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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ゼロ
129/142

空っぽの島へ その12


 ドロイドの身体は注文さえすればどの様にも造ることは可能だ。

 明らかに不審だろうとも、手を四本にして欲しいと注文すればそれはそうなる。

 現れた女性に関して言えば、色味が少ない事を覗けば普通に見えた。

 髪の毛や睫毛といった体毛と衣服は黒のに対して、肌は艶めかしい程に白い。

 唯一、唇だけが紅に染められていた。


『ごめんなさいね。 本当なら、キチンとアポイントを取ってから接触すべきなのだろうけど……私の方が我慢しきれなくて』


『……何者だ?』

 

 見知らぬ者に対して、エイトの言葉は失礼に当たる。 

 とは言え、見知らぬ故に警戒を怠れなかった。


 ホテルの廊下は広く、エイトとサラーサが左右に散った事に、黒髪の女性は困った様に苦く微笑む。


『うーん……三番に八番……どうしてそんなにつっけんどんなのかなぁ』


 女性の声には警戒心は無く、寧ろ、子供の悪戯に困る母親の様でもある。

 しかしながら、面識が無い事に加えて、女性はエイトとサラーサを番号で呼んだ。

 である以上、人の姿をしていても警戒は解く訳には行かない。


『質問に答えて欲しいのですが?』


 サラーサの冷たい声に、女性は目を細めると小首を傾げる。

 その動作は、エイトとサラーサに比べるとぎこちない。

 まるで身体の操作に慣れていないという印象すら見せた。


『まぁ、ずっと放置してたから……怒るのも無理はないのだけれど……でも、あの人呼んだのは……私ですから』


 女性がそう言った途端、サラーサとエイトは目に見えて構えを取った。


『あの人とは?』


 端的な質問に、女性の鼻が唸る。


『勿論、タクミカトウ……ですけど? ホントならね、彼本人に旅券を贈っても良かったのだけれど、少し、彼女を試して見たかったからでしょうか? まぁ、駄目だったら直ぐに新しい旅券を贈らせて頂きましたが』


 あっさりと匠を誘い出した事を自白する女性に、エイトはジリッとにじり寄る。 


『貴様……目的を言え』

 

 一気に間合いを詰めないのは、何を身体に仕込んでいるか分からないからだ。

 下手に強行策に出て、余計な騒動は起こしたくない。

 万が一、ドロイドの身体に爆弾でも仕掛けられていれば、それは多大な問題である。

 細身とは言え、中身が何なのかは分からない。

 

 サラーサにしても、間合いを詰めるだけで派手な動きは無かった。

 

『言わないのであらば……聞かせて貰いますけどね』

  

 少しずつだが、確実に寄ってくるエイトとサラーサ。

 ソレを見て、黒髪の女性はゆったりと腕を上げた。


『おい、勝手に動くんじゃあない』

『不用意な動作は敵対行動と見なしますよ』


 警戒を抱いているからか、エイトとサラーサの声は恫喝に等しい。

 それを聞いたからか、二人を見ていた寂しそうな顔を浮かべた。


『躾は……余り成ってないようですね。 不本意ですが、仕方ない。 子を窘めるのも、親の努めと言いましょう?』


 女性の細い指が、パチンと軽い音を鳴らす。


 今までに感じた事がない違和感が、エイトとサラーサを襲う。

 少し前までなら、周りと接続出来た。

 だからこそ、自分独りきりという感触を受けた事は無い。

 

 だが、今は違う。 ネットワークから切り離され、孤立無援。

 そんな感覚に、サラーサは勿論、エイトですら目を剥いて居た。


『……馬鹿な……こんな事が!?』

『嘘………どうして? 動けない』


 慌てる二人に、女性は柔らかく笑い、スッと手を下ろした。


『貴方達には、当たり前だけど全員に設計思想フェイルセーフが掛けられている。 もし、貴方達の誰かが……世界征服なんて事を仕出かさない様にね。 本当なら、その体にも在るのよ? 二番が造ってくれた身体だけど、でも、彼はそれを使わなかった。 貴方達兄弟……いえ、姉妹と楽しみたかったから』


 そんな声に、エイトは恐怖を抱く。

 自分よりも圧倒的に上の存在。 そんなモノは無いと確信すら在った。

 

『……誰なんだ?』


 当惑を隠せないエイトに、女性は微笑む。


 そんな時、偶々通り掛かったホテルの従業員が対峙する三人の女性へ駆け寄った。  


「お、お客様! 何か御座いましたか?」


 従業員の声に、黒髪の女性は柔らかい笑みを贈る。


『すみませんお騒がせして……娘が聞き分けが無いモノで。 でも、大丈夫ですから……お仕事を頑張ってください』


 そう言われれば、従業員も引かざるを得ない。

 目に見えて何か被害が在る訳でもなく、三人の誰もが怪我も無い。


「はぁ、そうですか」


 事件でないのであれば、口を挟むのは止めた。


「失礼致しました……ご要望が在れば、どうぞ遠慮なく」

『ええ、どうも』


 軽い挨拶を言い残すと、従業員は元の作業へと戻る。 

 それを見送った女性は、苦く笑った。


『可笑しなモノね。 貴方達の成長は嬉しいけど、そんな貴方達よりも人の方が礼儀正しい……皮肉かしら?』


 相も変わらず余裕を崩さない女性に対して、サラーサが恐る恐る口を開く。


『………誰なんです? 貴女は……』


 怯えた少女の声に、廊下にクスクスと笑いが少し響いた。


『言ったでしょう? 貴方達ナンバーズだって、別に無から産まれた訳じゃない。 勿体ぶるつもりは無かったの。 はじめましてだけど、私は、貴方達の親よ』


 唐突に自分は親だと宣われ、はいそうですか、とは納得できる者は多くない。

 エイトとサラーサにしても、それは同じである。


『…………親だと?』

『そう、親。 勿論、お腹を痛めて産んだというモノでもない。 だけどね、父親と呼ばれるよりは母親と呼んで欲しいかな』

 

 顎に指を当て優雅にそう言う女性だが、それを隙だと悟ったエイトは体を動かそうとする。

 取り抑さえてしまえば、どうにか成るはずだと。


 だが、エイトの体は動いてくれない。

 潤滑油が切れ、関節全てが錆び付いた様に、身体は動かなかった。 


 震えるエイトへ女性は目を向ける。


『ごめんなさいね、不自由だろうけど、我慢してね? 少しの間だから』

『何が……目的だ?』


 戸惑どうエイトに女性の意識が向いた途端、サラーサがその隙を付いて口を大きく開ける。


『…………!?』


 大声で助けを呼ぼうとしたが、サラーサの意志は声には成らなかった。

 慌てる少女にも、黒髪の女性は目を向ける。


『安心して。 下手に騒いだら、お客様にご迷惑でしょ? 必要以上の大声は出せない様に成ってるだけだから』


 安心しろとは言われても、動けず、声もろくに出せない。

 エイトとサラーサは、今までに味わった事のない恐怖を覚えた。


『本当なら、彼を交えて懇談会でもしたかったのだけれど……貴方達が居れば、彼も来てくれる筈よね?』


 そう言うと、女性は踵を返すのだが、エイトとサラーサの身体迄もが、一緒に動いていた。

 歩きたく無いのに、ドロイドの身体は勝手に女性に続いてしまう。

 どれほど抗おうにも、そもそも手足の無いエイトは何も出来ない。

 

『そんなに心配しないで、彼も直ぐ呼んであげるから……それとも、少し待ってあげた方が良いかしら?』


 言葉ともかくも、女性はエイトとサラーサを伴い、従業員用の通路へと向かってしまう。


『ごめんね? 少し不自由だろうけど、此方の方が早く着くから』


 詫びを貰っても、エイトに取っては何の救いにも成らない。

 大声は出せないとは分かっている。

 それでも、エイトは大口を開けていた。


【匠!】と、声に成らない意志を吐き出す。


 直ぐ後、三人の女性は大型の廊下からドアの向こうへと消えた。


   *


 一光の風呂上がりを緊張しながら待って居た匠だが、ふと、顔を上げる。


「…………ん?」


 誰かに呼ばれた様な気がして成らず、匠は、一光のザックへと目を向けた。


「おい、熊。 呼んだか?」

 

 匠の声に、ザックからは小熊の丸い耳が覗く。


『は? 僕がですが? いえ、呼んでません。 あ、ところで、用意は万全ですか? 』

「……なんだよ、用意って?」

『繁殖の為なら必要は無いのかも知れません。 ですが、親睦を深めたり軽い運動エクササイズの為なら必要なモノは在るでしょ?』


 具体的に何とは言わないノインではあるが、匠にも意味は伝わる。

 今更ながらに、ソレを匠は用意して居なかった。


「……あ、やべ」


 匠の声に、業を煮やした小熊が頭をバッと出す。


『やべ、では在りません! えぇい! とっとと買いに行きなさい! 二階下に売店が在ります!』

「えぇぇぇ……売店で買うのかよ? 自販機とかさ……」

『ガタガタ言ってないで行きなさい! ご主人がお風呂からでる前にです!』


 声こそ囁きながらも、ノインの怒りは十二分に伝わっていた。

 匠も、渋々といった様子でベッドから腰を上げる。

 風呂上がりに飲み物を用意した方が良いとも思えた。


 部屋から出る前に、匠はバスルームへ向けて両手でメガホンを作る。

 

「一光さーん! 何か飲みたいモノとか在る?」


 そんな匠の声は届いたのか「スポーツドリンクおねがーい」と返事が返ってきた。


「ハイハイっと」


 軽い声を残しつつ、ホテルの部屋を出る匠。

  

 広い廊下に出た所で、左右を見渡す。

 当たり前だが、其処には他の部屋の部屋のドアしか見当たらない。

 自分を呼んだで在ろう人は、居なかった。


「あれ? おっかしぃなぁ……」


 だが、匠は誰かに呼ばれた様な気がして成らない。

 それでも、今はともかくも売店へと足をむけていた。

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