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勇者、未だ立たず?  作者: ああああ
冒険の書1/旅立・・・ち?
2/7

1

誕生日ってのは一年に一回訪れるものだし、パーティやプレゼントにこそ興味あれど、

重ねた年に対して感慨とかはとくにない。いまは。


別に早起きなんてしないし、弟か妹に叩き起こされる(物理含む)のもいつも通り。


の、ハズだった。


「イサミ、起きなさーい」

ノックのあと、聞こえたのは“親愛なる”母上の声だった。

こうして起こしにくるのも珍しい。誕生日だからだろうか、と思いつつ

適当に返事をして、ベットから抜け出した。

何の変哲もない二人部屋。

弟はもういなかった。サッカー部の朝練があるから、と言っていたのを思い出した。


小学生なのに熱心なことで、と独りごちつつ部屋を出る。


だらだらと階段を下りて、廊下を渡り、リビングへ。

居間とつながっている食卓で、妹がのんびり朝食をとっていた。

その奥のシステムキッチンで、母上が卵焼きやらウインナーやらを焼いている。


テーブルにつくと、パンの上にアートを描いている妹からジャムを奪いとり、

パンに塗って黙々と食べる。食べ終えると身支度を整え、

制服を肩に掛け、鞄の口も開きかけたままで家を出ようとして。


「あ、ちょっと待って」

母上に呼び止められる。

「今日は、寄り道しないで早く帰ってこなきゃダメだからね」

何故?と疑問を挟んでみる。

「決まってるじゃない。誕生日だからよ」

あまり答えになってない気がするが…。

廊下の奥で、妹が「そういやそうだったっけ。おめでとー」などと言っていた。

おいおい。


鞄を持ち直し、片方の靴のかかとを踏んだまま、外に出た。

多少妙なこともあるが、

ごく平凡で、それなりに楽しい毎日。


そのハズだったんだけどな。


見慣れた通学路を歩きながら、携帯を弄る。

保存していたリンクを開き、友人に勧められたケータイ小説を昨夜の続きから読む。

どこにでもある、学園ラブコメの小説だった。


転入してきた学校で、幼馴染の少女と再開する主人公。

野球部では活発で男勝りなマネージャーと共に打倒強豪校を目指しつつ、

本の虫のメガネっ娘と勉強会したり、クラス委員長に学校行事の準備手伝わされたり。

内容が普通すぎるとも思ったが、心理描写は丁寧かつリアルだ。

綺麗な挿絵のなかに、爽やかな青春模様が描かれている。

友人が評価するのも、まあ判る気がした。


住宅街を抜けて、商店街へ。

まだ人通りのまばらな道を歩き、途中うっかり街路樹にぶつかりかけた。


章立てられた物語の、二つ目を読みきった。

主人公と親しくなった少女達がそれぞれ悩み、

互いに思いを巡らせつつ、最終的には主人公を賭けた“勝負”を誓う。

ライバルになりつつも、友情を築くヒロインたちの前には新たな敵、

美少女“転校生”が現れ、主人公を狙う―


転校生が、登校中の主人公とバッタリ出会う件を読みつつ、十字路に差し掛かったとき。

駆け寄る足音。

ワンテンポ遅れて、右から強烈な衝撃があった。腕と、肩がきしむほどの。

あまりの勢いに、驚いて携帯を手放してしまった。

数歩ほどよろめいただけで倒れずに済んだのは、ラッキーだったんだろう。


ぶつかってきた―結構背が低く小柄な―少女は、強く弾き返された。


自分が手を差し出したりするよりも速く、体勢を崩し、

横ざまに倒れこんだ。


「…」


そして、そのまま受身を取った。

横に転がって。


すごく、綺麗な動きだった。無駄のかけらもなかった。



赤みがかった長い髪を払い、立ち上がってスカートをぱたぱたとはたく。

地面に転がっていた、かじったあとのない食パンを拾い、鞄を持ち直し、

ようやくこちらに向き直る。


「申し訳ない。遅刻しそうになり、急いでいたらぶつかってしまった」


白い顔に、糞真面目な表情を浮かべ、少女が言った。

一かけらの気持ちも乗っていない、機械的な弁明、というか説明だった。


うちの高校の制服。校章を象ったバッジから、同じ一年生であることも解かった。

しかし、その不健康な顔に見覚えはなかった。


「では、また」

何の言葉も交わさぬうちに、少女は行ってしまった。

もと来た方向に、歩きで。


…急ぎじゃないのかよ。

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