表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
23/142

幽霊退治 その7


「あー、でも………俺は何もしてないですよ?」


 いきなり店に刑事が来たからか、匠は警戒していた。

 ハッキリ言えば、バレていないだけでやっている事は非合法スレスレの場合が多い。


 それ以前に、前の事件で自分が何をしたのかは憶えていた。

 タクシーの無賃乗車に無断使用、そしてマンションとバスいう公共物の破損に加え、人を一人始末している。


 殺人に関して言えば、匠自身に直接的な原因が無くとも、やはり胸につっかえるモノは在った。


 だが、藤原と長谷川も、何も匠を逮捕に着た訳ではない。

 溺れる様な想いの中、藁をも掴むために来たのだ。


「長谷川、アレ貸してくれ」


 藤原のそう言う声に、長谷川は一度首を傾げる。

 内心、アレって何だろうと思うが、車内で見ていたコピー用紙を思い出す。


「はい、どうぞ」


 長谷川はサッと懐から一枚の畳まれた紙を差し出し、ソレを受け取る藤原。


 傍目は凸と凹といった二人組だが、息の合った関係に、匠は僅かながらも羨ましいという感覚に捕らわれる。

 ただ、直ぐに藤原が【田上電気店】というチラシを見せた事で、匠は目を丸くしていた。


「あー……コレは」

「この店はよ、相談乗ってくれんだろ? ちぃと困ってんのよ」


 藤原の質問に、匠は断る事はなく、首を縦に振った。


「はい、御相談が有ればお受けしますよ」


 捜査ではなく相談であれば、匠も嫌がる理由は無かった。

 匠の同意を得た藤原は、スッと息を吸い込む。


「でな、ここんちに頼みたいのは……幽霊退治なんだ」


 藤原の声に、匠は「は?」と素っ頓狂な声を出してしまった。

 

 当たり前だが、幽霊退治は田上電気店の業務には無い。

 それ以前に、エイトと匠はトラブルバスターではあってもゴーストバスターではなかった。

 ウイルスやパソコンの不調といった事には対処が出来るが、それ以上となると自信が余りない。


「刑事さん……」

「藤原で良い。 今は私用みたいなモンだからな」

「では、藤原さん。 幽霊退治をしろって言われても」

 

 そう言うと、匠は店内を見渡す。

 当たり前だが、田上電気店にはそんなに変わった品は無い。


「あの映画の幽霊をとっ捕まえたり出来るビームとか無いんですが」


 困った様にそう言う匠の声に、間違いは無い。

 藤原にしても、何か上手い言い方はないものかと鼻を唸らせる。


 膠着状態では埒が明かないと、長谷川も前に出た。 


「私から説明しますよ」

 

 眼鏡をグイッと上げ、如何にも才女であるといった風情の長谷川。

 そんな彼女に、藤原もどうぞと譲る。 


「コレを見てください」

 

 そう言うと、長谷川は持参のタブレットを店のカウンターへと乗せる。

 チョイチョイと画面を弄ると、クルッとタブレットを匠に見易い様に回す。


 匠も、出された内容をジッと見るが、それは、最近多発している事故が表示されていた。


「あー……最近多いとは思ったんですよ。 でも、事故では?」

「その通りです。 ここに映っているのは殆どが事故。 然も、故意に誰かがぶつけたとか、そう言う事ではなく、突発的な事故」


 そう言うと、画面を見ていた長谷川は視線を上げて匠を見る。 

 レンズ越しとは言え、訝しむ様な目に、匠はウッと唸った。


「どの事故もな、殆ど詳細がねぇんだよ。 オマケにドライブレコーダーの映像やら運転の記録すら、何もかも情報が消えている。 あれ? どっかで聞いた様な話だとは思わないか?」

 

 長谷川を補足する藤原の声に、匠は納得していた。

 

 店に顔を覗かせた刑事二人は、ほぼ事件の核心に近付きつつある。

 だが、同時に二人が真相へ辿り着く事はないともわかっていた。


 匠からしても、相棒であるエイトが何なのかを上手く説明は出来ない。

 その代わり、藤原の言った【幽霊】の正体が匠には見えてくる。


 以前、エイトがノインに気付いた様に、匠も感づいていた。


「あー、藤原さん。 長谷川さん」


 パッと顔を切り換えた匠に、刑事二人は鼻を鳴らす。


「問題には対処出来るかも知れません。 ちょっと電話して良いですか?」

「あ? んまぁ、そりゃあ構わんが」


 藤原からしても、匠は容疑者ではない。

 電話を掛けさせてくれと頼まれれば、止める理由は無かった。


「すみません」と前置き、匠は携帯端末スマートフォンを弄る。


 傍目には電話をしている姿そのものと言えるのだが、実際のところ、匠は手に持つ端末と話していた。


 誰かと話しているのは、藤原と長谷川にも見える。

 程なく、匠は話すのを止めて二人を見た。


「お待たせしました」


 とは言うものの、匠は特に何かをしたりはしない。


 その代わりに、カウンターから出ると、展示品のテレビへと寄る。

 その様に、何事かと長谷川と藤原は身構えるが、匠は特に武器の類を携帯している様子は無い。


「えーと………驚かないでくださいね?」


 前置きとしてなのか、匠はそう言うとテレビの電源を入れる。

 ごく普通の番組が流れるが、それは、店の商品が不良品ではない事を示しているに過ぎない。


「おい兄さん。 俺達別に新居の為に家電買いに来たんじゃないんだぜ?」

「あ! ちょっと! 藤原さん! そういうの止めてくださいよ、もう!」


 あっけらかんと言い放つ藤原に、長谷川はそれを咎める。

 実に仲の良い二人といった刑事二人に構わず、匠は、ソッと携帯端末スマートフォンをテレビへと寄せた。

 

 その途端、画面には変化が起こる。

 新品同様の筈なのに、急に画面がチラつき絵は乱れた。


 何事かと長谷川と藤原は訝しむが、直ぐにパッと画面は切り替わり、モヤモヤと何かが映り始める。

 それは、匠が普段から頼んでも滅多に見せたがらない少女のエイトである。


『あー、あー、こんにちは。 初めまして』


 朗らかな挨拶をエイトは目指したのだが、反応は芳しくない。

 藤原は目を疑う様に片目を窄めて片目は見開く。


「いったい………なんだ此奴は」


 藤原はそう言うと、思わず画面上の少女が見える自分の目を擦る。

 だが、見えているモノが嘘ではないと分かった。


「コイツはたまげたぜ。 なぁ、長谷川……長谷川?」


 藤原は未知の体験に思わず胸を踊らせるが、相棒の様子がおかしいと言うことには気付く。

 その場に立っていた筈の長谷川だが、顔を驚愕に強ばらせたまま、そのまま後ろへと倒れる。

 

「あ! おーい! 長谷川! しっかりしろ! おい!」


 バタンと長谷川が倒れるのを辛くも防いだ藤原だが、いきなり立ったまま失神してしまった後輩を案じる。


 そんな光景に、匠とエイトは同じ様に顔をしかめた。


『なぁ、友よ』

「なんだ? 相棒」

『私の顔は、そんなに怖いかな?』


 弱々しい声に、匠はチラリと画面を窺う。

 其処には、困った様に眉を寄せる少女姿のエイトが映っていた。


「いや、いつだって俺はそっち方が良いって言ってるだろ?」


 匠の声に、エイトは満更でもないという微笑みを浮かべる。


『ありがとう、友よ』

  

 和やかなエイトと匠だが、それとは対称的に、藤原は失神した長谷川に必死に声を掛けていた。


  *


 長谷川が気力を取り戻すのに、たっぷり五分は要したが、何とか気を持ち直す。

 だが、藤原の後ろに隠れるという姿に、匠とエイトは少し困った。


「でと、その……なんだ……お嬢ちゃんに付いて、説明してくれるのか?」


 藤原の質問に、画面上のエイトは頷く。

 

「勿論だ。 藤原警部補に長谷川真理巡査長」


 自己紹介すらしていないにも関わらず、エイトは刑事二人の名前を言う。

 その事には、流石の藤原も目を窄めた。


「おっとぉ? 自己紹介はまだしてなかった筈だが?」

『気にする事かな? どうせ後で紹介されるのではあれば、先に此方が調べた所で問題ではないと思うが』


 少女の形こそしているエイトではあるが、喋り方は別物である。


 そして何より、あっという間に自分達が誰かを調べ上げたという事実に、藤原と長谷川は少し恐れを感じていた。


「ま、あんたが誰なんてのはどうでも良いやな、本題に入るぜ? 今回の事件はあんたがやったのか?」


 自分の直感を信じる藤原は、今までの捜査から犯人が画面上の少女なのではないかと疑った。

 何故なら、幽霊という言葉そのままであり、実体は見えない。

 その割には、自分達の経歴を調べたり、画面上に映って見せるという事をやってのけたエイトを疑る。


 問われたエイトは、少し目を伏せ、唇を噛む仕草を見せた。


『なるほど……私が疑わしいという気持ちは理解できる。 もし、私と君が逆の立場なら、或いはそう思っただろうね。 だが、コレも理解して欲しい。 私は君達の経歴を見た。 汚職に染まる者が多い中、藤原と長谷川の両名は正義の味方として相応しい。 だからこそ、私は私を見せたのだ』


 自分という存在が信じられずとも、自らの行いに過ちは無いとエイトは信じている。

 そして、現れた刑事二人にしても、道を外れて居ない正道を行く者と信じたからこそ、エイトは自分を見せていた。

 

 画面上に映る少女の声を聞いた藤原は、その言葉をよくよく吟味する。

 だが、まだ信用するには材料が足りなかった。


「要するにだ、お前さんが犯人じゃあないって言いたいんだろ? じゃあ、その犯人は誰なのか……調べて貰えるか?」

「藤原さぁん、止しましょうよ」


 長谷川は、ぎらついた目をする先輩を止めようと必死である。

 何せ得体の知れない何かが自分達を見ているのだ。

 

 彼女は、失神こそしないが酷く怯えていた。

 

 怖がられるというのは、エイトにしても本意ではない。

 だからこそ、敢えて少女の姿をしてみたのだが、効果はイマイチという事に苦く笑う。 


 それでも、トラブルバスターとしての仕事だと認識した以上、受ける事は決めていた。


『……ふむ……どうだろう? どうせなら、本人を呼ぶ……というのは?』

 

 エイトの提案に、長谷川はヒィと声を少し裏返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ