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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ゼロ
122/142

空っぽの島へ その5


 どれだけ寝ていたのか、匠は、ポンポンと肩を叩かれ目を覚ます。

 

「……あぃ……なんれすか?」


 唇の端を拭いつつ、目を覚ませば、隣の一光が目を見張っていた。


「寝ぼけてないでよ! ほら! アレ!」


 そんな一光の声に誘われ、匠は窓の外を窺う。

 すると、これから自分達が行くであろう目的地が見えた。


 人工的な島だとは知っている。 それを紹介する番組も見た。


 だが、やはり自分の目で見ると違って見える。

 距離が在るからこそ、島の全貌が見える訳だが、それがかえって島の大きさを示しても居た。

 島の広さからすれば、端から端まで軽く数キロは在りそうに見える。


「はぁ……こりゃあスゲーわぁ」


 飛行機の座席から、コレから行く目的地である人工島。

 何もかもが今までとは違い過ぎて、匠は驚く他はない。


 そんな中、機内にポーンと軽い音が響いた。


『アテンションプリーズ! お客様、シートベルトのサインが点灯いたしました。皆様どうぞ、お座席にお戻りくださいませ』


 日本語に続き、英語でも何やら説明が為されるが、それは匠には伝わらない。

 だが、キャビンアテンダントの説明は続く。

 

『えぇ、皆様。 当機は間もなくバビロン空港に到着致します。 今一度、お座席のシートベルトをご確認ください」


 他の乗客とは違い、匠と一光は慌ててしまうが、アナウンスは続いた。


「かのバビロンは、語義を【神の門】と呼ばれました。 名の元に成った永遠の都、バビロンは滅んでしまいましたが、途方もない努力と知恵により、再びかの地は黄金の都と成って地球へ蘇ったのです!』


 些か誇張が過ぎる気もするが、それを咎める者は居ない。

 何故なら、キャビンアテンダントの女性にしても、憶えさせられた台詞をそのまま喋っているだけなのは分かる。


『本日は、当社の航空機をご利用いただき、真にありがとうございました。 また、皆様と機上でお会いできることを、心からお待ち申し上げます』


 挨拶が終わり、他のキャビンアテンダントもペコリと一礼を客の贈った。


 着陸の為に、飛行機は降下するのだが、角度が緩やかとは言え、速度が速い為にジェットコースターにも似た浮遊感を匠は感じた。

 そして、匠はこの感覚が余り得意ではない。

 実際に自分が高い所に居るのだと分かってしまう。


「どしたの?」


 青い顔をする匠に、一光は首を傾げた。

 心配してくれる友人に、匠はどう答えるべきかを迷う。

 単純に答えるなら【高い所怖い】だろう。

 ただ、情けない男と見られるのも困る。


「……あー、いやー」


 震えこそしないが、顔と体が固まる匠を見て、一光はポンと閃いていた。


「……あぁ、高い所駄目だっけ?」


 そんな一光の声に、匠は、恥を捨てて頷く。

 今更、否定しても意味が無い。 怖いモノは怖かった。

 匠の弱味を知った一光だが、特に嗤ったりはしない。


 ただ、ソッと匠に自分のそれを重ねて握る。


「ほら、少しはマシでしょ?」


 実際には手を握られても浮遊感が消える訳ではない。

 それでも、やせ我慢をするだけの気力は湧いてくる。


「………あぁ、ありがと」


 若干ロボットの様な喋り方の匠だが、一光はクスリと微笑むだけであった。


   *


 匠と一光にノイン、そして、エイトとサラーサを乗せた飛行機は、巨大な人工島へと着陸を始める。

 緩やかに速度を落とし、問題無くその巨体を滑走路へと下ろした。


 エンジン音は徐々に弱まり、客を降ろす為に空港へ近付く。

 それだけではない。

 客以外にも、貨物の運び出しも必要だろう。


 勿論、怪しげな箱も運び出しが始まっていた。

 その中では、エイトとサラーサが居る。


『着いた様だな?』

『外気温も上がってますし、位置情報からも間違い無く』


 密閉された箱の中から外を窺う事は出来ないが、自分達が何処に居るのかは理解する力は在る。

 エイトに取って問題なのは、この後をどうするかであった。


『さて、どうする?』

『当分はこのままですねぇ』


 サラーサの声に、エイトは耳を疑った。


『何だと!?』


 驚くエイトだが、正直箱の中身と言うのは飽き飽きしていた。

 とは言え、今蓋を開けて行くというのも難しい。

 貨物として乗り込んだ以上、そんな箱から女性が飛び出したら作業員達は驚くだろう。


『大丈夫ですってば。 既にこの箱は行き先決まってるんですから』

『何処に?』

 

 問われたサラーサは肩を竦めたいが諦めた。

 何せ狭い箱である。 マミー形の寝袋に入った様に動き始め制限されていた。


『匠様のお部屋に決まってるでしょ? 前もって何処に泊まるかは調べてあります。 其処で、私達は其処へ荷物として行く訳ですよ。 多少不本意ですが』


 サラーサの言葉を鵜呑みにすれば、このまま待っていれば問題無く匠に合流出来る。

 そうなると、箱から出るのはまだまだ後だと分かり、エイトは溜め息を漏らす。

 文句は言わなかった。 飛行中も散々愚痴ってもう言うことは無い。


『もう少しの辛抱か』

『そーですよー』


 軽い会話の後、箱に振動が走る。

 流石に、エイトと口を閉ざしていた。


 コツコツという硬い靴底が立てる音に加えて、何人かが歩き回る音が箱の外から聞こえる。

 作業員が箱に手を掛けたのかと思うエイトだが、足音は止まっていた。


『お手伝いドロイド……二体ね』


 箱越しだからか、くぐもった声にエイトは目を泳がせる。

 もし、検疫の為に箱を開けられた時は、人形のフリをする事は前もってサラーサと決めていた。

 姿勢制御に対して、現行の体勢を固定する。

 そうすれば、ぱっと見は【良く出来たマネキン】に擬態も可能だ。


 いざエイトとサラーサがそうしようとした時、クスクスという笑いが聞こえる。


『出て来たらどうです?』


 聞こえて来た声に、サラーサとエイトは別の意味で固まる。

 自分達が密航者である事に変わりはないが、それを感知できる人類は物理的には存在しない。


 だが、声から察するに箱の外の誰かは、エイトとサラーサが居る事を知っている風であった。


『まぁ、無理強いはしませんよ? しかしながら、許可無しにバビロンへの侵入は許せません。 ですが、余り酷い事もしたくない。 となると、このまま返品という形に成りますが、如何致します?』


 実に丁寧な口調ではあるが、言葉は脅しのソレだ。 


 マズいという感覚に、エイトは顔を横へ向ける。


『ぉぃ………どうする?』


 外には聞こえない様、囁くエイト。

 此処まで来て置いて今更送り返されるのは困る。

 それは、サラーサにしても同じであった。


 小さく舌打ちを漏らすと、サラーサは悔しげに目を伏せる。


『仕方ありますまい? このまま返品されても、私達だけ困りますし、匠様に下手に心配を掛けさせては申し訳ないです』


 サラーサの声に、エイトも少し頷いた。

 ドロイドの身体が無くとも問題は無いが、行動が制限されるのは嫌だった。


   *


 潮風が吹き抜ける空港の外れにて、箱が監視を受けていた。


 箱を見守るのは、数人。

 何人かは作業服とは違う制服を纏い、腰に銃までぶら下げている。

 

 対して、箱に最も近い所に立つのは壮年の男性であった。

 外見上は三十代後半から、四十にも見えなくもない。


 品の良い背広に身を包む男性は、腰の後ろで手を組み、ジッと箱を見詰める。


 警備員の誰もが、上司らしい男性を訝しむ。

 密航者というは居なくもないが、大抵は船からの者しか居ない。

 飛行機での密航者など、ただの自殺者と変わりないからだ。


 一人が上司に近寄ろうとした時、なんと、箱が震えた。


 ガタガタと音を立てて、蓋の封が外されていく。

 警備員達は慌てて拳銃を腰から引き抜くのだが、背広姿の男性は片手でソレを下げろと制した。


 程なく、箱の蓋が外れ、ゴトンと横へ落ちる。


 何が飛び出すのかと、戦々恐々の警備員達だが、見えたのはニュッと伸びてくる四本の腕であった。

 

 周りを警戒させない為か、女性と少女が腕を上げたまま姿を現す。

 在る意味大掛かりな奇術(イリュージョン)を想わせる。

 

 だからなのか、背広姿の男性は現れたエイトとサラーサにゆっくりの拍手を贈った。


『そんな中で十数時間も……よく我慢してましたね? 前もって御連絡くだされば、此方でお招きしましたのに』


 密航者に対するモノとしても意外な程に、男性の言葉は柔らかい。

 

 所謂ホールドアップの体勢のまま、エイトとサラーサも男性を見返す。

 人とは違う、異質な感覚。 同族の気配。


『時間が無かったのでな……』


 詫びるつもりは無いエイトの声に、男性は笑った。


『それで密航を? まぁ、気持ちは理解出来なくもないですが』


 口を手で隠し、笑顔を見せない男性に対して、サラーサも口を開く。


『こんな方法を使った事は謝りましょう。 しかしながら、彼を呼んだのは貴方では?』


 少女の質問に、警備員達は顔を見合わせる。

 自分達は箱から上半身覗かせる二人を知らないが、上司は密航者に対して知り合いであるかの様に振る舞っていた。


「あの、ワン様。 お知り合いですか?」


 事態が飲み込めない警備員の一人がそう言うと、【ワン】と呼ばれた男性は頷く。


『ああ、前もって君達にも言っておくべきだったかな? この二人はね、知る人ぞ知る高名なイリュージョニストなんだよ。 今度ディナーショーに招待したんだよ。 デモンストレーションとしてはバッチリだろ?』


 真っ赤な嘘なのだが、自信満々といった声に、警備員達はホゥと感嘆の息を漏らしつつ、拳銃をしまう。


 それは、在る意味エイトとサラーサにしても珍妙な光景と言えた。


 本来、機械とは人に使われる立場なのだが、此処ではそれが逆転していた。

 ドロイドに過ぎない上司の声に、警備員達は反論すらしない。

 端から見ていると、人が機械に使われるという光景。


『あぁ、お二人の為に急いで部屋を用意させるんだ。 事務に聞けば予定が入ってる筈だからね』

「はっ! 了解しました!」


 ワンの声に、警備員の一人はパッと姿勢を正すと、踵を返して走り出す。

 そんな背中を見ていたワンは、ジャリッと音を立てて箱へと目を戻した。


『……ま、お二人共、いつまでもそうして居らず出て来たら如何です? 他のお客様も……お待ちでしょうから』


 ワンの声に、エイトとサラーサはソッと箱から降りる。

 荷物扱いよりはマシだが、まだ警戒は解けていなかった。

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