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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
22/142

幽霊退治 その6

 匠とエイトは未だに事態に気付いて居ない。


 事故自体は、確かに何処かで毎日起こっているモノだからだ。

 不注意、不意を突かれて、知らず知らずに。

 原因は様々ながらも、事故は絶えない。


 だからこそ、普通の事故が迷彩カモフラージュに成ってしまい、自体の深刻さにまでは気が回らなかった。


 ただ、その事故を調べる者達の中には、原因を探る者達も居る。


 公務員である長谷川は、根が真面目だからか、それを調べ始めていた。

 出来るだけ資料を取り寄せ、詳細を隅々まで調べる。

 

 以前、先輩である藤原から何となく示唆ヒントを貰った長谷川。   


 彼女は、必死に眼鏡を上げながら何かが在る筈だと調べる。

 

「……やっぱり……でも……」

 

 警察署のパソコンにて、事故を調べるに当たり、ある程度の共通点を掴む。 

 

 事故の被害者は、概ね何かの犯罪の前科者が多かった。

 ただ、それは一つの罪状に留まらず、多種に渡る。


 叩けば埃が出るというのが人間だが、全員に前科が在るとなると、長谷川は次に何故彼等が事故に遭うのかを探った。

 

 だが、それは徒労としか思えない。

 何故なら、事故自体は自爆も含まれており、誰かが引き起こしたという物証が見当たらず、長谷川は、深い唸りを上げる。 


「……もぅ……全員偶然に事故を起こしたか遭ったなんて……」


 そんな長谷川の手元に、コトンと缶コーヒーが置かれた。

 ハッと顔を上げれば、其処には心配そうな藤原の姿。


「あ、藤原さん。 おはようございます……」

「お前……最近帰ってねぇだろ?」


 心配する藤原の声に、長谷川は目を泳がせた。


「あ、いや………だって、皆死んだり重傷だったりで、何か変だと思いません?」


 そう言う長谷川の顔には、酷いクマが窺える。

 それを見て、藤原は顔をしかめた。


「バッカ野郎……何でもかんでも独りでやろうとしてんなよ。 頼りねぇかも知れないが、仲間を頼れってんだ」


 後輩を案じる藤原の声に、長谷川の心臓が僅かに踊った。

 

「……あ、でも!」

「でもじゃねぇ! ほら、送ってやるから立て」


 否応無しという態度を見せる藤原の声に、長谷川は「はぁい」と応じた。


  *

 

 覆面パトカーで自宅へと送られる長谷川は、普段とは違いゆったりと運転する藤原の横で目を泳がせる。


「あ、あのぉ……こういう使い方って、不味いんじゃ……」


 ハッキリ言えば、藤原の行動は公私混同である。

 私用車ではない車で、後輩を自宅へと送り届ける。 


 だが、当の藤原は笑っていた。


「なぁに、パトロールの一環さぁ。 そんで、お前は偶々体調が悪いから有給を使う……それだけさ」

「……あの、でも」


 警察官足長谷川は、そんな事をして良いのかと悔やむが、藤原は態度を変えない。


「デモもストもねぇんだよ。 若い女なんてのはな、いっぱい喰っていっぱい寝て、いっぱい遊んで、それで良い女に成るってモンだ。 少しは寝ろ」


 持論を展開する藤原の声に、長谷川は「それ、セクハラでは」と呟く。

 だが、内心では悪い気はしていなかった。 

 言葉の内容はともかくも、自分を心配してくれるという事は素直に有り難く思える。

 

 だからこそ、長谷川は送られる事に甘んじていた。


 暫くの間、覆面パトカーはマフラー音自体煩くとも穏やかに走って居たが、程なく、長谷川の自宅であるマンション前へと辿り着く。

 ソッと降りる長谷川は、助手席側の窓から藤原を覗いた。


「あの、何かあったら呼んでください……直ぐ行きますから」

 

 自宅前でペコリと頭を下げる長谷川に、藤原は「おう」と声を掛け、覆面パトカーを走らせる。

 ルームミラーには、手を振る後輩が見えたからか、藤原はフッと笑った。


 頑張り屋の後輩を送り届けたからこそ、多少は気が楽に成るのを感じる。

 ただ、直ぐに藤原の顔はしかめられた。


 長谷川が無理を通して調べた様に、不自然な事故は絶えていない。


 下手をすれば、今も何処かで起こっているのではないかと悔やまれる。

 だが、藤原も藤原なりで捜査はしているが、どうにも核心が掴めなかった。


 誰かが故意に何かを引き起こしているのは分かる。


 だが、その尻尾が一向に掴めない。 まるで、犯人は幽霊だと言うように。


「……たくよぉ、どうしろってんだよ……」


 犯人の姿が掴めない藤原は、鬱憤晴らしを兼ねて、その辺をパトロールし始めていた。


   *

 

 長谷川の努力も、藤原の苦悩も虚しく、事故は止まない。

 ただ、唯一の手掛かりは、生存者達の共通の言葉だけだった。


【誰かが追ってくる】【何かが追い掛けてくる】【ソレは自分達を見ていた】


 それらの証言は、証拠としての意味を為さない。

 検事や裁判所に、【幽霊】をなんとかしてくれとは言えないだろう。 


 で在れば、後は霊媒師か悪魔祓いにでも頼もうかというオカルト地味た話に成ってしまう。


 無論、真っ当な刑事である藤原と長谷川はそんな超常現象を信じては居ない。


 綿密な調査の結果、事故に関わった機械には、その全てに自動制御の機構が在ることを掴んでいた。

 

 だが、製造業者メーカーは一つだけではなく、調べても機械自体には問題が無い。

 つまりは、誰かが【外】から細工をしているという事までは掴むことが出来ていた。

 

 以前沈んだバスと事故で大破したタクシーを調べた経験が役立ったと言える。

 事故を起こしたバスとタクシー同様に、件の事故に関わった機械には何らかの痕跡が無い。

 それも、不自然な程に。

 

 八方に手を尽くし、様々な機関を当たった二人だが、調査には膨大な時間が掛かってしまうと言われ、落胆を隠せなかった。


 そんな藤原と長谷川は、今、在る場所へと向かう。

 

 最近、巷で評判に成りつつある個人経営の電気店。

 其処は、普通の人では困る問題ですらあっという間に片づけてしまうという事でネットでは有名と成りつつあった。


 二人の刑事は、藁をも掴む想いで其処へと覆面パトカーを走らせていた。


「コレ、ホントだと良いですね」


 助手席にて、コピー用紙を眺める長谷川。

 彼女の眼鏡には、印刷された内容が映る。


【パソコン、インターネットでお困りの方は是非とも田上電気店までご相談を】


 実に分かり易い謳い文句に、長谷川は、フゥと息を吐いた。

 相棒の溜め息に、藤原はフンと鼻息を漏らす。


「あんまり紙と睨めっこしてんなよ? 酔うからな」


 藤原の心配そうな声に、長谷川はコピー用紙を折り畳みジャケットの懐へと収める。

 もはや民間の怪しげな電気店にまで応援を頼まねば成らないという事実に、長谷川は不安であった。


「分かってます……ただ、ちょっと……」


 長谷川の声に、藤原の鼻はフフンと不敵に唸り、軽くハンドルを叩く。


「コイツなら大丈夫だぜ? 機械制御は入ってるが、それも昔の奴さ。 コイツなら、勝手に暴走してドッカーン……なんてねーよ」


 ほとんど私物化されているからか、藤原は骨董品の覆面パトカーを自慢げに語る。

 本来なら長谷川は咎める立場だが、先輩の言う通り、腰掛ける助手席は下手な車よりも安心が出来た。


「はい、分かってます」

 

 長谷川の顔が緩んだのをチラリと窺った藤原も、少し笑う。

 少しでも相棒の気が楽に成ったのであれば、それで良いと。


「さぁ、後少しだ」


 そう言うと、藤原は静かにアクセルを踏み込んでいた。


   *


 覆面パトカーは、こじんまりとした電気店の前へと止まった。

 外からチラリと窺う限り、ハイテクな店とは言い難い。


 だからこそ、藤原の眉が寄り鼻がウゥムと唸る。

 

「おい、ホントに此処かぁ? どう見たってその辺の爺さん婆ちゃんが扇風機でも買ってそうなモンだが」


 心配そうな藤原の声に、長谷川は今一度懐に収めたコピー用紙を隅まで舐める様に見る。

 だが、コピー用紙の内容に間違いは無かった。

 

「間違ってませんってば……住所と、電話番号は……合ってます」

 

 店の佇まいを見たからか、長谷川もいよいよ広告の内容を疑い出してしまう。

 だが、もはや他に頼れそうな宛も無い以上、覚悟を決めた。


「駄目で元々なんです! 行きましょう!」

「あ! おい、待てって!」


 我先にと車を降りる長谷川に、藤原も続いた。 

 

 店先で立ち尽くす長谷川と藤原だが、噂の電気店はどう見てもただの電気店としか見えない。

 有り体に言えば、町の家電店さんといった風情を醸し出している。

 

「よっしゃ……行ってみんべぇ」

「はい」


 長谷川に声を掛けた藤原は、相棒の返事を受け取ってから、店の戸を手で開いた。


「いらっしゃいませ~」


 藤原が店の中へと入るなり、少し間延びした来客への挨拶。 

 そんな声と、その顔には刑事二人は見覚えが在った。


「あ、お前」「あの時の」


 中年男と妙齢の女性という二人に、店番をしていた匠は、首を傾げた。


  *


 匠からすれば、何となくは憶えがあった。

 何処かで見た様な気がするが、イマイチ誰かが出て来ない。

  

「ご要望が在ればどうぞ遠慮なく」


 相手が誰で在ろうとも、とりあえず接客をこなそうとする匠。

 そんな匠に、ゴツい体格の藤原が近付く。


「よう兄ちゃん。 この前会ったが、もう忘れたか?」


 そう言うと、藤原は懐から警察手帳をサッと見せた。

 その時、匠の中で記憶の糸が繋がる。


「………あ! あの時の刑事さん?」


 ようやく思い出した匠。

 そんな声に、長谷川はフゥと息を吐いていた。

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