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12 これからのこと

★猪戸伊織


 あの変な人型ロボが出てきた時点で、戦いはすべて終わったようなものだった。

 モンスターどもは吸い寄せられるようにバスロボットに特攻して行き、そしてことごとくなぎ倒された。最終的なキルマーク数は、小耳に挟んだ限りでは、櫟原が四、野崎が三、ロボが一、それ以外が二。これはレッサードラゴンだけに限った数字だ。小さいのはいちいち数える余裕もなかったし、そもそも俺が何匹か倒してる時点で、どうやったって彼らに正しい数は算出できない。

 いかにも偉そうなオッサン達が魂の抜けたような顔をしているところからすると、今回の戦いはマジでヤバかったらしい。危機感なくてごめんな。モンスターと戦うのって、フツーこんなもんだと思ってたわ。

「やはり、天人が集まれば眷属の怒りも」

「うむ。想像以上だ」

 どうやら、異世界人が出てくるとモンスターも強いのが出てくるという素敵仕様らしい。経験値でも稼がせてくれるつもりか? いや、まあ、俺が一人であんなのと戦ったら普通に食われて終わりそうだけど。

「おまけに横槍とは」

「せめて、あれが国外の者であることを祈りたいが……」

 話題に挙がったのは、ロボに捕まってた人のことか。確かにあの襲撃、成功してたら被害すごそうだな……。赤毛はともかく、マキナちゃんに何かあったら俺としては大ピンチだったし。

 俺たち? まあ大丈夫だろ。あんだけチートが揃ってりゃ、みすみすやられる気がしねえわ。


 ぶらぶらと歩いて回り、マキナちゃんが一人になるのを見計らって声をかける。マキナちゃん自身もケガとかしたんじゃないかと思って聞いてみたけど、「私はかすり傷よ」とのことだった。

「ねえ、もしかして、最初の爆発のときにヨワ先輩を助けてくれた?」

「あの赤毛? ああ、助けたって言えばそうなるのかな、体当たりしただけだけど。高坂が、あの人死んだらヤバいって言ってたし。俺も代々木のバリアん中に入りたかったし。……ま、俺が何もしなくても、あんま関係なかったみたいだけど。ロボすげえな」

 榊の回復魔法にはビックリした。なんでアイツが回復魔法なんだ? 接点がまったく思い浮かばない。それを言ったら野崎もよく分かんないか……いや、野崎は舞台の上じゃ何をやってもおかしくないからな……。

「あれは確かにすごかった。でもあなたにも感謝してるわ。ありがとう」

 笑うマキナちゃんは、本当にホッとしたような顔をしていた。めちゃ可愛い。

「……なあ、あの赤毛のこと、好きなのか?」

「恋愛って意味で? それなら別に、何とも。でも、研究者としては尊敬してるし、仲間としても大好きよ。先輩が死んだら、すごく悲しいし、寂しいと思う」

「そっか」

 照れ隠しでもなんでもなく、本音を言っている雰囲気だったので、本当に恋愛対象ではないんだろう。女子が判定したら、また違うのかもしれないけど。


 ◇


 バスはすでに、ロボから元の形状に戻っている。運転手……ちゃんと轟さんって呼ぼうか、あの人の能力を使えば簡単に好きな形にできるらしい。

 つーかあの人、俺の存在に気付いてたんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろ。ロボが人型に大きく変形したとき、俺、ちゃんと危なくないところまで退避させてもらってんだよね、あの腕で掴まれて。仲山さんも同じようにポイ捨てされてたのがちょっと面白かった。

 それはともかく、あの時点で、轟さんは俺を認識してたってことだ。あのとき俺はバスに寄りかかってたから、バスに触れてれば、それは本人に触れたのと同じ扱いになるのかもしれない。轟さんが俺を猪戸伊織だと知っていたのか、生徒の一人、あるいは人間の一人として気にもしていなかったのか、それは気になるところではある。まあ、轟さんが喋ったところで、そこに俺がいた証拠が出るとも思えないけど、俺としてはできるだけ、ここにいたってこと自体を知られずにいたいところだ。でなきゃ、こうして身を隠してるのが無駄みたいじゃないか。



★ヨワ・カツタバ


 生きてる。

 それも、天人の加護によって。

 ああ、何という僥倖か。


 襲撃者は捕まえた一人を除いて取り逃がしたようだけど、正体を特定するに足りそうな証拠は森の中にたくさん残っていた。まあ、わざと残したダミーである可能性も捨てきれないけど。


「もう動いて大丈夫なの、先輩?」

「問題ないよ」

 城の一室で待機するマキナは、簡易工具で市販の重層手甲に魔術紋様を刻んでいた。実用品のようなので、何らかのツテでの頼まれ物か。ぼくと違って、小遣い稼ぎに走る必要はないはずだ。

 細かい紋様を下描きもなしに描けるのは、必要なすべての魔術紋様が頭に入っていて、それをキャンバスの形に合わせて、層と層のつながりまでも考慮して配置できている証拠。本当に彼女はすごい。本人も周囲もコネがどうのって話はしてるけど、それがどうした。ぼくが彼女の後ろ盾であるジェルハさまの立場なら、上位貴族としての、あるいは高名な元魔術師団員としてのコネを総動員したって、マキナにできるだけの教育を与え、できるだけの地位につけたいと思うだろう。だって彼女は、魔術という面においては紛れもない天才だ。ごく一部の分野に能力が偏ったぼくとは根本的に違う、不可能なんてないんじゃないかと思えるような万能選手。もしも彼女が天人でない分野の研究をしていたら、それはそれできっと名を残したことだろう。

 ぼくが近づくと、マキナは手甲の最上層を閉じて――手甲や盾のように傷つきやすい魔術道具では、最上層は刻んだ魔術紋様を保護するためのカバーになっているものだ――こっちを向いた。

「先輩が無事で、本当に良かった」

「ぼくも驚いたよ。さすがにもう、人生の幸運を使い果たしたんじゃないかって心配してたんだ」

 肩をすくめる。冗談めかしてこんなことが言えるくらい、身体は万全の状態だ。



 あのあと、天人たちはバスで、ぼくたちはそれぞれの手段で――あの襲撃によって数台の乗り物フローダが故障していたから、何人かは二人乗りやら徒歩やらで帰ることになったけど――アーレセンへ戻ってきた。ちなみに、街の人たちには、眷属と戦ったことを伝えていない。このまま隠し通すべきだと師団長ヴァスタが判断したからだ。まあそうだろう。結果的に言えば、ぼくたちの判断ミスでアーレセンの街を危険に晒したってことになる。最終的にはすべて撃退できたはずだけど、レッサードラゴンが一頭でも街に到達していたら、巻き込まれた被害者が多数出たことだろう。天人をまとめて《竜の巣》のある森に連れていった時点で、こうなる可能性は予見しておくべきだった。いや、あのまま天人をアーレセンの街に置いていれば、街が不意打ちを受けた可能性もある。もしそうだとすれば、逆にぼくたちの判断は奇跡的なファインプレーだったことになる。

 偉い人たちはまだ今後の対応について会議をしているようだ。ぼくたちは当然のように蚊帳の外。まあ、それほど興味や意見があるわけでもないけど。ぼくのような下っ端は、ただ偉い人の命令に従うだけだ。


「天人たちの様子はどう?」

「ノザキ・リヨコが、また能力スェタークに名前をつけていたわよ。ええと」

 マキナがメモを取り出す。

「イチハラ・ショーマが【クロックアップ】。ヨヨギ・アキラが【カームスフィア】。トドロキ・リョーゴが【ヴィークルマスター】。サカキ・アリスが【アスクレピオスの杖】」

「……ごめん、そのメモ写していいかな」

 たぶん大半が、彼らの母国語であるニホン語とは別の、何らかの言葉だ。

「あと、この名前の意味は?」

「ごめんなさい、よく分からなかったわ。たぶん、【クロックアップ】は速くなること、【カームスフィア】は静かな世界だとかそんな意味、【ヴィークルマスター】は乗り物に関する言葉、【アスクレピオスの杖】は医療に関する言葉」

 天人の言葉は翻訳の指輪を介せばだいたい分かるとはいえ、ぼくたちの脳内にない概念はうまく言語化できない。言語化できない概念を覚えておくというのは案外難しいことで、意識しなければすぐに記憶の中から消えてしまう。

「あとでもう一度、天人に聞いてみたらいいわ。直接見れば、先輩のほうが上手く意味をくみ取れるでしょう」

 マキナがそう言いながら、大きく伸びをする。


「会議はまだ長そうよ。下手をしたら明日になっちゃうんじゃない? 天人たちも疲れて休んでいるみたいだし、先輩もそうするといいわ」

「もう充分休んださ。むしろ元気いっぱいなんだけど、勝手に天人に接触したら怒られるよね……」

「当たり前でしょ。やるなら誰にも言わずにやって、一人で責任を取って頂戴」

 ううん……怒られるなら構わないんだけど、そのまま天人の研究から外されてしまうのが怖いんだよね。やっぱり外から監視するしかないのか。

「夕飯を買ってくるわ。なにか食べたいものはある?」

「これで適当に」

 五マール硬貨を投げると、マキナはそれを器用に片手の指先でキャッチした。さっさと手甲を片付け、それじゃ、と買い物に出て行く。

 後に残されたのは、手持ちぶさたなぼくだけ。


 会議はまだ終わりそうにない。

 天人がバラバラになるようなら、誰について行こうかな。面白そうなものが見られるとしたら誰のところだろう? 天人の食べ物を生むオオギ・ユーセイあたり?

 そうでなく、別の場所でひとところに集まるというのなら、次もなんとかそこに上手くもぐり込まなければ。なんにせよ、早く結論を出してほしいところだ。



★高坂太一


 櫟原翔真――【クロックアップ】。

 代々木玲――【カームスフィア】。

 榊アリス――【蛇遣いアスクレピオスの杖】。

 ついでに、「良かったら私の能力にも名前を」と言ってきた運転手の轟さんは、【ヴィークルマスター】。なんか、思ってたよりノリのいい人だ。でも大体みんなアレのことは【ロボ】って呼んでるけど。

 そんな感じで、わりと横文字の多い能力名が野崎さんによって命名された。さっきよりも、用意してもらった衣装がヒラヒラしてヨーロッパっぽかったせいかもしれない。でも覚えにくかったのか、代々木さんの能力はもっぱら【バリア】、榊さんのは【ヒール】だとか【ホイミ】だとか【ケアル】だとか呼ばれている。


「だりぃ……」

 畳の大部屋で、砺波がぐったりと座卓に突っ伏している。

「ケガは治るが、疲労はするのか。よく分からないな」

「再生機能はたぶん、わたしたち自身のイメージ次第」

 首をひねった逢沢の横に、幾田さんが腰を下ろす。

「服まで治れって思ったら治るし、身体だけって思えばそこだけ再生するみたい。色々試した限りでは」

 適当なの!?

 っていうか、そんなことより。

「なんでそんな痛い実験を平気でやれるのさ……砺波も櫟原くんもそうだけど」

「? 治ったらもう痛くないぞ?」

「だって、気になったんだもの」

「……オレをその二人と一緒にするな」

 ごめん……櫟原くんはただ血の気が多いだけだったね……。


「筋肉痛とかやったら、アリスちゃんのスキルで治るん違う?」

「えー? なんか違うんじゃね? つか、ほっときゃ治るっしょ」

 頬杖をついた榊さんが、興味なさそうに答える。

「そんなことより、高坂。アリスたち、これからどーなんの?」

「そうそう。このまま全員一緒にしておいたら危ない、なんて言ってたよね、あの人たち?」

 僕はひとつ息を吐いて、タロットを机の上に置いた。それは知ってる。このまま皆でここにいるわけにはいかない。

「逆に聞くけど……どうしたい?」

 可能性はまだ収束していない。細かいところは、無理に占っても適当な一般論しか返ってこない。となれば今後の僕たちの動きは、ここでの話し合いと、今後の交渉によって決まるのだろう。

「ある程度なら意見も通ると思う。みんなで一緒にいることを優先してもいいし、バラバラになるのもアリだよ。バラバラになるって言っても、別にずっと会えないわけじゃないし、結局ドラゴンが襲ってきたら合流することになるし」

「どっちがいいんだ?」

「人による、かな。お前はみんなと一緒のほうがいいってさ」

 砺波に見せたカードは「教皇」の正位置。意味は連帯、信頼、協調性。まあ、どうせその上に文字が浮かんでくるから、別にカード自体の意味はどうでもいいんだけど。

「そうじゃない人もいるの?」

「仰木は、みんなとは離れたほうが楽しいことができそうだよ。二、三日中には動きがあるから、そのあとで判断したらいいと思う」

 タロットをもう一枚めくって、ささやかなアドバイスをする。

 正直、この先の未来はよく分からない。大きな流れは分かるものの、そこまでたどり着く道はいくつもあるような気がする。そのうちのどれかが選ばれはするんだろうけど、僕には何かを選ぶ理由がない。どうせ占えば分かると思うと、なんとなく先のことを自分の頭で考えるのが億劫になってしまって、自分であれこれ考える気になれない。良くないことだとは思うけど。

「幾田さんや櫟原くんは、どうなったってどうせ好きに動くでしょ?」

「もちろん」

「だろうな」

 うん。聞くまでもないよね。

「私はアリーと一緒にいたい。玲とも」

 仲山さんが榊さんを後ろから抱きしめながら言う。「アリスもそう思うよ」と榊さんが頷けば、「よーし! 一緒にいような!」と代々木さんが二人の肩をまとめて抱く。

「うちは先生のいるところにいたいわ」

「先生は、できるだけみんな一緒のほうが嬉しいな……」

 英谷さんと藍染先生。まあ、先生にとってはそうだろう。

「俺は、高坂とは離れたくないな」

 逢沢から思わぬ愛の告白を受けてしまった……いや、まあ、逢沢って心配性っぽいし、僕の能力を精神的支柱として必要としてるんだろうってのは分かるよ。

「でも、みんなで一緒に街にいたら、またモンスターが襲ってくる可能性がある。一緒にいたいんだとしたら、ここは出てどこかに行くことになるし、行動の自由はあんまりないと思って」

「いらないわよ、そんなもの」

 野崎さんがぼそぼそと言う。

「どうせ自由にさせる気なんてないでしょう」

 いや、まあ確かに、完全に自由にはなれないだろうけど……それは仕方ないでしょ、この状況じゃ。

「なあ高坂、それって、別行動すれば自由になれるっちゅーこと?」

「人によるけど、傾向としてはそうだね」

 みんなで一緒にいるとするなら、どこぞにある立派なお屋敷にみんなで放り込まれて、その中でずっと過ごすことになる。僕たち、というか僕たちのスキルや知識に用事がある人は、そこを訪れればいいって寸法だ。たまにモンスターが襲ってくるけど、たいていの敵ならどうにかなる。野生のモンスターで、普通には倒せないのはそれこそドラゴンくらいのものだ。どちらかというと問題は人間のほう。さっきの戦闘中にも横槍を入れてきた人たちがいたみたいだけど、ああいう手合いは地味に面倒臭い。複雑な計略を巡らされたり、逆にあまりにも行き当たりばったりに行動されると、占いにうまく引っかからないこともあるみたいだ。

「ふうん……まぁ、やっぱり、何を優先するかって話になるんやな。うちは、最悪もとの世界には帰れんでもええし、多少の不自由は構わんけど、とにかく平和に暮らしたいトコや。ドラゴンは倒さんとあかんやろけど、その後が勝負やな。でも、この世界を観光したいとか、権力握りたいとか、家に帰りたいとか、みんな色々、したいことがあるやろ?」

「そういう意味じゃ、僕は帰るための道しか占ってない。それを諦めるなら他の可能性もあるんだろうね」

 もしかしたらそっちの方が幸せになれるのかもしれない。そんな未来、見えたとしても個人的にはあんまり認めたくないけど……でも、もしそういう未来が見えたとして、ずっと認めずにいられる自信もない。

「権力……欲しいな」

 幾田さんが真顔でつぶやく。怖い。

「そういえば、ケィリー王子って独身かしら」

「ええと……奥さんはいそうだけど」

 タロットをめくって、王子の家庭運を占うと、「娘に嫌われても泣かないように」というどうでもいい助言が出た。

「偉い人なんでしょう? 奥さんが一人とは限らないよ」

 仲山さんが、ふんわりと笑いながらイヤな助言をする。狙うの? 玉の輿?

「ああ、でも、王妃が権力を持てるかどうかは分からないね。女性もばりばり仕事してるように見えるから、男尊女卑って世界ではなさそうだけど、後宮にいるだけ、ってなったら権力からは遠ざかりそうだよね」

「そういう女同士の政治は好きじゃない」

 続いた言葉に、幾田さんは眉を寄せて答える。

「軽はずみな動きはいけない……もっと情報が必要か」

「それな」

 ちゃりちゃりとピアスをいじりながら榊さんが口を開く。

「でもさ、こんなちっちゃい国でエラくなってもしょーがなくね? 北海道の半分っしょ? ショボくね? アリス、別にそんなビミョーな権力いらないし。つかそんなんどーでもいいから帰りたいし。カラコンない世界とかマジ無理」

「基準そこなんだ……」

 大して違いも分かんないのに……なんて言ったら殺されそうだから言わないけど。昔うっかり次姉にそんなことを言ってマジギレされたのを思い出す。あれは怖かった……。

「しかし……そのスキルがあれば、この世界でも一生安泰だろうに」

「うっさい黙れクソメガネ。てかさ、なんでアリスにこんなスキルあんの? ヒールとか意味わかんないし。仰木とか高坂とかそのまんまじゃん。だったらアリスにも可愛くなるスキルとかあっても良くない!? それともアリス可愛くない!?」

「よしよし。アリーは可愛いよ」

 仲山さんに頭を撫でられて榊さんが黙る。猛犬を手懐けるブリーダーみたいだな……。クソメガネ呼ばわりされた逢沢は、怒ることもなく「確かに不思議だな」と顎に手を当てている。

「だが、野崎も仲山も英谷も……というか女子は大概、なぜそんなスキルなのかよく分からん。幾田はまだ理解できるが」

 あ、確かに、男子はみんな、わりと分かりやすいね。占いが得意な僕の【星読み】、神経質な逢沢の【秩序の魔眼】、ケンカに強い櫟原の【クロックアップ】、食に貪欲な仰木の【飽食の王】、運転手の轟さんの【ロボ】。どれも本人の特技や性格、好きなものが反映された感じだ。きっと砺波もそんな感じの分かりやすいスキルなんじゃないかな。

 それに比べて女子は、観察とか好きそうな幾田さんの【アナライザー】のほかは、癒し系な仲山さんの【アイテムボックス】、元気な英谷さんの【シュレディンガーの手】、演劇部の野崎さんの【ノームの洞穴】、テニス馬鹿な代々木さんの【バリア】、ギャルっぽい榊さんの【ヒール】……どれも本人とあんまり結びつかない。せめて仲山さんの【アイテムボックス】と榊さんの【ヒール】、代々木さんの【バリア】と野崎さんの【ノームの洞穴】が逆なら分かるけど。仲山さんは回復キャラっぽいし、代々木さんも防御よりは攻めていくほうが似合う。

「うち、一時期めっちゃ手品ハマっとったで? 今は道具ないから何もできんけとな。そんな感じで、みんな何かあるんやろ。あんま気にせんとき」

「そうか。考えすぎか……」

「単に、男子のほうが単純ってことじゃねーの?」

「……代々木に言われるのは納得いかない」

 うん。同感だ。

「何にせよ、結論は急がなくていいんじゃない? どう動くか決めるのは、色んな人の話を聞いてからでも遅くないと思うんだけど、どうかな、高坂くん?」

「何日かなら問題ないと思うよ。しばらく、こっちの国の人たちもモメるし。でも、大きな流れを決めずにいられるのは、一週間が限度かな。決断が早ければ早いほど、交渉はしやすそうだよ」

 仲山さんに返事をする。「よーし!」と立ち上がったのは三橋さんだ。

「こうなったらもう、みんな自分でじっくり考えるしかないね! 三日後までにそれぞれ考えて、もう一回話し合おう!」

 学級委員長らしい仕切り。そのドヤ顔を見た感じ、さっきから発言の機会をうかがってたんじゃ……いや、いいんだけどさ。ちっちゃい子が頑張ってるなって感じで、微笑ましくて和やかな気分になるし。仲山さんと三橋さんをセットにすると、優しいお母さんと無邪気な娘って感じの、無敵の癒し系フィールドが出現しそうだ。

「「おー!」」

 砺波と代々木さんがハモりながら拳を突き上げる。ノリがいい。誰かが拍手を始めて、うやむやな雰囲気の中で即席の学級会が終わった。

 ……考える、かあ。

 僕も少しは、未来をカンニングせずに、自分の頭で考えたほうがいいのかなあ……?

ヴォルジア・ズィーゲン→魔術師団の師団長ヴァスタ。ぽっちゃり体型だが案外俊敏に動く。


今話で1章は終了です。

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