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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
セブン
20/142

幽霊退治 その4


 気晴らしに一日を費やした匠ではあるが、いつまでもそうはして居られない事は分かっていた。 

 

 明くる日。 


 新たな仕事を始めるに当たり、匠は、ある人の元へと脚を向けている。

 それは、エイトが現れたパソコンを組んでくれた友人の元であった。


『友よ、今日は何処へ行くのだ?』


 携帯端末スマートフォンが勝手に口を効くという事に、すっかり匠は成れていた。

 本来なら、誰かに自慢どころかテレビ局にでも売り込めばそれなりに稼げるかも知れないが、其処まで匠は粗忽でもない。


「あー、アレだよ。 あのダルマ在るだろ?」

『……達磨? 君の部屋には……』

「パソコンだよ、パ ソ コ ン。 アレを組んだ奴の所さ」

『あぁ、そうか。 でもまた何故?』


 若干心配そうなエイトの声に、匠は不敵な笑いを浮かべる。


「おいおい、信用しろって、な? 何か始めるにしたってさ、やっぱりいきなりのド素人が突っ込むよりも、知ってる奴の伝手を頼ってみようかってな」


 そんな匠の声に、画面上のエイトはクルクルと回る。

 何かを考えている様でも在るが、匠には回る歪なエイトは不機嫌な猫を想像させた。


『……別に、君と私だけでも大丈夫だと思うがね』


 不満その物といったエイトの声に、匠は笑う。

 まるで拗ねた子供の様なエイトが、可愛く感じられた。


「まぁまぁまぁ、エイトさん。 ほら、郷に行っては郷に従えって言うだろ? お前さんと俺なら無敵のコンビでもよ、世間はおっかねぇって」


 エイト自身の力を疑うつもりは毛頭無いが、匠自身不死身ではない。

 

 もし、いきなり機関銃抱えた数人に取り囲まれてしまえば、生き残る術は無いだろう。

 匠が如何に電子に疎くとも、エイトの力はなんとなく理解は出来る。


 その力が知れ渡ってしまえば、人々は欲しがる事は明白であった。


 まだ匠は試してこそ居ない。 だが、想像は容易に出来る。

 既に【試した奴】を知ってるからだ。


 そして、エイトもまた、主の思惑と同じ様な事を考える。


『そうだな、友よ』

「あぁ、まだまだ始まってないからな。 頑張ろうぜ」


 匠の声に、画面上のエイトもまた笑った。


  *


 そうこうしている内に、エイトを伴った匠は、在る店の前へと辿り着く。


 傍目には個人が営んでいる電器屋にも見える。

 その店は、【田上電気店】という看板を掲げていた。


 店の戸には最新の家電のチラシが貼られ、他にも、【修理、相談、お伺いします】という文言が電話番号と共に在る。


 早速とばかりに、匠は手動のガラス戸を押し、中へと入る。


「いらっしゃいませ……って、なんだよ、匠かぁ」


 店主らしい男性は、匠の顔を見るなりため息を吐いていた。


「なんだ……は、ないんじゃないっすかね、田上さん」

「あぁまぁな、お前でも一応お客様だからな」


 匠に笑い掛けるのは、三十半ばといった風情の細身の男性である。

 細面に薄い笑いを浮かべた飄々とした様子は、在る意味頼もしい。


「で? どうした? この前のパソコンの調子が良くないとかか?」 

 

 言葉の通り、匠の持つ怪しいパソコンを組んでくれた田上である。

 匠の高校の先輩だが、実家が電器屋で在ることから趣味に繋がり、結局はそのまま仕事にしてしまったという経歴を田上は持っていた。


「あー、いやー、まぁ……パソコンの調子は……絶好調ですよ?」

 

 本来なら、【生意気な奴が中に居る】と言いたい所ではある。

 だが、わざわざ自分からエイトの存在を明かすつもりは匠には無い。


「ほう? 急拵えで悪かったが、案外快適に使えてそうで何よりだよ」

「え、あぁ、まぁ、あははは」


 田上は朗らかに笑うが、正直、匠は言葉に詰まっていた。

 組んで貰ったパソコンの動作に問題が無いかと言えば、在る。

 

 世間一般的に言えば【勝手に動作する機械】という時点で大問題だろう。


 だが、そんな生活に慣れ始めている匠からすれば些細な問題と言えた。


「ところで、じゃあ今日はどうした? パソコンの事じゃないとなると……アレか?」

「まぁまぁまぁ、良いじゃないですか、そう言うのは」


 唐突に何かを思い付いたらしい田上だが、匠は、慌てて両手を振ってその先を言うのを止めさせた。

 慌てる匠を見て、田上はフゥンと鼻を鳴らす。


「で? じゃあ今日はなんだ? 新しいオーブンでもレンジでも仕入れてやるが?」

「先輩、それも良いんですけどぉ」

「じゃあなんだよ?」

「……なんか、パ、パソコン関係の仕事とか……ないですかね?」


 前振りもそこそこに、匠は先輩に頭を下げる。

 背に腹は変えられず、下げられるモノなら何でも下げる覚悟は匠には在った。


「ほっ……珍しい。 いや、そりゃあ在るぜ? つってもよ、お前……電子関係まるで駄目じゃん」

  

 田上からすれば、匠の申し出は違和感しか感じられない。

 そもそも電子機器に疎く、細かい説明をしようとしてもチンプンカンプンであり、だからこそ、田上がパソコンを組み上げたのだ。


「いや、でもまぁ、結構勉強したんですよ」

「ホントかよ? でもなぁ匠。 おいそれって任せる訳にはいかんだろ」


 先輩の指摘は、匠にも理解は出来る。 

 仕事は遊びとは違い、責任が発生するのだ。

 適当に任せて【出来ません】では話は済まない。

 下手をすれば田上が信用を失いかねず、だからこそ、簡単には任せる訳には行かない。

 

 それでも、田上の元には様々な依頼も来ているのも間違いではなかった。


「……ま、じゃあこれから二、三件回るけど、お前、付いて来るか?」


 案外軽い田上の誘いに、匠はハッと顔を上げた。


「良いんですか?」

「あぁ、その様子じゃ暇なんだろ? ま、お手並みも拝見したいしな」


 思わぬ棚からぼた餅に、匠は内心胸が躍った。


「ちびっと待ってくれ」


 田上が色々と準備を始める合間、匠は、借りた作業服の袖に腕を通しつつ、携帯端末スマートフォンを手に持つ。


「よぅ、上手く行きそうだぜ?」


 こっそりと携帯端末スマートフォンに話し掛ける匠だが、そんな声に反応して画面は灯る。


『ちゃんと聴いてるよ。 何か在ったら呼んでくれ。 ただ、物理的な事に関しては私は手助け出来ないぞ?』


 エイトの助言に、匠はウウンと鼻を唸らせる。

 いまいち理解出来て居ないのだが、だからといって、田上は待ってはくれない。


「おーい! 行くぞ?」


 準備を終えた田上が声を掛け、掛けられた匠も「はーい」と答えた。


  *


 自動運転に車ゆえに、車内では田上から説明が行われていた。


「ま、初仕事って訳でもないんだからさ。 気楽に頼むぜ?」

「いやー、まぁ、それは頑張りますよ」


 いきなりの初仕事という訳でもなく、田上の助手という形での参加。

 無論、いきなり賃金の話をするつもりは匠には無い。


 今回は、あくまでもお試しであり、無報酬でも良かった。

 

 最初こそ肝心であり、いきなり【金に成りますか?】という無粋な質問はしない。


「でも、田上先輩。 だいたい向こうで何が起こってるのかは、分かってるんですか?」

「あぁ、色々だなぁ。 簡単な奴なら、パソコンの電源が入らないとか、電灯を変えてくれとか、その辺はお前でも何とかなるさ。 問題は、もっと面倒くさい奴だな」

「と、言いますと?」


 匠がそう尋ねると、田上は持参のクリップボードから紙を一枚出して見せてくる。

 それには、コンピューターウイルスといった類に侵されてしまった画面の写真。


「そう言うのが最近多くてな……一番困るんだよな。 ちょっとした事で直る場合も在るんだけどさ」


 田上は頭をボリボリと掻き、顔をしかめる。

 だが、匠は内心笑いを堪えていた。

     

 その手の類こそ、エイトが最も活躍出来る場であると信じているからだ。


「……あぁ、大丈夫だと思います、任せてくださいよ!」


 自信満々といった匠ではあるが、田上は訝しむ。

 ほんの少し前までは、電子音痴その物でしかなかった匠を疑うのも無理はない。

 それでも、匠の自信は崩れない。


「大丈夫っす! ね!」


 ポンポンと軽くポケットを叩く匠ではあるが、田上にはそれが何を意味するのか分からなかった。


   *


 二人を乗せた自動車は、依頼の在った家へと辿り着く。

 早速とばかりに、降りる田上に匠は続いた。


【東】と表札を掲げた個人宅は外観こそ古いが、よく手入れをされ、汚れは見えない。

 そんな家の玄関へと向かった田上は、静かにインターホンを押す。


「こんにちはー、田上電器店ですが」


 匠に向けるそれとは違い、実に営業用の柔らかい声を出す田上に、匠は舌を巻くが、そんな先輩に倣い、匠も無理に笑った。


 程なく、家の中からは老婦人といった女性が顔を覗かせた。


「あらあら、ご苦労様です」

「あ、どうも。 電話ではテレビの様子がおかしいとお伺いしたのですが?」


 個人で電器屋を営んでいるだけあり、田上の接客は丁重かつ見習うべきものだろう。

 在る意味これ以上ない実地訓練に、匠は身を引き締める。 


「それでは、お邪魔します」「と、お邪魔しま~す」


 老婦人の許可を得て、家の中へと足を踏み入れる田上と匠。


 居間リビングらしい場所へ案内される。

 すると何とも落ち着ける匂いと共に、匠の目にも大きめなテレビが目に入るが、同時に異常も見て取れる。


【ブロックを解除するためには、1万円を支払ってください】

【あなたは違法なことをした】


 実に分かり易い文言と共に、それは赤く示され実に異様だろう。


「ねぇ? こんなの出ちゃって、お爺さんも私も分かんないし、子供に言うのも気が引けて……もう困っちゃって」

 

 老婦人の悲しげな顔を見て、田上と匠はそれぞれ正反対の顔を覗かせていた。


 田上は困り、匠は笑う。 実に対称的な二人。

 

「あー、なるほどぉ……」

 

 元々は工業系の出であり、組み立てや据え付けに自信が在るが、細かい設定やその手のソフト面には些か自信が無い田上の弱々しい声。

 復旧するにはオペレーションソフトを初期化するしかない事態に、田上は軽い舌打ちを漏らす。

 

「ちょっと、見てみて良いですか?」


 困る先輩を余所に、匠は片手を軽く上げた。


「あら、大丈夫ですかね?」

「おいおい……匠」

 

 目を輝かせる老婦人に対して、田上は後輩を制しすべきかを迷う。 

 

「大丈夫っすよ。 俺は……下手に弄ったりしませんから」


 そう言うと、匠はテレビへと近づく。

 匠は嘘は付いていない。 自分が出来る限界は知っている。

  

 だが、胸ポケットに収まっている相棒の力はまだまだ未知数であり、試すには良い機会とも言えた。


「……頼むぜ、エイト……」

 

 ボソリと呟きながら、匠は、こっそりと携帯端末スマートフォンを取り出す。 

 すると匠の声に応える様に、エイトが画面に現れていた。


『なんだ、こんな程度……ちょっぴり待ってくれよ。 後、友よ。 如何にも何かしてますってフリは任せるからな』

「……あいよ」


 エイトのつまらなそうな声に匠も合わせる。

 すると、テレビの画面にも変化が現れた。

 

 警告するような文言が揺れ、ザラザラと画面が揺らぎ出す。


 如何にコンピューターウイルスと言えども、プログラムには変わりない。

 それ以上であるエイトからすれば、人間が掃き掃除をするのと大差はなかった。


『はい、おしまいっと……じゃあ、後は任せるからな?』


 エイトがそう言うと、直ぐに異変は収まり、元の正常なテレビ画面に戻ってしまう。

 其処では、普通のニュース番組が流れていた。

 

 くるりと踵を返す匠。


「あー、すんません……なんか、直っちゃいました」


 実に軽い調子でそう言うと、老婦人は心底安心した様に胸を撫でおろし、田上は驚愕に顔を歪める。

 

 三者三様に様子が違うが、誰もが、画面に映る事故の詳細を見ては居なかった。

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