若い王様
城は本当にでかかった。いやもう本当にでかいという表現しか出てこない。
城もレンガできていると思うがただのレンガではない。おそらく、俺の履いている風鉱石と同じ類のものだろう。
しかし屋根が赤いのは異世界でも共通なんだな。
あ、でも日本の城の屋根は瓦だしな。あれも赤くすればいいと思う。
「城を見るのは初めてですか?」
どうやら俺たちが珍しいものを見ているように思ったらしい。
確かに妹なんて目をパチクリさせている。
「いや、大阪とか熊本とかの城は見たんだけど、こういう城を生で見るのは初めてだ」
「オオサカ?クマの城?ナマで見る?」
「あー、生で見るっつーのは写真とか絵とかでしか見てないっていうこと」
「ふむそうだったんですか」
レミは感心し頷いてきた。頷いても反応に困るなぁ・・・
「お兄ちゃん!すごいよ!日本の城より断然いいよ!これが本当のお城なんだね」
「おまえ、日本の城を建てた人に謝れよ!」
「じゃあお兄ちゃんはどっちの城が好きなの?」
「そりゃあゲーマーとしちゃあこっちだろ!日本の城ごめん!」
実際本当に聞かれると洋風の城が好きだっていう人が多いだろう。
でも外国人だと不思議とジャパニーズキャッスルベリーグレイト!って言ってくるんだよな。
もう城交換しね?
「そろそろ行きますよ?」
「ああワリィ」
俺たちは城の門につながる大理石で作られた橋を渡っていく。
門の前には人影が二人、多分門番だろう。立派な槍を持っている。
門に近づくと門番が臨戦態勢に入った。俺たちのことを警戒しているのだろう。
ただ目の前のレミに気づいたのだろうか、臨戦態勢をといてくれた。
嫌な視線は感じるけど・・・
「門番ご苦労様です」
そう二人の門番にレミがいい、二人は俺たちを蔑むような目で見てきた。
今ので蔑むっておかしくね?
「レミ様なぜこのようなもの達を?黒髪は我らの敵ですよ?」
「たくさんの仲間を殺されたのを忘れたのか!」
殺された。確かに門番はそういった。
「私が忘れるとでも?覚えてますよ。でもこの人たちは髪の色が同じだけです。それだけでなぜ悪者と決めつける?」
門番に強く凛とした声で返すレミ。
「・・・わかりました。ではただいま門を開けますので」
赤く俺の身長の5倍以上ある門が開かれていく。
「レミ、殺されたって・・・」
「それは城の中で話します」
「・・・わかった」
「ありがとうございます」
レミが礼を行った後、門は完全に開かれた。
この城で何か手がかりがつかめたらいいんだが・・・
そう思ってこの城にまできたわけだ。
城の内装は、やはりゲームで見た感じと同じだ。
床にはレッドカーペットが敷いてあり、壁には緑のタペストリ。天井には魔力を使って光を照らすシャンデラが付いていた。
生で見るのとは迫力が違う。ゲームの城の中なんて写真撮ろうなんて考えてなかったけど、今アイフォンを持ってたら確実に写真を撮っていただろう。
こう見ると楽しんでいるように見えるが、俺たちは緊張しぱなっしだ。
中には兵士やそこに住んでいる貴族らしき人。全員が俺たちに敵意の視線を感じられた。レミがいなかったら多分殺されてる。
「すいません、城のものが無礼な行為を」
「ああ、もう慣れたから心配すんな。それにレミのせいじゃねえだろ。謝られてばかりじゃ歯がゆくなる」
もうこうして謝られたのは何度目だろう。
「謝るのはむしろあいつらのほう。レミはレミだ。あの人たちじゃない」
「しかし!」
「城の人たちがイライラしてんのはわかったからとっとと用件を済ましちゃおうぜ!」
なるべく負担をかけてほしくない。自分と同じ年ぐらいの女子がすべてを背負うなんて、おかしいと思う。自分からなりたいとは言ってたが、王様にも文句の一つ言いたいところだ。
俺の親も思うことはあるらしい。顔つきが少し険しくなっている。きっと許せないんだろう。
「レミよ、辛くはないのか?」
「弱音吐いてもいいのよ?」
「大丈夫ですよ。それにもうすぐ収まると思いますよ」
収める?この事態を?
この城の人たちを納得させるには・・・
「まさかレミ、お前が向かってるのってまさか!」
「王のところに決まってるじゃありませんか」
簡単に言ってきやがった。
この国の最高責任者に会わせてくれると言ってるのだ。
「けれど何故王様のところに向かうんだ?話が聞きたいんだったら王様じゃなくてもいいんじゃねえのか?」
「それはそうなんですが、王にもあわせてみたいというのがありますし、何よりも誤解を解くには王の力を借りるのが一番いいと」
「騎士団長は王とも仲がいいんだな」
「いえ、私の場合は・・・」
聞いてはいけないことだったのだろうか。話が途切れる。
まあ王様のプライベートについてはそんなに聞きたくないしな。
それに王様っつーことは、歳をとっている筈だ。何か恥ずかしい出来事でもあったんだろうか?あったら見てみたかった。
「みなさん目の前にある扉が玉座の間につながる扉です」
玉座の間。
その扉は水色に塗装されていて、重厚感を感じる。
両端には龍の石像があり、王の偉大さを醸し出している。
「お兄ちゃんなんだか緊張してきた・・・」
「俺もだよ。王ってどんな人なんだろうな」
「立派な髭がはえてるんじゃあねえのか。やっぱり」
「さらに立派な杖を持っていそうよね」
俺たちの想像が膨らんでいく中、レミは何故かオロオロしていた。
「俺たちなんかまずいこと言ったか?」
「あ、いえ、ただ・・・」
少しの間の静寂。少しだけだったのには理由がある。
途中後ろから、足跡が聞こえてきたのだ。
振り向くとそこには、蒼い髪をした青年がやってきていた。
黒いロングコートをつけていてその下にはある紋章が描かれた服を着ている。
髪の毛はストレートヘアでとても凛々しい顔つき、爽やかな印象を与えてくるが、後ろに装備してある妹の身長と同じぐらいの大剣を見て思わず息を飲んだ。腰にも二本の長剣を
装備している。
「誰なんだ?あの人?王の側近?」
俺はレミに尋ねてみるが、全くの無反応。
え、まじでどうしたの。あの人そんなにやばい人なの?
「おーい」
声をかけてみるが無反応。いや若干肩が震えていると。
恐怖か?いや、そんな感じはない。
この状態は・・・見たことがある。似たような状態を俺は見たことがある。
何回も見たような気がするが・・・思い出せない。
思い出せないままで青年は俺たちに優しく話しかけてきた。
「やあ、初めまして。君たちがレミに連れてこられた家族かい?・・・うんなるほど、確かに邪悪な気配は感じないな。歓迎するよ」
俺と同じ、いや少し年上なだけだが、格が違いすぎる。勇者というものが本当に存在するのであれば彼がそうだと思った。
「あんたは誰なんだ?」
「ああ、名のってなかったねタツヤ。僕の名前は・・・ん?」
「どうしたんです?」
「いや、レミがうなだれているようなので、済まないが後ででもいいかな?」
「ああ、構わないが」
ありがとうと礼を言ってレミの方に駆け寄る。
俺の方には家族が寄ってきた。
「残念だねドンマイ!」
「残念だったな」
「私たちは何があっても、龍也の家族だからね。」
「一体なんの話だよ!?」
みんな、あいつのこと彼氏だと思っているのだろうか。
まず絶対違う。彼氏だったらあんなことにならねえよ。
そもそもいつ好きになった!?一目惚れだったからあれか。5時間前ぐらいか。
俺って惚れっぽいのか?否定はできんが・・・
「どうしたんだいレミ、そんなに黙り込んで?」
「・・・いったい、どこいってたんですか?」
わなわなと震えながら答えるレミ
怒っている?
「それはもちろん見回りですよ。」
「嘘でしょう!!」
驚愕、いやこん時の俺たちはそんな言葉では表せない。
あのレミが怒鳴ったのだから。
威圧感は感じられない。ただ感情をぶつけているように見える。
「どうせ稽古をしていたのでしょう!見回りならこの剣を装備する必要なんてない筈です!」
「やはりばれてしまいましたか。けどだいぶ傷は癒えてきたのでもう大丈夫だよ」
「完全に治るまで禁止と言った筈です!!ああ!もう!!」
「そんなに怒らなくても。ごめん。それに客人の目の前だ。続きは後ででも聞こうかな」
「あっ・・・」
みるみると熟されていくように顔が赤くなるレミ。それを笑いながら温かい目で見ている青年。
さっきの遠慮のないやり取り、見たことのあるような光景。
俺は妹に目を向けた。
無言で頷いてくる。どうやら同じ考えのようだ。
「レミの兄さんか?」
「ああ!もうわかってしまったのかい?」
「兄妹喧嘩は俺たちもよくするからな。おやつの取り合いに、すごろくゲーム、まあ色々とな」
「と言っても大体始まる原因はお兄ちゃんのせいだけどね!ね!レミ姉さん!」
うなだれてたレミが顔を上げてくる。
やがて顔の赤みがとれてゆき、深呼吸を数回行った。
「先ほどはお恥ずかしいところを、恵の言う通りです。はい、兄上のせいなので、いつも無茶ばっかりしてくるんですよ。心が落ち着かないです」
「それ私もわかるなー。まあ時々くだらない事で喧嘩するけどさ、お兄ちゃんも結構無茶するんだよねー」
妹二人組が壮絶に盛り上がってる。てかどちらも早口になってんぞ。なんて言ってるかわからないな。
「互いに妹を持つと苦労するよね」
「まあな」
「でどうだい?僕の妹は、世界一可愛いだろう?」
急に言われた、妹大好き宣言に少し驚く。
普通の兄だったら妹のこと可愛がらない人が多いぐらいなんだけど、まあお世話っつーことはわかる。
だがそんなことに気づかず兄を睨みつける妹と、気づいたのか、言い返せ!という目つきで上目遣いを送ってくる俺の妹がいた。
悩むところだがここで返す言葉は決まっている。
「そうだな!あんたの妹世界一可愛いな!」
「ええっ!?」
「お兄ちゃん!?」
予想通りの反応、俺はシスコンじゃねえんだよ。
だが妹は納得がいかないようで、シュシュを触りながら言い返してきた。
「恵のこと一番可愛いって言ってくれないの!?」
「じゃあ逆に聞くが、レミより可愛いと思ってるのか?」
「はあ・・・おにいちゃんそこはお世辞でもいうべきだよ。それに!レミ姉さんより可愛い自覚は恵にはあります!!」
「ほお・・・どこが?」
「チッチッチ、レミ姉さんは綺麗すぎて可愛さが少し薄れてると思うのですよ。つまり!綺麗さがまだ足りない私の方が可愛さがでてると思うんだよ!」
なるほど!!・・・ッて、えっ?
どうなんだろうこの場合。
妹の言うことはわかる。わかるんだが・・・
「・・・男に2言はない」
「ああ!逃げた!!男見せろ!」
妹は飛びかかり俺の頬を引っ張ったり、頭かき回したり、ローキックしてきたり・・・
「ってローキックはやめろ!マジでいてーよ!てかどこで覚えた!?」
「もちろんゲームでだよ。どしたの?いつもはガードしてるのに?」
「ゲームの中だけだっつーの!」
久しぶりのガチ喧嘩。
俺と妹はそんなに本気の喧嘩はしない。もちろん殴られたりしたこともないし、明日になったら大体は忘れている。
ただ一度を除いては・・・
・・・幼少期、バースデーケーキの苺を食べた時だったな
「悪かった。悪かった!話せばわかる!」
「問答無用!」
「いいのか恵!話を聞いていれば、無意味な争いが起きなかったかもしれないんだぞ!」
「続!問答無用!!」
「少しはきけぇ!!」
ローキックの勢いは、いや回転数が上がっている。何故ここまで、蹴るのか。
何故ここまで蹴られなくれはいけないのか。
何故ファミリーストップが入らないのか!
「親父!母さん!いつまで見てるんだよ!そろそろストップ!ストップ!」
俺は必死に助けを求めた。
そーいや親に助け求めたの何年ぶりだ?
最後に求めたのいつだ?
全く思い出せない。いやそんなに助けを求めてなかった?
・・・過去のことはいいや、今は助けを!・・・呼んだのに何故何にも話さない。
「おい、親父、母さん、なんで話さねーんだ?」
理由は簡単だった。
倒れていた。
「っ!!?母さん!?親父!?どうしたんだ!?」
「え、嘘・・・?」
レミも兄さんも焦りながら近親のところに駆けつけた。
「大丈夫ですか!?・・・なんてひどい熱なの」
「これは、疲れによるものではないね・・・
ん?これは・・・」
今度は俺たちの方へ目を向けてくる。さっきよりもさらに焦っているのがわかった。
「俺たちのせいなのか?」
「そうじゃないよ。けど少しさわらせてもらう」
俺たちの腹に手を当て、何かを探りはじめた。
いつもなら調子のいい恵だがさすがに冷静だ。
「やはり・・・ちょっと我慢してくれよ」
なんだ?何をするつもりだ?
だんだん腹が熱くなってくる。
「あのちょっと暑すぎるんだけど・・・」
「すまないねタツヤ。そしてメグミ。でもこれを見てごらん」
手がはなれていき、その手に緑色の気体が吸い寄せられていく。
「これは?」
「ドルコールさ」
聞きなれない単語に俺と妹は顔をしかめる
「なんだよそれ?禍々しい名前してんけど」
「主に酒に含まれているんだけどね。これだけの量は危険なんだよ」
そう言ってドルコールを燃やす。
「まだ君たちには回ってなかったようだね。よかった。回ると完全には治せないからね。どっかで酒の匂いでも嗅いだかい?」
そこで俺たちは商店街歩いてた時にあった強烈な酒を思い出し頷く。
しかし腑に落ちない点がある。
「じゃあなんで、親父と母さんには回ってるんだ?大人の方が免疫反応高いはずだろ!」
「そのはずだ。でも何故かマクナが全くないみたいなんだ」
「マクナだと?」
俺がそう聞き返すとレミの兄さんは少し驚いたのか少し早口になった。
「マクナを知らない?・・・簡単に説明すると魔法を使う時に使うエネルギーのことなんだけど、要は耐性がなかったから君たちの親はこうなっているわけだよ」
「なんか薬はねえのか?」
少しうつむき、
「今はないんだ。・・・レミ、イルソイの森で、ミアレリーフを取りに行けるか?」
レミはそれが当たり前だというように頷く。
「すまないね。また忙しくなってしまって」
「私はやりたいことをしているだけですよ。それに兄上はこの国の王なのですから、もっと人を使ったほうがいいですよ」
・・・え?
「あんた王だったのか!?」
「あんまりそう呼ばれたくはないんだけどね」
苦笑しながらこっちを向いてくる。
「名前言ってなかったね。僕の名前は、フレイス・サリ・アルダニア。アルダニアはこの国の名前さ」