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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
27/142

幽霊退治 その11

 警視正という立場の人間から指示が出た以上、ナナの標的が集められる可能性は高い。

 だが、ナナが具体的に誰を狙うとは明言して居ない以上、仮に集めたとしても他の者を狙われれば意味が無い。

  

 そう悩む藤原は、警察署の屋上で電子煙草を吹かしていた。

 紫煙に似た水蒸気を吐き出しつつ、街に目を向ける。


 翌日の夜十時には、ナナが襲ってくる。   

 それに対して、どう対抗すべきかを藤原は思案していた。


「こんな所でなにしてるんです?」


 背後から聞こえる声に、藤原は電子煙草を咥えて吸い込む。

 

「長谷川か、どうした?」


 フゥと水蒸気を吐きつつ、スッと振り返ると、缶コーヒーを両手に持った長谷川と目が合った。 

  

「サボってて良いんですか?」


 咎める長谷川の声に、藤原は、水蒸気に咽せながら笑った。


「サボるもクソもねぇだろ? 元々爆弾なんて無いんだからな」


 他には誰も居ないからか、藤原はそう言いながら缶コーヒーを受け取った。


 藤原に渡されたのは無糖ブラック。

 長谷川の分は容量多めの甘いアメリカンコーヒー。

 

 互いの好みは正反対ながらも、自分の好みを分かってる後輩に、藤原は自然と口が緩む。

 だが、如何に爆破予告が嘘だとしても、気は抜けない事も分かっていた。


「どう来るかな?」

「……ナナ、ですか?」


 長谷川の真剣な声に、藤原は頷く。


「例えばよ、彼奴がどっかの無人機盗んで、ミサイルでもぶっ込まれたら、こんな警察署ぐらいあっという間に更地だぜ」


 自分なりの心配をする藤原に、長谷川も街に目を向ける。


「それは、心配ないかと」


 長谷川の声に、藤原は後輩の顔を窺うが、その顔にはどこか何かを想うような色があった。

 

「どうしてもそう思う?」


 そう藤原に尋ねられた長谷川は、少し俯き、手の中の缶を横へと回す。

 長谷川の掌に、液体の動く感触が伝わった。

 

「もし……あのナナが、そんな事をする気なら、とっくにやってると思いませんか? だってほら、今だって虐めで苦しんで死んじゃう子もいる。 私だったら、その教室か、学校ごと……吹き飛ばしちゃいますから」


 何とも恐ろしい考えを披露する長谷川に、藤原は苦く笑う。


「おっかねぇなぁ。 お前が画面の向こうに居なくて良かったよ」


 そんな藤原の声に長谷川は笑うが、藤原は話を続けた。


「でもよ、なんだってお前は彼奴を信用してるんだ? ゲームって言ってたが、もし、毒ガスでも使われたら」


 将棋やチェスの様に、相手の手を読む藤原だが、長谷川は先輩の意見を聞いてもソレは無いという確信が在った。


「たぶんですが、ソレも無いですよ。 今まで色々調べましたけど、ナナは………前科者とその家族を殺しても、他の人は巻き込んだ事はないんです。 そりゃあ、やっぱり事故を起こされば、商品が届かない業者の人とか、事故のせいで信用を失わされたメーカーの人とかは困りますよ? でも、ホントの意味での巻き添え被害者は、誰一人として出してませんから」


 これから戦うであろう相手への奇妙な信頼に、長谷川は苦く笑った。

 幽霊同然の存在に、自分と共通点を見いだそうとしてしまう。


「変だと思いません?」

「……変っていやぁ変さ。 つうかよ、ここんところ変なことだらけだよ。 バスとタクシーが事故って、事故を調べたら変な電気屋と知り合って、其奴の知り合いにはまた訳の分からんのが居て、更に其奴がまた変なのを呼んだ。 変な事だらけさ、もう訳分からん」


 藤原は、自分の理解を超えた事件に素直な感想を述べた。

 

 いみじくも、藤原の意見は長谷川にも同意できる。 

 だが、長谷川の想いとは少し違った。


「まぁ、そうですよね。 訳わかんないって思いますけど、でも、やっぱり犯行を止めなきゃなりませんから。 それに……」

「それに?」

「あの……エイトが言ってたじゃあないですか? 人はルールの上を歩ける。 それってつまり、私達はルールを無視も出来るけど、向こうはルールを護らないといけない……とか?」


 何かの確信を掴んだ長谷川。

 だが、藤原からすればエイトもナナも規律(ルール)など端から無視した存在としか思えない。


「そんなもんかねぇ? 向こうのルールに人を殺しても良いって在る時点で俺にゃあ無理だ。 あの幽霊と分かり合える坊やの気持ちが分からんよ」


 それぞれ違う考えを披露する藤原と長谷川。

 そんな二人だが、周りからすればサボっている事に変わりはない。

  

 だからこそ、二人に近付く気配。


「困りますよ。 藤原さん、長谷川さん」


 そんな声に、藤原と長谷川は振り向く。 

 其処には、本部で指揮の補佐をしている筈の橋本。


 本来なら、橋本程の人間が下を省みる事はない。

 現れた橋本に、藤原は目を窄めた。


「おおっと! バレちまったぜ」

「あ、えと、すみません」


 不敵な藤原と、あっさり謝る長谷川。

 対称的な二人に、橋本は苦く笑った。


「まぁ、休憩も大事ですがね。 そんな事より……お二人の先程の話は、エスエフの映画でしょうか?」


 軽い態度の橋本だが、話しを聞いていたことは藤原と長谷川にも分かる。

 だが、二人の会話は余りに突拍子も無く、信憑性は皆無だろう。


「おーう、橋本警視。 その通りなんだ。 あー、俺と、コイツでなチラッと見たんだよ。 映画をな。 な、長谷川?」

「え? あ、あぁ、はぃ。 そー……なんですよ」


 如何にも何も知りませんという藤原に、如何にも実は知っているという長谷川。


 二人の態度に、橋本は肩を竦めた。

 立場的には上だが、橋本にその気は無い。

 エリートとは呼ばれても持ち前の性格から、差ほど下と上という線引きをしては居なかった。


「そんな邪険にしないでくださいよ。 ほら、部署が違えども、協力すれば力に成れると思いますから」


 そんな橋本の声に、藤原はウウムと唸る。

 

 橋本の言うことに間違いは無い。 

 彼を上手く説得出来れば、力を貸して貰えるのも事実である。


「なぁ、橋本」

「はい」

「幽霊って……信じるか?」

「はい?」


 藤原の声に、橋本は首を傾げていた。


  *

  

 長谷川が橋本の分の飲み物を買いに行く合間に、藤原は事の一部始終を話す。

 無論、匠とエイトに付いては伏せた。

 何せ爆破予告の犯人である以上、バレれば無実とは行かない。

 

 ナナの話を聞いた橋本は、突拍子も無い話に肩を竦める。


「なんと言いますか、にわかには信じ難い話ですよね」

「だろ? 俺だって、まだ半分は信じてねぇのさ」

「幽霊の云々はともかくも、明日の十時にホントに来るんですかね?」


 橋本の言葉に、今度は藤原が肩を竦める。


「個人的には来て欲しくねぇな。 そうなれば、何もありませんでした、で済むからよ」


 ソレはそうだろうと、橋本も頷く。

 

 藤原の話を鵜呑みにすれば、ナナを捕まえる事は出来るとは思えない。

 幽霊を入れておくだけの檻も無ければ、そもそも触ることも適わない。


 だが、藤原の言葉を否定する様に「来ますよ」という声が聞こえた。


 サッと振り向く藤原と橋本。

 其処には、新たな飲み物を抱える長谷川。

 彼女の顔には、何かを思い悩む様な色が窺える。


「でも、私達……警官ですからね。 逃げたら、不味いですし」


 長谷川の決意に、藤原と橋本は揃って頷いていた。


   *


 爆破予告を終え、自宅に帰った匠は、パソコンの画面と向き合う。


 とりあえずと、匠はエイトと作戦会議をしていた。

 ただ、やはりと言うべきか、匠の顔色は優れない。

 

「……あぁ、なんだろ。 やっぱり俺って悪党じゃね?」


 散々爆破予告をしたからか、自己嫌悪に陥る匠。

 そんな彼を、エイトはジッと労う様な目で見る。


『そう言うな友よ。 大事の前の小事さ。 それに、多少時間を取られたとしても、死ぬよりはマシだろう?』


 エイトの声に、匠は頷こうとするが、首を止める。


「でもよ、エイト。 俺ぁ思うんだよ」

『何をだね?』


 エイトの返事を聞いた匠は、椅子の上で少し背を反らし、頭の後ろで手を組む。  


「ナナはさ、スンゲー怒ってただろ?」

『うむ……まぁ、な』

「でな、俺は……思うんだよ。 もし、俺が彼奴だったら、どうしたかなってさ」


 匠の声に、画面上のエイトも何かを思い悩む顔を浮かべる。

 エイトにしても、ナナの質問はずっと気掛かりであった。


 自分は主である匠をどう思って居るのか。 

 そして、匠は自分をどう考えているのか。


 それらが、エイトの思考を捕まえ放してくれない。


 チラチラと、匠を捉えている筈のカメラは、忙しそうに動いていた。     

 エイトの葛藤にも関わらず、匠は匠なりに色々と考える。

 仕事として引き受けた以上、放り出すつもりは無い。

 パッと何かを思い付いた様に、画面上のエイトへと目を向ける。


「そうだ! なぁエイト、一光さんとこのノイン。 彼奴に応援頼めるかな?」


 ふと、ナナの事を考えていた匠は九番ことノインを思い出す。

 相手が同じ様な存在である以上、どうせなら一対一ではなく此方の戦力を強化しようという思惑が在った。

 

 だが、妙案だという匠の声に、エイトは僅かに不満を顔に出す。


『私だけでは……不服か?』


 そんな声に、匠は困惑した。 言われている意味が分からない。


「はい? おいおいエイトさん。 なに言ってんだよ? 下手すりゃアッチとドンパチだぜ? 仲間は多い方が良いだろうが?」


 匠の声を聞いたエイトは、一瞬目を丸くした。

 だが、直ぐに冷静な顔を作る。


『あ、あぁ。 そうだな。 そう。 此方から、連絡して置こう』

「そう来なくっちゃ。 ま、善は急げって言うけどさ、まだ時間在るし、今日は寝かせて貰うか」


 すっくと立ち上がり、風呂場へと向かう匠。


 そんな背中を、エイトの目はジッと見ていた。

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