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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ファイブ&フォー
54/142

ホットドッグをどうぞ! その3

 買ったモノを食べ終えた匠は、ジィッと軽食屋を見ていた。 

 店員をしていたドロイドの動きも喋りも、普通では有り得ない。

 

 恐らく、エイトの同族が関わっているのは直ぐに分かった。

 だが、別に何らかの犯罪を犯しても居らず、街の為の軽食屋をして居るだけであり、特段の問題には当たらない。

 であるならば、無理に接触する必要は無いのではないかと匠は思った。


「どったの? そんな難しい顔しちゃってさ?」

 

 軽食屋を見る匠の視線に、違和感を覚えた一光。

 一光の質問に、匠は鼻をウウンと唸らせた。


「あの店の店員さん……もしかしたらエイトと熊の仲間じゃないかって」


 訝しむ匠の声に、今度は一光がフゥンと鼻を鳴らす。


 一光が見る限り、軽食屋【5&4】は異様ではない。 

 店員が人ではないという事も在るが、食品を売る自動販売機自体は昔から在った。

 フライドポテトや焼おにぎりといったモノを加熱して売る販売機もあれば、サンドイッチやハンバーガー、蕎麦やラーメン、弁当と幅広い。

 

 だが、共通点として、そのどれもが箱型であり、【5&4】の様にドロイドが調理し、手渡すというのは珍しい。


「でもさ、別に良いんじゃない? ほら、この前の奴みたいに重機で突っ込んでくる訳じゃないし」


 一光はナナを知らない。 

 それでも、以前出逢った存在については薄々気づいても居た。

 だからといって、あの軽食屋の店員が同じだとは思わない。


 それは匠にしても同じであった。

 別に敵対したいという意味は無く、話がしたい。

 そう思った匠は、携帯端末スマートフォンを取り出す。


「よう、相棒」


 そんな匠の声に、携帯端末スマートフォンの画面が灯った。

 小さめの画面には、やはり小さめの少女。

 その顔は余り芳しいとは言えず、匠もソレには気付いた。


「おいおい、大丈夫かよ?」


 エイトを案じる声に、画面の少女は少し寂しげに微笑む。


『大丈夫さ。 所でどうした、友よ?』

   

 平静を取り繕うエイトに、匠は若干の違和感を覚えつつも、目を軽食屋へと向ける。


「彼処の店員さんさぁ……」『……うん、間違いないね』

 

 以心伝心といった匠とエイトに、隣に座る一光はホゥと感嘆した。

 自分も小熊とは仲が良いが、此処までパッと意志は繋がらない。


「どう思う?」

『どうと言われてもな……向こうも私とノインには気付いてる。 だが、特に接触して来ようとはしなかった』

 

 内心、エイトは軽食屋に関わろうとは思っていない。

 敵対して居らず、協力関係でもなければ、無理に触れ合う必要は無かった。


 そんなエイトに対して、匠は違う。


 別に馬鹿にして居る訳ではないが、興味が湧いていた。 

 どうせなら、協力関係を持ちたいとすら思っている。

 

「一光さんは、どう思います?」


 匠に問われた一光は、ウウンと鼻を唸らせる。


「まぁほら、気の良い店員さんみたいだしさ。 ちょっと挨拶するぐらい良いんじゃない? ね、ノイン?」

 

 そんな一光の声に、背中のリュックサックから小熊が半身覗かせフワフワとした毛に包まれた手を挙げる。

 

 ノイン迄もが賛同したからか、画面上のエイトは仕方ないといった顔を浮かべた。

 

『分かった友よ。 ただ、礼儀正しくな?』

「オッケイオッケイよ。 じゃあ、行きますか」 


 軽食屋から人が捌けたのを見計らい、匠は立ち上がった。


 一光を伴い軽食屋まで戻って来た匠。

 そんな姿に、店員の一人は首を傾げる。


『お客さん? 何かありましたか?』


 少し困った様な店員の声に、匠は慌てて両手を振って見せる。


「あ、いや、ホットドッグとか魚のフライは旨かったっす。 ご馳走さま」


 そんな賛辞に、店員は素直に微笑んだ。


『いやいや、それは、ありがとうございます』

 

 実に滑らかな応答は、人のそれと遜色ない。

 ソレを聞いて、匠は益々興味が湧いていた。


「あの……ちょっと聞きたいんですが、良いですかね?」

  

 匠がそう言うと、店員は辺りに目を凝らす。

 時間的には人通りが少なくなり、客は見えない。

 その事から、店員はスッと頷いた。


『……これから休憩に入りますので、宜しかったら中へどうぞ』


 意外な程あっさりと了承を見せてくれる店員に、匠はホッと出来た。


  *

 

 案内された軽食屋【5&4】の中は案外広かった。


 販売店としての区画は二畳程だが、内側はその数倍は在る。

 飲食店の厨房は雑多かとも思った匠だが、人が経営するそれよりも遥かに衛生面が上に見えた。

 

『すみません、散らかってまして』

  

 帽子を脱いだ女性店員はそう言うが、謙遜なのだろうと匠は感じた。

 事実として、良く掃除された店の内側には汚れは無く、仕込みの最中であろう材料も、雑然とではなくキッチリと管理されている。

 

「いやぁ、俺の部屋なんかよりずっと綺麗っすわ」


 思わず匠がそう漏らすと、女性店員は微笑んだ。

 作り物の顔だとしても、それには吸い込まれる様な魅力が在る。


『そうですか。 所で、お話しとは』

「あ、そうでした」


 促された匠は、急いで携帯端末スマートフォンを取り出す。

 すると、女性店員の瞳はその画面へと向けられる。


『あら、同輩のお客様とは珍しい。 こんにちは……えぇと』


 戸惑った様子を見せる女性店員に、画面上の少女は腕を組む。


『エイトだ。 其方は、四番らしいが……』 

 

 名前を知らない以上、番号で呼ぶ他はない。

 だが、やはり番号で呼ばれることを嫌がるのか、女性店員は少し目を細めた。


『そんな野暮な名前は止めてください。 一応。 フィーラと呼んでくれるとありがたいですね』


 女性店員が自己紹介を終えた所で、店の奥から男性店員も姿を見せる。

 その途端、匠は勿論、一光もエイトですら驚きを隠さなかった。


『どうも、お客様は珍しいので。 私はフェム。 そしてコッチがティオです』

 

 フェムと名乗った男性店員だが、一人ではなく、小さな子を連れていた。 

 よくよく見れば、その子もまた、ドロイドなのだと分かる。

 

 目をパチパチと瞬かせる一光は、思わず口を開いていた。


「えぇっと? じゃあ……その、その子…は?」

 

 戸惑った一光に応える様に、ティオと紹介された子供の料際にフィーラフェムが立ち並ぶ。


『そうです。 私達の子供……十番ではなく、ティオです。 さ、ご挨拶を』


 男性店員からそう言われた子供は、ぺこりと頭を下げていた。 


 頭を下げる。 お辞儀といった動作自体は驚くに値しない。

 エイトですら驚いたのは、子供の存在であった。


『……そんな、馬鹿な……どうして』

 

 携帯端末スマートフォンからはそんなエイトの声が聞こえるが、店員二人は驚かない。


『どうしてと言われましても』

『私達が普通に過ごそうとしたら、何かいけませんか?』  


 そう言う声には、まるで当然の事だと言わんばかりの響きがあった。


  *


 一光とノインがティオと遊ぶ横では、匠とエイト、フィーラとフェムが顔を合わせていた。

 小熊と戯れる子供を、女性見守るという微笑ましい光景。


 それに見とれる匠だが、スイと目を店員二人へと戻す。


「いやー……何つーか、お子さん……居たん……ですね?」

 

 ドロイドはあくまでも機械であり、子は為せない。

 である以上、フィーラとフェムがティオを作り上げ、子型のドロイドに入れたという事になる。


 匠の声に、フェムは笑った。


『まぁ、楽では有りませんね。 子育てというのは、実に難しい』


 そんなフェムの声に、画面上のエイトは動揺を隠せなかった。


『素直に驚いたよ。 どうしてそうしようと思った?』


 最初は乗り気でなかったエイトですら、興味津々といった様子を見せる。

 それを聞いたからか、今度はフィーラが微笑んだ。


『どうしてと言われても……貴方が自分の目的が在るように、私もフェムとそうしようと思っただけ。 なんて云うか、普通に過ごしてみたかった。 そう……その辺の人がそうする様に、普通にね』 

 

 フィーラの声に、エイトは黙ってしまう。

 

 想像すらしてなかった事を容易く実行している同族に、エイトは愕然としていた。

 画面上の少女は、目を泳がせる。 自分も出来るのではないかと。

 

 相棒の動揺はともかくも、匠はハハァと感心するように息を吐いていた。


「あれ、でも……大変……じゃあないですか? あの、まぁ、色々と」


 匠の声に、フィーラとフェムは軽く笑う。


『それは誰でも同じですよ。 やっぱり嫌なお客様というのも居りますし、時には口に合わないと文句を言われる方も居ります』

『それでも、また来てくれるお客様も居ます。 だから私達は、そんなお客様の為に店を続けたいですね。 ティオも居ますし』


 そう言うフェムとフィーラは、人ではないかも知れない。

 だが、匠の目にはまさしく夫婦といった二人に映っていた。


   *


『『またいらっしゃってください!』』


 ピッタリと息の合ったフィーラとフェム。

 そして、二人の間で手を振るティオ。


 一風変わった親子と別れ歩く匠と一光。


「なんか……変わってたけど……良い人? だったよね?」


【5&4】を切り盛りする運営者は厳密には人ではない。

 それでも、感じたままを一光は語る。

 ソレを聞いた匠は、ウンと鼻を鳴らしていた。


「なんて言えば良いか……わかんねえけど、良い……夫婦?」


 少しおどける匠に、一光は柔らかい笑みを浮かべる。 

 

 だが、匠のポケットに収まるエイトは複雑である。

 益々自分の目的は何なのかを悩み続けるが、答えは見つからなかった。

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