寄り道と妹と騎士
レミの案内で王城に行くことになった俺たち
は衛兵達から蚊に刺されるような視線を受けていた・・・
「あなた達、私は大丈夫ですから早く街の見回りに戻りなさい」
「ですが!団長殿の身に何か起こったら!」
「心配してくれているのですね。ありがとうございます。でもここは私一人で十分です」
「・・・わかりました。団長殿がそこまで言うのであれば」
レミさんのおかげで兵士が去っていく。
「お待たせしました。では早速王城に向かうのですが二つの方法があります。」
「二つの方法?」
「はい。少し時間はかかりますけれど、歩いて行くか、私の転送魔法陣でひとっ飛びするかです。」
なるほど、要するに観光しながら行くか、目的地まで一気に行くかだ。俺だったら歩きながら行くほうにするけど、今は俺一人だけじゃねえもんな。
俺は母さんと妹に聞いてみた。
「なあ、母さん、恵。俺は歩いて行きたいんだけど、体力の方は大丈夫か?」
「私は大丈夫だよお兄ちゃん!」
「息子の希望に答えなきゃね」
「俺にはきかんのか!?まあ父さんも歩きは賛成だが・・・」
「決まりだな、ゆったりコースでお願いだ。レミさん」
「わかりました!」
レミさんは笑顔で答える。うあっまぶしーなやっぱ。外国人の綺麗な人ってあんましどこが綺麗なのかわからなかった俺だが、異世界人ならわかる。
レミさんの笑顔、時間が止まったように感じた。そしてその時間を動かしたのは、俺の親父だった。
「龍也。お前ああいう子が好きだったのか」
「!!!」
やべえ。これすげー恥ずかしい。今までの中で一番の羞恥受けている・・・
親父の爆弾発言に母さんも恵も続けて爆弾を投げてきた。
「龍也の好きな人ってそういうこと・・・お母さん応援してあげるからね!頑張れ!」
「お兄ちゃんちょろいね〜」
「お!ま!え!ら!!」
やはり、こういうことを親にからかわれるとすごく胸が痛くなる。
やっぱこういうことがすぐにわかっちまうんだよなー。マジで不思議だよな。17年間こんな俺を文句なく育ててるんだよなぁ。妹に関してはもう15年間一緒にいるもんな。
「どうしました皆さん?」
レミさんが小首を傾げて聞いてくる。
「「「なんでもないよー」」」
「ちょっと辱めを受けてただけだよ」
「?そうですか。なら出発しましょう」
先が心配だと俺は思いながら歩いていく。
少なくとも道中はこの人が守ってくれるがこれから先どうなるのか俺にはわからない
それに衛兵があんなに憎んでいた黒髪と言うのも気になる。犯罪らしきことをしたんだと思うが・・・
俺がこの世界に・・・いや・・・俺たちが来たのにはその黒髪と何か関係があんのかもしれねーな・・・
まずは王城に行って話を聞いてその後にすむ場所も確保しねーと、それに・・・
「大丈夫?」
冴え渡る声。俺はその声に呼び起こされた。
「レミさん・・・」
「レミでいいですよ。とても顔色が悪いようですが?
「ご心配なく!いつものこんな顔ですよ!」
俺は嘘をついてみた。心配してることを読まれたくない。かっこ悪いし何より、親に心配をかけさせたくない。
親は少し離れたところを歩いている。会話の内容は多分聞かれてはいないと思う。それに街の風景を楽しんでいるように見えた。
いい機会だったので、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「そういや、親父達は一緒にいたのか?バラバラだったか?」
「それをなぜ私に?ご両親方から聞けばいいじゃないですか?」
「いやそれはそうかもしれねーけど気まずいっつーかなんつーか・・・」
多分親父達のことだ。俺のことを追いかけてきたんだと思う。家族が俺のことがわかってるように俺も家族のことをわかってるつもりだ。
俺たち家族はゲームを一緒にするのが大好きで、アニメだってよく見ていた。でも俺がこの世界に対して不安を持っているのだから親父達だって不安を感じているはずだ。いくらアニメで見ていても二次元は二次元、現実ではない。
「また顔色が悪くなってるよ、せっかく一人じゃないんだから色々と話してみたら?何か頼みがあるんなら言ってみて。何でもしてあげるから」
「え、まじで!?」
急に言われたその言葉で俺は情けながら今考えていたことを忘れてしまった。
だって何でもしてあげるって一度は言われてみたい言葉だったしな。まさか異世界でその夢が叶うとは・・・
そうこう考えている間にレミさんは笑って行ってきた。
「ほら顔色よくなった。いつも通りの顔って嘘だね」
「え・・・?」
レミさんは俺を元気付けるためにどうやら言ったらしい。実際俺にその言葉は超特効薬で、いや男全員か
ただ特効薬にはリスクもあるから使いどころは考えねーといけねーな・・・
「じゃあなんでもしてくれるっていうのは嘘なんですか・・・」
情けない声で俺はいった。これが嘘だったら結構なダメージを受ける。象に踏み潰されるぐらいのダメージを受けると思う。上げてから落とすのは本当にすごい技だ。そんなのはもう遊園地のアトラクションだけで充分だよ・・・
「あっ!嘘じゃありませんよ!迷惑をかけてしまったので私にできることなら何でもいいですよ」
俺の落ち込んでいる顔を見たせいかレミが慌てて修正してくる。どうやら本当に何でもしてくれるらしい。
「そうか・・・わかったぜ!じゃあ!」
「うん」
「俺を靴屋に連れてってくれ!」
「わかったわ・・・ってそんなことでよろしいのですか!?」
騎士団長殿が猫騙しくらったような顔をしていた。あれ俺今の望み言っただけなんだけど・・・
レミはしばらく呆然としていたがすぐに口を開いた。
「何でもなんですよ?お金が欲しいとか、住む家が欲しいとか、なんなら私を・・・いえなんでもありません。それなのにあなたは靴屋に連れてってくれと?」
あーなるほどつまりレミは、もっと贅沢な願いを言ってくると思っていたのか。確かにそれも手だが・・・
いや待て最期なんつってた?・・・まあいいや、こっちだって靴屋行くことには理由がありすぎるんだよ。
「確かにしょうもない願いに聞こえると思うよ。何でもしてくれるって言ったわりにはな。だけどな、見てくれよこれ」
そう言って俺は今履いている靴下を指で指す
「靴下で走り回ってたもんだからもう足が痛くて痛くてよ。もうところどころ破けもしてるし。この靴下ままで城に入るのは不粋すぎるだろ」
「一応客人専用の履物は用意してありますよ。それでも靴屋に行きたいのですか?」
「レミ、俺はお前が助けてくれただけでもう満足なんだぜ。これ以上の贅沢は願い下げだ!それにな・・・」
俺はポケットからお金を出す。
「それは?」
「親切なおっちゃんがくれた金だ。俺が靴履いてないことに気づいてこのお金をくれたんだ。このまま使わないのは味がわりーしよ」
「そうだったんですか・・・わかりました!じゃあ早速靴屋に行きましょうか!ついでに他の店もご両親方と一緒に回りますか?」
おお、それはいい。親父達もこの世界にはまだ慣れてねーし不安だと思うから、いろいろ回れるのは悪くない。
しかも最強の騎士ときた。それだったら安心していけると思う。
「じゃあお言葉に甘えて」
「はい。じゃあ行きましょう!龍也!」
初めて俺はレミに名前を呼ばれた。そん時の俺の顔はやっぱ赤くなってたと思う。
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異世界にあるとある一本道で店がわんさかと開いていた。
その店の賑やかさといったら、昔母さんといったアメ横を思い出すくらいの賑やかさである。レンガでできた、中には鉄でできた家もあり、その家の主も商売に参加している。どうやら商人だけでなく普通の民間人でも店を出せるらしい。見たことのないもの、初めて嗅ぐけどいい匂いをしている食べ物。そして何よりも、いろいろな人が歩いているのを見て俺たちは驚いた。
「黒い髪の毛のやつはやっぱりいねーな・・・ 金髪と赤髪が多いな」
「うわぁ!お兄ちゃんやばいよ〜!あの人の服ものすごいはだけてるっていうかさけてる!あ、でも普通の服着てる人もいる!よかったー!」
「何が良かったー!何だよ・・・って親父何見てるんだ?」
「ん?酒の匂いがしたもんでな、でも匂いが強烈過ぎるなこれは」
「あなたすぐに酔うからねー、私はまだ大丈夫よ!」
「翼に負けるわけにはいかねえな!」
「親父、母さん、無理すんなよ・・・それに恵みが・・・」
「こ・・・のにお・・・い・・・キッツイヨォ・・・」
「「恵ぃぃぃ!!!」」
「ふふ元気なご家族ですね」
「まあな、俺の自慢の家族ですからって・・・レミ?」
「・・・酒の匂いは・・・キッツイデスゥ・・・」
「おいレミ!?」
いろいろと盛り上がっている中、酒の匂いを嗅いでダウンした俺たちは少し路地裏で休んでいた。
「レミさん、大丈夫ですか?ごめんなさい・・・多分あなた未成年でしょ?そうだったらあの匂いですからダウンしてもおかしくありませんよ」
母さんはそう言ってレミを励ましているのだが、レミは少しうつむきながらこう言ってきた。
「はい、こちらこそすいません。私は18歳で騎士団長にはなったのですがどうしても酒の匂いに慣れず・・・でももう大丈夫です。それより私よりも妹さんは?」
「あーレミ姉さん、私ももう大丈夫ですよ!心配しないでください!」
そう恵言っているが足はおぼつかない。でもそれ以外なら元気そうだ。
「そうですか。回復魔法が使えたらよかったのですが私はあいにく氷の属性なんで使うことができないんです」
突如出てきたそのワードに俺は首をかしげる。
「属性とかあるのか?この世界には」
今度はレミが首を傾けてきた。
「属性を知らない?・・・そうですか。そこのところは城に着いたら話します。それで構いませんか」
「ああ全然構わないよ。いいよな?」
俺は家族に聞いて全員肯定。
「わかりました。さて、そろそろ市に戻りましょう。その前に、恵。こっちまで来れる?」
「え、うん」
妹はレミのもとに向かう。そしてレミは妹の手を取り
「じっとしててくださいね、いきますよ・・・よいしょ!」
「うわああ!!」
レミは恵の手を取りそしてゆるやかに後ろに投げた。それでできたポーズが肩車・・・
15歳の妹が18歳の騎士団長に肩車されている光景・・・
恵の顔がどんどん赤くなっていく。そしてしまいには・・・
「こらどうして暴れるんですか!足がおぼつかないのでしょう!」
「だけどレミさん!?15になって肩車は恥ずかしいよ!!」
「落ち着け恵!そうだ騎馬戦だ!ほら俺だって、17の俺だって肩車してるぞ。」
「でも!上はない!」
まあ俺も下の方だけどな・・・暴れる妹に対しレミは言い放った。あの時の威圧感で
「落ち着きなさい」
その言葉にびくっとくる。俺の親も感じたらしい。この冷たい威圧感。氷属性というのにも関係があるのだろうか。
妹も普段は見せないような恐怖に怯えた顔をしている。いやきっと初めてかもしれない。
暖かい太陽が急に消え現れたのは凍える風。それを前にして妹は
「わかり・・・ました・・・」
と答えるしかなかった。そしてまた太陽は上がってきた。
「そうですか、安心しました。脅しにも近かったと思いますが、あなたの足のためです。そんなフラフラした足で誰かに当たって倒れたらさらに悪化するかもしれないですからね」
レミはそう言って妹の方を振り向くしかし、太陽が上がってきても凍える風の影響は大きかったようで、恵は・・・泣いていた。
「え・・・さっきのそんなに怖かった・・・?」
うんうんと頷く妹にレミさんはショックの色が大きくなっていた。
「おかしい・・・手加減して行ったはずなのに・・・」
あれで手加減してんのかよ!!どうやらそのことに恵も驚いているようだ。恵はさらに恐怖を感じたのか
「ふえええええん!!!!レミ姉さん!!ヒッグ、ごめぇんなさぁいいい!!」
久しぶりにガチ泣きを見せてくれたのだ。
「!!わかった!お姉さんの方が悪かったよ!だから泣き止んで!!」
レミは今までで一番焦った声でそう言ってきた。しかし残念ながら妹のガチ泣きにはある特徴があって・・・
泣き疲れて寝るまでは絶対に泣き止まないのだ。心身ともに成長はしているとは思うが・・・多分レミはもう威圧はしないと思うしこのまま待つか・・・しかしこうしてみるとなんか仲の良い姉妹に見えるな・・・俺の妹だけど!
そういや親が笑って見てんな。あんたたちの娘だろどうにかしろよ・・・ん?俺?無理だね!
妹のガチ泣きは早くも10分で終わった。多分この世界にきて疲れていた原因もあるんだろうなと。今妹はレミの肩の上でぐっすりだ。
「先ほどは申し訳ありませんでした・・・」
「あー大丈夫ですよ」
と俺は言う、そのあとに続いて親父と母さんが謝罪の言葉を伝えた。
「うちの娘が迷惑をかけてしまったな」
「こちらこそ迷惑をかけてしまいすみませんレミさん」
それを聞いてレミは安心したのかはわからなかった。でも少し落ち着いたようだ。
「わたしも騎士として未熟ですね。これからは話しのスキルを鍛えないと・・・」
「いや、それ以前の問題だと思うんだよな・・・あの威圧には誰だってビビりますよ」
「うーん、手加減して言ってるのですが・・・」
まだ少し落ち込んでんな・・・
こうなったあれだな。
「妹の顔見てみな、レミ」
「え?恵の顔ですか?」
レミはゆっくりと妹の方へ振り向いた。レミの目にうつったのは、とても寝心地よく眠っている恵の寝顔だった。
俺はなぜか、妹の寝顔を見ると落ち着いた気分になる。シスコンだって?そう言われても仕方ないとは思うが断じて違うぞ。嘘だと思ったら試してください。
俺がそんなくだらないことを考えてた時レミは小さく笑った。
「ふふっ、これはなかなかの特効薬ですね」
「リスクが大きいけどな」
「そうですね。あとで、もう一回謝ってみようと思います」
「ああ!それどきっと恵は許してくれるはずだ!」
そういうとレミはさっきよりも安心した表情になった。いくら騎士団長といえど俺より一歳年上の女姓だってことを実感した。
「さて、少し遅くなってしまいましたが靴屋に向かいましょうか」
「そうだな。もう靴下もボロボロだ。親父ー母さーん、行くぞー」
俺の声が届き親父と母さんがついてくる。
先導しているのは、レミと俺の妹。妹の寝顔がたまに見えてくる。
それはしばらくの間俺たちの心を癒してくれたのだ。