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第十六話 当然の結果だな

 メガネのクラスメイト達が、村長からお礼にと借りている宿。

 その入り口すぐの大部屋にある酒場は、朝食をとる生徒達で賑っている。


 中には見覚えのある顔がいくつか。


 伊音長は数人の女子と静かに食事をとっている。

 真面目だ。


 大路は大勢の男女と共に中央の大きなテーブルを囲んでいる。

 絶えず笑い声が上がり、とても楽しそうだ。

 このリア充どもめ。


 そしてメガネの因縁の相手である鎌瀬。

 彼は友人らしき二人の男子生徒と何やら駄弁っている。


「やっべ、アリスたんマジやっべ。お嫁さんにしてぇ」

「おっと鎌瀬殿、いかんでござるよ。イエスロリコンノータッチ。鉄則でござる」

「せやでー俺らみたいな外道にも矜持っちゅーもんがあるんや」

「でもよー、お前らも会ったっしょ? マジヤバくね? 可愛すぎじゃね?」

「それは同意」「左に同じく」

「っかー! せめてちゅっちゅして貰いてぇー!」


 周りの女子に白い目で見られながらも楽しそうに話す彼ら。



 その背後で、宿の扉が派手な音を立てて開け放たれた。



 驚き、音の出所に顔を向けるクラスメイト達。

 開け放たれた扉の外で稲光が走った。

 その白い光に浮かび上がる4人の人影。


 突然の乱入者に、みな何事かと身構える。


 遅れて聞こえた雷鳴を背に、ゆっくり酒場へと踏み込んでくる影たち。

 酒場の灯りで先頭を歩く一人の顔が照らし出される。


 それを見て――――――くすり、と、どこからか笑い声が漏れた。


 灯りに浮かび上がったのは、もちろんメガネの顔だ。

 その表情はあまりにも真剣だった。

 しかし、その顔の横にある熊耳もまた、あまりにキュートであった。

 どこからともなく「やだカワイイ~」などと聞こえてくる始末。


「ぶえっくし!」「びしょ濡れだよ」「にゃんか笑われてにゃい?」


 後ろでは、付いて来た三人が全身ずぶ濡れで体を震わせている。

 何とも締まらない登場なのであった。




------------------------------------




 周囲からの好奇と嘲笑が入り混じった視線を受け流しつつ佇むメガネ。

 マイペースに、濡れたブレザーを脱いで肩にかける。

 そして一息付くと、店内に向けて声を上げた。


「鎌瀬はいるか」


 言いながら見渡すと、軽薄な笑みを浮かべる鎌瀬と目が合った。

 だが向こうは、メガネを見てつまらなそうに鼻を鳴らす。


「はん。んだテメェ、ふざけた耳しやがってよぉ。何か用かよ」

「あぁそうだ。借りを返しに来た」


 仕返しに来たのだと告げるメガネ。

 それを聞いても鎌瀬はやる気を見せない……どころか、鬱陶しそうな顔をする。


「はぁ? あんだけ情けねぇ負け方しといて………やり返しに来たのは認めてやるけどよぉ。オレ、弱い者虐めは好きじゃねーんすよ」


 そう言うと、メガネに背を向け、どこかに行けと右手を振った。

 本当にもう興味が無いのだろう。

 そのまま友人達との会話に戻ってしまう。


「……あれ、誰でござるか?」

「あーお前、あん時、おらんかったんやな」

「何でもねぇよ。それより、オレがどうやったらアリスたんと……」


 そんな鎌瀬を睨みながら、メガネは尚も言葉を続ける。


「負けるのが怖いのか」

「……あぁ?」


 鎌瀬がぴくりと反応した。


「今日はご自慢のスキルが使えないだろうからな」

「………」


 黙って言葉を聴く鎌瀬の目が、次第に鋭くなっていく。

 その視線を受け止めつつ、メガネはさらに続ける。


「お前のスキルは砂を操れるのではない。まだ砂しか操れないのだ。そうだろう」


 眼鏡をクイッと中指で押し上げる。

 手が顔から離れると、その口元はニヤリと歪んでいた。


 スキルは使用する度に脳が最適化され、より強力になっていく。

 逆に言えば、使わなければ弱いまま。

 そしてこの場に居る全員は、つい数日前にスキルを使い始めたばかりなのだ。

 当然、鎌瀬のスキルもまだ成長していないはずだった。


「恐らく、鉱物に相性の良い念動力の派生スキルだろう? 最終的には岩石や金属なども操れるのだろうな。だが、今はまだ軽い砂粒しか操れない。そして………」


「……そうだよ。その砂も、ちょろっと水吸っただけで重くて動かせねぇ」


 メガネの言葉を引き継ぐように、そう答えた鎌瀬。


 彼が唯一操る事のできる砂。

 それは今まさに、この宿の外で雨水に晒され続けている。

 つまり現在、彼はスキルを使用できないという事だった。


「なるほどねぇ。オレがスキル使えねぇ時を狙ってきた訳だ。スキルさえ無きゃ勝てるってか………ひゃはは!」


 手を打ち鳴らし、楽しそうに笑う鎌瀬。

 が、すぐに表情を消し、鋭い視線を眼鏡に向ける。


「………ナメんじゃねぇぞモヤシ野郎」


 ぼそりと呟き、席を立ってメガネの方へと歩き出す。

 友人らしき二人が何やら止めようとしたが聞く耳を持たない。


 しかし少し進んだ所で、進路を遮るように横から手が伸びた。

 伊音長の手だ。

 

 周囲ではクラスメイト達が不安そうに成り行きを見守っている。

 彼らを代表して仲裁しようと言うのだろう。


「やめなさい」

「あ? っせーよ。つか喧嘩売ってんのあっちっしょ」

「……メガネ君も、無駄な争いは」

「邪魔をするな」

「あなた達……っ!」


 だが全く取りあう気の無い二人。

 伊音長が声を荒げかけたところで、大路がその肩に手をおいた。

 首を振りながら大路は言う。


「大丈夫。お互い素手のようだし、大した怪我もしないはずだよ。なら気の済むようにさせた方がいい」

「………はぁ、もう」


 どこか納得いかない顔をしながらも、手を引っ込める伊音長。

 確かに、スキルを使わなければ大事にはならないはずだ。

 ならもう好きにしろ、と言ったところだろう。


 その横を素通りし、ついに鎌瀬がメガネの前に立った。




---------------------------------




 ポケットに両手を入れたまま、不機嫌な顔でメガネを睨む鎌瀬。


 対するメガネは、いつもの通り腕を組んでの仁王立ち。


 両者の距離は三メートル程。

 入口付近の開けたスペースで対峙する。


 室内である事を除けば、それは数日前の決闘と同じ光景であった。



 そして、今回もやはり鎌瀬が先に動く。


「相変わらずスカしたツラしてんなぁテメェはよぉ」


 言いながら握った右拳をポケットから引き抜くと、メガネに向けて突きだした。


「けど………これでも余裕ぶっこいてられっかぁ?」


 拳が開かれる。


 そこからサラサラと、『砂粒』がこぼれた。


 それは落下の途中で軌道を変え、メガネに向けられた掌の前に集まる。

 そしてピンポン玉程の砂の球体を作りだした。

 同時にポケットからも砂が流れ出し、同じ大きさの球体をさらに二つ形作る。


 合計三つの砂球がメガネに突きつけられていた。


「自分のスキルの欠点なんざ分かってんだよ。何の対策もしてねぇと思ったかぁ? ざ~んね~んでしたぁ~!」


 雨の日は地面の砂が使えない。

 それに備えて少量の砂を常備していたのだろう。


 スキルを封じる。その目論見は崩れ去った。


 鎌瀬は意地の悪い笑みを浮かべている。

 ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?

 そんな様子だ。


 その挑発を受けて―――しかしメガネは表情を変えない。


「………」

「……チッ、つまんねぇ」


 無言のメガネに、興が削がれたと言った表情になる鎌瀬。


 その背後から伊音長の焦った声がする。


「や、やめなさい! スキルを使うなら………」


 鎌瀬は止めようとする伊音長をちらりとだけ見て、面倒そうにため息をついた。

 だがメガネに向けた右腕を下ろそうとはしない。


「はいはい、うぜぇなぁ。もう終わりますよっと」


 そのやる気の無い声と共に、無造作に三つの砂球が放たれた。


 それらは大きな弧を描いて三方向から、高速でメガネに迫る。

 狙いは、頭部、鳩尾、そして股間だ。

 意外と堅実な鎌瀬らしい、急所を的確に狙った攻撃。


 ピンポン玉程度の大きさとは言え、十分に速度の乗ったそれらが当たればタダでは済まない。

 砂の塊による攻撃は、見た目以上に重い衝撃を与える事が出来るのだ。

 ましてそれが急所に当たれば、貧弱なメガネはひとたまりもない。


 唸りを上げて迫る砂球は、ほぼ同時にメガネの急所に吸い込まれ―――



 べしゃり、と床に叩き落とされた。



「………あ?」


 少し驚いた顔の鎌瀬。


 その視線の先では、ずぶ濡れのブレザーを右手にぶら下げたメガネが、やはり無表情で立っていた。

 床には水を吸った元砂球が、泥となってへばり付いている。



「……よく分かんにゃいんだけど、アイツにゃにしたの?」

「濡れた服で振り払ったんだ。それであの砂は水を吸って、鎌瀬くんのスキルで操れなくなった……って事だと思うよ」

「なるほどなー」



 後ろでのんきに会話するミケ達の声を背に、再び腕を組んだメガネはニヤリと顔を歪める。


「言葉も行動も今の狙いも。あまりに予想通りで詰まらんな。どうした、対策とやらはこれで終わりか」


 メガネは読んでいたのだ。

 鎌瀬がスキルを使ってくる事も、それがどこに飛んで来るのかも。


 意地の悪い笑みを浮かべるメガネ。

 ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?

 今度はこちらの番だった。


「テメェ……」


 鎌瀬は額に青筋を浮かべている。

 煽り耐性の低い男だ。


 メガネはそれをニヤニヤ見ながら、人差し指をクイクイと動かし、かかって来いとさらに挑発する。


 鎌瀬は顔を真っ赤にし、凶悪な笑みを浮かべた。

 完全にキレた顔だ。


「いいぜぇ、なら、お望み通り素手でやってやんよぉ! ヒョロメガネが勘違いしてんじゃねぇぞッ!!」


 そう吠えて、拳を握り走り出す。


 メガネは前回と同じく、ボクシングの構えで待ち受ける。


 二人の距離が瞬く間に縮まっていく。


 先に駆け出したのは鎌瀬であったが、攻撃を仕掛けたのはメガネが先だった。

 横から弧を描いて、迫る鎌瀬の顎を狙う拳。

 右フックだ。


 しかし、鎌瀬の目はその軌道をしっかりと捉えていた。

 顔に余裕の表情が浮かぶ。



 彼は喧嘩慣れしていた。

 こんな性格なのだ。これまでも諍い事には事欠かなかった。

 自分より大きな相手、格闘技を習っている相手、ヤクザまがいのチンピラとも殴り合った事がある。

 もちろんスキルを使えるようになる前の話だ。

 何度も負けた。そして何度も勝った。

 

 それに比べ、目の前の相手の何と貧弱な事か。


 少しボクシングを齧っているようだが、所詮は素人の域を出ていない。

 そもそも初手にこんな見え見えのテレフォンパンチを選択するなどありえない。

 少し手前で速度を落とせば、それだけで回避できるだろう。

 そして腕を振り切った所に拳を合わせ、今度こそあのメガネを叩き割ってやろう。


 鎌瀬はそんな事を考えていた。


 だが彼は知らない。

 目の前の相手が『主人公』という理外の存在なのだと。

 そして………



 迫る鎌瀬に拳を走らせるメガネ。

 その目は確信に満ちている。


(この拳は必ず奴の顎を打ち抜く)


 微塵の迷いも無く、その全力を右腕に込める。


(主人公が同じ相手に―――)


 不意に、目の前で鎌瀬が速度を落とす。

 このままでは空振りになるだろう。

 しかし、拳は止まらない。


 ―――いや、止めない。

 

(負ける道理がないッ!!)


 止まりかけた鎌瀬の体が、ずるりと前に滑った(・・・・・)

 そして驚愕に歪んだ顔が拳の前に差し出される。


 拳は狙い違わず、その顎を打ち抜いた。



「………」


 右腕を振り切った姿勢のまま、真っ直ぐ相手を見つめるメガネ。


 その目前で、鎌瀬が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 綺麗に顎を捉えた右フックは、脳を揺らし意識を刈り取っていた。


 倒れる鎌瀬の足元には、先程メガネが叩き落した泥。

 彼がいきなり体勢を崩したのは、これで足を滑らせたからだった。

 自らのスキルに文字通り足元をすくわれたのだ。



「ふん、当然の結果だな」



 メガネは腕を組んで、横たわる鎌瀬を見下ろす。


 足場を崩した所へ、強烈な一撃で決着をつける。

 それは計ったかのように前回と同じ流れだった。

 もっとも勝者と敗者は逆転していたが。


 勝利を決めた右手で小さくガッツポーズをするメガネ。

 その顔はとても晴れ晴れとしていた。







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