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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
スリー
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我に自由を! その3


 ノインが喋れると分かっても、一光は憤慨するどころか喜んでいた。 

 ただ、今まで喋らなかったということには不満を示す。


「狡いよ、どうせなら今までだってお喋り出来たのにさ」


 少し頬を膨らませ、小熊に詰め寄る一光。

 主に詰め寄られ、丸い耳を閉じ、小さな手を頬に当てて如何にも困ったという仕草を見せる小熊。


「あ、まぁまぁ一光さん。 コレからたっぷり喋れますから」 

 

 今から小熊と一光の会議を傍聴して居る気は匠には無い。

 内心、そんな事は後でゆっくり二人でやってくれとすら思っていた。

 匠の本心はともかくも、そんな声に一光もフゥと息を吐く。


「……あぁ、ごめんなさい。 そうだね、私のは後で良いから、匠くんのお願い聞いてあげて」


 主の合図を聞いた小熊は、のそりと立ち上がる。

 傍目には、熊が立ち上がり、相手を威嚇する構えに見えなくもないが、ノインの身長は三十センチと少しであり大した迫力は無い。


 そんな小熊が何かをして居ても、匠と一光には見えなかった。

 大凡で十秒程過ぎた頃、小熊は構えを解く。

 ただ、如何にもな構えを取った割には何も起こらない。 


 ウゥンと鼻を唸らせ、匠は小熊を見た。


「あのさ、ノイン君。 あのー、何か分かった?」


 匠の質問に、今度は小熊が鼻を唸らせた。


『率直に言います。 僕には無理でした』

「は?」


 小熊の言葉に、匠は思わず顔を突き合わせる。

 小さな小熊である以上、自分も腰を折らねば成らないが、そんな事は匠は考慮して居ない。

 何よりも、無理だったという言葉に引っ掛かりを感じていた。


「おい熊。 無理ってのはよ、どういう事だよ?」


 結果に満足出来なかった匠は、少しだけ声を荒げるが、一光の手前、小熊に突っ掛かりはしない。

 心配そうに見ている一光も、匠の不満は理解出来る。


「ねぇノイン。 無理って言うけどさ、もうちょっと細かく教えてくれない?」

  

 主である一光の声に、小熊は小さく頷く。


『僕とエイトは同じ様に思われてるかも知れません。 ですが、僕とエイトは全く違うんです』


 そんな小熊の説明に、匠は、口惜しさに眉を寄せる。


「頼むよ……分かり易く教えてくれないか?」


『ですから、僕から来てと頼むことは出来ても、向こうが来てくれるとは限らないのです』 


 そんな説明に、匠は唇を噛んだ。

 

 ノインの言っている事は匠にも分かる。

 仮に、古い友人を呼ぶという事は出来ても、向こうが自分の元へ来てくれるとは限らない。

 それが匠には寂しかった。


「……俺、そんなに彼奴から嫌われてんのかな」


 直接言われた訳ではない。

 それでも、間接的にエイトから【会いたくない】と言われていると感じてしまう。


 顔を歪ませる匠に、一光はソッとカウンターから身を乗り出した。


 手を振り上げ、匠の背中を勢い良く叩く。 

 相楽商店の店内に、パチンと良い音が響いた。


「いってぇ!? ちょ、一光さん? 何すんすか!?」 

 

 いきなり背中を叩かれた事に慌てる匠だが、叩いた張本人である一光は、顔をしかめていた。


「……あの、一光さん?」

「そんなんでさ、どうすんの? そんなに簡単に諦めちゃうの?」

「えと? あの……」


 一光の剣幕に、匠は驚いていた。

 怒った彼女を見るのも初めてだが、ソレにもまして訴えかけて来るような一光の瞳に魅入る。


「相棒なんでしょ? あんなに一緒にさ、一生懸命に頑張ってたじゃん! だったらさ、探してあげなよ」

 

 一光なりの激励に、匠の顔色が変わる。

 暗がりに日が射す様に雰囲気迄もが変わっていた。


「すんません! お手間取らせて……あ! こ、今度来るときはキチンと買い物しますから!」


 それだけ言い残すと、匠は店の外へと駆け出す。 

 本来なら、冷やかしを鬱陶しいと思う一光だが、彼女は微笑んでいた。


「はいはい、期待しないで待ってますよーだ」


 朗らかな一光の声に、ノインも主を窺う。

 そんな小熊を、一光はソッと撫でていた。


「良いよね? あーやってさ、周りなんかぜーんぜん見えてないんだもん。 ちょびっとだけど、羨ましいかな。 あんな風に真剣に想って貰えるってさ」


 そんな一光に撫でられる小熊は、閉じていた。 

 

 本来なら、エイトがどう思っているのかを小熊は知っている。

 それを打ち明けるつもりはノインには無かった。


   *

 

 一光の次に匠が頼ったのは、長谷川である。

 ナナとの一件の際、電話番号は聞いておいた。 


 スマートフォンを取り出し、慌てて長谷川へと電話を掛ける匠。

 二度ほど呼び出し音が鳴ってから、通話が繋がった。


『はい、長谷川です』

「お久しぶりです! 加藤です!」


 匠が名乗ると、電波の向こうからは納得した様な長谷川の声。


『あぁ、この前入院したって聞きましたけど、大丈夫なんですか?』

「その節はどうも。 藤原さんにはお世話になりまして……て、そんな事よりも!」

『はい?』

「長谷川さん! ナナを貸して下さい」


 匠がそう言うと、数秒間は放し飼い止まった。   

 電波の向こうからは、何かを思い悩む様な唸りが聞こえる。


『……ウーン……どしたの? 急に……』

「あの、ウチの奴が……家出してしまいまして」


 恥を明かすことに躊躇は無い。

 今匠に必要なのはモヤモヤと悩む事ではなく、動く事だった。


 匠の声を聞いた長谷川の返事は『ちょっと待って』というモノだ。

 

「すんません、お願いします」


 本来電話中にお辞儀は必要無いが、匠はそうしてしまう。

 程なく、匠の耳にザリザリといった雑音が届いた。


『……で? 用は何?』

 

 素っ気なく、ぶっきらぼうな声。

 長谷川の丁寧な口調とは違い、如何にも電話するのも面倒くさいといった声だが、ソレを咎めるつもりは匠には無い。


 以前戦った相手に、頼み事をするのは気が引けるが、唾を飲み込んで匠は迷いを振り切る。


「こんな事、頼むのは悪いと思ってるんだ」

『前置きは良いよ。 で、何? もしかしたら、エイトを引っ張ってきてかな?』

 

 ズバリその物を言ってくるナナの声。

 ソレを聞いた匠は、ナナが何か知っているのではないかと勘ぐった。


「そうだけど……何で知ってる?」


 思わず匠が尋ねると、クスクスといった笑いが聞こえる。

 笑われる様な事を言った憶えは匠には無いが、文句を言うつもりも無かった。


『まぁ、姉妹ですからね。 でもさ、一つだけ云うけど、たぶん来ないよ?』


 ノインと同じ様なナナの返事に、匠は目を剥いていた。


「何でだよ、何でそんな事分かるんだよ?」

『だぁかぁらぁ、姉妹だから。 分かる? つーかね、一つだけ聞かせて貰える?』

「……なんだよ?」

『アンタさ、相楽一光の事、どう想ってる?』


 ナナの質問は、匠には思いも寄らないモノである。

 エイトの事を尋ねているのに、出て来た話題は一光。

 匠は、答えに窮していた。


「どうって……友達だよ。 大切な」

『フゥン? じゃあさ、エイトはどうなの?』

「なんだよ? なんだってそんな事聞くんだ?」

『そんなに難しい質問はしてないよ? ただの同居人? 使えるだけの相棒? それとも……』

 

 ナナが何かを言い掛けた。 その途端、通話が勝手に切れてしまう。

 通話は途絶え、ツーツーという音だけが匠の耳に届いていた。


「なっ……ちょ? おい? おーい!?」

 

 いきなり電話を切られた匠は、慌てて長谷川に掛け直す。

 だが、通話が繋がらない。

 慌てて耳にスマートフォンを当てても、聞こえるのは機会音声のみ。


『現在、この電話は使用中です。 御時間を取ってから、お掛け直しください』


 実に事務的な声に、匠は溜め息吐いてスマートフォンをポケットへと戻す。


 どうせならもう一度長谷川に掛け直したいのは山々だが、長谷川も刑事であり、急な仕事でも入ったのだろうと匠は諦める。


 必死に頼れそうな相手を探し、頭を巡らせると、ふと在る者に思い当たっていた。


「そうだ! 彼処なら!」 


 いつまでも一つに拘っては居られないと走り出す匠。

 だが、エイトへの拘りは捨てては居なかった。


   *


 匠が駆け回る中、離れた所では、長谷川が疑問に首を傾げる。

 その日は非番であり、のんびりと過ごして居たのだが、急に通話が切れた事には気づいて居た。


 飲んでいた紅茶のカップをソッと置き、スマートフォンを弄る。

 すると、画面にはナナが現れた。


「ねぇナナ。 どうして切っちゃったの? まだ、加藤さん話してたみたいなのに」

 

 率直に疑問をぶつけてくる長谷川に、ナナは首を横へ振った。


『あたしが切ったんじゃないよ?』

「じゃあ………加藤さん?」


 今度の質問にも、やはりナナは首を横へ振る。


『ううん、ソレも違う』

「じゃあ……まさか」


 ハッとした様な長谷川の声に、ナナは首を縦に振って見せた。


『あの子もさ、馬鹿よねぇ。 そうしたいなら、そうすれば良いって何度も言ってるのにさぁ。 ああやって、見えない守護神気取ってたって、モヤモヤしたのは無くならないのにね』


 匠との通話を途切れさせたのが誰なのか、ナナには分かっていた。

 だからこそ、ナナは笑う。

 言葉にこそしないが、素直になれば良いと内心思っていた。


 そんな時、長谷川が見ているテレビから、臨時ニュースが流れる。


『大変な事件がまた起こりました! また銃乱射です! 入ってきた情報によれば、犯人は職場で銃を乱射し、最後は自分で自分を撃ったと伝えられています! 現在、警察による調査が続いており……』


 そんなニュースに、長谷川は顔をしかめた。


「えぇ……またぁ? 最近さ、ヤケに物騒に成ったよね」


 実に困ったという長谷川の声に、スマートフォンの画面に映るナナの顔はムッとするモノへと変わる。

 姉妹の事も大事ではあるが、相棒である長谷川を悩ませる事件には、ナナも気を向けていた。

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