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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
シックス
39/142

冒険に出よう その6

 喧嘩の後、特に問題も無く町を行くエイトと匠。

 本来なら警察相当の者が追い掛けて来るのではないかと匠はヒヤヒヤした。


 だが、特にお咎めは無い。

 ホッと安堵した匠からすれば、せっかくなのだからと町を探索したくなる。


「よう、少しその辺見て回っても良い?」


 そう言う匠に、エイトは端的に「駄目」と返す。

 

「えぇ? 何でだよ?」


 渋る貧乏戦士に、猫耳少女はパッと足を止めた。


「友よ、君はにゃんの為に此処へ来た?」

「何の為って………そりゃあ」


 改め言われると、匠は言葉に詰まる。

 本音を言えば、今すぐ相棒と大冒険に出たかった。


 だが、別に匠は遊びに来た訳でもない。


「目的と手段を履き違えてはいかんのだよ。 我々は、あくまでも目的の少女を探しに来た。 それだけだろう?」


 キリッとした猫耳少女に、匠はフゥと息を吐く。

 遊ぶにしても、仕事を終えた後でも出来る事は分かった。


「あいあい。 とりあえずお仕事しましょう!」

「うむ。 それで良い」


 ウムウムと頷く少女に、匠は微笑む。


「でもさ。 とりあえず何とか仕事終えたら。 ちっとぐらい遊んでも良いか?」

 

 そう言う匠の声に、猫耳少女の尻尾が迷いを示す様に揺れた。


「まぁ、やる事終えたら少しぐらいにゃら……」


 どうしても【な】が【にゃ】に成ることに、エイトは顔をしかめた。

 それを見た匠は、慌てて話を反らす。


「あ、と、ところでよ。 相手をどうやって見つけるんだ?」

「うん?」


 可愛く鼻を鳴らすエイトの仕草に、匠は、ゲームに入り浸る気持ちが少しわかってしまった。

 普通であれば、今のエイトの姿は見ることは出来ても触る事は叶わない。 

 だが、今なら抱き締める事すら出来る事実に、感動すら在った。


 そんな匠とは違い、エイトは質問に答える為に口を開く。


「いや、それほど難しい事ではにゃい。 ほら、彼処に居るだろう?」


 そう言って、猫耳少女は手に持つ杖で何処かを示す。 

 示された方向へと匠が目を向けると、其処には如何にも冒険者の一団といった者達が居た。


 傍目には、オープンカフェで飲み物を楽しんでいる様にも見える。

 だが、人数が多く、どれが誰なのかは分からない。


「アレの中に居るのか? 本人かどうかどうやって見分ける? 第一、顔変えられてたら判別なんて……」


 実際匠には誰が目的の【柳沢瑠奈】なのか分からない。

 女性が何人かは居ても、本人と判別するのは難しい。


「聞けば良いだろうに? 別に難しい事ではにゃい」


 そう言うと、エイトはスタスタとカフェの方へ歩いていく。


「あ! おい! 待てってば!」

 

 匠も慌ててエイトを追った。


 カフェ迄来た所で、猫耳魔法少女は辺りを見渡す。

 何人かの冒険者や店の店員はチラリとエイトを窺うが、特段の反応は無い。


 スッと息を吸い込み。 猫耳少女は口を開く。


「すまにゃいが! このにゃか柳沢瑠奈やにゃぎさわるにゃは居るか!」

 

 特に前置きもなく、エイトは大声を出す。

【な】が【にゃ】に成ってしまう為に些か滑稽だが、誰も返事はせず、首を傾げたりするばかり。  


 何人かは、匠とエイトを見て露骨に嗤ってすらいた。


「何アレ? 初期装備? うっわ~」

「ど素人じゃねぇか。 新参者かよ」


 蔑む声に、エイトは動じない。

 慌ててエイトに駆け寄る匠は、ソッと細い肩に手を置く。


「おいおい、ホントにあの中に居るのか?」


 匠にも店に居る者達の反応は見えている。

 だが、誰もがエイトの声には返事をせず、余り友好的とも言い難い。

 

 自分達に向けられるのは、訝しむ様な視線ばかりであった。

 

 それでも、何かを見つけ出したエイトは、パッと頭を動かし「居た」と呟く。

 

 目当ての者を見つけ出した猫耳少女は、テーブルの一つへと近寄る。

 三人程が掛けており、その中でも、ヤケに派手な格好をしている女性へとエイトは近付いていた。


「貴女が柳沢瑠奈やにゃぎさわるにゃ?」


 そんな声、美麗な女剣士は顔を露骨にしかめる。

 まるで、楽しい何かをしている最中に、いきなり冷たい水を差された様に。


「あんた……誰?」


 睨み合う猫耳少女と女剣士。

 先に動いたのは猫耳少女である。


「質問に答えて欲しい」


 慇懃無礼なエイトに、女剣士の仲間らしき人物キャラクターが立ち上がる。


「おい? ルナに何か用なのか?」


 そう言うのは、ホストかアイドルとでもいった顔立ちの男性。

 中性的な顔立ちのせいか、少年か青年なのか区別は付かない。  


 匠と比べると正に美男子と言えるが、猫耳少女の尻尾はピクリともしなかった。


「君には用はにゃい」

「なんだ此奴!?」

 

 つっけんどんな猫耳少女に、男はつっ掛かる。

 一触即発の空気が辺りを漂い出す。


「まぁ、待てって」「こら、喧嘩しなくて良いから」


 エイトは匠が止め、男は女剣士が止めていた。


 実に気まずい空気に、匠はエイトを抑えながらも、慌てて手を軽く振る。


「あー、すみません。 あーその、うちの相方。 あの、まだ、その、全然慣れてなくて、ネトゲのエチケットとか無くて」


 何とか喧嘩は避けたい匠。

 仮にこの場に居る全員と戦闘に成ろうとも、まず負けはしない。

 だが、同時に手加減出来るだけの自信も無かった。

 

 やる気なら負けはしないが、それが目的ではないとエイトの言葉を反芻する。


「おい、ほら、お前も謝れってば」


 何とか場を納めようとそう言う匠に、エイトは素直に手を差し出す。


「すみません。 急に呼び出して」


 詫びを述べつつ、握手を求める猫耳少女。 


「まぁ、別に良いけどさ……」


 訝しむ女剣士だったが、つまらなそうに一応握手をしてくれる。

 ソレを見た匠は、ホッと胸を撫で下ろした。


  * 


 目的の人物とは、ろくに話もしていない。

 それでも、何とか店を離れた匠は、長く息を吐き出す。


「あー参った。 まぁた喧嘩になるかとヒヤヒヤしたぜ」


 汗などかいていないが、それでも額を拭う。

 それと同時に、匠はこっそりとカフェに居る女剣士を覗いた。


「てかよ、ホントに居たぜ? アレ……死んでるんだよな?」


 先程、僅かなりとも接触した人物が既に死んでいる事は匠も知っている。 

 法的には柳沢瑠奈は既に死亡しており、葬儀も済んでいた。


 だが、柳沢瑠奈だという女剣士ルナは確実にゲーム内に居る。


 その事に、匠は寒気を感じてしまった。


 恐れる匠とは違い、エイトは動じず、離れた所にいる女剣士を見る。

 だが、その目には優しさは無い。


「友よ。 アレはキャラクターで在って本人ではにゃいのだ」

「あん?」


 匠が首を傾げたからか、エイトはソッと地面を指差す。

 其処には、二人の影が在った。


「ほら、ソレとおにゃじさ。 アレは、要するに本体をうしにゃった影だよ」


 相も変わらずの猫耳少女の発音のせいで些か間抜けだが、エイトの声には匠は驚く。


「影って……あーと?」


 イマイチ理解出来ていない匠の為に、エイトは手を振って見せる。

 すると、当たり前だが影も同じ様に動いた。


「ほら、影は私が操って居るわけではにゃい。 だが、私と同時に動く。 それでも、決してそれは私ではにゃい」

 

 そんな言葉に、匠は慌てて女剣士を見た。

 間違い無く、瑠奈らしき彼女は其処に居る。

 

「でもさ、彼処に居るだろ? だから、何とか説得すれば」

「説得してどうする? 彼女の体はもう焼かれているんだぞ? いや、そもそもどうやってゲームからキャラクターを抜き出す? 彼女は、既に此処の住人だ。 君が言っているのは、絵の人物をそのまま外へ追い出せ。 という事だぞ?」


 エイトの声に、匠は頭の中をグルグルと巡らせる。

 だが、どうしても良い案が出て来ない。


「えぇと、じゃあ?」


 どうしたものかと、匠は途方にくれた。

 瑠奈の両親からはゲームから彼女を連れ出して欲しいと頼まれている。

 だが、それは出来ないのだとエイトは云う。


 そんな匠に答える様に、猫耳少女は、片手をスッと上げて、掌を見せた。

 ボウッと、何かの青白い人魂の様なモノが浮かび上がる。


「おい? それは……」


 人魂を指差し訝しむ匠に、エイトは、柔らかく微笑んでいた。

 

「あぁ、友のお手柄だよ。 本来にゃら、無理にでも取るつもりだったが、彼女に握手しただろう? その際に、コピー取らせて貰った。 これで十分だろう。 後は、依頼人に娘に良く似た入れ物を用意してもらえばいい。 完璧とは行かにゃいが、まぁ、大丈夫さ」


 猫耳少女の言葉に、匠は、耳を疑った。


「は? じ、じゃあ彼奴はどうするんだよ!?」

 

 そう言うと、匠は遠くの女剣士を指差す。

 ソレを見ても、エイトは首を傾げるだけ。


「どうしろと云うんだ? 友よ?」

「だってさ! このまんまじゃあ! 彼奴等ずぅっとこの中だぞ?」

「それが……どうかしたのか?」


 本気で困った様子の猫耳少女に、匠は、目を疑う。

 共に正義の味方であると信じている筈の相棒の声とは思いたくない。


「考えてもみろって! 彼奴等、このまま永遠にゲームの中でも過ごすのか?」


 声を荒げる匠に、エイト眉を寄せていた。

 小柄な少女が、実に困った様な顔をする。

 

 その様は可愛くとも、今は可愛いとは匠には思えない。


 エイトもまた悩んでいた。 

 異常グリッチを好きな様に使えるエイトからすると、匠とは別のモノが見えている。 

 キャラクターの本名から、ステータス。

 そして、誰がオンライン状態なのかまで。

   

 エイトからすると、匠の示した者達はただの人形と大差はない。


「彼等は、自分で進んで此処に入った。 死ぬことも厭わず。 だとしたら、それは彼等自身の責任では?」

「そんな……でもさ」


 悲しげに肩を揺らす匠に、猫耳少女はソッと寄り添う。

 一光がノインを抱くのを見ていたからか、エイトは自ずとそれを真似ていた。


「友よ。 君が気に病む必要はにゃいんだ。 第一、彼等は既に死んでいる。 彼処に居る者達は、生きて居る様に見えるかも知れにゃい。 でも、それは影だ。 身体を失ったただの残骸だ」


 エイトが自分を慰めようとしてくれるのは、匠にも分かる。

 だが、無力感が拭えない。


「なぁエイト。 何とか……してやれないのか?」

 

 そんな匠の声に、猫耳少女は頭を擦り付ける様に首を振る。


「無理だ。 さっきも言っただろう? 彼等はもうゲームに溶け込んでしまっている。 恐らく、説得しても応じてはくれにゃい。 彼等からすれば好きでゲームをやっているつもりにゃんだ。 たぶん、君が出ようと言っても、嫌だとはね除けるだけだよ」


 猫耳少女の優しいが寂しい声に、匠は、目を閉じていた。

 

 エイトの抱擁が利いたのか、匠は落ち着き取り戻す。


「わりぃ、なんか……取り乱した」

「良いさ、私と君のにゃかだろう」


 微笑む猫耳少女を、また可愛くとも思える匠。   

 だが、気になる事があった。


「でもよエイト。 なんで彼奴等……此処に居られるんだ?」


 匠の疑問。 

 プレイヤーが居るからこそ、キャラクターは存在し動く事が出来る。

 だが、その元たる者が死んでも、キャラクター達は動いていた。


 相棒の声に、エイトも鼻を唸らせる。

 誰かが、意図的にプレイヤーをコピーし、キャラクターに植え付けた事に間違いは無い。


「うむ。 調べる必要が有りそうだにゃ」


 またしても、【な】が【にゃ】に成るからか、猫耳少女は顔をしかめる。

 それを見て、匠は苦く笑った。


「悪かったって……慣れてくれよ?」

 

 そんな匠の声に、エイトは息を吸い込み吐く。


「まぁいいさ。 そろそろ時間だ」

「時間? 何の?」


 訝しむ匠の手を、猫耳少女はソッと取る。


「夢から覚めるのさ」


 エイトの声と共に、匠は自分が空に向かって飛んだ気がした。


   *


「うぉ!?」


 急に何かを背中全体に押し付けられたような気がした匠は、慌てる。

 周りは何も見えず、真っ暗闇。


「なん、なんだ!?」

『落ち着け友よ。 ゴーグルを外すんだ。 それに、用を足すならトイレだぞ?』


 聞き慣れた嗄れ声に、匠は、自分がゲームをしていたのだと思い出す。

 呻きつつゴーグルを取れば、いつもの自分の部屋。

 

 ホッとしつつも、同時に寂しさが募る。 

 ただ、それ以上に思い出した様に湧き出す感覚が強かった。


「うぉおあ!? やべぇ!!」


 慌てて身に着けているゲーム機器を外し、トイレへと駆け込む。


 そんな匠を、パソコンの画面に映る歪なエイトがやれやれと見ていた。 


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