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トラブルバスターエイト  作者: enforcer
ゼロ
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空っぽの島へ その3


 匠の想いがどうであれ、時は止まってくれない。

 以前、一度だけエイトが時間を止めて見せたが、それはあくまでもゲーム内での話である。


 結局の所、匠はサラーサとエイトを伴い、待ち合わせ場所である空港へ向かっていた。

 そんなタクシーの車内に置いて、匠は腕を組みウンウンと鼻を唸らせる。

 

『どうしたんです? さっきから』


 両隣にサラーサとエイトを侍らせる匠。

 見る者によっては羨ましさを感じさせる光景だが、当の匠はと言えばそれどころではない。


「あー、いや……飛行機ってのは……お金出せば乗れるよな? このタクシーみたいにさ」

『はい』

「でもさ、結構飛行機ってのは面倒くさいだろ? 受付抜けて、荷物検索されてとかさ……あ!」


 匠は、在る意味重要な事に気付いた。

 サラーサとエイトは人の姿をして居る。 

 だが、一般的な人間とは本質的に違う。

 そしてそもそも、二人とも身分証明書などを持っては居ない。


「やべー………どうしよ? 乗るったってよ……乗りますって乗せてくれんのかな」

 

 旅行当日になって慌て出す匠だが、車内には低いサラーサの笑いが響いた。


『なんだ………そんな事ですか……ご安心くださいな。 手は有りますから』


 ムフフと笑う少女に、エイトは目を窄める。


『なんだ?』

『ま、細工は隆々、仕上げをご覧じろって奴ですよ』


 訝しむエイトに対して、サラーサの余裕は崩れない。

 

「でもさ、どうすんだ? 今から……飛行機変えてくれとか……」


 もし、匠がプライベートジェットなどを所有、或いは借りられる立場で在れば今の心配は無い。

 しかしながら、とてもではないがそんな余裕は匠には無い。


 焦る匠の膝に、サラーサの細い手が置かれた。


『私達を心配してくださるのは有り難いです。 でも、もう少しだけ信用をくださいな』


 顔を寄せ、妖艶に微笑むサラーサに、匠はウーンと鼻を唸らせる。


「あ、うん」

『おい、其処までだ……』


 焦る匠に、エイトが助け船を出していた。

 匠の膝に乗るサラーサの手を指先で抓る。


 勿論、サラーサには痛みなど微塵も無いが、抓られた事は嬉しくない。

 手の甲をさすり、如何にも痛いと仕草だけで示す。


『相変わらずの堅物ですねぇ……でも、あんまり意地悪する様だと、置いてきぼりにしますけど?』


 流石に置いてきぼりも困るからか、エイトの鼻はグムム唸る。 


『すまなかった……』

『………宜しい』


 詫びるエイトに、脚を組んでムフフと笑うサラーサ。


「まぁまぁまぁ、な? 旅行だからさ………楽しくな?」 


 二人と共に行けると分かった以上、安堵した匠であった。


   *


 空港ビルに着くなり、匠だけで降りなければ成らない。


『では匠様! 現地で!』『友よ! 気をつけるんだぞ!』


 サラーサの用意していた方法に付いては具体的に知らされていないのだが、信じる他は無い。

 

 遠ざかるタクシーに、匠は少し寂しいと感じた。


 今までならば、エイトかサラーサがスマートフォンに居てくれたが、今はただの機械に他ならない。  

 在る意味、久し振りに独りと言えた。

 

 自由でもあるが、寂しい。

 

「なんだかなぁ……」


 その場に留まって居ても仕方なく、匠は、とりあえずビルへと足を進める。

 

 空港ビルともなると、中はそれなりに広く賑やかであった。

 あちらこちらから、此から旅に出る者も居れば、外から来た者も居る。

 帰って来たのか、披露が顔に滲み出ている人も少なくはない。

 あまり大きな声で騒ぐ人は居ないのだが、小声でも話声が多く成るほどに、程良い騒がしであった。


 匠にしても、コレから旅立つ組に入る訳だが、独り旅ではない。

 待ち合わせ場所を目指し、しきりに首を振って人を探す。


 程なく「コッチコッチ! 匠君!」という声が聞こえる。


 ハッと振り向けば、其処には見慣れた一光。

 だが、その服装はいつも以上に軽快カジュアルに見える。

 

「ごめん、待たせた?」


 先に来て待っていたのかと一光を案じる匠だが、問われた一光はと言えば、首を少し傾げて眉を片方上げていた。


「どうかした?」

「いやー、てっきりエイトとサラーサも来るのかと……」

 

 一光の心配そうな声に、匠は軽く笑った。


「ああ、それね。 いや、ほら、簡単に飛行機に乗るってもさ、色々在るでしょ? だからさ……なんか乗る方法やるっていってたんだけど」


 匠の声に、一光の鼻がフゥンと鳴った。

  

「じゃあさ、今は……二人って訳だね?」


 思わせぶりな一光の声に、匠の目が少し泳いだ。

 嬉しい嬉しくないだけを言えば、正直嬉しくもある。


「とにかく行こ、早くしないと飛行機飛んじゃうから!」


 先程までの発言は何処かへ押しやり、一光は早速匠の手を取り引く。

 手を引かれる匠も、後ろからついて行くのではなく横へ並んだ。


    *


 列に並び、暫し待つ。

 当たり前だが、飛行機には危険物の持ち込みは許されない。

 他にも、生物や生き物も同様に。

 

 その為のチェックを受ける訳だが、匠は難なく通過する。

 特にナイフやらなんやらと持ち歩いては居ない。


 その代わり、なんと手荷物チェックにて、一光が止められていた。

 

「少々お待ちください」


 と、一光の手荷物を調べ始める係員。

 匠も慌てて駆け寄り、一光を援護せんとするが、当の一光は余裕綽々である。


 そして、一光の手荷物である少し大きめのバッグからは、小熊が躍り出ていた。


『人生楽有りゃ苦~もあるぅさぁ! 涙の後には……』


 バッグから出された熊は、なんと係員の前で歌って踊ってみせた。

 それもその筈で、元々ノインのボディは【歌って踊れる熊さん】である。

 つまり、本来の機能を十分に生かしているだけなのだ。

 

 歌の選択チョイスはともかくも、係員も唸る。


「ああ………問題………無さそうですね」


 強面の係員にしても、踊る小熊をどうこうしようとはしなかった。 

 

『泣くのが嫌ならさぁあ歩けぇ~……』


 相も変わらず歌と踊りを続けるノインを一光はぐいぐいとバッグに押し込み、ようやくチェックを潜り抜ける。 


「はぁ~……びっくりした」


 別に汗をかいては居ないのだが、一光は汗を拭ってみせる。  

 そして、匠も苦く笑った。


「いや、俺も驚いたけどさ……あれはもしかして」


 某時代劇が好きなのかを問い掛ける匠に、一光は軽く笑う。

 

「嫌いじゃあないよ? でもね、私よりコイツの趣味だからさ」


 ポンポンとバッグを軽く叩く一光に、匠の頬も緩んでいた。


   *


 一光と匠が順調に飛行機へ近づいた頃。

 別の場所では、その飛行機に積まれる貨物なども運ばれていた。


 個人のトランクバッグや、様々な箱。

 

 そして、大人が二人は入りそうな箱も飛行機へ運ばれる。

 滑走路は煩く、貨物を運ぶ作業員は気付いて居ないが、箱の中ではちょっとした騒ぎが起こっていた。


 箱の中身は、もちろんエイトとサラーサである。

 二人は緩衝材に包まれ、横並びで寝ている訳だが、コレがサラーサの用意した方法だと分かると、エイトの不満は爆発していた。


『おい! コレが方法か!? 密航と変わらんではないか!』 

 

 怒鳴るエイトに、サラーサは肩を竦めたくなるが、ろくに身動き出来ない以上目を瞑り、舌打ちを漏らした。


『さっきから文句ばっかり言ってぇ、良いじゃないですか。 第一合法ですよ? そんなに嫌なら、自分で方法を用意しておけば良いモノを。 私だって手間掛けたんですよ? ワザと空の箱を向こうへ発注かけて、其処へ潜り込んで行こうと。 オマケに、貴方ただの便乗の癖に』


 サラーサの声に、エイトの鼻が威嚇するかの如く唸る。

 

 どうせなら、ハッキングを仕掛けてでも無理やりパスポートを用意しておけば良かったと、エイトは自分を恥じた。


『くそぅ……こんな惨めな………』


 どうせなら楽しい旅行をと想っていたエイトだが、出発からこの調子では今後何が起こるか想像も付かない。


『ぶつくさ言わないでくださいまし! 行けるだけマシなんですから!』


 悲しげに嘆くエイトが煩わしいサラーサ。 

 咎められたエイトにしても、いつまでも愚痴は言わなかった。


 どの道快適性に付いては大した問題ではなく、嘆く理由に関しては見栄の為でしかない。


 サラーサの言うとおり【行けるだけマシ】だとエイトは自分を慰めた。


 どの道、当分は今のままで耐えねば成らない。

 其処で仕方なく、エイトは別の事に気を向けた。


『ところで……今回の事、どう思う?』

『それは、相楽一光に旅券が当たった……その事ですか?』

『そうだ』


 エイトの声に、サラーサの鼻が唸った。


『抽選の結果を弄るぐらいならば、私達でも出来る。 問題なのは、誰かが匠様と相楽一光の間柄を知り、旅券を渡した奴が居るってことですね』 

『そうだ、そして、向こうは私達が来ると言うことも既に分かっているだろう』


 実際には一光が抽選に当選したのかはどうとでも出来る。

 仮に他の人物に旅券が送られたとしても、そっくり同じモノを用意し、一光へ送りつければ済むからだ。


 大事なのは、誰が此処までの手間暇を掛けて匠を誘い出したかである。

 思案を続けるサラーサとエイト。


 そんな中、箱が激しい振動に見舞われた。

 

 悲しいかな、二人が収まっている箱は外から見ればただの貨物に過ぎず、それを運ぶ作業員にしても、まさか誰かが入っているなどとは思っていなかった。

 多少作業が雑に成るのも不思議ではない。


 ガタガタゴトゴト揺さぶられ、エイトの顔は悲しげに歪む。


『ああぁ! やっぱりちゃんと乗れば良かったのにぃ!』

『きぃぃ! そんなに言うなら降りろ! 今すぐ降りろ!』


 嘆くエイトに、怒るサラーサ。

 

 喧しい二人が収まった箱は、特に問題無く匠と一光が乗る飛行機へと無事に搬入されていた。

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