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記憶屋  作者: 国見遥
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第十二章 ビデオテープ

 十二月二十一日。土曜日。時刻、十三時四分。


 天気、曇り。


 相変わらず、家庭内のゴタゴタは続いている。二週間近く口喧嘩以外で親と話をした覚えが無い。本当に最低な状態だ。考えるだけで憂鬱になる。


 誰もいないリビングは、静まり返っていて聞こえてくるのは時計の秒針が進む音だけだ。定期的な音は不快感を与える。


 することもなくテレビをつけるのだが、興味をそそるものはやっていない。チャンネルを面白くもなさそうなグルメ番組にしたままソファーに横たわる。ブラウン管では下らない事に大笑いをする面白くも無い芸人が映っている。


 いつにもなく気分は落ちていた。今、優一がここにいたらいつものお節介を焼くところだろう。明後日には終業式がある。そうなれば学校という居場所もなく、今以上の生きづらさが待っている。


 何もする気力も無く、宙を見つめている。その時が永遠にも感じられていたとき、その永遠を突如破壊するチャイムの音。


「誰だよ」


 そう呟きながら思考を巡らす。親なら鍵を持っているのでチャイムなど鳴らす必要は無い。優一たちは部活のはずだし、友人の誰かが訪ねてくるはずもない。では誰が。そう考えながら玄関につくと無造作に鍵を開け、扉を引く。


「こんにちわ」


 何のことはない、唯の郵便配達員だ。いろいろ考えていたことを軽く自嘲する。


「こんにちわ」


「速水幸成さんにお届け物です」


「オレに?」


 覚えが無い。


「サインいただけますか?」


 二十代ぐらいだろうか。がっしりとした体格が威圧感を与えるその男は、小包を渡しながらこちらには視線を向けずに言った。


 受領印の欄にフルネームでサインする。サインされた受領書を受け取ると男は急ぎ足で消えていった。まだ配達先がいくつもあるのだろう。もう少し愛想よくしてもいいんじゃないか。


「なんだこれ?」


 A4の紙程度の大きさ。真っ白な包み紙に梱包されたそれは、奇妙な雰囲気を持っている。中を見ていなくても、何故か奇妙であると感じられた。


 リビングに戻り包み紙を丁寧に開けていく。何十にも梱包されたそれはしばしの格闘の後に姿を現した。


 一枚の手紙と何の変哲も無いビデオテープ。


「エロビデオか?」


 呟きながら手紙を開く。その内容が数日前を思い返させる。


『記憶屋 先日発注された記憶をお届けします。内容をご確認ください。記憶の交換は承りませんのでご了承ください。代金は記憶をご覧になったご本人がお決めになった金額を所定の口座にお振込みください』


「本当に送ってきたよ」


 120分のビデオテープ。普通のビデオテープ。しかし、異様なオーラが漂っているように感じられた。


 それをデッキに入れる。チャンネルをビデオにし、再生ボタンを押す。



 記憶の再生が始まった。

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