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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ファイブ&フォー
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ホットドッグをどうぞ! その4

「いやー、今日は楽しかったよ。 またね?」 

「此方こそ、また宜しく」


 二人で適当に遊んだ後、別れる訳だが、離れていく一光の背中を匠は見送る。

 軽食屋の店員兼任で主をしているフィーラとフェムを想うと、いつかは、もしかしたらという想いが在った。


 どうせなら一光に声を掛けようかとも想うが、匠はそれが出来なかった。

 自分の勝手な思い込みで、下手をしたら関係が壊れるのではないかと。


「バッカだよなぁ、俺ってさ」


 自らを意気地なしだと責める匠。 どうせなら、当たって砕けろとも想う。

 グッと息を飲み込み、いざ顔を上げた時、そんな匠のポケットから声が響いた。


『おーい、まだ帰らないのか?』

 

 そんな声に出鼻を挫かれた匠は、溜め息漏らしながら携帯端末スマートフォンを取り出していた。


「おいおいエイト。 そりゃあないだろ?」


 相棒を窘める匠だが、画面上の少女はフンと鼻を鳴らす仕草を見せていた。


『何を言う。 いつまでも突っ立って居ても仕方ないだろう?』


 エイトの声に、匠は唇を噛みながら一光を探すが、既に姿は見えない。

 今はコレで良いかと、フゥと息を吐く。


「あのなぁ……まぁ、良いか」

『さ、帰ろう。 それともタクシーでも呼ぼうか?』

「いいよぅ、歩きま~す」


 がっかりとした匠の声に、画面上の少女は肩を竦めていた。


『大金得た割にはケチくさい……別に良いのでは?』

 

 エイトの指摘に、匠は首を横へ振っていた。


「んなもん、ポンポン使ってればあっという間に無くなっちまうよ。 大事に大事に使うもんさ」

『………そうか。 ま、君がそう言うならソレで良いさ』

 

 そう言うエイトの声には、安堵の響きが在った。


  *


 自宅へ帰ってきた匠は、上着を脱ぎながら呻く。


「……うーい、ただいまってな」


 それを聞いたのか、独りでにパソコンの画面が灯った。

 浮かぶのは少女の姿を取ったエイトだが、顔には微笑みがある。


『はい、お帰りなさい』


 エイトの柔らかい声に、匠は目を丸くしていた。

 ついさっきまで、エイトは確かに携帯端末スマートフォンに映っていた。

 相棒が様々な電子機器に移れる事は知っていても、【お帰りなさい】という言葉は匠に取って不意打ちと言える。


「あ……おー、た、ただいま……って、エイト?」


 いきなりの事を訝しむ匠に、画面上の少女は悪戯めいた笑みを見せる。


『なぁに、偶には良いと思わないか?』


 スピーカーから聞こえる声に、匠はウゥンと悩む様に鼻を鳴らす。


「あぁ、まぁ、ヤモメの俺には有り難いけどさぁ」

『何を言う? 私が居ればヤモメではないだろう?』


 エイトの声に、匠の鼻が今一度ウゥンと唸っていた。


 ともかくも、夕飯の用意でもしようとする匠は動く。

 当たり前だが、ご飯を食べようと思っても独りでに炊飯器は動かない。

 米を研ぎ、水を入れ、スイッチを入れて初めて機器は動く。

 

 匠の作業を見ていたエイトは、何かを思い詰めた様な顔を浮かべるが、調理に忙しい匠にはソレを見ている暇はない。


『なぁ、友よ』

「あん? どうしたい?」

『考えたんだ。 もし……もし良かったら、ドロイドを一体購入しては貰えないか?』


 そんな声に、匠は思わず手を止めていた。


「あー、まぁ、そりゃあ買えるけどよ」 

  

 エイトが何かを欲しがるというのは、匠に取っては実に珍しく感じる。

 よくよく考えれば、トラブルバスターとしての仕事の大半はエイトの手柄であり、報酬を使う権利は在った。  

 

 少し考えてから、調理をしながら匠は口を開く。


「じゃあさ、どんなのが良いんだ?」

 

 そう言いながら、匠はフライパンで人参の細切り、おろしニンニク、シーチキンをごま油で炒める。

 味付けは出汁の粉末、濃縮のカツオ出汁、醤油と砂糖少々であった。

 そして最後に、溶き卵を入れて味をまろやかにする。


 調理に勤しむ匠を、パソコンに繋げられたカメラは捉えて放さない。


『うん、ソレなんだがね。 暇が出来てからで良い。 一緒に見て貰えるかい?』


 真剣なエイトの声に、匠は「良いよ、チョイと待ってくれ」と答えた。


 軽く一品作り終え、後は炊飯機が飯を炊き上げてくれるまで暇である。

 ソレまでの暇つぶしだと、匠はパソコンの前に座った。


「なんつーかさ、コレでネットやるのひさびさかな」


 マウスを持ち、キーボードを軽く叩く。

 そんな操作も在る意味久し振りと言えた。


『まぁ、普段は私が手伝っているからね』

 

 スピーカーからは相変わらずの高めの声が聞こえてくる。

 そして、画面の端には、あの歪な円が存在を示すように浮いていた。  


「顔はそっちなのな?」


 匠が茶化すと、歪な円は唇を蛸の様に窄める。


『君には分からんだろうね? リアルタイムで画面と連動させるというのがどれだけ手間が掛かるか……』

「わぁったわぁった、さてさて? で、ドレが良い?」


 エイトの説明をすっ飛ばし、匠は早速ドロイドのカタログを見ていた。

 

 カタログには様々なタイプのドロイドが列挙されている。

 警備型の無骨なモノから、介護用の柔らかい外装を纏ったモノ。

 

 他にも、柳沢家が買った様な人型から、果てはノインが入っている小熊の様な動物型まで幅は広い。


「ははぁ、こりゃあよりどりみどりって奴だ。 さてさて? エイトはどれが良い?」

 

 匠がそう尋ねると、画面上の歪で小さな円は、忙しそうに動き回る。 

 その様は、カタログを舐める様に見ている様に見えた。

 数秒間は画面を泳いでいたエイトだが、急に歪は丸は匠を見る。


『友よ、君だったらどれが良い?』


 エイトの質問に、匠は片方の眉をヒョイと上げた。

 

 既に前例も在り、エイトがドロイドを自由に動かせる事に疑いは無い。

 となると、後はどれを買うかという事だけだった。


「おぅ? て、俺の好みで選んで良いのかよ? なんつーんだろうな、エイトが入る訳だろ?」

『まぁまぁ良いじゃないか。 友の意見を参考にしたいのだ』


 相棒の返事にフゥンと鼻を鳴らしつつ、匠は、人型の項目を選ぶ。

 だが、人型と一言に言っても数は膨大と言えた。


 男女の区分けは勿論、其処から更に選択肢は広がる。

 小柄から二メートルに届きそうな身長の高さもあれば、痩せ形からふくよかな形まで細かく分かれていた。

 更には顔の形から肌の色、骨格の微妙な違いから、髪の毛の色、瞳の色、何もかもを選択するとなると幅は広すぎる。


「はぁ……こりゃあ選ぶのに苦労すんぜ」


 以前、柳沢家の夫妻も同じようにドロイドを用意して貰った事を匠は思い出す。

 あの時は、夫妻はあくまでも自分の娘にソックリに造るという目的が在ったからこそ直ぐに決まった。

 だが、匠はどれと言われても悩んでしまう。


「てか、エイトはどれが良いんだ? コレだけ在ると悩むぞ?」


 そんな匠の声に、画面上の歪な円はゆったりと動く。


『なに、急かしはしないよ。 ゆったりとじっくり選んで欲しい』


 エイトの返事に、匠は背を反らして腕を組む。


「えー、でもさ、どうしたん? 急に欲しいってさ」


 ドロイドを欲しがる理由を尋ねると、画面上の円は慌てた様に動く。


『あ、いやー、あー、なんだ? あ、ほら! 私も……ノインの様に動ければ、君の部屋の掃除くらいしてやれるぞ? うん』

  

 何とも言えない戸惑いを見せるエイトに、匠は今一度、画面に向き合う。


「まぁ、お前がそんなに言ってくれるってんなら、頑張って選ぶか」

『よーしよし、その意気だ、友よ』

 

 そうして、真面目に匠とエイトのドロイド選択が始まった。


 但し、コレがなかなかに難しい難問題と言える。

 匠が冗談で小柄な少女を選べば、画面上の歪な円は顔を歪ませる。


『そのタイプはどうかと思うぞ? 一応規格としては在るがね、容量の関係で出せる力も高が知れているだろう?』

「力っておま……喧嘩でもするつもりかよ?」

『何を言う? ドロイド全般に言える事だが、余程小型でもない限り人に遅れは取らんよ。 まぁ、荷物を持つときに困るだろ?』


 エイトの声を匠は「ハイハイ」と流しつつ、次に選んでみたのは有り体に言えば肥満体と言えるモデル


『冗談だろう? 君は私にそんなイメージを持っているのかね?』

  

 軽いおふざけのつもりだった匠だが、エイトの反応は予想外である。

 慌てた様な声に、匠は少し意地悪く笑っていた。


「悪い悪い……ほら、一応見てみるだけならタダだろう?」


 親しい友人に悪戯して面白がっている様な匠に、画面上の歪な円は顔をムっとさせる。 


『ええい! 仕方ない! 私が選ぶ!』

 

 業を煮やしたのか、エイト自身がカタログを探り出す。


 パソコンの画面が勝手に動くという事態だが、匠は慌てない。

 寧ろ、それだけエイトが必死に成っているのだろうと思った。

 そう思うと、匠は笑うのを止める。

 

 何故相棒が今更に成って身体を欲しがるのか、その理由を考えた。


 恐らく、軽食屋【5&4】の主である二人と、その子である十番ティオに触発されているのではないかと。

 今までずっとエイトは実体を持とうとはしなかった。

 

 それが今や、躍起に成っている。

 エイトの心情の変化に匠は自身も悩むが、そんな時、スピーカーからは声が出ていた。


『どうだ! 友よ!』

 

 そう言うエイトの選択を匠は見てみる。

 顔こそ違うが、其処には自分と同年代の目を閉じた女性が映っていた。

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