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「…それで?」
一時限目が始める前のHRは、いつもより、少しばかり長かった。
すぐ前の席に座る男子生徒が、
椅子をこちらに傾けながら、半笑いで問いかけてきた。
一村仁。友人のひとりだ。
どの学校にもいるような、明るく元気で、アタマの悪い学生。
同じ中学の出身だったらしいが、その時にはほとんど面識は無かった。
彼とよく喋るようになったのは、二年生になってからだ。
「つまりさ。なんか話さなかったのか?」
…真面目なのか不真面目なのか、よく分からない男だ。
「あんな美少女なのに?普通、なんか聞くだろ。
趣味とか、前の学校の事とか。お近づきになるチャンスだろ?
お前それでも男かよ。」
などと、何だか横暴なことをつぶやきながら、
一村は教壇のほうを目で示す。
まあ、要するに。こいつは転校生の、それも女の子の情報が欲しいだけらしい。
この男はそういう、ものごとに足を突っ込みたがる人間だ。
「…手ぇ出さないほうがいいぞ」
「ん?何で?」
「…たぶん。なんとなく」
彼女は、あいかわらずの真面目な顔で、自己紹介の最中である。
熱意があるのかないのかはいまいちよく分からないが、随分と饒舌に語っていた。
教師は、その隣で微妙な顔をしている。何が言いたいのだろうか。
「まあ、ちょっと変わってるよな…雰囲気とか。
なんか、ミステリアスっつーか?違うな。浮世離れ、みたいな…」
一村が、変な顔をして言う。
彼女の印象については、自分でもよく分からなかった。
ただ、その事を考えるほど、
朝方の出来事が、どうも頭から離れなかった。
どう考えても“ワザとやった”としか思えない衝突事故。
だが、それにはどういう意図があったのか?
それは、その理由は、自分と何かしらの関係があるのだろうか?
…まあいいか。考えすぎても仕方ないだろう。
通学中、転校生と衝突事故を起こしたことも、その子と同じクラスになったことも。
ただの偶然さ。
「席は…っと。お、道野の後ろが開いてるな。
さ、座りなさい」
そいつが丁度、自分のとなりの席に着くであろうことも。
全部、ただの偶然だ。そうに決まっているじゃないか。
「お、お前の隣だってよ!でも、日乃木のヤツ、どうしちまったんだろーな」
日乃木伸夫。本来なら自分の左隣、
窓際に座っていた理系の男子だ。
それなりに喋りもしたし、ノートの融通をした事もあったのだが。
先生曰く、「諸事情により」。
急な親の転勤が原因かもしれないし、夜逃げかもしれない。
いや、一家そろって宇宙人に誘拐されて、UFOの中で頭をいじり回されてるとか。
「…橘、勇未」
そーだったら、ちょっとは面白かったかもな。
せめて、そのぐらいの荒唐無稽さは欲しかったところだ。
16年の人生の中で幾度と無く聞いた、
目指した、憧れた、
「勇者」「ヒーロー」とかいうものも。
何年ともたない、泡沫の夢だったんだから。
もっとぶっ飛んでなきゃ。
―面白く、ないよな。
「勇者様」