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第十三話 外に出ろ

「実は村長さんから、そのドラゴンの討伐を頼まれてしまってね」


 大路はそう話を切り出した。



 あのドラゴンは近くの山に昔から住んでいるらしく、数十年に一度、村の近辺に下りてきては暴れるのだそうだ。


 村ではその度に生贄を差し出す事でドラゴンを鎮めてきたらしい。

 生贄には代々村長の一族の若い娘が選ばれるしきたりがあり、今回はまだ6才の孫娘がドラゴンに捧げられる事になる。


 村長もしきたりとは言え、可愛い孫娘を死地に追いやるのは辛かったのだろう。

 ドラゴンを一応は撃退した大路たちに、一縷の望みに賭けて依頼してきた。



 ―――という事情らしい。


 その話を聞いて田中と山本は疑問を感じた。


「さっきドラゴンには敵わなかったっつってなかったか? よく引き受けたな」

「僕もそこは気になるよ」

「それは……」


 何やら苦い顔の大路に代わり、伊音長が答えた。


「もちろん大路君や私を含めたクラスの大半は断ろうとしたわ」

「じゃあなんで……」

「鎌瀬が一人で先走ったのよ」


 非難の篭った視線で鎌瀬をみる伊音長。

 当の鎌瀬はそれを飄々とそれを受け流す。


「アリスたんをあんなクソトカゲの餌にするとかありえねーし。そりゃ当然やっちゃうっしょ」


 伊音長は深くため息をついて田中達に視線を戻す。


「……はぁ。あいつが助けた女の子が村長の孫娘なの。それで妙にやる気なのよね」

「あー……」

「勝手に『俺に任せて下さい』とか言って、何人かと出ていこうとするし」


 鎌瀬を含む数名が村長の依頼を勝手に引き受け討伐に向かおうとしたらしい。


 それを自殺行為と考えた伊音長のグループは何とか止めさせようとした。

 知り合ったばかりとは言え、同じクラスの仲間を見殺しには出来なかったのだそうだ。


 だが鎌瀬達にも「幼い少女の命を守る」という大義名分があるため、どちらも譲らず言い争いになった。


「もしかして、僕たちが来た時に広場で何かやってたのってそれかな?」

「そうよ。大路君のおかげで、その場は収まったのだけどね。もちろん私は今でも反対よ」


 反対という言葉に鎌瀬が反応する。


「まだんな事言ってんのー? オレらだけで行くって言ってんだからお前ら関係無くね?」

「だから危険過ぎると言っているでしょう。死にに行くようなものなのよ」

「んなの関係ねーし。アリスたんのためなら死ねるし」

「あなた達が死んだら結局アリスちゃんも死ぬのよ。無駄死にだって言ってるの」

「あ? オレらなめてんの?」

「なめているのはあなたたちでしょう。現実を見なさい」


「まぁまぁ二人とも。今はまずメガネ君達に話をさせてくれないか」


 言い争いを始めた二人を大路がなだめる。

 その顔はとても疲れて見えた。

 きっと今までもずっとこんな調子だったのだろう。

 本来それを為すべき教師は、相変わらずカウンターで酔っぱらっていた。


「………そんな訳でね。改めてここで話し合いをしていたのさ。そうしたら田中君からメガネ君がすごい力を持っているって聞いてね。もしドラゴンを倒せる程なら話も変わってくると思って呼んでもらったんだ」


 そう言ってメガネを正面から真っ直ぐに見据える大路。


「単刀直入に聞くよ。君ならドラゴンを倒せるかい?」

「倒せる」


 即答であった。

 少し驚いた表情の大路。


「……僕達の中には重力なんかのレアスキル持ちもいるんだ。目覚めたばかりではあるけどね。疑うようで悪いけど、それでも傷一つ付けられなかった相手に本当に勝てるのかい?」

「勝てる」


 再度の即答。

 何の気負いもなく当たり前のことと言わんばかりのメガネを見て、大路もその自信の程を感じ取ったようだ。


「……そうなんだね。なら是非ドラゴン退治を手伝ってくれないか。もちろん鎌瀬達だけじゃなく僕も行く」

「任せておけ」


 しかしそこに伊音長が口を挟む。


「ちょっと待ってくれないかしら。その前にメガネ君、あなたのスキルを教えてもらえる?」

「スキル?」

「ええ。ドラゴンを倒せる程の強力なものなのでしょう?」


 そもそも危険な事はしてほしくないと言うのが彼女の意見だ。

 本当にドラゴンを倒せる実力があるのか確証が欲しいのだろう。


 だがメガネの答えはそれを叶えるものではなかった。


「スキルで倒すのでは無いが」

「えっ。じゃあどうやって……」

「森で手に入れた剣がある。それを使う」

「……そんなものでどうにかできるの? 実は達人か何かなのかしら」

「素人だ」

「ふざけているの?」


 すこしムッとした顔になる伊音長。

 事情を知らなければそう思うのも無理はない。


「ふざけてなどいない。女神から貰った剣だからな。ドラゴンくらい何とかなるだろう」

「……やっぱりふざけているのね」


 駄目だった。事情を説明しても信じてもらえなかった。


 こんな状況にあるとは言え、神が実在すると言うのはまた次元の違う話だ。

 常識的に考えれば冗談を言っているか、頭がイカレているかのどちらかだと思うだろう。

 後者でないだけまだましかもしれない。


 そこに田中がフォーローに入った。


「女神ってのは俺も見てねぇけどよ、剣がすげぇのはホントだぜ。ビカーってすげぇ光出して沢山いたバケモノを倒しちまったんだ」

「光が出るの? 魔法の剣みたいな物かしら。でも女神って……」


 まだ信じきれない様子の伊音長を見かねて大路が言う。


「まぁまぁ。月が五つもあって怪物共が居るんだ。女神様が居たっておかしくないよ」

「……そうかもしれないわね」


 それで一応は納得したようだ。

 これまで一緒に行動してきた中で、真っ当に信頼を得ているのだろう。

 変人認定されているメガネとは大違いである。


 そんな大路は剣の話しが気になったのかメガネに尋ねる。


「でも凄い剣なんだね。どうやって貰ったんだい?」


 伊音長とは違って純粋に興味本位でといった様子だ。

 どうやら女神も不思議な剣も信じてくれているのだろう。

 中々に柔軟な思考の持ち主のようだ。


「俺は主人公だからな。それが理由だろう」

「……んん? なんだって?」

「やっぱりふざけているとしか思えないのだけれど……」


 そんな大路をもってしてもこれは信じられなかったようだ。


 伊音長は呆れた顔をしている。


 田中と山本は特に反応がない。メガネが変な事を言うのはもはや当然だと思っているのだ。悲しい事だ。


 そして鎌瀬は全く別の反応を見せた。


「ちょーっと待った。お前が主人公ぉ? アリスたん助けてヒーローになるのはオレなんですけど!?」


 話の流れを無視した良く分からない絡み方をしてきた。

 こいつはこいつで頭がおかしい。


 だがメガネも負けてはいない。

 ニヤリと笑って言い返す。



「それは違うぞ。お前の役回りは『噛ませ犬』だ」


「はぁ!? ぶっ殺すぞテメェ!!」


 噛ませ犬と呼ばれた事に激昂しテーブルを両手で叩き席を立つ鎌瀬。

 額には青筋が浮かんでいる。


「オレの名前と掛けてんだよなぁ、馬鹿にしてんのか!?」

「そんなつもりはない。事実を言ったまでだ。………分かりやすい名だとは思うがな」

「やっぱ馬鹿にしてんじゃねーか!」


 テーブルを押しのけメガネの襟を掴み上げる。


 大きな声と音に、大路達だけでなく周りのクラスメイト達もこちらを見た。教師はやはりジョッキで酒をかっくらっていたが。


 しかしそれも、鎌瀬にとってはもはや眼中に無いようだ。

 メガネだけを血走った目で睨み付けている。


 それを表情一つ変えずに見下ろすメガネ。

 澄ました態度が余計に鎌瀬の神経を逆撫でする。


「テメェ……喧嘩売ってんだろぉ? 買うぜ!?」

「ちょ、ちょっとまちなさい!」

「やめるんだ鎌瀬!」


 今にも手が出そうな雰囲気に焦る大路たち。

 だがもう簡単には止まりそうにない。


「あ? うっせーよ。………つーか丁度良くね? こいつの剣っての見せてもらうわ」


 実力を確かめると言う理由を盾に、メガネとの喧嘩を押し通そうとする。

 だがそれにはひとつ穴があった。


「いや、どう見ても彼は剣を持っていないんだが……」

「………」


 そうなのだ。メガネは今手ぶらだったのだ。

 それに気付き鎌瀬も一瞬気勢を殺がれる。

 このままなら何とか喧嘩にはならずに済みそうだった。



 しかしメガネが余計な一言を口にする。


「問題ない。必要ならいつでも出せる」


 今はペンダントになっているが、女神に言えば剣に戻せるのだ。

 これで鎌瀬の大義名分に筋が通ってしまった。


「はっ! ならやれるよなぁ?」

「いや、だけど」

「しっかしますます胡散臭ぇ剣じゃん。大路もちゃんと確かめた方がいいんじゃね?」

「それは……」


 言い淀む大路。

 実は彼もメガネの実力を見てみたいと少し考えているのかもしれない。

 ちらりとメガネに視線を送った。


 見られたメガネはニヤリとしながら口を開く。


「いいだろう。外に出ろ」


 そして鎌瀬の手を振り解くと、出口に向かって歩き出した。

 鎌瀬もメガネから視線を外さず、その横に並ぶ。


「上等だよへっぽこ野郎。そのいけ好かねぇメガネ叩き割ってやんよ」

「あまり大口を叩くな。恥をかくだけだぞ噛ませ犬」

「そりゃそっちの事だろうがよぉ。テメェは負け犬になるけどなぁ」

「面白い冗句だ」

「テメェ……マジぶっ殺してやる」


 そのまま口喧嘩をしつつ出口を抜ける二人。

 残された四人も一度顔を見合わせると、その後を追うのだった。







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