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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
シックス
48/142

冒険に出よう その15


 いきなりの事に、長谷川は目を丸くして固まった。

 何が起こっているのか、理解すら出来ずに固まる相方を、ナナは小さい身体の何処にそれだけの力が在るのか、魔法使いを抱えて後ろへ跳ぶ。


 すぐ後、先程まで魔法使いと盗賊少女が立っていた場所に矢が立った。


 少し離れた場所では、肩を貸されていた女戦士が、素手で矢を掴み止める。

 忌々しげにそれを投げ捨てると、匠は辺りを窺った。


「なんだぁ? 白兵戦の次は弓使いでも出てくんのかよ?」


 相手側が飛び道具を用いた事に腹を立てる匠だが、隣の猫耳少女は目を細めて居た。


「友よ、出て来るぞ」


 エイトの小さな囁き。


 それに合わせて、付近の藪や草村から、ゾロゾロと人が姿を現す。


「此奴等は……」


 相手の姿を見て、匠は焦る。

 

 姿を現した一団だが、モンスターではなかった。

 派手な装具から際どい衣装、無骨な鎧から戦う気が在るのか疑いたくなる軽装まで様々。

 

 それは、以前町に居た冒険者の一団である。 


 中でも、一際目立つ様に剣を構える男女二人組が、匠とエイトの前に立ち塞がって居た。


「あらら、案外出来るんだ?」

「おいルナ、此奴等見た目はアレだが相当やるぞ?」


 茶化す様な女剣士ルナに対して、隣に立つ男はそう言うと、剣を構える。


 何事かと辺りを窺う匠だが、周りから向けられる視線は友好的ではない。

 刺すような棘のあるそれは敵に向けられるモノであった。


 口を閉じていた女戦士は、舌打ち混じりに口を開く。


「間違いって場合も在るから、一応聞いとくけど? 何のつもり?」


 低く抑えた怒りが滲む女戦士の声に、ルナは目を三日月の様に歪め、頬を釣り上げて笑った。


「何の? あんたら始末しちゃおうって思ったの……知ってる? 此処はさ、別にPKプレイヤーキラーは禁止じゃないから」


 そんなルナの声に、仲間であろう一団が構える。 


 その様に、匠は何故だと感じるが、同時に理由がなんとなくでは在るが分かった。

 以前、エイトは彼等は既にゲーム内の住人なのだと語った。

 それ故に、外の住人である自分を異物だと認識しているのではないかと匠は察する。

 無論、無理に匠やエイトが接触しなければ、向こうもわざわざ襲い掛かって来るような真似はしなかっただろうとも思う。


 だが、エイトも匠も、ルナに取って一番触れて欲しくない場所を突っついてしまっていた。

 であれば、その反応だとも理解は出来る。


 殺気立つ空気に、女戦士は汗が出るのを感じた。

 自らはガス欠故にマトモに動ける自信は無い。


 最悪、取り囲まれてもエイトを庇うしかないと焦る。


 じりじりとにじり寄ってくる冒険者の一団。


「お、おい! 待ってくれよ!? そりゃあ気に障る質問したかも知れないけどさ、そんなに怒ることないだろ!?」


 出来る事なら戦闘は避けたい。

 だからこそ、女戦士は言葉で相手を止めようと試みる。


 それでも、間合いを詰めてくる冒険者の一団。

 剣や槍、弓矢迄もが女戦士と猫耳少女に向けられる。 

 

 不味いという感覚に、女戦士は唇を噛むが、肩を貸している猫耳少女は、その怒りを示す様に毛を逆立てていた。


 合図など無く、一斉に冒険者は動き出していた。


「くっそ……エイト、退いてろ!」


 そう言うと、猫耳少女を背後へ押しやり、匠は冒険者の一団と相向かう。


 剣が振り下ろされるのを手で流し、飛んでくる矢を弾き、魔法かわす。

 だが、ガス欠だったからか、女戦士の動きが鈍い。


 何度かは避けたが、全てを避ける事は叶わず、女戦士の腕や脚に攻撃が掠った。


 切れた肌からは血が滲むが、痛みは無い。

 だが、ソレを見ていたエイトは目を剥いていた。

 

 現実の匠には、別に傷は付かない。

 実際には寝てるだけであり、ゲーム内のアバターに如何に傷が付こうとも何の問題ではないだろう。


 それでも、焦る女戦士見ていた猫耳少女の肌は粟立ち、背筋に走る寒気という感覚を覚えていた。


 攻撃は続く。


「……くそっ!?」


 舌打ち混じりに、女戦士は猫耳少女を抱いて横へ飛ぶ。

 ガス欠でろくに動けないとは言え、持続力が無いだけであり、全く動けない訳ではない。


 だからこそ、冒険者の最初の攻撃を匠は辛くも避けていた。


 エイトを庇って転がる女戦士は、なんとか身を起こす。

 

 問答無用な攻撃に、匠はチラリと目を配るが、どうやらルナ率いる集団は自分とエイトだけを標的としているのは分かった。


 その証拠に、少し離れた所にいる長谷川とナナには冒険者の誰もが目もくれていない。

 その分、冒険者達は自分達を強く睨む。


 長谷川達に目が向かないのは有り難くも在るが、どうしたものかと匠は悩む。

 最初の攻撃こそ掠りつつも避けたが、連続で続けられたら全部を避ける自信は無かった。


   *


 いきなりの事故に、長谷川もまた慌てて居た。

 ナナのお陰で長谷川の身体も衣服も無傷ではある。


 だが、唐突に現れた一団が知り合いに襲い掛かるという事態に、長谷川は動転していた。


「ち、ちょっと!? な、何してるんですか!? 駄目ですよ!」


 職業柄か、思わず声を荒げる長谷川だが、冒険者達は特に反応を見せない。

 

 まるで関係ないと言わんばかりに、長谷川の声は無視されていた。

 

「……もぅっ!! わっ!?」


 刑事である長谷川は、私刑リンチか認められず慌てて駆け出そうとするのだが、グイッと服を掴まれて止められていた。


「こら! ナナ! 何してるの!?」


 友人に窮地に、長谷川は慌てるが、ナナは慌てない。

 それどころか盗賊少女は涼しい顔すらしていた。


「大丈夫だから」

「大丈夫って!? 何が大丈夫なの!?」

 

 慌てる長谷川に、ナナはフゥと息を吐く。


「ねぇ、真理。 落ち着いて考えてみて。 あたし達も、彼奴等も、外なんだよ? 仮にアバターがバラバラに成ったってさ、何の問題が在るの?」


 ナナからすれば、長谷川の焦りは焦り足り得ない。

 事実、匠とエイト、長谷川とナナの全員が冒険者一行に倒されたとしても、何ら害は無かった。

 もし、四名の内誰かが在る程度のゲーム内で価値があるモノを持って入れば、それは在る意味では被害とも言えなくもない。


 だが、ゲームを始めて間もない彼等の中で、それらのモノを持っては居なかった。


「だからって………」


 ナナの言葉に、長谷川は唇を強く引き結び、匠達を窺う。 

 焦る友達を見て、ナナは仕方なしに事を起こすかとエイト達の方を見る。


 その途端、ナナと長谷川は、エイトである猫耳少女の目が赤々と光るのを見ていた。


   *


 瞳を爛々と赤く輝かせるエイトは、心底怒っていた。


 自分が不意にルナの本名を呼んでしまったことに間違いはない。

 だからと言って、此処までされる理由などエイトには無かった。


 そして、何よりもエイトを怒らせたのは、ルナ達が匠に攻撃を加えたという事実である。


 避けたからこそ、女戦士も猫耳少女も致命的な傷は負っていない。


 ただ、それは避けたからであり、避けなければ傷を負っていただろう。


「……逃げるな!」


 舌打ちを発し、ルナは勢い良く剣を構えて匠へと向かう。

 それに合わせて、冒険者一行も動いた。


 弓に構えられていた矢は打ち出され、魔法が乱れ飛ぶ。


「……いい加減にしろ……バカ共が……」

 

 後少しで攻撃が届くという時、エイトを中心に見えない波が広がりだす。


 それは、あっという間に世界を覆った。


 反射的にエイトを庇い目を伏せていた匠だが、何も起きない。

 何事かと目を開け恐る恐る辺りを窺う。

 すると、何もかもが止まっていた。

 

 振り下ろされた剣、飛んでくる矢、稲妻や氷の槍、そして土埃迄もが止まっている。

 まるで全てが動く事を忘れた様に。


「えぇ? 何これ?」


 制止した世界に匠は慌てるが、例外もあった。

 遠くから駆けてくる長谷川とナナは、周りとは違い止まっては居ない。


 どうやら、自分の相棒が何かしたのかと女戦士はエイトを窺う。


「お、おいエイト。 何かしたのか?」


 女戦士の腕の中で、猫耳少女は軽く笑う。


「そう難しい事はしてないよ。 私はただ、ゲーム内に流れる時間を止めたのさ」

「……時間?」


 ソッと女戦士の腕を抜け出た猫耳少女は、手を差し出す。

 以前、エイトは早送りはして見せたが、まさか止められるとまでは匠は思ってもみなかった。

 

 相棒を立たせながら、猫耳少女は柔らかく微笑む。


「経過時間が止まっただけだよ。 君が気にする程じゃない」


 そう言って相棒を立たせるエイトだが、匠は、目を丸くしていた。

 ゲームの時間を止めるという規律ルールを無視した力を用いているせいか、エイトの声は【な】が【な】のままだが、匠はそれを気にしていられない。

 

 何かもが止まっている。 そんな異様な光景。


 恐る恐る、匠はルナに近付いてみる。

 目を剥いて般若の様に顔を歪め、剣を構えたまま固まるルナ。

 

 今にも切りかかって来そうでは在るが、それは微塵も動かない。


「はぇぇ……こりゃあ……スゲェや」


 思いも寄らぬ事態に、匠は何となく猫耳少女の頭を撫でた。

 相棒の手を、猫耳少女は気持ち良さげに目を細める。

 

「加藤さん! 大丈夫……そうですね?」

「だぁから言ったでしょうに」


 微妙に心配してくれる長谷川とつまらなそうなナナ。  

 見た目から対比が際立つ二人組に、女戦士は少し苦く笑う。

 

 辺りが止まっている事も含めれば、益々摩訶不思議な光景と言えた。


「あの、でも……どうするんです?」


 近くで固まる冒険者達を恐る恐る窺いつつ、長谷川はそう言うと、匠はエイトを見た。


「相棒、長谷川さん達と一緒に離れてくれ」


 そんな声に、エイトは目を丸くする。

 それでも、匠には譲る気はない。 やるべき事をしたかった。


「頼むよ……相棒」

「………分かった」


 匠の声に、エイトは長谷川とナナの袖を引っ張り距離を取る。

 

 少し後、止まっていた時間が動き出す。


 冒険者達が繰り出した攻撃は、誰も居ない場所を抉る。

 ソレを見た誰も彼もが、困惑に顔を歪めていた。


「……っ!? くそ……彼奴は何処!?」


 いきなり目標を見失ったからか、ルナは慌てて辺りを窺う。

 途中、長谷川とナナと共にいる猫耳少女を見たが、ルナは一心不乱に女戦士を探していた。

 そして、目的の者は直ぐに見付かる。


 だが、冒険者達が動くより早く、女戦士は口を開いていた。


「もう止めろよ……お前ら、自分が死んでるって分かんないのか?」


 少し躊躇いが在ることは拭えきれない。

 それでも、匠はソレを振り切って真実を打ち明けていた。 

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