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記憶屋  作者: 国見遥
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第二十章 邂逅その8

「良子」


 お決まりの暗闇の後、亮の声だけが響く。


「良子」


 励ましの声だけが響く。


 ゆっくりと映像が現れる。


 亮の顔が大きく映し出されている。


「頑張ったな、良子」


 そう言うと、安心しきったように睡魔に身を委ねた赤ん坊を良子の眼前に抱える。


「お前の子だぞ」


「おまえと、裕樹の子だ」


 シュー。シュー。


 呼吸器をつけているためだろうか。そんな音が定期的に聞こえる。


「ほら、お前らの子だぞ」


「元気な男の子だ」


 子どものように、亮はぼろぼろと泣いている。これからの未来が頭によぎっているのだろうか。


 良子の手がゆっくりと赤ん坊に伸びる。その手はあまりにも細い。細すぎる。骨と皮しかない。


 ゆっくりと、丁寧に自分の子どもを抱きかかえる。


「可愛いだろ?お前ら二人の子なんだから可愛いのは当たり前か。可愛いだろ?なぁ?」


 亮の問いに答えるだけの力がないのだろう。良子は言葉を発しない。


「今から、手術だってさ。帝王切開したばかりだし、体力の回復を待ちたいけど、これ以上は無理なんだって。だから、今から緊急手術だってさ。大丈夫。助かるよ、お前は。オレとこの子と、裕樹がついてる。安心しろ」


 涙を流しながら、亮は話し続けた。


「この子、名前、何にしようか?前にさ、お前に聞いたら、もう決めてあるって言ってたよな?なんて名前に決めたんだ?」


 答えは返ってこない。


 そばにいた医師たちの手によって、手術室へと運ばれる。


「頑張れよ。この子と待ってるからな。絶対、元気になるんだぞ」


 子どものように泣きじゃくる亮の声は、ガラガラに枯れている。


 そのとき、良子の口が少しだけ動いた。


「なんだ?どうした?」


 良子の口元に耳を近づける。蚊の羽音のようなか細い声で、良子が言った。


「幸せに・・・成るって・・・書いて・・・ゆきなり」


 精一杯の声だった。


「ゆき、なり・・・。幸成か。世界で一番幸せに成る。だから幸成だ。お前の名前は幸成だってよ。幸成だってよ」


 移動式のベッドに乗った良子の体が、手術室へと運ばれていった。


 遠くで声がする。


「頑張れ。待ってるからな、幸成と二人で」


 赤ん坊の泣き声も、亮の叫びにつられて、聞こえてきた。

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