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呪われたもの  作者: ありま氷炎
最終章 呪われたもの
52/53

 数年後、(ラン)テンに次いで、副呪術司になった。典の傍で際立つその平凡な容姿に人々は明らかに失望をしていたが、その革命的ともいえる行動により、次第に尊敬のまなざしを向けるようになっていた。

 藍は典の下で、開かれた呪術を目指し、呪術を一般の人にでも触れられるように、呪術の街の学校開校に力を貸した。そして、その学校で優秀な成績を修めた者を宮に入れ、呪術部で再度教育するように助言した。その上、訓練も兼ね闇の呪術師の監視のため、それぞれの主要な街に宮の呪術師を派遣するように帝に促した。このような藍の行動は功を奏し、呪いで人が殺される事件が激減した。

 その結果、人々は藍を宮の次期呪術司として認識するようになっていった。



「典さん!」

 息を切らせて、少年が地面に降り立つ。

 少年は(ソウ)、今年で18歳になるはずだった。


 背がかなり伸びて、典と同じくらいの背になり、その声は声変わりを迎えていた。髪はさっぱりと短く切られ、少年の面影はなりを潜め、今では少年よりも青年と呼んだほうがいいくらいの成長を遂げていた。

「久しぶり。元気そうだね」

 典は少年の成長に驚きながら、柔らかな笑みを浮かべる。

「今日はどうしたんですか?あ、強さん、お久しぶりです」

 草は急に呼びだされて、宮京の近くの街にきていた。緊急な用事のように思え、師匠に願い出て飛んできたのだ。強も一緒に来てるとは思わず、やはり宮で何かが起きたかと首をひねる。

「草。大きくなったな。宮に来るといいながら、姿を見せず、わしはさびしい思いをしておる」

「?!え、と、帝様!?」

「そうだ。お前に会いたくて、呪いをかけてもらったのだ」

 強の姿の帝は楽しげに笑う。

「すみません。紺様の下で修業していたら、なかなか自由時間がなくて」

「ははは。気にせずともよい。わしはこうやってお前に会えてうれしいのだ」


 帝はかなり背の伸びた息子の肩をぽんぽんと叩く。願わくば、元の姿に戻って久々の再会を喜びたいのだが、立場上それは叶わぬものであった。


「そうだ。と、帝様!」

「草、父と呼べ。わしは帝であるが同時にお前の父でもあるのだから」

「じゃ、と、父さん。実はクウ様が戻ってきてるんだ。一緒に会いに行こう。空様もきっと喜ぶ」

「……クウが?」

 帝は心臓が跳ねるのがわかった。

 クウは自分を憎んでいた。あの時、無下に扱ったこと、許してはもらえぬと思っていた。

「帝、参りましょう。こんな機会もうないはずです。強の姿であれば、怪しむものもいませんし」

「……そうだな。行こう」

 帝が頷き、草達は空と凛、そして紺が滞在する街に飛んだ。



「草、戻ってきた…か」

 空を飛ぶ弟子の姿をみて、屋敷から姿を現した紺だったが、背後に典と強の姿をみて眉をひそめる。

「勝手に連れてくるとは」

「紺様、すみません!でもこんな機会もうないと思って…」

 降り立った草達の前に仁王立ちで出迎えた紺に少年は頭を垂れて許しを請う。紺は規律にきびしい男だった。そのため弟子になり、呪術よりも規律で怒られることが多かった。

クウ?」

 仁王立ちで怒りを表す紺に構わず、強の姿の帝は屋敷の奥にいるはずの叔父を探す。

クウだと、貴様!」

 敬称なしに主人の名を呼ぶ強に詰め寄ろうとした紺を草が止める。

「紺様、ここにいるのは父さんなんです」

「と、父さん?」

 草の言葉に、凛と談笑していた空が顔をあげる。

「く、クウ……?」

 クウは数年前より日に少し焼け、かなり精悍になっていた。昔の面影はその黒い瞳と輪郭からしか見ることができないようだった。

カイ?」

 空は立ち上がると、屋敷の外に出てきた。そして強の中に海の表情を見てとり微笑む。

カイ……。会いたかった。ずっと謝ろうと思っていた」

「空?」

「僕はずっと誤解していた。嫌、誤解だとわかっていた。ただそう思わずにはいられなかったんだ。今、僕はやっとわかる。君の想いが…。だからごめん」

クウ。それはわしの言葉だ。お前のこと、守ってやれなかった。帝になった後も、すまない」

「謝ることではないよ。カイ。僕は今、宮から解放されて幸せなんだ。世界は素晴らしい。君にも見せてあげたいくらいだよ」

 クウは目を輝かせてそう語る。それはあの時の、19年前の瞳に重なり、カイは懐かしさを覚えた。

カイ。久々に会ったんだ。たくさん話そう。僕は黒国を出て、いろんな場所を見て回ったんだ。帝である君は知っていた方がいい」

 クウは精悍に日焼けた腕をカイの肩に回す。そして屋敷に招き入れた。



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