《前章》
“重く雪が降り積もる夜に、私はたった一人の子供を側に置くと決めました”
「-おぉなんだこれ、俺と同じだ?」
暖かな春日。閉館日の“植物図書館”の業務を自主休憩し、俺は書棚の間で読書に熱中しようとしていた。
腰掛けた踏み台の上で、足を組み直しながら視線を固定する。何となく、で手に取って開いた葡萄色の一冊。そこまで厚くない本の頁を次へめくる。へー面白い、と続きを読むため視線を滑らせるが、横槍に至福を阻まれた。
「レイジさん!つまみ読みしてないで、作業手伝って下さいって!今回は図鑑の量が多いんですよっ」
あー…、残念。後で借りて帰ろう。同じ職場で働く後輩の呼び声が聞こえて、ジト目になりながらも持っていた本を閉じた。
「はいはい、今行くからちょっと待ってろ」
葡萄色のそれを棚に戻しながら、おざなりに返事を投げ返し、無数の棚と若葉を茂らせ始めた木々をすり抜けて、ゆったりと後輩へ近付く。限界まで抱え込んだ本が落ちそうになっていて、大事な蔵書に汚れでも付けるつもりかと、変に抜けている奴の頭を疑う。
「早くして下さい、本が落ちる!」
「リィト…管理員根性どうした?」
「物理にはそうそう勝てませんって?!」
冗談のつもりで冷やかすと、本気の叫びと表情が返される。面白い奴だ、といつも思ってるよ。
この後輩はころころとよく動く。豊かな表情は、見ていてたまに羨ましい。…こいつは笑う。あの子供は笑わない。俺もあまり笑わない所為で移ったのだろうか。
会ったのは寒い寒い冬で、子供なのにすり寄ってもこない温度が、少し寂しかった。
今は春、緑が麗らか。良い季節だ。あの子供も、少しは暖まれるだろう。
「季節も時間も巡る…、いつか、自分で出て行くさ」
俺は、ソレまでの繋ぎだ。-おっと、意識を投げてしまったら、つい呟きが漏れた。
「レイジさん?何か言いました?」
「いや?何にも。それよりもお前、無理なぐらい抱えるのはやめろって-」
やれやれと溜め息を吐きながら、軽く半分以上引き受けた。追加で指示を出し、残っている仕事を手分けして片付け始める。
変わらない“いつも”の事だ。
笑ってくれないのは、俺が悪いのだろうな。作業しながら浮かぶのはあの子供。トウカと名付けた少年。今はそれなり(様子見状態)だが、拾った頃は慣れないばかりで、俺もかつかつだった。それは変わっていないかな?手を引いたのは、間違った選択だったか。子供のためになる事は何だろう。
出来ているとして強いて挙げるなら、今は冷え切っておらず、意識がある事だろうか?




