表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ファイブ&フォー
60/142

ホットドッグをどうぞ! その9


 匠が病院に担ぎ込まれてから翌朝。

 カーテンの隙間からは太陽の光が差し込み出していた。


 だんだんと日の光が時計の針の様に動き、匠の顔に当たる。

 

 光に反応したのか、ずっと寝ていた匠の鼻がウゥンと唸った。


 モヤが掛かった様な思考はハッキリせず、夢現を匠はさ迷う。

 何故自分は寝ているのかを考え出した途端、肩が揺さぶられた。


「匠くん!? 起きたの!?」

 

 心配する様な声に、匠は目を開く。

 ぼやける匠の視界には、真剣の顔の一光が見えた。


「……一光さん? なんでまた」


 友人である彼女を、匠は家に招いた憶えはない。

 記憶が曖昧で、何故自分が一光に肩を揺すられているのかが分からなかった。


「良いから! 今お医者さん呼んでくるから寝てて!」


 バタバタと動き出す一光を目で追うと、匠は辺りを見回す。

 見慣れない部屋に、首を傾げた。


「……此処……何処だ……」


 ぼそりとそう言うと、手に何かモフモフもした物が当たるのに気付く。

 それは何だと見れば、小熊が匠の手を叩いていた。


「よぅ熊。 なんでお前まで居るんだ?」


 匠が尋ねると、小熊は片腕で額の汗を拭う仕草を見せた。


『やれやれなのです。 君は本当に……まったく』

 

 小熊は手を腰に当て、鼻をグイッと上げるが、匠は意味が分からなかった。


   *


 目に懐中電灯当てられ、あれやこれやと聞かれた匠。

 思い返してみれば、殴られた辺りから記憶が無い。


「あー………くっそ……情けねぇなぁ」


 喧嘩に負けたという事に、思わずそう言う匠だが、頭を軽く叩かれてハッとした。

 叩いたのは一光だったが、唇を噛み締め、目は窄まっている。


「バカ……死んじゃったらどうすんの」


 喧嘩した事を咎める一光の震える声に、匠は「すんません」とだけ返事を返す。

 そんな様を見ていた医師は、手元のクリップボードに何やら書き込んだ。


「どうやら、峠は越えてもう大丈夫な様ですね。 一応、念のために半日ぐらいは居てもらいますから」


 カルテを書き終え、医師はそう言う。

 ソレを聞いた一光は、ぺこりと頭を下げていた。


「すみません御世話をお掛けします」


 そんな一光を、匠はまるで姉の様だと思いながら見ていた。

 医師が病室から出るなり、匠は辺りを見回す。

 何かを探している様な素振りに、一光は首を傾げた。


「ちょっと匠くん。 何探してるの?」

「あ、いや……一光さん。 俺のスマホ知りません?」


 匠の声に一光は少し戸惑いを見せる。

 目線を落とし、何かを思い悩む様な一光に、匠は鼻を鳴らした。


「あの、一光さん?」


 匠が思わず手を伸ばし一光の手に自分のそれを重ねる。

 柔らかさ体温も感じられるが、一光の手は小さく震えていた。


「横のね、棚に入れておいたから……」

「あ、あぁ、あざっす」


 一光の低い声に、とりあえず礼を述べつつ、匠は携帯端末スマートフォンを探す。

 エイトをほったらかしして居たことを思い出したからだ。

 

 早速とばかりに、携帯端末スマートフォンを手に取った匠は、声を掛けるべく口を開いた。


「ようエイト。 待たせたな?」


 慣れた様に匠はそう言う。 だが反応は無い。


「お? 何だよ、スネることねぇだろ? 悪かったって……なぁ?」

 

 今一度、携帯端末スマートフォンに声を掛ける匠。

 だが反応は無かった。


「お、おい? 冗談だよな? おーい」


 必死に携帯端末スマートフォンを弄る匠。

 そんな様を、一光は辛そうに見ていた。


 数秒後、匠は苦く笑って携帯端末スマートフォンを置く。


「あー、一光さんにも心配掛けちゃって……あ、ほら、アレですよね? バッテリー切れみたいだし……参ったなあ、充電器持ってきてないな」


 軽く頭を掻きながら、匠は自分を笑った。 

 それを聞いても、一光は何も言えずに目を泳がせる。

 昨日の時点で、匠の携帯端末スマートフォンは機能が止まったままだ。

 それを知っている一光は、匠に言うべき言葉が見つからす押し黙る。


 携帯端末スマートフォンも動かず、一光も何も言わないからか、匠は、フゥと息を吐いていた。


「参ったなぁ。 あの一光さん」

「うん? 何?」

「えーと……ちょっと申し訳ないんですが……飲み物……お願い出来ますか?」

 

 自前の小銭入れをそう言って差し出す匠。

 一光は、ソッと差し出された小銭入れを受け取る。


「うん、何が良いかな?」 

「えーと……あ、じゃあ……ウーロン茶とかで」

「分かった、直ぐ買ってきてあげる」


 サッと立ち上がり、病室を出る一光。

 それを見送った匠は、ベッドに腰掛ける小熊を見た。


「おい熊、エイト……知らないか?」


 この場に置いて、ノインを頼るしかない匠に、小熊は溜め息を吐く仕草を見せる。


『……こう言うとき、在りません? 独りになりたいって』

「どういうこった?」


 匠の訝しむ声に、小熊は目を窄めた。


『僕にはまだ難しいのですが、そんな時在りませんか? 何か失敗してしまった、辛いことが在った……そんな時、誰にも見られたくない。 そんな感じでしょうか』


 ノインの声に、匠は唇を噛んだ。 

 喧嘩に負けた事は仕方ないか、相棒の行方が分からず気になる。


「頼むからさ……呼んでくれるか? 彼奴を」


 真摯な匠の声に、小熊は頭を横へ振った。

 思わず、匠は小熊を掴み目の前持ってくる。


「おい! 何でだよ……彼奴を呼べないってのか?」


 咎める匠だが、小熊の黒い瞳はジッと匠の目を見ていた。


『貴方なら分かる筈です。 ずっと一緒に居たのでしょう?』

「……そりゃあ……でもよ、居なく成っちまう事はねぇだろ?」

『何がエイトをそうさせたのかは分かりません。 ですが、貴方に分からないのに、僕に分かるとでも?』

 

 ノインの声に、匠は小熊を放していた。

 放された小熊はポフッとベッドに着地すると、自分の手で毛の乱れを直す。


 匠は、ジッと自分の手を見ていた。


「……じゃあよ……彼奴は……いつ帰ってくるんだ?」

『分かりません』


 小熊の声に、匠は肩を落とす。

 何か大切なモノを無くした様で、酷く寂しさが募った。


 ノインにしても、エイトが何処にいるのかは知っている。

 だが、そもそもエイトにも恩があるノインは、匠とエイト、どちらに肩入れすれば良いのか分からなかった。

 

 もう一度、匠は携帯端末スマートフォンへ手を伸ばす。

 また試せば、エイトが帰って来る筈だと。

 だが、匠の手が届く前に、病室のドアが開いた。


「ごめんなさい、待たせちゃって」


 そう言うのは、ペットボトルを抱えた一光であった。

 一光には良い格好したいのか、匠は慌てて顔を取り繕う。


「あ、いや、全然待ってないから……ありがと」

「いいよいいよ、はい、ウーロン茶」

 

 飲み物を甲斐甲斐しく手渡す一光に、ソレを受け取る匠。

 二人の距離が縮まるのを、ノインはジッと見ていた。


 小一時間ほどが経つと、食事の配膳が始まる。  


 入院している匠にも勿論それは出た。


「あー、一光さん。 もう、大丈夫っすよ……だから……」


 帰って欲しいとは思っていない匠だが、一光も食事をせねば成らない事は分かっている。 

 匠の声を聞いた一光は、フフンと笑いながらビニール袋を見せた。


「実はねぇ、さっき飲み物買ったとき一緒に買っといたの」

 

 そう言うと、一光は袋から菓子パンを取り出す。


「まぁ、匠くんはソッチで、一緒に食べよう!」


 朗らかな一光の声に、匠はうんと頷いていた。

 

  *


 食事中、取り留めのない話が交わされる。


「なんか……病院の食事って……アッサリですなぁ」

  

 出された物を食べながら、可能な限り言葉を選ぶ匠に、菓子パン頬張る一光は微笑んでいた。


「仕方ないっしょ? ほら、病人の為のお食事だしさ。 でもほら、直ぐ出られるんだし、後でなんか食べに行こうよ」

 

 思わぬお誘いに、匠は目を丸くしながらも箸を進める。

 味気ない食事ですら、大分マシなモノに思えた。


 穏やかな時間が流れる中、トントンと病室のドアが叩かれる。


「はーい」「どうぞ」

 

 匠と一光の声が響き、ドアが開かれた。

 現れたのは背広姿の刑事、藤原である。

 

 部屋の中を見るなり、目を円くしたが、直ぐに笑みを浮かべた。

  

「よう加藤、起きたって聞いたからさ」

「お見舞いに来てくれたんですか?」

 

 一光の声に、藤原は軽く首を横へ振る。


「いや、悪いがそうじゃない、仕事でね。 すまないが、昨日の事件、何が在ったか教えて貰えると助かる」


 病み上がりな匠だが、多少体が痛む程度であり、大きな問題はない。

 渋々ながらも、知り合いの為だと首を縦に振った。


「まぁ、大丈夫っす」

 

 匠の了承を受け、一光は空いている椅子を示す。


「あの、藤原さん。 良かったら椅子でも」


 一光の声に、藤原は笑う。

 匠と一光は何事かと首を傾げるが、藤原は直ぐに笑うのを止めた。


「いやすまん。 椅子はいい。 二人を笑ったつもりは無いんだ。 でもよ、この前見たときよりも、だいぶ仲良く成ったんじゃないかってな」

 

 そんな藤原の声に、匠と一光は揃って目を泳がせてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ