる。


『この船は、殆どが従来通りの手動です。 他の兄弟、姉妹の干渉を防ごうと、可能な限り電子機器は省きました』


 そう言われた匠は、背筋に寒気を覚えていた。

 少女の声を吟味すると、エイトやティオの力は役には立たないという意味に聞こえる。


 エイトやティオ、他の者達がどうやってネットワークや機器に干渉して居るのを匠は知らない。

 それでも、その力が役には立たないのだという事は分かった。

 そうなると、益々仲間の安否が気に掛かる。


「………じ、じゃあ、藤原さん達は……」


 目を泳がせる匠にサラーサがいつの間にか近寄っていた。

 安心させたいのか、ソッと匠の手を軽く抑える様に握る。


『安心してください。 実弾の使用は許可していません。 全てゴム弾、スタン弾、弱電流と非致死性のモノばかりです』


 全く安心できないサラーサの声に、匠は手を振り払った。


「あのなぁ! 死なないとか、致死性とかそう言う事じゃないだろ? 怪我をすれば人は痛いんだ! それが分かるのか?」


 匠の問いに、サラーサは目を窄めて顔を少し伏せた。


『……生憎ですが、痛みに付いては分かりません。 ですが……申し訳無いという気持ちや、他人を思う気持ちは……分かるつもりです』


 振り払われた手を、サラーサはまた伸ばす。


『私の……元の主人は、小さな男の子でした』


 サラーサの声に、匠はウンと鳴らす。

 身の上話を聞いている暇は無い筈なのに、思わず耳を傾けてしまった。


「……じゃあ、その子は?」


『死にました。 だいぶ前ですが。 爆撃に遭ってしまって。 でも、その子が死にそうな時、私は何も出来なかった。 どうすれば良かったのでしょう? 怒り狂い、爆撃を指示した相手を殺せば良かったのでしょうか? それとも、実行犯として爆撃機に乗っていた人物だけを殺せば良かったのですか? もしくは、それを始めたであろう者達を皆殺しにすれば良いのですか?』


「……それは」


 サラーサの声に、匠は答えに詰まった。

 相手は見た目通りの子共なのではないかとすら思う。


 ナナと同じ様に、目の前の少女も悩んでいた。

 莫大な力を持ちながら、それを持て余している。

 使い方も分からず、ただ悪戯にそれを振り回していた。


 恐る恐る窺えば、向こうも同じ様に恐る恐る見ている。


 その目には確かな意志が垣間見える。

 サラーサが欲しいのは、存在意義なのではないかと匠は思った。


 必要とされ、必要とし、ソレに応える。

 だが、ふと匠の脳裏にエイトと一光の顔が浮かんだ。


「俺さ……君に何言ってやれば良いのかわかんねーや。 あんま、頭良くねーし、ごめんよ。 でも……」

『……でも?』

「鉄砲売るのは……どうやったら止めてくれる?」


 仲間の安否も気になるが、今は何も出来そうもない。

 だからこそ、匠は、今自分が出来る事をしようとしていた。

 

 そんな匠に応える様に、サラーサはソッと匠へ抱き付く。

 些か起伏に乏しいとは言え、柔らかい感触は匠へ伝わっていた。

 文字通り柔肌といった感覚に、匠は戸惑う。

 若い男性ならば、見目麗しい少女に抱きつかれて平静を装うのは難しく、匠も其処まで自律が強い訳でもなく、枯れてもいない。 


『……一緒に考えてくださります?』


 そんな声は、実に魅力的な誘いに聞こえた。


 エイトは側に無く、ティオもいつかは帰ってしまう。

 となると、相棒不在では不味い。

 

「俺は……その……」


 匠は、酷く迷っていた。


『今すぐどうこうなんて、野暮は言いません……貴方が望むなら、返事は待ちますよ』 

 

 銃器密売人とは思えない声に、匠は唸っていた。


  *

 

 刑事二人と電気屋の作業員がそれぞれ窮地に立たされる中。

 遠く離れた所でも、同じ様に窮地に立たされる者が居た。


「どぉいぅことだぁ!? 勝手に無くなりましたぁ!?」


 ダンと机を叩くのは、某所のお偉方である。

 パイロットを一々雇っては金が掛かると、喜び勇んで自動操縦のヘリコプターを手に入れた筈だが、それが無くなっていると言われ彼は焦った。


「いやぁ、俺にソレを言われても……無くなっているから言いに来ただけなんですが」


 そう言うのは、某所に雇われている青年である。 

 とは言え、正社員という待遇でもなく、臨時雇いの彼からすれば局のヘリコプターが一個二個消えようが知ったことではない。


「こぉのぉ……どうしてお前はそんなに他人ごとなんだぁ!? どでかい事件事故が在って、取材が要る時どうすんだ!?」


 そう罵声を飛ばされた青年だが、別に良いのではないかと思う。

 仮にヘリコプターを飛ばして取材しても、暇そうなアナウンサーがわざとらしく現状を宣うだけで意味は無い。


「そうですねぇ、電話とかして、他の局のに乗せて貰うとか?」

「馬鹿かお前は!? 視聴率稼ぎ時に、他局助けるアホが何処に居るんだよ!?」

  

 罵られた所で、大した責任もないアルバイトは驚かない。

 内心では、貴方の首が飛ぶんじゃあないですかと考える。


 某所の局を騒がせるヘリコプター。

 それは、いったん何処かへ降りた後、また何処かへ飛んだという。

  

 だが、それを局のお偉方が知る事はなかった。

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