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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ファイブ&フォー
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ホットドッグをどうぞ! その6


 田上電気店のその日の仕事は、午後に修理の依頼とパソコンの問題相談数件が在るだけであった。


 エアコンの調子が悪いので来てくださいと呼ばれれば、匠は田上に付き添って作業に当たる。

 

 最近の電化製品はメンテナンスフリーとも言われるが、全く手入れをされなければ性能は落ちるのも無理はない。

 殆ど掃除すらされていない細部を丁寧に掃除し、機器を確かめる。


 ソレを解決し、次に当たった依頼は匠とエイトの出番であった。


 田上は機械の専門家ではあるが、ソフトウェアに関してはそうでもない。

 となると、エイトの独壇場と言える。


「た、大変なんです! 嫁さんと子供はちょっと出掛けてますんで! なんとかしてください!」


 依頼が在った家を訪ねるなり、そんな悲痛な声が田上と匠に掛けられた。 


「ははぁ、ともかくモノを見せてください」


 事務的に対応しながらも、匠はふと思う。

 訳の分からないモノには触れてはいけないのではないかと。

 欲をかかず、無理に触れさえしなければ、そもそも問題は発生しないのではないのかと思った。

 だが、それを口に出したりはしない。


 人が間違ってくれるからこそ、自分とエイトは仕事が貰える。


 もし、人が間違いを犯さず、品行方正にしていればエイトの出番など無い。

 内心同情しつつも、匠は作業に当たる。


 携帯端末スマートフォンを件のパソコンへと繋げた。

 本来繋げる必要は無いのだが、あからさまにパッと直すというのは不審だろうというのが理由であった。


「頼むぜ、相棒」

『なに、こんなのはお茶の子さいさいだよ』


 ボソッとした匠の小声に、エイトも小さく答える。


 依頼した客からは、傍目にはパソコンに繋いだ携帯端末スマートフォンを匠が弄っているようにしか見えない。

 数秒後、エイトの仕事は終わった。 異常だったパソコンは普通へと戻る。


 繋いだコードを外し、匠は携帯端末スマートフォンを作業着のポケットへと戻しつつ、依頼者を見た。


「はい、これで大丈夫だと思います。 ですが、これからは気を付けてください」


 作業完了を告げつつ、注意を促す。

 それが意味が無いと分かっていても、言わずには居られなかった。


   *


 仕事を終え【田上電気店】とステッカーが貼られた車へと戻る匠と田上。


 助手席に座るなり、匠はフゥと息を吐いた。


「いやはや、これで四件目っすけど、後在りましたっけ?」


 そんな匠の声に、運転席に座る田上は手元のクリップボードを確認しながらウンと鼻を鳴らす。


「あぁ、後少しな。 明日に回してもまぁ良いが、今日片付けでも良いだろ」


 腕時計を確認しながらそう言う田上の声に、匠はフゥムと唸る。


「困ってるみたいなら早くしてあげた方が良いんじゃないですかね? でと、それはどんな頼みなんですか?」

 

 匠の質問に、田上はクリップボードをもう一度みた。


「蛍光灯を数本交換に……消耗品が少しだな。 軽食屋みたいだぞ」


 田上の声に、匠はピンと来る。

 思い当たる軽食屋は一つしかなかった。


「あー、田上さん? その店って……もしかしたら、5アンド4って店じゃ?」


 匠の声に、田上はスッと顔を上げて笑った。


「おう、なんだ? 知り合いか? なら良いだろうに? 末永いお付き合いってのが一番だからな」

 

 個人営業の電気店である田上からすれば、偶にポンと商品が売れるよりも、時折修理や交換を頼まれた方が良い。 

 大型の店舗であれば、薄利多売という方法も在るが、個人ではそれは難しかった。 

 経営者である田上とは違い、匠は雇われ者だが、別に異論はない。

 軽食屋を営んでいる者とは既に知り合いであった。


「そうっすね。 ま、行きますか」

 

 そんな声に合わせて、田上と匠を乗せた作業用のバンは静かに発進した。


  *


 程なく、田上電気店のバンは軽食屋【5&4】の近くへと辿り着く。


 早速とばかりに、田上は店舗へ挨拶へ行き、匠は後部に積まれている蛍光灯を何本が取った。


 こういった作業の場合、エイトに出番は無い。

 相棒を同族と話させてやりたい匠、こっそりとポケットから携帯端末スマートフォンを取り出し口を近づける。


「よ、どうする? 俺が作業してる間、向こうと話すか?」


 そう尋ねると、携帯端末スマートフォンの画面に映る少女は首を横へ振った。


『無茶を云うな。 向こうも仕事中だろうに?』

「まぁそうだな。 おけ、待っててくれ」


 軽くエイトと話し、携帯端末スマートフォンをポケットへと戻す。

 蛍光灯を抱え、店の方へ行くと店員と目が合った。


『あぁ、どうも』

  

 時間的に客がひけているからか、女性店員であるフィーラは軽く匠会釈を寄越し、匠も返す。


「いやいや、お邪魔はしないんでお仕事頑張ってください」

『すみません、お願いしますね』

 

 元の造形が素晴らしいだけあり、フィーラの挨拶は実に丁寧に思える。 

 この手の仕事は時折在るが、人よりも機械の方がマシだと匠は感じていた。


 早速とばかりに作業に入る田上と匠。

 専ら蛍光灯を交換するのは田上がやり、それを匠が手伝う形である。

 

「ほい、新しいのくれ」

「はい、どぞー」


 古い蛍光灯を受け取り、匠は新しいのを渡す。

 新しいモノはLED型の蛍光灯であり、当分は切れる心配は無い。

 交換するだけなので、仕事自体はそう時間は掛からなかった。


「はい、終わりました」


 交換を終え、作業の終わりを告げる匠。

 すると、店の奥からカップ二つを手に持つフェムが現れる。


『ご苦労様です。 何もないんですが、とりあえずどうぞ』


 二人分の飲み物を差し出すフェムだが、匠にとってその気配りは有り難い。 

 色々な所で作業に従事しても、飲み物を渡されるというのは珍しい。

 そもそも労われるという事自体稀有である。


 大半の人間は作業を終えたと告げでも特に何も無い。

 金を払うのだから当たり前だという向きすら在る。


「すみません、ありがとうございます」「あざっーす」


 コーヒーを受け取り、礼を述べる田上と匠。

 丁寧な田上に比べると、匠のそれは些か雑なのだが、フェムは特に気にせず仕込みの為が厨房へと戻っていった。


 ちびりちびりとコーヒーを飲む田上だが、店員が気になるのかチラチラとフィーラとフェムを窺う。

 

「よ、お前知り合いなんだろ?」


 田上の声に、匠はウンと頷く。

 

「そうですよ? どうかしました?」


 あっさりとした匠の声に、田上は目を細めた。


「いやぁ……あの二人ってすんげー良い顔してるなってさ」

 

 そんな田上の声に、匠は唸りつつ迷う。

 顔の造形を言うならば、まず間違いではない。

 フィーラとフェムの二人はゲームからキャラクターを抜き出したといっても差し支えない美貌である。


 但し、それはあくまでもドロイドの出来であり、田上が言っているのは別の意味ではないかと匠は考えた。


「……それは、見た目がって事じゃなく、良い夫婦って意味ですかね?」 

 

 匠の問いに、田上はウンと唸る。


「ま、両方かな」


 実に気軽な声だったが、匠もそれに間違いは無いと思えた。


「ご馳走さまで~す」「ご馳走さまです」


 飲み終えたコップを持ちつつ、帰る支度を始める田上と匠。 

 既に日は落ち掛け、客も増え始めて居ることから、邪魔はしたくない。


『すみません、またよろしくどうぞ!』


 早速と支度を始めるフェムにカップを手渡した。

 帰り際、匠は二人のドロイドが夫婦の様に寄り添い仕事をする姿を見て、何か感慨深いモノを感じる。


 人であろうと二人に、匠は何か胸の辺りに暖かいモノを覚えた。


 軽食屋の裏手から出る田上と匠だが、ふと、匠は視線を感じて足を止める。 

 振り向けば、其処には小さな子供、ティオが居た。

 見た目こそ小さいだけだが、それでも、匠は軽く手を振る。


 ティオもまた、匠に手を振ってくれた。


  *

 

 後は帰るだけな田上と匠だが、ふと、匠は在ることを思い付く。


「田上さん、良かったらこの店でなんか買ってきません?」

「んぁ? 何だ急に?」

「いやほら、夕飯用意するのも面倒くさいから、買ってっちゃおうかなぁと」


 匠がそう言うと、田上さん手をヒラヒラと振る。


「そう言うんなら買ってきて良いぞ、待っててやるから」

「あれ? 田上さん買わないんですか?」

「前もって言ってないからな、俺はたぶん用意されてるから、ほれ、行ってこい」

 

 田上の左手の指輪が示すように、誰がソレを用意してくれているのかを匠は想像した。

 だが、自分もエイト用に既に一体ドロイドを注文している。

 自分もいつかはと思いつつ、匠は「すいません」と店の表へ走った。

 

 買いに行くのはこれで二度目だが、別に焦りは無い匠。

 だが、いざ店の前に来た時、匠は目を剥いていた。

 

 漂ってくるのは、煙草とアルコールの臭いと、キツい香水かデオドラントの匂い。

 それらはない交ぜになり、マトモな匂いとは言い難い。 

  

 それだけならば、匠も驚きはしなかった。

 目を瞑り、ただ道を空けて通り過ぎれば関わる必要は無い。

 

 それにも関わらず、匠が目を剥いて居たのは、その臭いを纏った数人がフィーラに言い寄っていたからだ。


「姉さん暇? お仕事終わってからでも良いからさ、ね?」

「そそ、暇ならさ、遊ばない?」


『お客様、困りますから』


「じゃあさ、なんか買うからさ、駄目?」


 そう言うとチンピラの一人が勝手に腕を伸ばし店の品をつつき出す。

 不貞の輩という者は世界中何処にでも居る。


 それは、仕方のないことだと分かっていても、何故かこの時、匠の足は動いていた。

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