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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第三章 海と空
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「!?」

 夕食を済ませ、宿の部屋に戻ると部屋に人影があった。声を上げそうになるソウに目配せし、リンはいつでも戦えるように気を高め、部屋の襖を開ける。

「待っていたぞ」

 部屋にいた壮年の男はコンだった。髪をそり上げ、いつものようにその灰色の瞳には感情がやどっていない。鴉のような黒い着物を着て、座敷の上にぴんと背を伸ばし正座している。

クウ様がお待ちだ。着いて来い」

 紺はそう言うとすくっと立ち上がり、窓を開ける。男は空の側に仕える呪術師だった。腕のほうは戦ったことがなかったのでわからないが、その隙のない立つ振る舞いからその力量を想像することができた。


「草、凜」

 空を駆ける紺の後を追い、二人が街はずれの古ぼけた家に降り立つと空がにこやかに迎えた。

「ありがとう。来てくれて。今夜はこちらに泊まるといいよ。宿よりは快適だ」

「空様、ありがとうございます」

 草が恐縮してぺこりと頭を下げる、

「草、悪いけど、凛を少し借りていいかい?ちょっと話があるんだ」

「…もちろんです」

「そうか。よかった。紺。草を部屋に案内して」

「御意」

 紺は頭を下げると草についてくるように合図をする。草は一度凛の顔を見た後、紺の後を追った。

「草はすっかり凛のかわいいお弟子さんだね」

 凜は空の言葉に返事を返さない。

「凛、会いたかった。君は本当に宮京が嫌いのようだね」

 空は凛の肩を掴み、その体を引き寄せるとそう囁く。

「凛、でもどうして帝に呪いを放ったことを僕に報告しなかったんだい?」

 空の声が優しげだが、凛にはその声に怒りが混じっていることがわかる。自分を抱く手に力が入り少し痛いくらいだった。

 暗闇のような真っ黒な瞳が自分を見つめる。

 氷の呪術師と言われる凜も空にかかれば、ただの女だった。


 一年前に出会い、凜は空に囚われた。

 空の側にいる「女」である自分が凜は嫌いだった。しかし、もう彼から逃れられない自分にも気がついていた。




「ふーん、なるほどね。でも麗は死んだわよ。私は呪術なんて使えないし。知らないわ」

 話を聞いた翠はそうはっきりと答えた。

「…そうか」

 

 なんだ、手掛かりなしか。

 でも、おかしいな。

 だったら誰が帝に呪いをかけたの?


「本当に麗と女性は死んだのか?」

「…嫌なことを聞くわね、男前。典、あなたも見たでしょ?海に落ちていく麗を、あれで生きてるわけないわ」

 翠は思い出したくないように顔を曇らせる。


 海に落ちた?

 何があったんだろう。 

 知りたい。


「死体を確認してないんだろう?生きてる可能性が」

「そこの男前!たとえ生きていたとしても麗が帝を狙うわけないじゃないの。典、あなたもわかってるんでしょ!」

「…そうだね。麗ではない」

「帰って、やっぱり話なんて聞くもんじゃなかったわ」


 結局、藍達は翠にそう言われ、それ以上のことを聞くことも出来ず、家を追い出された。


 何があったんだろう?

 

 ちらりと藍は師の顔を見る。その表情は苦渋に満ちていた。


 らしくない。 

 典様にこんな表情をさせるなんて、いったい何が…。

 

 藍の疑問を代わりに聞いたのはその親友のキョウだった。


「典。十五年前のことを話すんだ。翠って女性は麗の妹か?死体が見つかってないってことは生きてる可能性があるってことじゃないか。そして帝の命を狙ってると考えられないか?」

「それは絶対にありえない。あの麗が帝を狙うなんて」

「典。十五年前に何があったんだ?話してくれ。そうじゃないとこの件は先に進めない。藍殿も元にもどれない」

 ふいに自分の名前が出てきて、藍は驚いた。しかし事実なので頷く。


 呪いで十五年前に亡くなった女性、麗の姿に変化した。

だから絶対にその関係者のはずだった。

それを探るため十五年前の真相を知る必要がある。


「わかった…話そう」

 典は唇を噛むと、強を見据える。


 翠に家を追い出され、一行は村から出て森の中に出てきていた。森はすっかり闇に包まれ、お互いの顔が見えないくらいだった。典が光の球を作り、手の平から放つ。それは藍達三人の間をふわりと上がっていき、上空で止まった。柔らかな光が3人を包む。

 典はその光の中で、十五年前のことを語り始めた。


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