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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
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お悩み相談 その10

 派手な立ち回りをし、派手な事故を引き起こした。


 そんな後ろめたさが匠には在るが、今は他の事へ気を向けたかった。


 エイトにも言われたが、今更匠が何をしようとも沈んだ男は帰っては来ない。


 かの人物が引き起こした事に関して言えば犯罪には間違いないが、自分もそれをした事に変わりはなく、自分と沈んだ者の違いは極僅かでしかなかった。

 直接的にせよ、間接的にせよ、考えてしまうと胸が重くなる。


 僅か三十円の為に人殺しをしてしまったのではないかと。


 足取り重い匠だが、何とかエイトご希望の店舗には辿り着ける。


 煌びやかな店舗に、ふと、匠は身形を気にするが、せっかくの余所行きはすっかりヨレヨレに成ってしまっていた。


「あーあ……まぁ、ちびっと買い物するだけだから良いか」


 玩具屋に立ち寄るには少し気が引けるが、それでも、匠は店の中へと足を踏み入れていた。


   *


『いらっしゃいませ!』


 店に入るなり、甲高い声が匠を迎える。

 それは、店員の挨拶ではなく、自動ドアが発する歓迎の言葉。


 無碍にされるよりも、匠は余程気が楽に感じられる。


 店内では自分以外の客も居り、それぞれが色々と見て回るが、匠はといえば、早速ポケットから携帯端末スマートフォンを取り出していた。


「さてさてと? おーい」

 

 匠の呼び声に、画面上に現れる歪なエイト。


『うむ、着いた様だね』


 嗄れ声でもやはり返事をくれるエイトに、匠は苦く笑う。


「おうおう着いたともさ。 で? 何を買えば良いんだよ?」

『そうだな。 喋るぬいぐるみコーナーへ頼む』


 エイトの意外な要望に、匠は眉を寄せるが、やれやれと従う。


 早速その陳列棚へと来ると、案外品数は多かった。


「はは……こりゃあ動物園だぜ」


 そんな匠の呟き通り、エイト要望の【喋って動けるぬいぐるみ】は多種多様であった。

 犬猫は勿論、アザラシやイルカといった水生生物まで居り、店のお勧めはなんとカエルである。

 ヤケに派手なイチゴの如く赤い大きな蛙が、大きな目に照明を反射させながら並べられていた。


「……へぇ。 で? どれだよ?」

『さぁ?』

「さぁってお前……」


 口をとがらせる匠に、画面上のエイトは目を窄める。


『相楽一光に一番贈りたいと思う奴を君が選んではくれないか?』


 そんなエイトの声に、匠の口からは「はい?」と声が漏れた。


「ど、どういう事だよ? それに……いきなり……プレゼントとか……」


 モゴモゴとした口調で目を泳がせる匠だが、主の意志をエイトはあまり考慮しては居ない。


『そんなに複雑かつ難しく考えるな友よ。 要するに、君のポケットに居る奴に、居場所をやりたいのさ』


 思わぬエイトの企みを聞いた匠は、画面を見る目を細める。


「お、おいおい………そんな事したら」


 訝しむ匠だが、エイトの口は笑う様に歪んだ。


『相楽一光は君に取って信用出来ない人物かな?』

「え? あ、いや……」

『私は彼女を余り知らないのさ。 ただ、もし君が彼女を信用出来ないのであれば、私達で保存しておくしかない。 どうする?』


 簡単だが、難しい二択を匠は迫られていた。


 相楽一光が信用出来るかどうかに関して言えば、彼女は古い友人でよくよく知っている。

 匠を悩ませたのは、拾った機械に収まっている【何か】であった。

  

 悩む匠は、思わず機械が入っているポケットを手で抑えていた。


「コイツを……外に出して大丈夫なのかよ?」


 訝しむ匠の声に、画面上のエイトはウゥムと唸る。


『君がソイツを疑うのも理解は出来る。 だがな友よ。 機械というモノは、人が悪ささせない限り、勝手に悪い事はしないと思わないか?』


 そんな指摘に、匠の鼻もううんと唸った。


 間違いではない。


 この機械がバスを暴走させたのは間違いないが、それは、あくまでも持ち主の意志に従ったからである。

 同時に、それに操られたバスもまた、暴走する様に仕向けられたから暴走した。


 つまりは、扱う者次第である。


「オーケー……コイツを外に出してやるってのは良いさ。 でもさエイト」

『なんだ? 友よ』 

「もし……一光さんが……彼奴みたいになっちまったら」


 嫌な未来を匠は思い描いてしまう。

 世の中に絶対は無い様に、相楽一光が悪人な成る未来も無くはない。

 だが、画面上のエイトは、笑った。


『その時は……私と君で止めるのさ。 友よ』  


 信頼を感じさせるエイトの声に、匠は頷いていた。  


   *


 結局の所、匠が選んだ【喋って動けるぬいぐるみ】は小熊である。


 何故熊なのかと言うと、以前一光が白熊の子供が出る映画を見て、それを嬉しそうに語って居たのを思い出したからだ。

 匠個人では、猫が良いかとも思ったのだが、やはり好みを人に合わせたい。


 だが、それ以上に困ったのは持ち合わせである。

 一応社会人である匠の懐にはそれなりに金が在るには在るが、無限ではない。


 加えて、エイト要望の【喋って動けるぬいぐるみ】は結構な値段であった。


「よう、コイツ……結構すんのな」


 目を閉じた小熊が収まった箱を持ちつつ、エイトに話しかける匠。

 そんな主に、エイトは不器用なウインクを見せる。


『なぁに、案ずるな友よ。 電子マネーというモノが在るだろう?』

「あん? あぁ、お前が入ってるそれでやり取り出来る奴だろ? 俺、そう言うの持ってないんだが……」


 匠がそう言うと、歪なエイトの顔の近くにこれまた歪な手の様なモノが現れ、それは小さく左右へ揺れた。


『ノンノンノン……ノープロブレムって奴だよ』


 主を安心させようという気遣いは有り難い匠だが、エイトの声はイマイチ要領を得ない。


「いやいやいや、ノープロブレムってもよ……」

『だからだね。 回収した金の内、少しぐらい報酬として貰っても良いと思わないか?』

「いぇ? ソイツはまずいんじゃ……」


 驚きの声をあげように成った匠だが、周りを伺いつつ慌てて声を抑える。


 匠の主観は別にすれば、彼の外観は【やたらとスマートフォンに話し掛ける青年】に成ってしまう。


 その為、不審者扱いされぬよう、匠は声を絞っていた。 

 だが、主の声が如何に小さくとも、エイトはそれを聞き逃さない。


『不味くはないだろう? 奴が集めて居た金に付いては、そっくり持ち主に返すとして。 そこから、問題を解決した私と君が少し報酬を貰ったって問題はないだろう?』


 案外強かなエイトに、匠は、負けたとばかりに首を揺すった。


 このままバスと共に沈んだ男を野放しにしていれば、もっと大きな事件に発展したかも知れない。

 それを未然に防いだという事実に、匠は、エイトに「任せるぞ」と呟いていた。


 買い物に関しては、エイトの言葉通り容易く事が済む。

 匠にはエイトが何をしているのかは分からないが、支払いは滞りなかった。

 

 暫く後、玩具屋のドアが開く。


『ありがとうございました! またの御来店を!』 

 

 来店して来た時同様に、自動ドアから挨拶を贈られる。

 ぞんざいな店員に比べると、やはり気分は悪くない。


 そんな匠だが、来た時とは違い、脇にリボン付きの大きな包みを抱えていた。


 そのままビニール袋に入れて持ち帰ると言うのも気が引けたからか、匠は箱に贈呈用の包装をしてもらったのだ。


「白熊かぁ……ま、後は一光さんがコイツを気に入ってくれるかどうかだな」

   

 そう言うと、匠は近くのバス停へと歩いた。


  *


 すっかり日も暮れかけた頃。 【相楽商店】へと戻った匠。


 自動ではないドアを開くと、カランと戸に取り付けられた鐘が鳴る。

 

「いらっしゃい……て、たくっち……どしたの?」


 数時間ぶりに出会った匠の変貌ぶりに、一光は驚いていた。


 朝見た時は、それなりに整っていた筈の匠の見た目は、まるで乱闘でも繰り広げて来たかの如く様変わりしていたからだ。


「……いやー、疲れたよ」


 脇に包みを抱えた匠だが、一光は匠が持つ包みには気を向けず、カセットテープが使えるラジオを見せる。


「そう言えば聞いた? なんかね、バスとタクシーがスッゴい事故を起こしたって!」


 噂話ゴシップに飢えているのか、一光はそう言うが、匠は返答に窮した。

 その事件を引き起こしたのは、紛れもない匠とエイトである。


「うーん、あぁ、それより……一光さんは、熊好きだよね?」


 いきなり話題を反らす匠の声だが、一光は首を傾げるのみ。


「え? あぁ、まぁね?」


 急な事だけに、呆気に取られる一光だが、そんな彼女の前にトンとリボン付きの箱が置かれる。

 ソレを見て、一光は傾げていた首を反対側へと傾けた。


「……え? なにこれ?」 


 キュッと眉を寄せる一光に、匠は、徐にポケットから携帯端末スマートフォンを取り出す。


『こんばんは。 相楽一光』


 すると、いつもの歪な丸ではない少女の姿を取ったエイトが甲高く挨拶を一光へと贈った。

 一度見ていたせいか、今度は一光はそう驚かない。


「あぁ、アプリさん。 こんばんは」

『貴女に頼みがあるのだが、良いかな?』


 エイトの質問に、一光は鼻をウウンと鳴らす。


「えーと? 充電器? 悪いけどウチじゃあ扱ってないんだけど」


 何とも言い難い一光の声に、画面上のエイトが一瞬たじろぐ。

 それでも、エイトは直ぐに持ち直していた。


『……バッテリーはまだあるよ……それより友よ、アレを頼む』

「よし来た」


 エイトの声に、匠がポケットから取り出したのは、変わった機械。

 それを見た一光だが、ますます鼻をウウンと唸らせていた。

 

「何ソレ? 携帯……テレビ?」

 

 何とも形容し難い機械を見た一光の感想に、匠とエイトは同じ様にムッと唸る。


「いやぁ、ちびっと違うんだが………エイト? コレ、どうすりゃ良いんだ?」 


 主の声を聞いたエイトだが、あくまでもその目は一光に向けられる。


『相楽一光。 私と同じ様なモノを、君に預かって欲しいんだが、頼めないか?』


 エイトの申し出に、一光は益々鼻を唸らせた。 


「え? あー、でもまぁ、弟も自立して居なく成っちゃったしぃ……まぁ、話し相手なら良いかなぁ」

 

 実に気楽な一光の声に、画面上の少女、エイトは頷く。


『なら、頼むとしよう。 友よ、包みを見せてやってくれ』

「あいよ」


 エイトの言葉通り、匠は早速箱の包装紙を丁寧に剥がす。

 包みの中からは、匠とエイトが購入した【喋って動けるぬいぐるみ】が姿を現した。

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