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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
26/142

幽霊退治 その10

 

「さぁてと、問題なのは此奴等をどうするかだな」


 長谷川のタブレットに表示される一覧表リストを見ながら、藤原は思案していた。    

 藤原と長谷川に人を動かすだけの権限は無い。


「なんとか、集まって貰えれば護る事も容易になるかと……」


 刑事二人の声に、画面上のエイトが動いた。


『アレだよ。 北風と太陽と行こう』


 エイトの出した案に、藤原と長谷川はなる程という顔を覗かせる。

 だが、匠はウンと鼻を鳴らしていた。


 暫く後、店を出た藤原と言っても長谷川は覆面パトカーへと乗り込む。

 藤原が鍵を捻ると、低い咆哮を放ってエンジンが唸った。


「ソッチは頼むぜ! お二人さんよ!!」「あ、安全運転ですからね!」


 そんな言葉を残し、藤原操る覆面パトカーは発進した。

 派手なタイヤの擦れる音を残しつつ、あっという間に刑事二人組を乗せた車は走っていってしまう。


「なんだよありゃあ、違法改造じゃねぇのかよ」


 ド派手なマフラー音に凄まじい急加速。 

 ソレを見た匠は、素直な感想を示し、携帯端末に映るエイトも同意を示す様に頷く。


『ま、あの二人はそれなりに動いてくれるだろうさ。 私達も動こう』


 刑事二人を見送り、匠とエイトが動く。


 予想されている標的を、どこか一カ所に集めて護る。

 その案自体は素晴らしいが、同時に、一番難しいのは集める事だ。


 警察官が予想される各標的に電話すれば、或いは可能だが、藤原と長谷川にはそれをさせるだけの権限は無い。

 

 そこで、エイトが打ち出したのは自主的避難を促す事だった。


 匠が電話し、【逃げてください】と言っても相手は取り合わないだろう。

 見ず知らずの相手から、そんな電話を貰った所で、鵜呑みにして来れる者は多くはない。


 だからこそ、別の手段を用いて自分から逃げ出して貰う必要が在る。


「気が進まんが、まぁ、仕方ないやね」 


 田上電気店の戸に、【本日休業】の札を下げた匠は、顔を渋くしながら歩き出した。


  *

 

 その日、数カ所の家に奇妙な事が起こった。


 鳴り響く呼び出し音に、バタバタと走る女性。


「はい、もしもし?」

『お前の家に爆弾を仕掛けた。 テレビを見て見ろ』


 いきなり訳の分からない電話に、受話器を持つ女性は息を飲む。


「な、え、だ、誰!? いきなりなんな訳!?」

『質問している暇は在るのか? いいからテレビをつけて見ろ。 長くは待たんぞ』


 脅迫電話、思わず女性は恐る恐るテレビを点ける。

 すると、普段であれば普通の番組が流れる画面には、何かのカウントダウンが映し出されていた。

 それだけではなく、画面という画面が灯り、同じ様な数字が映し出される。


「な、なにコレ!?」


 女性は驚愕した。 刻々と減っていく数字。

 それだけを見ていると、如何にも部屋中が爆弾に見えてくる。


『どうする? もう時間は無いぞ?』


 そんな言葉を残し、電話は切れてしまう。


「ちょっと!? なんなんですか!? もしもし!? もしもし!!」

  

 ツーツーという通話が切れた音を聞きながら、女性は背筋に寒気を感じた。

 ハッと成り、慌てて自分の家族の無事を確かめようとする女性。

 

 彼女は、必死に何処かへと電話を掛け始めた。


  *

 

 爆弾予告が為されたアパートの一室の近くでは、匠が苦い顔で立つ。


「なんかよぉ、気が進まねーよこれ。 スンゲー悪い事してるみたいじゃん?」


 脅迫擬き電話を掛けたのは匠であり、心苦しい。

 そんな匠の手に在る携帯端末スマートフォンに、パッと歪なエイトが映った。


『仕方ないだろう友よ。 ナナが指定した時間まで余りない。 予告状をいちいち出している暇は無いんだ』


 労うエイトの嗄れ声に、匠は長い溜め息を漏らす。


「あー、でもなぁ。 なんか俺、とんでもない犯罪者みたいじゃん?」

『君の苦しみは分かるが、まだ二件目だぞ? こんな最初でそんな風に音を上げないでくれないか?』


 エイトの嗄れ声に、匠はジトッとした目を画面に向ける。


「つーかさ、やっぱりソッチなの?」


 予想される標的に脅迫電話を掛けまくるという工作を始めるに当たり、エイトは以前の歪な丸顔へと戻ってしまう。

 その事を匠は咎めた。


『友よ。 良いかね? 只でさえ電力事情は厳しいんだよ。 それに、君の為にあっちこっちの痕跡を消して回るのは大変なんだよ? 少しは労ってくれても良いんじゃないかな?』


 エイトの言葉に嘘は無く、匠に見えていないだけでやることは多かった。

 

 先ず、匠の声を変成させ、テレビの画面に割り込みを掛ける。


 加えて、どの様な機械を通しても匠という人物に辿り着けないように、ありとあらゆる場所や記録から【匠が電話した】という痕跡を消して回る。


 それだけでも、エイトの力の凄まじさを示していた。

 

 だが、実際に電話する匠は辛かった。

 面識や恨みすらない相手を脅さねばならず、胃が痛む。


「分かってる分かってるよぉ。 チョイと愚痴っただけさ」

『その意気だ。 さ、次へ行こう』

「あいよ」


 軽いやり取りを終え、匠はまた違う場所へと携帯端末スマートフォンを操作する。

 電話番号自体は、エイトが割り出してくれる為に問題は無い。


 ただ、仮だとしても人を脅かさねば為らない事が匠は辛かった。

 それでも、自分とエイトは北風を演じる。


 人に出て来いと言っても、そう簡単には人は従ってはくれない。

 なればこそ、自分から出て来させる必要があった。


『はい、もしもし? どちら様ですか?』


 通話が繋がり、向こうから声が聞こえる。

 それを聞いた匠は、息を吸い込んだ。


「お前の家に爆弾を仕掛けた。 パソコンの画面を見てみろ」


 気が進まないとしても、匠は仕方なく爆破予告の電話を掛けていた。

 

  *


 匠とエイトの努力は多少の効果を示す。

 

 何も知らないフリをして警察署へと戻った藤原と長谷川は、ただ待つ。

 本当であれば、今すぐ標的達の元を訪れてかき集めたい。


 だが、立場上それは出来ない二人は、事の推移を見守っていた。


 程なく、警察署が慌ただしくなり始めた。

 ソレを見た藤原は、適当な同僚を捕まえる。

  

「よう、どうした?」


 如何にも【何も知りません】という風情の藤原に、若い警察官は慌てる。


「どうしたもこうしたもないですよ! 今大変何ですよ!?」

「落ち着けって、何が在ったんだよ?」

「爆破予告ですよ! 何だか分かりませんが、そっこら中で予告が在ったんです! 藤原さんと長谷川さんも早く来てくださいよ!!」


 慌てふためく警官は、藤原から離れて行く。

 だが、ソレを見ても藤原は慌てず、近くの長谷川へと目をやった。


「いやぁ、彼奴等もやるねぇ」

「はい。 まぁ、出来るだけ穏便な方が良かったんですが」

「そりゃあ仕方ねぇよ。 死ぬぐらいならちょっぴりビビって貰うぐらい我慢して貰うしかねぇさ」


 裏の事情を知っているからこそ、藤原はどっしりと構え、長谷川は所帯なさげに立つ。


 そんな二人の目に、警察署の駐車場へと続々と入ってくるセダンが見えた。


「見ねぇな、お偉いさん方とエリート達みたいだぜ?」


 藤原の言葉通り、留められたセダンからは続々と背広を纏った厳めしい顔つきの男達。

 様々機材や何かを持ちつつ、警察署へと入っていく。


 ただ、セダンから降りた中の一人が藤原と長谷川を見つけて近づいて来た。


「藤原さん、長谷川さん。 お久しぶりです」

 

 人が良さそうな挨拶をする青年。

 挨拶をされた藤原は軽く手を振り、長谷川はペコリと頭を下げる。


「よう、橋本警視。 随分と偉くなったな?」

 

 藤原にそう呼ばれた青年は、まだソレほどの歳でもないが高い階級に居る。

 その前は、藤原と長谷川と共に職務に励んで居た青年であった。


「いやいや、まぁ、良いじゃないですか。 二人共元気そうですし」


 そう言う橋本に、長谷川は下げていた頭を上げた。

 

「お久しぶりです。 でも、わざわざ橋本さんが出て来るなんて」


 一応は事情を知らないフリをせねば為らない長谷川は、あたかも何が起こっているのかを分からないと装う。


「ま、オフレコですがね。 今回の事件、あんまり異様なんで、上が慌てたみたいなんですよ」


 軽く笑いつつ、肩を竦める橋本に、藤原と長谷川は苦く笑う。 

 裏で誰が動き回って居るのかを知っている以上、下手な発言は出来ない。


「おい! 其処! 遊んでるんじゃない! 早く会議へ行け!!」

 

 話し込む三人に、そんな怒声が飛んだ。

 ズカズカとした足取りの男性を見て、藤原は眉を寄せる。  

 

「なんだぁ? あの偉そうなとっつぁんは?」


 自分もそれなりの年齢ながらも、そう言う藤原に、橋本は笑った。


「あぁ、須賀警視正ですよ。 今度の事件を仕切るトップって所でしょうか? 何でか知らないんですがね、最近ピリピリしちゃってまぁ」


 飄々とした橋本の声に、藤原はフゥと息を吐いた。


「お前みたいに後からサッサと追い付く様なのが居るから心配なんだろ?」

「そうですね。 同期に比べて、橋本さん凄いって皆言いますから」

 

 実際には爆弾など無いと知っている藤原と長谷川からすると、旧知の仲間との話の方が重要である。

 だが、その事情を知らない橋本は、チョイチョイと警察署を指差した。


「ままま、お二人共。 とりあえず行きましょうよ。 まぁた雷落とされても嫌ですからね」

 

 軽くそう言って歩き出す橋本に、藤原と長谷川も渋々と続いた。


   *


【連続爆破予告対策本部】と、長々と紙が貼られた会議室では、様々な話が交わされる。

 

 だが、藤原と長谷川は退屈そうにそんな会議に参加していた。


 長々とした話も、真剣な意見も、二人に取っては意味が無い。

 犯人が誰かは知っており、そもそもその事自体別の目的の為でしかなかった。


「意見宜しいでしょうか?」


 慌ただしい会議。 そんな中、藤原はバッと手を挙げる。


 電話をしたのが誰で、テレビの画面を支配出来るだけの未知の技術テクノロジーも藤原にはどうでも良かった。 

 大事なのは、如何に目的を達成するかでしかない。


「どうぞ、藤原警部」


 手を挙げる藤原に、橋本からの助け船。

 元同僚にして頼れる上司に、藤原の気分も軽い。


「えー……犯人は未だに特定出来て居ません。 それに、相手はよく分からない技術も持ってます。 であれば、電話をされた被害者達を一時的にでも此方へ保護した方が宜しいかと」

 

 藤原の意見に、会議の前方で指揮を執る須賀警視正は嫌な顔を露わにする。


「藤原警部。 所轄の刑事には意見より捜査に専念して欲しいのだが?」


 下っ端の意見など真っ向から切り捨てようとする須賀に、隣の橋本が口を開いた。


「須賀警視正。 お言葉ですがね、私も被害者達を保護した方が宜しいと思います。 もし、爆破が起こってしまえば、それこそ大問題、警察の怠慢とマスコミやネットで袋叩きに成りかねませんからね」


 仲間の意見を尊重する橋本に、須賀は目を窄めた。

 実質的に指揮を執る以上、その責任は須賀に在る。


 もし、爆発が在れば、彼も困ることは分かっていた。


「……では、予告された被害者達への説得をお願いします」


 如何にも不満ですという色を隠さない須賀だが、当初の目的がなんとか実現出来そうな事に、藤原は内心胸を撫で下ろしていた。

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