病弱な長女と健康な次女
母親視点の要望が多かったので書きました。よかったら、感想下さい。
「君は一人で大丈夫だよね?」
「金はあげるから勝手にしといて」
私は親から育児放棄を受けていた。とは言っても、本はあったので知識はあったし、金もあったので生活は出来ていたし、親からの愛情がないのは分かってたから、早い段階で見限っていた。
というか、親の顔を覚えていないし、中学の時点で金だけ残して絶縁してたから、もう親に対しての執着はない。
けれど、いや、だからこそと言うべきか、私は子供が出来たら沢山愛情を持とうと考えていた。
そんな私には、二人の娘がいる。
最初に出産した娘は、未熟児として産まれ、その未完成な体に沢山の管と点滴を張り巡らせていた。それでも、私は嬉しくて愛しくて、ただただこの子が産まれてきてくれことに感謝した。
「愛しい私の娘……」
しかしながら、全員が祝福してくれるとは限らない。
「可哀想に……」
「だから、出産は反対したんだ……」
義父母や親戚は、未熟児として産まれた娘を祝福してくれなかった。跡取りを望んでいたらしい二人は、お腹の中で余り成長しないこの子が可哀想だと、堕ろせと言っていた。
別にこの人たちは悪人ではない。私の体も心配してたし、普段は優しくて善良な人たちなのだ。
ただ、それだけで出来ている訳ではないだけ。
「誰がなんと言おうと、私はこの子を祝福するから」
反対を押しきって産んだ後、金があったのと夫の協力もあって、娘を治療しながら、入院を繰り返していた。
「大丈夫、大丈夫だからね……姫花」
花のお姫様のように可愛い、私の娘。
二人目が出来たのは、姫花の容体が落ち着いてきてからだった。姫花の時とは違い、次に産まれた娘は健康としかいいようがなく、元気な女の子だった。
「今度は元気に産まれてきてよかったな!」
「え……うん」
夫は凄く喜んでいた。それは嬉しいことなのだけれど、やはり元気な女の子が良かったのかと、心中は複雑だった。
「よかったね、今度はちゃんとしたのが産まれて」
「いい子だね……」
義母父や親戚たちは、まるで掌を返したかのように娘を祝福した。
姫花の時は……祝福してくれなかったのに。
ドス黒い感情が芽生えながらも、これは私のエゴだと分かっていたので、その心には見てみぬフリをした。
その後は、夫と二人で育ててみせると、夫の実家と距離をおいていた。
「実家を……頼ってもいいんだよ?」
「あそこは……姫花を認めてくれないから」
それを言えば、夫はもう何も言わなかった。
姫花は相変わらず病弱で、千春は相変わらず健康だった。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
二人の仲も良かったと思う。千春とは一緒によく病院へ見舞いにきてたし、姫花はそれを嬉しそうに迎えてた。
「千春ちゃん、それちょうだい?」
「うん、いいよ。早く元気になってねお姉ちゃん」
姫花にとって、千春のもっている物全てはキラキラと写るらしく、千春も物欲が少ないのか、よく姫花にあげていた。
嫌がったこともあったけど、私が少ししかればすぐにあげていた。
悪いなとは思いながらも、それが当たり前のように『錯覚』していた。
「……千春はいい子ね……」
「私……いいこ?」
「ええ、大好きよ」
千春は凄く嬉しそうに笑って、私によく抱きつくので、私もそれを受け入れてた。
関係はとても良好だったと思う。この時の私は、千春も姫花も愛してたし、まだ愛情の示しも出来てた。
だから、何が駄目だったのかと言われれば、全て私のせいとしかいいようがない。
千春が七歳の時、姫花は熱を出した。微熱だったのだが、器官に炎症が起こってしまい、私はずっとそばにいた。
しかし、看護師が病室に来たので用件を聞くと千春がインフルエンザにかかったらしい
「千春が、インフルエンザで熱を出したらしいから、私は少しだけ家に帰るわね」
夫は今、出張中で義母父には頼んでしまったら、姫花がいるからとか何とか言われるので頼みたくなかったので、一旦帰ろうとしたのだが……
姫花は、弱々しい力で私の裾を引っ張った。
「お願い……行かないで……」
「でも……」
「ずっと……側にいて……じゃないと……
私……死んじゃう…」
まるで、枯れる寸前の花のように弱々しくて、本当に死にそうな姫花の手を振り払うことは出来なかった。
結局、千春は一人で病院に行って一人で完治させた。
普通に考えれば酷い親だと思う。子供に暴利暴言を吐かれても仕方ないと思う。憎まれても仕方がない……けれど、千春はそれらを言わずにこういった。
「私……いい子?」
「え、ええ!いい子よ」
「そっか……」
ただ、何も写していない目で何かを見つめているだけだった。
距離を置き、虚ろな目で何かを見ながらも何も写さない千春との接触を試みたことは何度かあったが、彼女は少し笑って上手い折り合いを付けだした。
愛されているとは思っていない。好かれているとも思っていない……けれど、憎まれていると思いたくなかった。
中学生になり、部活に入った千春はエースとなり、更には沢山の才能をまたは努力を開花させだした。
身長がのび、髪の毛を切り、綺麗に育ち、沢山の友達に囲まれ、沢山の人に愛され、慕われだした。
「なんだ……私なんか必要ないじゃないか……」
教師から聞くのは称賛ばかり、近所で聞くのは千春を誉める言葉。千春を慕う後輩や友達もたくさんいた。
正直、すごく嬉しかった。誇り高かった。試合を見に行き、彼女の生気溢れる戦いを見て、安心していた。
まるで小さい頃の私をみている錯覚。きっとこの子はもう私を必要としていないし、見限ってるだろう。
この子は大丈夫、だから姫花は私が守る。千春と違って弱い姫花を守らなければならない。あの子は…大丈夫だから。あの子には沢山の時間があるから。
そんな風に思っていた。
「大丈夫なんかじゃなかったのにね……」
白い病室で、私はポツリと呟いた。
「大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ……大丈夫じゃなくなってしまいたかったけれど」
今、私がいるのは千春の病室だ。横には沢山の点滴や管が繋がれながらも、ちゃんと生きている千春がいる。
千春は……自殺を図った。
姫花の病室で、私は千春に臓器移植を迫り、酷いことを言ってしまい、多分それが絶望の決定打になっただろう千春は飛び降り自殺を図った。
幸いなことに、下は植木があったのでそれがクッション変わりとなり、当たり所もよかったのと、ここが病院であったことも含め、奇跡的に千春は意識不明ながらも致命傷をおわずにすみ、意識も後すこしで目覚めると言われた。
千春が飛び降りた件については、彼女の不注意で落ちたということとなっている。
「姫花は?」
「病室でずっと懺悔しているよ……まるで壊れたゼンマイ仕掛けの人形のようにね……」
「そう…」
姫花は…悪くない。あの子はただ生きたいと願い、千春に憧れ、千春が好きなだけ……悪いとしたら…わたしだろう。
私が全部悪い。あの子は大丈夫だからと勝手に決めつけ、勝手に放ったらかし、勝手に諦めた。
「全て俺の責任だ……千春をぶってしまった。あの子から…目を背けてしまった……」
「違うわ……悪いのは全て私よ……私は親なのに……大人なのに……愛情の一つも示せれなかったのよ…」
彼女が飛び降りて、沢山の人が見舞いにきた。彼女の部活仲間全員が押し寄せたし、沢山の教師も来た。千春を慕う後輩やバスケで試合をしたらしい他校の生徒までもがきた。
今でも、千春が目覚めるのを病室の外でまっている子たちがいる。
彼女の恋人であろう彼は全てを悟った顔をして、絶望しながら泣いた。
私なんかよりも……よっぽど愛情を示していた。
けれど、それにかまけては行けなかったのだ。それで満足だろうと、何もみずにただ結果だけをみたのがコレだ。
「どうしたらいいと思う……?私たちから解放して、千春から距離を置くのと……千春とやり直そうとするの……」
解放といえば聞こえはいいが、結局は問題放置であり、捨てることを意味する。
やり直すといえば聞こえはいいが、結局は千春にまた重い鎖をつけてしばりつける事となる。
「分からない……」
そりゃそうだ。そんな簡単に答えが導けるなら、私は千春を追い詰めなかったろうし、千春は自殺を図らなかったはずだ。
「ただ……話をしよう」
「話?」
「あぁ、千春が起きたら……まずは謝って、謝罪して、償って……そして話をしよう。これからのこと、千春の思い。千春がどんな思いをしていたのか、夢はなにか、姫花も一緒に、俺たちのことも……沢山、話をしよう」
それで何とかなるとは思っていない。問題がすべて解決出来る訳ではない。姫花はともかくとして、私たちのことは許さないだろうし、臓器移植という複雑な問題もある。
けれど、親として、大人として……大前提として……
「うん……話をしよう。問題を向き合おう……」
千春が泣いた時、千春が恨みをぶつけた時、それを受け入れようと思った。
「……っ」
ピクリと、彼女が動いた気がした。