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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ファイブ&フォー
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ホットドッグをどうぞ! その2

 出掛ける前に匠は着替えるのだが、エイトにはその必要は無い。

 そもそも実体を持たない存在である。

 それが、エイトに寂しさを感じさせた。


 以前、ナナから自分はどうしたいのかと問われ、ゼクスからも目的が在るのだろうと問われたエイト。


 それらを反芻し悩む。 果たして、自分の目的は何なのかを。

 意識持って以来、エイトは匠と共に在った。

 ゲーム共に楽しみ、時には茶化し茶化され、それが楽しかった。

 

 だが、いざ目的を自分に問うと、それが難しい。


 ノインに成る前の九番は以前、利用されるだけの存在であった。

 だからこそ自己というモノを持たず、道具の様に使われる。

 今は違う、新たに一光という主人を得て、ノインは大きく変わった。


 ナナにしても、友人を殺された恨みから怒り鉄槌を下す存在へ化した。

 今や友人の仇を討ち、本来の道筋とは違う道を行こうとした。

 だが、今や長谷川と共に在り、自らの正義を貫こうとしている。


 ゼクスもまた、自分で為すべき目的を見出している。

 自らを親と証し、架空とは言え自分世界を護ろうと去っていった。

 

「おいエイト? どうしたの?」


 匠の声に、画面上の少女はハッと成った。


『いや、すまない。 直ぐに用意するよ』


 そう言うと、画面上の少女はいきなり何処かへと歩き出す。

 ほぼ同時に、匠の手にある携帯端末スマートフォンにエイトがスイッと現れた。


 それだけ見れば、異様な光景だろうが、とっくに慣れている匠は驚かない。


「おっしゃ、んじゃ行こかい?」  

『あぁ、行こう』


 出掛けるという事に、匠の声は弾む。 

 対して、エイトの声は平坦であった。


   *


 匠の懐に収まって居る間、エイトは周りが見えていないかと言われればそうでもない。

 二十世紀末から、防犯の為だと監視カメラは増えだしている。

 つまり、エイトがその気に成れば主を見守っている事も出来た。

 

 事実として、エイトはスタスタ歩く匠を見ている。

 歩く匠を見て居る内に、言いようの無いもどかしさが募った。

 

 どうせなら、隣歩きたい。 そんな想いが募る。

 モンモンとした想いにエイトが捕まっている間に、匠は片手を上げていた。

 

 そして、その先には同じ様に手を振る相楽一光。


 カメラにてそれを捉えていたエイトは、スッと意識を移していた。


 意識を携帯端末スマートフォンへと戻すと、視界は暗い。

 そもそも匠のポケットに収まっているのだから無理もない。

 ただ、外からの声は聞こえていた。

 

「おっす、結構早かったね?」

「いやー、待たせちゃ悪いと思いまして……はい」

「全然だよ。 ま、行こ」


 一光と匠の会話を聴いているエイトは、またもや思考の檻に囚われる。

 自分は何なのか、それが分からない。

 

 人工知能であると言えばその通りなのだが、それ以上でも以下でもない。   自分はどうしたいのか、エイトは真剣に悩んだ。 


  *


 一光と合流した匠は、彼女に誘われるままに歩く。

 軽食屋が在ると言われればそれも期待したいが、それ以上に、一光と一緒に歩くという事が匠は楽しかった。


 超人的な力も無く、空も飛べる訳ではない。

 それでも、匠には十分と感じられた。

 ぼやっと歩く匠に、一光は目を向ける。


「そう言えばさ、最近どう?」


 そんな質問に、匠は鼻を唸らせる。

 金銭面で言えば、当面の間は問題は無い。

 柳沢の依頼を受けてそれを完遂し、報酬を受け取っている。

 無駄な浪費さえしなければ、数年は遊んで暮らす事も出来るだろう。


「うー……まぁ、ボチボチって所っすかね? 喰ってく分には、ほら、コイツのおかげで楽に成りましたし」


 そう言うと、匠はポケットから携帯端末スマートフォンを取り出した。

 

「なぁ、エイト。 ん? エイトさん?」


 反応が返ってこない事に、匠は携帯端末スマートフォンの画面をツンツンとつつく。

 すると、機械が慌てた様に画面が灯る。


『い、いきなりなんだ……あ、相楽一光』

 

 相も変わらず一光に対しては微妙な対応を見せるエイト。

 だが、元が朗らかな性格をしているからか、一光は画面に映る少女に手を振っていた。


「やっほー、アプリさん。 久し振り」


 柔らかい声に、エイトは目を窄めるが、ぺこりと頭を下げていた。

 そんな相棒を見ていた匠は、ふと、一光の相棒である小熊を思い出す。


「あれ? 一光さん。 熊はどうしたんです、熊は? 店番ですか?」


 匠の質問に、一光は軽く笑い、背中のリュックサックが蠢く。

 端から見ていると、独りでにリュックサックが動くと言うのは些か奇っ怪な光景だが、蓋の部分が開き、小熊が顔を覗かせた。

  

 両手で器用にリュックサックに捕まりながら、辺りを窺う小熊。  

 自分を見ている匠に気付いたのか、小熊はパッと片手を上げていた。

  

『キュ!』


 鳴き声としてはどうなのかはともかくも、小熊の挨拶に匠は苦く笑った。


「よう熊、元気そうだな?」


 一応ノインという名が在ることは知っている匠だが、敢えてそう呼ぶ。

 特に返事もなく、小熊はそそくさとリュックサックへと戻っていった。


「何だよ、愛想ねぇなぁ?」


 匠の感想に、一光は少し笑った。


「まぁ、人見知りって言うの? でもさ、この前一緒に頑張ったじゃん? もう少し仲良くしてあげてね?」

「はぁ、努力致しますよ」


 一光に諭され、肩を竦めて笑う匠。


 それを聴いていた携帯端末スマートフォンは、フッと画面が消えていた。


   *


 匠と一光の二人が歩いて居ると、件の軽食屋が見えてきた。

 遠目にも派手な色合いだからか、匠は片手を帽子のツバの様に額に当てる。


「へぇ、あんな所に店出てたんすね」


 普段は田上電気店にてトラブルバスターとして忙しく動き回っていたせいか、街の変化には疎い匠。


 既に何人かの客の姿もあり、店の繁盛振りが窺える。


「うん、結構安いしさ、味も良いからね」


 どうだと自信あり気に語る一光に、匠はフゥと息を吐いた。


「いやー、流石っす、お目が高い」


 お世辞には変わりない。

 それでも、一光は満足げに匠の背中を軽く叩いていた。


「うんうん、素直に誉められるのはよい子だよ」

 

 軽い会話を楽しみながら、一光は匠を伴い店の前の列に並んだ。


「ちょっと並ぶけど大丈夫?」

「あぁ、全然平気っす」


 一光に相槌を打ちながらも、匠は店の店員に目を向けていた。

 

 次々と来る注文をテキパキとこなすのは、お揃いの服を着た二人で一組の店員。

 それだけならば、匠もそう驚かなかっただろう。

 男女並んで仕事するという光景なら、そう珍しいモノではない。


 以前何度か目にしたからこそ、匠は分かる。 店員は人ではないのだと。


 肌は滑らかであり、体毛は見えない。


 身体の起伏の差から男性女性の差は窺えるが、両名共に顔の作りはかなりのモノであり、目を奪われる者も居るだろう。


 だが、何よりも匠が目を見張ったのは手付きであった。

 衛生に気を使っているのか、使い捨ての手袋で手自体はよく見えないが動きは見える。

 何の澱みも無く、間違いすらせず動く手付きは、余程の熟練者ベテランでない限り難しい。


 そんな見事な手捌きに、匠は舌を巻いていた。


 自分が試しにあの場に立ち、同じ様に動けるかと問われると自信は無い。

 それほどに、店員二人組の動きは見事と言える。

 手際良いせいか、余り待たされる事無く匠と一光の番が来る。


『『いらっしゃいませ、ご注文がお決まりでしたらどうぞ!』』

 

 男女のドロイドは微塵のブレも無く、明るい挨拶を見せる。

 その様に、一光の方がウンと鼻を鳴らしていた。


「あれ? この前は二人じゃなかったですよね?」


 そんな質問に、以前応対した女性のドロイドが微笑む。


『あぁ、この前来てくれたお客さん。 忙しい時は相方に手伝って貰うんですよ。 ね?』

『また来て頂けただけで有り難いですよ。 ところで、ご注文は?』


 実に仲の良い男女といった風情の店員だが、匠は内心訝しんでいた。

 他の場所でも、ドロイドが人間を代行しているのは珍しくはない。

 

 匠が訝しむのは、余りにドロイドの対応が滑らかだからだ。


 とは言え、他の客も待っている事もあり、そうそう突っ立っても居られない。

 先ずはと一光が品書きに目を通す。


「あー、じゃあチリドッグ二つにフィッシュアンドチップスで」

  

 持ち前の性格から、パッパと品を選ぶ一光。

 ソレを受けた店員も、『『畏まりました!』』と答えた。


 作り置きは無いらしく、テキパキと調理を始めるドロイド二人組。

 二人組の素性はともかくも、やはり素晴らしい動きには匠もホゥと息を漏らしていた。


『お待たせしました! 八百円に成ります!』 

「ハイハイどうも」


 品が収まった紙袋を受け取りつつ、小銭を渡す一光。

 ふと、匠は慌てて財布を取り出していた。


「あ、一光さん! 俺も出しますって」

「良いから良いから、じゃあどうも!」

 

 慌てる匠をトントンと押しつつ、店を離れる一光。

 

 そんな二人に、店員も『『ありがとうございました、またどうぞ!』』と応えつつ、その視線は、匠のポケットへと向いていた。


   *


「はい、とりあえずどうぞ」


 軽食屋【5&4】から少し離れた所で、早速紙袋からチリドッグを匠に手渡す一光。


「あー、すんません。 喰ったら払いますからね」

「良いから、ね、食べて見て」

 

 とりあえず勧められるままに一口チリドッグ齧る匠。

 最初はチリビーンズソースが甘めかと思って居たが、程良い辛さが後からやって来た。

 温められ、ジューシーなソーセージと相まって舌を楽しませる。

 

 コレと言った変わった味付けではない。

 だが、実直な味は実に匠を唸らせる。


「へぇ……案外……いや、旨いっす」

「でっしょう? やっぱり気に入ってくれると思ってたよ」


 そう言うと、一光も買ったフィッシュアンドチップスを食べ始める。


 ただ、食べ進めながらも、匠はジッと軽食屋を見ていた。

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