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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
24/142

幽霊退治 その8

 呼ぶという気軽なエイトの声に、藤原は耳を疑った。  

 

 物証こそ無いが、相手は無差別殺人鬼と相違無い。

 そんな誰かを呼ぶという事に、顔をしかめる。


「そんな事……出来んのかい?」


 刑事である以上、犯人逮捕をしたいのは山々な藤原だが、ちょっと来いと言って、犯人がノコノコと現れるとは信じられなかった。


『確実に来る、とは言えない。 相手も私を知らないし、私も相手が誰かを知らない。 だが、呼び掛ける事は出来るだろう。 どうする?』


 エイトの申し出は藤原に取っては願ってもない事だった。

 可能ならば、大仰な事態にせず密やかに捕まえたい。


 藤原は迷うが、そんな彼の背広が、ぐいぐいと引かれた。

 何事かと其方を窺えば、青い顔の長谷川。


「止めません? そんな……もし……」


 長谷川からすると、自分の実は勿論だが、藤原と匠の身すら案じている。

 万が一、気が狂った様な者が現れて、其奴に自分達は殺されるのではないかと。


 迷うどころか、既に腰が引けている長谷川の声を聞いても、藤原は決断をする。


「バッカ野郎……俺達警官だぜ? 相手がどんな凶悪犯だろうが幽霊だろうと、逃げちまったら示しが付かねーんだよ、示しが」

  

 怯える後輩を諭しつつ、自分を鼓舞する。

 後込みしていては、被害者が浮かばれないのだと。


「じゃあ……お嬢ちゃん。 頼めるかい?」

『エイトだ』

「あん?」

『私の名はエイトだ。 お嬢ちゃんではない』

  

 確固たる意志を見せる画面上のエイトに、藤原は少し笑った。


「コイツは大したタマだぜ。 じゃあ頼むわ」

「えぇぇぇぇぇ………」


 藤原の声に、長谷川は長い嘆息を漏らす。


『友よ』


 刑事二人組の頼みとして受け取ったエイトは、最後の確認として匠という主へと目を向けた。


 画面越しではあるが、エイトの瞳は匠の目を捉えらている。

 匠も、最後の確認ば自分がするモノだと心得ていた。


 でなければ、エイトは無秩序に好き勝手な事が出来てしまう。


 今日の内に世界を灰に変える事も出来る。

 

 自分はそれを止め、エイトを導く。 その為の相棒なのだと。


「頼むよ、エイト」


 匠の声に、画面上の少女は深く頷いた。


  *


『少し、待ってくれ』

 

 そう言い残して、エイトは画面から消えた。

 何をしているのかは匠には分からないが、一応、藤原と長谷川は客である。

 である以上、接客として二人にコーヒーを出していた。


「まぁ、どうぞ。 インスタントですけどね」


 差し出された紙コップ入りのコーヒーを受け取る藤原は若干不満そうであった。


「有り難い……が、どうせなら冷えたビールの方が良かったかな」


 手の中のコーヒーを眺めながらそう言う藤原に、長谷川は渡されたコーヒーに砂糖とミルク入れながら口を尖らせる。


「警邏中の警官が飲酒ですかぁ?」

「お前だって免許持ってんだろ? 俺が飲んだって帰りの運転ぐらいできるだろうに」

「あー、残念ですけどぉ、私……オートマ限定なんで。 あのパトカーは無理ですねぇ」

「かぁぁ………コレだよコレだよ、最近の若い奴ってのはよぉ……なんでマニュアルぐらい出来ねーんだ? クラッチとギアが在るだけだろうが」

 

 暇もて余しなのか、世間話を始める長谷川と藤原。

 職務上の間柄というだけではない、もっと親密な仲に匠には見える。


 そんな二人の姿は、匠に取っては羨ましくも在った。


 エイトとは仲が良く、ハッキリと友達以上でもある。

 だが、実体の無いエイトとは、それ以上親密に成るのは無理だと分かる。


 そして、ノインを預けた相楽一光とも仲は良いが、友達という線を踏み切れていない。


 どっちのつかずの自分に、匠は苦く笑った。

 

 いつかは自分も。 それを想像するが、隣に居るのが誰なのかは分からない。


 未来に夢を馳せる匠だが、ふと、手元の携帯端末(スマートフォン)の変化には気付いた。

 いつもの様に、丸顔のエイトではなく、少女のエイトが映る。


『ふぅ、骨が折れたな。 ま、折れる骨が在ればの話だが』


 如何にも疲れましたという声を出すエイトに、匠は笑った。


「お疲れ様です。 でと、首尾はどうよ?」


 労いつつもそう尋ねると、エイトの顔は真剣そのものへと変わる。


『……直ぐに来るよ。 直ぐにね』


 エイトの答えを合図に、田上電気店には異変が起こった。

 画面という、何かを映し出すモノは全てに砂嵐が現れる。

 

 そして、ザラザラという不快な音が、店内に響いた。


「あ、な、何です!?」

 

 四方八方から異音が聞こえたからか、長谷川は慌てた。

 普段ならば、藤原に縋るなど彼女の矜持プライドが許さないのだが、この時ばかりは、頼れそうな相手を掴んでしまう。


「何だかなぁ……おいでなすった様かな?」

 

 長谷川とは反対に、未知の体験に藤原は歯を剥いて笑う。

 虚勢ながらも、それは雄という意地を示してもいた。


 程なく全ての画面から砂嵐が止み、同時にザラザラという異音も止まり、エイトが呼んだ相手が姿を見せていた。


 ソレは、人に見えなくもない。


 日本人形の様な髪型だが、荒れ放題のソレは綺麗とは言えず、髪の毛というには艶が全く無く、何もかもを飲み込む様に黒かった。

 ギョロリとした目は、死んだ魚の様にも見えるが、辺りを窺う様に泳ぐ。


 そして死体の様に白い肌。

   

 ソレが、匠の持つ携帯端末スマートフォンを除き全ての画面に映る。

 ソレはあたかも、店内に居る者を監視している様でもあった。


『…呼ばれたから来たけど……なに?』 


 その声は女性のモノとも言えるが、低く澱んだソレは幽霊の呼び名に相違無い。


 余りの事に、店内の誰もが声すら出せなかった。  

 それでも、長谷川を背に庇う藤原が画面の一つを睨む。


「わざわざご足労、ご苦労様ですがね。 お聞きしたい事がありまして」

 

 勇猛果敢にも、現れた得体の知れない何かに藤原はそう言う。

 

 すると、店内に映る全ての目が、藤原へと向いた。

 四方八方を取り囲まれているという錯覚に、長谷川は益々藤原に張り付く。


『それで?』


 意外にも話をしてくれる不気味な影に、藤原は頬を釣り上げた。

 それは、笑いと言うよりも、恐れに対抗するための引きつりに近い。


「面倒くせぇ手続きだのは抜きだ。 単刀直入に聞くぜ? 最近、元前科者を殺して回ってるのは……あんたかい?」


 もし、現れたのか普通の人間であれば、もっと回りくどいやり方を藤原もするのだが、今回は普通の事件ではない。

 相手が何者なのかは分からないが、捜査を始める。


 藤原の声を聞いたからか、影の口が不気味に嗤いへと変わった。


『だとしたら? 逮捕でもする? 刑事さん』


 画面に映る影は、スッと骨と皮しかない手を見せる。

 現れた手を見て、長谷川はいよいよ目を反らしていた。


 爪が無理やら剥がされた手は痛々しく、その手首には傷が窺える。 

 実物ではない。 だが、余りの見た目に、藤原ですら目を窄めた。


 直ぐに店内には低く地を這うような嗤いが響く。


『あたしが何かをした。 で、どうする? どうやって捕まえるの? 刑務所にでも入れてくれる?』

 

 ケタケタという、何もかもを呪う様な笑い。

 おどろおどろしい声だが、藤原も匠も下がらない。


「なぁ、なんで人殺しなんてするんだ?」

 

 思わず、思ったままを言う匠。

 エイトやノインと同じ様な存在だが、余りに異質な印象。

 それでも、匠は怯えは無かった。 自分にはエイトが居てくれる。

 

 匠の質問に、影はギョロリとした目を閉じた。


『なんで人殺しなんかするのか。 したいから。 貴方だってそうでしょ? 八番』


 そう答えると、影は目開く。

 店内全ての目が匠へと向けられるが、それらは匠の手元を見ていた。


『ご挨拶だな、七番。 生憎と私はエイトというんだ』


 匠の手に在る携帯端末スマートフォンはそう答える。 

 エイトの答えを聞いたからか、影は不機嫌そうに顔を歪めた。


『ふぅん? あたしもね、ナナって言うの。 番号じゃない』


 自分の名を名乗る影。

 

 一触即発といった空気に、藤原が前に出た。

 

「其処までだお嬢さま方。 話を戻させて貰うぜ?」


 良く分からない者同士の喧嘩を見物する為に藤原は来たわけではない。

 あくまでも容疑者の捜索の為に来ている。

 そして、容疑者が見つかった以上、犯行を止めねばならない。


「ではと、ナナさんよぉ、お前さんどうして殺しをしたんだ?」

  

 藤原の質問に、影は目を細める。

 影が映っていた画面は切り替わり、別の映像が流れ出す。


 それは、死亡した者の前歴であった。


 何年何月、何処で何をしたのか。 顔写真入りでそれは流れる。


『見える? 見えてるよね? 此奴等、悪党でしょ? 誰も彼奴等を裁けない。 だからあたしが裁いてる。 それだけだよ?』


 影に比べれば、経歴の画像ならば長谷川も狼狽えない。


「で、でも! その人達は逮捕されて刑に服しました! そ、それに、家族には関係が無い筈です!」


 藤原に続くように、長谷川もそう言う。

 長谷川が調べた結果から言えば、殺された者達は前は有っても服役し刑を終えている。

 そして、一緒に殺された者達はただの巻き添えとしか長谷川には思えない。

 

 だが、流れていた画像は消え、影が現れる。 

 そして、ギョロリとした目は長谷川を見ていた。


『だから? お巡りさんだからそう言うの? 本音は?』


 影の質問に、長谷川は言葉に詰まった。

 本音は在るが、立場がそれを言わせない。

 

 だが、影には何の制約もなく、自由である。


『刑に服役した。 それで? 罪が消えるの? 刑務所の役割は、咎人に苦しめる為じゃない。 あくまでもちょっぴり箱に閉じ込めて、立派な社会人として調整するだけ。 そうでしょ? それはホントに公平? 他人を害しても、少しお休みすればもう元通り?』

 

 その質問は、長谷川には困るモノだった。

 司法の問題として、ハッキリいって被害者もその家族も考慮されていない。

 概ね取り上げられるのは、加害者の人権のみだと言うことも分かっていた。

 

「だからってよ、その家族には関係無いだろ? 女子供まで殺しやがって」 


 血が頭に登ったせいか、藤原は画面の影を睨む。

 だが、如何に厳つい藤原に凄まれても、画面越しの影には意味が無い。


『関係が無い? それは被害者だってそう。 元々被害を受けたのに、世間に晒し者にされて笑われる。 誰もその人達を可哀想だなんて本気で思ってない。 或いは人を可哀想と思える自分が誇らしい? 可哀想だと思われたって、死んだ人は帰って来ないのに? 加害者の家族は関係無い? そうかも知れない。 でも、本当に加害者が被害者の気持ちが分かるのは被害者に成った時だけ。 自分達が悪い事しておいて、のうのうと生きてる。 不公平でしょ? だからこそ、その家族にも背負わせるよ、知らないじゃ済まさない。 公平になるまで、全員に罪を負わせるよ。 無理やりにでもね』


 ナナの低い声と共に、また画面が切り替わる。

 其処には、何処にでも居そうな女の子が映っていた。


 何かの記念写真から切り取った様な画像。

 前歴者達の時とは違い、それは白く縁取られる。


『貴方なら分かるでしょ? エイト。 大切な人が殺されたら、貴方ならどうする?』


 ナナの目は、長谷川や藤原ではなくエイトへと向いていた。

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