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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
シックス
35/142

冒険に出よう その2


 誰かが死んだとしても、近くに誰も居なければ、それは看取られもしない。

  

 発見された遺体は見るに絶えず、すっかり変わった姿は無惨の一言であった。

 

 カラカラ車輪を鳴るカートの上には、シートが被せられた遺体。

 身長はさほど大きくはなく、骨と皮しか残っていないからか、起伏も多くない。


 遺体が運ばれる中、一組の中年の男女が嘆く。


「どうして!? どうしてうちの子が!?」

「放してくれ! 後生だ!」


 運ばれる遺体の名を呼び、手を伸ばすが、現場を保持しようとする警官によって阻まれる。

 カートを運ぶ一人は、それをうんざりとした顔で聞いていた。


「またみたいですね。 これで何人目でしたっけ?」


 同じ様にカートを運ぶ相方に問い掛ける。

 問い掛けられた方は、知らないとばかりに首を横へ振った。


「さぁ? 五人からは数えてないな。 第一、そんなのは俺達の仕事じゃないよ。 調べるのは警察の管轄だろ?」

 

 そんなつまらなそうな声に、カートを運ぶ男は頷く。


「しっかし……くっせぇなぁ。 飲まず食わずで風呂も入らずにゲームしてるとか。 馬鹿じゃねぇのか?」

「おい、仏の前だぞ。 一応は建て前を保てよ」

「へいへい、お仕事お仕事」


 運ばれるのは変死の遺体。


 それに外傷は無く、何かの毒物も使用されてはいない。


 死因は脱水と栄養失調。

 それが、遺体の親に伝えられた娘の死に様だった。 

 

   *


 数日後、遺体を引き取りに来た夫婦は、担当の刑事と顔を合わせる。

 

 事件を担当したのは藤原と長谷川だが、どう調べても事故でしかない。


「何度でも言いますが……死因は脱水症状と栄養失調。 他殺ではありません。 在る意味、自殺としか」


 報告を聞いた両親は、顔を歪めた。


「そんな筈は……だってゲームをしてただけだって言われたんですよ?」


 遺族の声にも関わらず、藤原は眉を寄せる。


「そう仰いますが、遺体を調べても何の痕跡も無いんです。 残念ですが、ゲームにのめり込んで水を飲み忘れ、食べるのも忘れた……としか」


 藤原の報告を聞いた夫妻だが、まだ自分の娘が死んでいるとは信じられなかった。

 ただ、夫妻が疑おうとも、白い布が掛けられた遺体は二度とは動かない。


「刑事さん」

「はい、なんでしょうか?」


 事が事だけに、藤原もぞんざいな態度は見せない。

 真摯な藤原の声に、夫が口を開く。


「誰か、ゲームや機器に詳しい人は知りませんか?」

「は? ゲームですか?」


 流石の藤原も、いきなり話を振られて不意を突かれてしまう。

 内心では、この親御さんは何を言ってるのだと考えていた。


「誰でも良いんです。 サイバー警察の方でも、その手の専門家でも。 何方か、娘に付いて調べてくれる人を教えてください」


 そんな悲しげな依頼。

 ただ、藤原はそれを聞いても懐疑的であった。

 如何に調べようとも、死体は起き上がらないからだ。


「御言葉ですが、これは事故ですので」

「違うんです」

「違うと申されますと?」

 

 藤原が尋ねると、夫は娘の遺体を見る。

 無惨な娘を見たまま、夫は口を開いた。


「娘は死ぬまでゲームをしてると仰いましたが、私達もそれなりに調べたんです。 すると、奇妙に思われるでしょうが、娘はまだゲームの中に居たんですよ」


 突拍子もない言葉に、藤原は「はい?」と唸った。


 言われている意味が、藤原には理解が出来ない。

 話を鵜呑みにするのではあれば、少女は死んでいるにも関わらず何故かゲームを続けているという事になる。

 それは、藤原にとっては異様としか聞こえない。


「それは……残念ですが。 誰かの見間違いなのでは? 私的な意見ですが、ゲームのキャラクターなどは似たり寄ったりなので」


 当たり前だが、ゲームのキャラクターは誰かが操作しなければ動かない。

 にもかかわらず、件の少女は架空の世界で動き回っているという。


 だが、人が作ったキャラクターなど、外見が多少似ていようが不思議ではない。

 

「そう思い、私はメーカーにも、問い合わせました。 現在はアクセス禁止らしいのですが、まだ動いて居る時でも、そんな人物はログインしてない……だそうです」 

「では、やはり良く似ているだけでは?」


 藤原の疑問に、夫は手をギュッと強く握り締める。 


「他の……娘と同じ様にゲームをしていたという人を突き止めて、電話して聞いたんです。 すると、何人かから、アクセスが禁止されるまで娘は居たと言われたんです。 アクセス禁止されたのは、娘が死んだ後なのにですよ?」


 悲痛な声に、藤原は腕を組んで首を傾げる。


 プレイヤーという操縦士が死んだにも関わらず、操られるべきキャラクターが勝手動いている。 

 然も、あたかも自然に人が動く様に振る舞いながら。


「コレは、誰かの悪戯………でしょうか? 誰かが、娘を装っていたとでも言うんでしょうか」


 訝しむ藤原に、遺体の父親は泣く妻を抱きつつ、顔を歪めた。


「悪戯でも良い。 それが本物の娘なのか、調べて欲しいのです」


 そんな摩訶不思議な依頼をこなせる者は多くはない。

 藤原には、心当たりが在った。


   *


 ナナが引き起こした事件から数週間後、匠の周りは静かであった。


 時折、トラブルバスターとしての仕事は在るのだが、殆どは直ぐに解決出来る問題である。


 事件といった事件も無く、店長の田上が他の仕事で居ない為に、店番の匠は欠伸を漏らす。


「………あぁ、平和だねぇ」

  

 静かで穏やかな時間に対して、匠はそう言うと、手元で充電されている携帯端末スマートフォンの画面が勝手に灯った。


『平和ではいかんのか?』


 パッと現れたのは歪な丸顔に嗄れ声のエイト。

 それを見て、匠はウゥンと鼻を鳴らした。


「なぁエイト」

『なんだ、友よ?』

「やっぱりそっちの顔なの?」


 匠の愚痴に、画面上のエイトは息を吸うような動きを見せ、それを長々と吐く仕草を見せる。

 最近、エイトは【ため息】を覚えていた。


『友よ、逆に問おうか? もし、今から私が君にきっちりお化粧して欲しいと言ったら、君はどうする?』


 そんな質問に、匠の鼻が唸る。


「なんで俺が?」

『君は知らないかも知れないが、動物は基本的に雄の方が派手なのだよ? 孔雀を見てみたまえ。 雌にアピールする為に、派手な羽を広げるから』


 エイトの声に、匠はふぅんと唸る。

 そして動物と聞いた途端、匠はふと、在ることを思い付いていた。


「化粧はまぁいいや。 よう相棒。 この前はさ、水族館行っただろ?」

『うん、アレは楽しかった』

「ならさ、今度は動物園行くか?」


 匠がそう言うと、画面上のエイトはクルクルと横へ回りだす。


『それは良いな。 偶には違う顔も見てみたい』

「なんだと? お前、俺の顔に不満でも在るってか?」

 

 クルクル回っていたエイトが動きを止め、ニヤリと笑う。


『どうかな? 自分の顔に対して言われるのは?』


 ムフフと笑いながら、エイトはそう言う。

 相棒の言葉に、匠はムッとして手元のリモコンを取った。 


 電気店に勤めて居る以上、電化製品はそこら中に在る。

 展示品としてテレビが置かれているのだが、匠はそのテレビに映る番組を変えた。

 適当に回すと、近況のニュースが流れる。


【またVRゲーム中に死亡事故。 政府は注意喚起】


 そんな見出しが踊っていた。 

 それを見た匠の鼻はフウンと唸る中、アナウンサーが手元の資料を読み出す。


『また死亡事故が起こりました。 警察によると、ゲームを遊んでいる最中に少年が死亡した模様です。 これまでも同じ様な事故があり、政府は注意喚起を促しています。 死因は脱水、栄養失調等ですが、メーカーはアクセスを中断しつつと、ゲームをする際には適度な休憩を挟むよう注意を促しています』


 アナウンサーの声に、匠は手前のカウンターに頬杖を付いた。


「ただのゲームだろ? 死ぬほどのめり込むもんかねぇ?」

『買ってみるかね? 最新型のバーチャルはかなりの出来だそうだぞ?』 


 エイトの言う通り、田上電気店で働き出してから、匠は金に困っては居ない。

 金持ちと言うほどに潤沢でもないが、普通に生きている。

 

 件のゲーム機を買う程度ならば、問題でもなかった。

 だが、いざ買うかと問われると、頬杖を止めて両手をパタパタと振る。


「よせやい、今誰かが死んだ……なんて話聞いたばっかりだぜ?」


 演技でもないという匠だが、エイトは目を丸くする。


『そうか? 私が居るから君は大丈夫だと思うぞ?』


 そう言うエイトの声に、匠は在ることを感じていた。

 露骨ではない。 だが、確実にゲームに誘うような口振り。

 そう思った匠の顔はニヤリと笑う。


「ははぁん? エイトくん。 ゲームがやりたいのかな?」


 出来るだけ意地悪を装う匠。

 それに対して、エイトは顔を縦に揺すった。


『そりゃあそうさ。 私に何かしらのスポーツをしろとか言われても無理だからな』


 そんな残念そうな声は、匠に在る発想を与える。


「ようエイト。 お前も何か入る?」

『なんだ? 藪からぼうに』

「だってよ、あの熊だってそうだろ?」

『うん? ノインか?』


 エイトの声に、匠はウンウンと頷く。


「そうそう、あの可愛くない熊だよ。 まぁ、中身がアレだからな。 エイトなら何が良いかね? 犬? 猫?」


 そんな匠の楽しげな声に、エイトは悩む様な顔を覗かせる。


『さぁねぇ。 君が好きなので良いんじゃないか?』

「お? 言ったなぁ?」

 

 ニンマリと笑う匠。


『友よ。 まぁた邪なことを企んで居るな?』


 エイトは匠を窘めるが、匠の笑みは消えない。


「あぁ、そうさ、企むぜ? ニャンコエイトなんて良いじゃねぇか?」


 匠の考えを聞いたエイトは、ため息を漏らす。

 何か一つ文句でも付けてやろうかとしたが、エイトは別の事に気付いた。

 

『おっと友よ。 客の様だ。 しっかり店員するのだぞ?』


 そんな声を残して、エイトは携帯端末スマートフォンの画面を消す。

 匠も、慌てて身形を正していた。

 

 手動のドアが開かれる。


「いらっしゃいませ!」


 入ってきた客の身形は良く、紳士と言える。

 買い物客ならば良しとも思うが、何かを思い詰めた様な顔色から、匠は買い物ではないなと察していた。


「すみません……あの」

「はい、何でしょうか?」


 匠の返事に、男性はジャケットの懐から、スッと紙を出した。

 それは、以前藤原が持ってきたのと同じチラシ。


「此方で……色々な問題トラブル解決を引き受けてくれると聞いたもので」


 それを聞いた匠は、またかと思った。

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