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呪われたもの  作者: ありま氷炎
最終章 呪われたもの
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 温かい。

 誰だろう。



「私……?」

 誰かの包み込むような優しさを感じ、ランは目を覚ます。そして男の人が自分の手を握りしめたまま、ベッドに顔を伏せているのがわかり、どきっとする。

 

 さらさらな長い黒髪……

 キョウ様?


「ら、ラン殿?」

 ランが身じろぎしたのがわかったのだろう。男前の警備隊長はその声に反応し、うっすらと目を開ける。そして元気そうな藍の姿を見て珍しく微笑みを浮かべた。


 えっと、どういうこと?


「藍殿。傷は痛むか?」

 はっと掴んでいた手を離し、キョウは何ごともなかったように問う。しかしその顔が照れたためが少し赤らんでいる。

「えっと、はあ。もちろん。痛いですけど」

藍はどきどきする自分を誤魔化すように、まだ強の温かみが残る手をさすりながら周りを見渡す。

「ここは医部ですよね?」

 治療に使う道具や、本、薬草が置いてあることからそこが医部のどこかであることはわかった。しかし、部屋自体は見覚えのない場所だった。

「ここは医所いどころの部屋だ。出血して、気を失っている君を部屋で発見して、ここにつれてきた」

 強は立ち上がるとそう答える。


 そういえば、私ベッドから降りたんだ。

 そして歩いたら出血して……


「あ、ありがとうございます!すみません。なんかご迷惑をかけてしまって」

 自分の考え足らぬ行為から強に面倒をかけることになったと藍は恐縮する。

「そんなことない。むしろ俺がもっと早く戻っていればよかった」

 強が憮然とそう答え、藍は戸惑う。


 いや、でもじっとしてられずに勝手に動いたのは私だし。

 傷が完治してないのに力を使い、その上動いた。冷静に考えれば傷が開くのも当然だった。


「藍殿。悪いが、しばらくじっと、ここで待っててくれないか?」

 ベッドの上で反省する藍に強がそう言う。

 その言葉で、勘のいい呪術司の弟子は警備隊長の意図がわかる。

「嫌です。私も行きますから」

「その傷では駄目だ」

「嫌です。行きます。テン様が心配なのです」

 藍は青い瞳に強い意志を湛え、男前の警備隊長を見上げる。

 その視線は一歩も引かないと語っていた。

「……わかった。でも無理はしないように」

 強は大きなため息を吐きながら、そう口にする。大量出血して倒れて、やっと命拾いした者を連れて行くなど狂気の沙汰に思えた。しかし強は藍の必死な願いを止めることができなかった。


 いざというときは命がけで彼女を守る。


 恋に目覚めた警備隊長はそう決めると、愛しい呪術師を見つめる。


「俺に捕まって。その傷じゃ歩くことはできない」

「だ、大丈夫です!」

 差し出された手を藍が手を振って拒否する。しかし、それで怯むような強ではなかった。

「だめだ」

「強様?!」

 ぐいっと両手で体を抱えられ、藍は悲鳴のような声を上げる。

「嫌ならゆっくり部屋で休んでくれ。歩くと出血する」

「……わかりました。すみません」

 尖った声でそう言われ藍は恐縮して腕の中で縮こまる。こんな風に男の人に抱かれるとまるで自分がか弱い女の子になったようで、居心地が悪かった。しかし強の鼓動を肌で感じ、それに心地よさを感じる自分にも気がつく。


 自分が自分じゃないみたいだ。


 藍はしおらしい自分に驚きを隠せなかった。


「さ、行こう」

 そんな藍に構わず、強は藍を抱いたまま歩き出す。

「重くてすみません」

「そんなことない。思ったより軽くて逆に驚いた」


 思ったより軽いって。


 突っ込もうと思ったが、そんなことを言ってる場合じゃないと藍は思考を切り替える。

 

 宮の呪術師が空の代わりに処刑されようとしている。師匠の考えはわかっていたが、藍は心配せずには要られなかった。


「藍殿?」

 胸元の着物をぎゅっと掴まれ、強が立ち止まる。

「傷が痛むのか?」

「いいえ、ただテン様のことが心配で」

「そうだな。そろそろ始まる時間だ。急ごう」

 藍を安心させるように微笑むと警備隊長は足を速める。


 日は完全に昇っていた。

 典達はすでに処刑場に連れて行かれているはずだった。

 強は窓から差し込む朝日をまぶしそうに見ながらも、藍を抱える手に力を込めると、走り出した。





 空にぽっかりと雲が浮いている。

 コンクウの姿の典は牢屋から処刑場につれてこられていた。

 そこは屋敷に囲まれた中庭のような場所で、真ん中には舞台のように高台が設置してあった。そして台の上には二人の屈強な戦士が待っている。


 真向かいの屋敷には帝を始め、将軍、他の司所が横並びに座っていた。


 二人が台に乗せられる。


「空様、何か言い残す言葉はありますか」

 将軍が立ち上がり、そう尋ねる。

「……何も。ただ今はとても心が穏やかで、満ち足りている」

 クウの姿の典は、ほほ笑むとそう答える。

「それでは刑を始める」

 将軍はいつもと違うクウの様子に一瞬戸惑うが、死を間際に何か悟るものがあったのだろうと、手を挙げた。

 それを合図に控えていた黒の着物を着たものが、台に上がり、二人に目隠しをするために黒の布を取り出す。

 心配げな帝にテンがにこりと微笑む。そして隣の男に目を向けた。しかしコンテンに皮肉な笑みを見せると目を閉じた。


 二人の頭上の空からは、いつの間にか雲が消え、青い空が何処までも広がっていた。



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